波の音
和モダンカフェ〈石割桜〉番外編
シロクマ文芸部お題
小牧さま
お題、ありがとうございます。
挑戦してみます。
波の音。
その駅は、JR常磐線の
「高萩」という。
海から遠い町で育った私には、
ちょっと特別な駅と海岸。
地図で見ると、
駅から海岸までは、
1キロと離れていない。
長く伸びた海岸線と
白に近い、灰色の綺麗な砂浜。
駅近くには漁港や大きな港はなく、
夏は海水浴客で賑わうのかも
知れない。
かも知れない、と書いたのは、
高萩に海水浴に行ったことが
ないからだ。
広々と太平洋に面していて、
まっすぐ伸びる海岸は
波が荒いらしい。
夏がおわって、
海に入るのが
ちょっと寒くなった頃に
両親は私たちを連れて行った。
膝まで海水に浸かり、
それでも充分、楽しかった。
ある年は、
私たち姉妹の子どもたちも連れて
賑やかに砂浜で遊んだ。
おじいちゃんになった父が
海の中で波に足をさらわれて、
転んで頭に巻いたタオルを
波に持っていかれて、
皆で大笑いした。
何の変哲もない家族が、
季節外れの海岸で遊んだ。
それだけなのに、
なんとも言えず懐かしい。
ある年、引き潮に
当たったことがあって、
遠浅に見えた砂浜の、
ほんの少し先が
大きくえぐれたように
深く海の中に落ち込んでいた。
祖母が高萩の海について語るとき、
必ず言った忘れられない言葉がある。
「駅につくとね、波の音が、
ドーン、ドーンって
聞こえるんだよ。」
あの音は、
波が海岸に力強く、
打ち寄せていた音なんだ。
私は駅で、その音を
聞いたことはないけれど、
高萩海岸を思い出すと、
必ず祖母の言葉も思い出す。
「駅につくとね、波の音が
ドーン、ドーンって
聞こえるんだよ。」
おわり
