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サッカーしかない国、サッカーもある国

ワールドカップの報道を見て、このスポーツの「世界」というか「拡がり」は本当に大きいなと思う。
日本代表の対戦相手を見ても、ヨーロッパにもアフリカにも、南米にも、互角か、実力が上の国がたくさんいるのだ。日本などは相撲でいえばまだ平幕で、時々三役に勝つくらいだろうか?
これに対して野球。ワールドカップに相当する国際大会のWBCでは、日本と互角以上に戦えるのは、アメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラくらいしかないのとは大きな違いだ。

「野球の世界」は小さい

野球の場合、トップリーグと言ってもよいプロリーグがあるのは、アメリカ(カナダ)、日本、韓国、台湾だけだ。キューバのリーグは人材流出して衰え、WBCの強豪国であるドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコなどは国内にトップリーグはなく、アメリカの人材供給源になっている。メキシコもアメリカの実質的な傘下にある。
あとはアメリカの影響下にあるカナダとオーストラリアだけ。それくらいしか「野球をやっている国」はない。ヨーロッパ諸国のリーグはMLBが資金援助をしているが、端的に言えばまだ「おまけ」だ。
WBCで見えてくる「野球の世界」は極めて小さく、浅い。

帝国主義とモンロー主義

これに対してサッカーは、プロリーグの発祥は野球よりも遅かったが、発祥国イギリスを皮切りに、ヨーロッパ各国でリーグ戦が始まり、世界中に拡がった。
サッカーは「誰でも参入できる」オープンリーグが原則で、新規参入クラブをどんどん受け入れてきた。野球が「特権クラブ」的なクローズドリーグで、新規参入チームを退けてきたのとは対照的だ。
また、サッカーが普及し始めた時代は「帝国主義」の時代だった。欧州列強は、アジア、アフリカ、南米などの国々を植民地にしたが、植民地の統治者は、その際にサッカーをその国に持ち込んだ。こういう形で、サッカーは世界に広がったのだ。
野球の発祥国アメリカは、19世紀の大統領ジェームズ・モンローが、各国の紛争に介入せず、他国を植民地化しない、という外交原則を打ち出して以来、帝国主義とは一線を画していた。経済的な影響下にあった近隣のキューバ、メキシコ、ドミニカ共和国、ベネズエラなどには野球が普及したが、それ以外の国には広がらなかった。
お雇い米国人によって野球が普及した日本は、富国強兵を唱え欧米列強の帝国主義に遅れて参加した。そして台湾、韓国を植民地にし、野球を現地で普及させたのだ。台湾、韓国ともに「野球は元から存在した」としているが、実際は日本の統治下に人気スポーツになったのだ。戦前、この2国からは毎年、甲子園に代表校が出場していた。

サッカーだけは残った

第二次世界大戦後、帝国主義は崩壊し、アフリカ、アジアの植民地は次々と独立した。中には宗主国と軍事対立などを引き起こした国もあるが、そういう国でも「サッカー」は根付いた。
第二次世界大戦後に独立した新興国は、帝国主義にインフラを搾取されていたし、独立後も欧米諸国の影響下にあるなどして、経済発展が遅れている貧しい国が多いが、それでもサッカーだけはほとんどの国で「一番の人気スポーツ」になっている。
今回のワールドカップは、参加国が「48」に増えたが、その中には「サッカーしかない国」がたくさん含まれている。帝国主義とは決別しても、サッカーだけは人々の間に深く根付いたのだ。

野球国のサッカー普及

もともと野球が盛んだった国々は、サッカーは人気がなかった。日本がその典型だが、サッカーのワールドカップがオリンピックとともに世界最大のスポーツ大会であるとの認識が広まった20世紀末に、ようやくプロサッカーリーグができたのだ。
韓国では日本の植民地になる以前からサッカーは人気スポーツだったが、日本の植民地支配を脱してからはむしろサッカーのほうが人気だった。1980年代にサッカーのKリーグと野球のKBOというプロリーグがそろってできたが、経済発展とともに韓国サッカーは長くアジアの最強国に君臨した。
台湾も植民地解放後はサッカー強豪国になったが、野球のプロリーグCPBLの発足とともに衰えている。
そしてアメリカでは長くサッカーはマイナースポーツで、北米四大スポーツと言われたMLB(野球)、NFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)の後塵を拝していたが、1994年のFIFAワールドカップアメリカ開催をきっかけとして人気が高まった。FIFAはアメリカのマーケット開拓を強く志向していて、今回の北中米大会もそうした戦略の一環だ。
まだアメリカのサッカープロリーグMLSは経済規模は小さいが、マーケティング的には、アメリカのサッカー人気は野球を上回っているという調査も出ている。
アメリカ、日本、韓国、台湾は「サッカーもある国」になりつつある。

「サッカーもある国」が参入しつつある

これまでの世界のサッカー勢力図は、今もトップリーグを持つヨーロッパの強豪国に加え、旧植民地などの「サッカーしかない国」の争いだったが、そこに「サッカーもある国」が参入しつつあるという印象だ。
「サッカーもある国」は、優秀な人材を野球や他の人気スポーツに奪われがちだが、先進国なので豊富な資金を背景に効率的にレベルアップをしているといえる。
今のFIFAは「金儲け主義」が露骨で、ドナルド・トランプにすり寄るなど、スポーツ団体とは言えないほど腐敗しているが、それでも世界のサッカー人気は衰えない。
野球はMLBやWBSC(世界野球ソフトボール連盟)が野球の普及を目指している。また、日本もJICAなどを通じて野球の普及に努めているが、アプローチしている国の多くは「サッカーしかない国」で、その浸透は難しい。経済的に貧しい国では「他のスポーツを普及させる余裕がない」のが現状だ。
WBCがワールドカップのような巨大な大会になるには、まだかなりの時間を要するのではないか。

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