栗林良吏の快挙を称えた高橋宏斗
デイリースポーツ
栗林が95球での完封勝利を達成した直後、三塁ベンチでは高橋宏が最前列で拍手を送る姿が中継カメラに映し出された。そしてすぐにベンチ裏へ引き揚げず、拍手を送りながら相手の歓喜の輪を見つめた。
日本のプロ野球にもこういう時代が来たのだなあ、と感慨深い。
先発転向、即、マダックス
栗林良吏は、悲劇の影がある投手だ。名城大、トヨタ自動車からドラ1で広島に入団し、1年目からクローザーとして活躍、東京オリンピックでも3セーブを挙げ2021年の新人王になったが、2023年のWBCには代表として選ばれながら、直前で「腰の張り」のために離脱。チームは栗林のユニフォームをベンチに掲げて世界一になった。
以後、成績は上下しながらもクローザーとして活躍してきたが、今季から先発に転向していた。
今日の中日戦は、9回を95球で投げ、完封。8回先頭の細川成也に安打を打たれるまでパーフェクト、そしてその後も走者を許さなかった。9奪三振。
100球未満での完封勝利を「マダックス」というが、初先発でマダックスは史上初、細川の安打がなければ、2022年の4月10日にオリックス戦で佐々木朗希が記録して以来の「パーフェクトゲーム」にもなったはずだった。

髙橋も快投
これに対して中日の高橋宏斗も素晴らしかった。被安打は6本だが四球は1つだけ。6回に二塁の失策も絡んで失点したが、自責点は0、投球数はわずか104球での完投だった。
髙橋は今年のWBCでは、PoolC第4戦のチェコ戦に先発、5回途中63球無失点の好投だった。チェコの先発、オンジェイ・サトリアの好投もあって勝ち星はつかなかったが。

オリックスの宮城大弥や日本ハムの伊藤大海など、NPBに復帰してから多くのWBC選手が調子を落として苦労している中で、髙橋は見事に調整をして開幕シリーズに間に合わせた。
その自己管理のレベルの高さは、称賛に値する。彼自身も広島戦の投球には納得するものがあっただろう。
勝利はつかず初黒星とはなったが、その投球に十分に手ごたえを感じていた。
そして、6歳年長の栗林の、自身を上回る快投を称賛する「気持ちの余裕」があったわけだ。同じ2時間9分という試合時間、精一杯のパフォーマンスを披露しあった「戦友」みたいな感覚になったのだろう。
「彼」のようにふるまう
昭和の時代の感覚なら
「なぜ敵に拍手なんかするんだよ、悔しくないのか。それよりも打てなかった味方に文句を言うべきだろう」
などというだろうが、今の一線級の選手は、試合における「闘争心」と、試合後の「相手チーム、選手に対するリスペクト」の両立が可能なのだ。
ラグビーの世界で言う「ノーサイド」の考え方を、よく理解しているといっても良いだろう。
高橋宏斗は「次のメジャーリーガー」の一人だといわれる。オフにはドジャースの山本由伸と一緒にトレーニングをしている。「よそのチームの奴と練習なんかするなよ」は、もはや「昭和の戯言」だろうが、山本との練習を通じて技術だけでなく「MLBで活きていくには、どんな心の持ち方が必要なのか、選手やファンとのコミュニケーションはどうあるべきか」を問わず語りに学んでいるのではないか。
大谷翔平がMLBでリスペクトされるのは、抜群の成績を挙げているからだけではないだろう。並ぶものがないスターでありながら、チームメイトや他球団の選手に対するリスペクトを忘れず、ファインプレーに対しては敵味方の別なく惜しみない称賛を与え、きめ細かに対応していることも大きいのだろう。
先日は、チームメイトやスタッフに高価なウォッチを送ったとされるが、それは金に飽かした「ばらまき」ではなく、チームリーダーとしての「度量」「雅量」の表れだったのだろう。
髙橋は山本由伸を通じて大谷の人となりを知り、彼のようにふるまおうとしているのだろう。

春から良い話を聞いたと思った。
日本は永らく下品な「勝利至上主義」がのさばってきたが、才能にあふれた若い選手たちが、それを易々と乗り越えていく。
「勝つため」だけではなく「自分の能力を存分に発揮するために」そして「野球をより素晴らしいスポーツにするために」全力を尽くす。そういう選手がもっと増えてほしい。
