みんながいい酒場だと言う。でも、私には合わなかった。
延べ約1万軒、10年以上。
立ち飲みや大衆酒場を巡ってきた。
その多くは、一人で。
安くてうまい店もたくさんあった。老舗や人気店にも、数えきれないほど行った。でも結局、酒場は、人なんだと思う。
一人で飲んでいると、店との相性を感じ取る感覚が、研ぎ澄まされてくる。
誰かと一緒に飲んでいたら、多少店が合わなくても、そんなに気にならない。でも一人だと、店の空気も、店主や隣のお客さんの距離も、全部自分に返ってくる。だから、合う合わないが、くっきり出てくる。
評判と自分の相性はズレる
人気店だけど「なんか違うな」と思うことがある。
多くの人や有名人が絶賛している店で、安いし、手の込んだつまみもうまい。でも、なんだか落ち着かない。隣のお客さんとの距離が近すぎたのか、お店の方と合わなかったのか、「なんか違う」のだ。
私は、仕事の疲れを浄化しに飲み屋へ行っている。
だから、疲れに行くようでは本末転倒だ。どんなに安くても、おいしくても、雰囲気が合わなければ、自分にとっての「いい飲み屋」にはならない。
若い頃は、「人気店なのに楽しめない私は、変なのかな」と思っていた。でも、数えきれないほど飲み歩いて、わかってきたことがある。
「合う」に、正解は一つじゃない

結局のところ、私にとっての「いい飲み屋」は、価格帯やおいしさも大事だけど、それだけじゃない。「自分に合うかどうか」も、同じくらい大事なんだと思う。
お店の人やお客さんとの距離は近いけれど、話しても話さなくてもいいラフさがあること。基本は放っておかれて、自分のペースで飲めるけれど、ときどきひと言ふた言、声をかけてくれること。あるいは、誰にも干渉されず、黙々と飲めること。
どれも私にとっては「合う」だ。その日の気分で、合う店は変わる。だから、正解は一つじゃない。
「合う合わない」は、固定でもない
それに、合う合わないは、一度で決まるものでもない。
ある酒場にはじめて訪れた時は、常連さんが多くて完全アウェイ。居心地が悪くて、そそくさと2杯を飲み干して帰った。
でも、ここの煮込み豆腐がおいしかったので、時間をあけて、もう一度暖簾を潜った。訪れたのは開店すぐの時間で、店内はまだ静か。お客さんは、私のほかにほとんどいない。カウンターの端で、黙々と飲んでいたら……
「最近、この手の話が多いね」と、店主がテレビを観ながら、ぽつりと声をかけてきた。 それだけのことなのに、急に肩の力が抜けた。
そこから、「この時間に来ればいいんだ」となり、3回、4回と、通うようになった。訪れると声をかけてくれたり、常連さんと一言二言会話をするようにもなって、居心地がよくなった。
こういうこともあるから、最初に「合わないかも」と思っても、味と価格帯が自分に合っていれば、最低3回は通うと決めている。
訪れるタイミングや、その日の自分の気分次第で、「合う店」に変わることが普通によくあるからだ。
もちろん、その逆もある。
何度も通っていた酒場があった。
店主に顔と名前を覚えてもらっていて、行けばホッピーを頼んで、もつ焼きを食べる。そんな店だった。
ある日、お店に立つ人が変わった。
味が極端に変わったわけじゃない。でも、もつ焼きの焼き加減が少し違う。前は絶妙だったレバーが、少し固い。店の空気も、なんだか違う。気づけば、自然と足が遠のいていた。
——私はきっと、あの人の焼くもつ焼きが好きだったのだ。
そんなこともあるから、やっぱり酒場は、人なんだと思う。でも、誰が悪いわけでもない。ただ、その時の私には、合わなかっただけのこと。数年後に訪れたら、また合うように変わることだって、きっとある。
酒場って、人間関係に似ているのかも

おもしろいのは、
料理や酒にもその人が出ることだ。
もつ焼きの焼き加減ひとつ、つまみの盛り付けひとつ、人によって少し違う。ホッピーのナカを、3杯飲めるように計算して注ぐ人もいれば、「これでもか!」とたっぷり注ぐ人もいるし、割とひかえめの人もいる。
酎ハイだけは300円台を死守する人もいれば、500円にする人もいる。でも、500円の店はつまみが100円台から揃っていたりね。
煮込みの小やハーフサイズがある店に出会うと、「ああ、ここの店主も、一人で飲むのが好きなのかもしれないな」なんて、つい想像してしまう。
値段のつけ方、量の決め方、ほんの小さなことに、その人らしさがにじむ。私は、それを見つけるのが好きだ。
テーブルに、チラシで作ったゴミ箱がある店を見ると、ちょっとうれしくなる。そういう小さな気遣いにも、人柄って出る気がする。
最初は苦手だと思った店主が、常連さんと笑い合う姿を見て、「あ、この人こういう人なんだ」と、好きになることもある。
思えば酒場って、
人間関係に似ているのかもしれない。
人付き合いも、そう。みんながいい人だと言うのに、自分はどうも合わない人がいる。逆に、第一印象は最悪だったのに、気づけば一番会いたい人になっていることもある。
酒場も、人も、たぶん同じ。
一度だけじゃ、わからない。
昔は合わないことを、
「店選びに失敗した」と思っていた。
今は違う。合わない店があっていい。
それは良し悪しじゃなくて、
相性の問題なんだと思う。
ただ、その時の私には、合わなかっただけ。
私の飲み歩きの記録🏮
私がせんべろnetをはじめた理由🍺
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