見出し画像

ショートショート『日本人間』

俺は地球を追放されて、真っ暗な宇宙空間をさまようようになっちまった。
それはある夜のことだった。俺がベッドでねているときに、カッパのような異星人たちがやってきて、「おまえにきめた。おまえ自身と日本の運命をリンクさせることにした」などと、わけのわからないことを言いやがり、茫然としている俺をベッドに押しつけて、身動きができない俺の体に、やたらと小さな電池のようなものを埋めこんだ。

やつらの話では、俺におきる出来事は日本にもおきるということだった。俺が日本人の平均的な性格と体格だから選ばれたらしいが、なにかの間違いだと思った。俺はどちらかというと破滅型の人生を歩んでいる男だ。人間関係では孤立し、仕事も転職を続けて借金だらけだ。いったいなにをどうみて平均的な日本人だと考えたのか。


その後、俺のことはテレビで公表された。政府に異星人が申し入れたらしい。そんな荒唐無稽な話を政府役人が信じるほうが信じられないが、俺を極秘に盗撮していたテレビクルーの映像によってその事実は証明されたのだ。たまたまころんで頭にけがをした同時刻に、北海道で地震と火山の噴火がおきた。プールで溺れかけたとき、大きな津波が日本全土に襲いかかってきたが、水面から顔をだしたときに突然津波はかき消えた。そんなことがことごとくおきたので、冗談のような話でもとにかく俺を見守ることにしたんだな。

たしかに、前の日本は崩壊寸前、俺の人生そのものに思えた。しかし、それからというもの、俺になにかがあってはならないと、どこにいくにもボディガードが何人もつきまとう。ただ、お金と女性には不自由しなくなった。おかげで、日本は経済的に奇跡的な復活をし、結婚や恋愛が盛んになった。健康第一ということで、過度の酒とたばこの吸いすぎは禁止され、アスレチッククラブで体を鍛える日々だ。仕事をさせないと、日本人の勤労意欲にさしさわりがあるというので、さまざまな仕事をさせられる。

自由がないと文句を言うと、人々が、『自由を我らに!』というプラカードを持ってデモをする。

いつのまにか、俺は日本人間と呼ばれるようになっていた。誰もが俺を怖れ、愛想よく接してくる。宗教組織からは、「あなたこそメシヤだ」などと言われるが、そんなものになる気などさらさらない。自分の欲望を捨てて、人を救おうなんて馬鹿げてる。苦しいことはやりたくないというのが普通の人間というものだろう。

自分勝手な俺の行動にあきれたのか、俺は今、リモート・コントロールされているNASAのスペースシャトルにひとりで乗せられている。俺をほかの惑星に連れていけば、俺の機器は作動しないと考えたらしい。食料も用意されていない。どうやらここでのたれ死ぬしかないようだ。

しかし、どうして異星人たちはこんな馬鹿げたことを考えたのか? たぶん、日本の運命を俺という人間に賭けてみたのかもしれない。日本国民の期待にはこたえられずに申しわけないとは思ってる。

まあ、たしかに、平均的な人間が、理想的な世界を築くことができればすばらしいことだろう。しかし、もともと平凡なこの俺に偉大なことができるわけがないのだ。

ふりかえってみれば、俺を見捨てた日本のやつらにはムカつくが、まあ、それなりに楽しんだんじゃないか。最後は劇的なドラマを体験することもできたしな。

なにもすることがないから、なんとなくスペースシャトルの窓をみた。すると、海底に光る蛍のような宇宙空間のなかを、地図でみたことのある日本全土が、少しづつ俺のほうに向かってくるじゃないか、はっはっは、ざまをみろ!

             (fin)



いいなと思ったら応援しよう!

星谷光洋(ほしたにあきひろ)358 気にとめていただいてありがとうございます。 今後ともいろいろとご支援をお願いします。よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!