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朗(ほがらか)は希(まれ)

毎年春季キャンプに行くが、2月上旬のキャンプ地では、選手名鑑向けの写真を撮影する。メイングラウンドのネット裏の一室にカメラマンが陣取って、入ってくるユニフォーム姿の選手や監督、コーチを次々と撮影していく。カメラマンはおそらくシャッターを押すときには「最高の笑顔で!」
と声をかけているはずだ。
MLB各球団でもこの時期に選手の撮影をしているが、カメラマンはおそらくMake a good face!くらいのことは言っているのではないか。

選手名鑑の写真

だから日米ともに選手名鑑の写真は、みんな笑顔なのだが、少数ながらそうでない選手もいる。ドジャースの佐々木朗希だ。

彼の写真は明らかに笑っていない。
山本由伸は口角が見事に上がって素晴らしい笑顔だし、大谷翔平はちょっと貫禄が出て、自信に満ちた笑顔になっている。
彼らだけでなく、またドジャースだけでなくMLB全球団の選手のほとんどが、笑顔で写っている。
ドジャースのカメラマンは、おそらく「Can you give me a big smile?」みたいな声かけをしただろうが、朗希はそれにこたえることが出来なかったのだ。

ステップアップのたびに波風

まだ24歳だが、佐々木朗希の半生は浮き沈みの大きい過酷なものだった。
9歳の時に東日本大震災に遭い、父方の祖父母と父を失う。大船渡高校に入学後、3年次には才能が開花して高校屈指の投手になる。しかしこの夏の岩手県大会では、國保陽平監督の方針で甲子園出場がかかった花巻東戦に登板せず。地元や学校関係の囂囂たる非難を浴びて、國保監督は監督を退任する。
この年のドラフトで佐々木はパ4球団の競合となったがロッテに入団。吉井理人投手コーチ(のち監督)の特別指導の下、慎重に起用され、2022年にはオリックスを相手に間全試合を達成する。佐々木は大谷翔平に並ぶ破天荒な才能を持つ当初であることが明らかになった。
しかし、次のステップアップに際して、佐々木はまたトラブルを起こす。実働わずか4年、規定投球回数の一度も達していないのに、強引にポスティングでのMLB移籍を敢行したのだ。
エージェントが暗躍したともいわれているが、ロッテでの実績はあまりにも乏しく、球団にとってもファンにとっても、納得性が低い移籍だった。

絶対に失敗できない

強引な移籍をしただけに、佐々木は「絶対に失敗できない」という気持ちが強かったはずだ。
ルーキーの初々しさよりも、悲壮感の方が強かった佐々木は、カメラマンがどんなに「笑って!」と言ってもそんな顔にはならなかったのだろう。
もともと「普通の顔」が「泣き顔」になるような風貌でもあった。
それでも成績が伴えば、少しは表情が和らいだだろうが、残念ながら1年目は先発失格、インピンジメント症候群を発症してILいり。
ボール、マウンドに十分に順応できず、球種も少なく、制球力もなかった。
ただ、シーズン終盤から救援投手で起用され、結果を出した。投手としてのポテンシャルはあったのだ。
2年目の今年も佐々木は先発に挑戦したが、今のところ結果は出ていない。ロバーツ監督はまだローテから外していない。チームが好調でゆとりがあるから、佐々木の挑戦を許しているが、それも限界が来るだろう。
佐々木の顔色が晴れることはないのかもしれない。

いつも硬い表情

私は高校時代から佐々木を見てきた。写真もいっぱい撮ってきたが、彼の柔らかい表情は数えるほどしか見ていない。
一度は大船渡高校時代、2019年に韓国で行われたU18ワールドカップで、宮城大弥、奥川恭伸らのチームメイトになって「侍ジャパン」の一員になったとき。
選手入場で、佐々木は笑顔を見せた。

佐々木は豆がつぶれて1イニングしか投げられなかったが、同世代の選手たちと同じホテルで共同生活をして、久々に楽しい時間を過ごしたのではないか。
そしてロッテに入団して1年目、石垣島での春季キャンプでの佐々木の表情は固かった。

この年、佐々木は吉井理人投手コーチの方針もあって、一軍だけでなく二軍の試合にも登板しなかった。
2年目、投内連携で体を動かす佐々木。練習中、一度も表情が崩れなかった気がする。

3年目、空前の17イニング連続パーフェクトを記録した2022年、彼の表情は一段と厳しく、精悍になっていた。

2023年、最後のロッテキャンプ。ブルペンでの佐々木の表情はさらに厳しく、鬼気迫るような顔になっていた。

2023年のWBCでは、チェコ戦では4回途中1失点、しかし準々決勝ではメキシコに3点を奪われ、ベンチ裏で涙を流した。

本当に、プロ入り後の佐々木の「柔らかな表情」を見たことはなかったのだろうか?
改めてストックを見返すとたった1枚、2021年、2年目の春季キャンプでこんな写真を見つけた。

分かりにくいが、トレーナーの指示でストレッチをする佐々木が、チームメイトと談笑している写真を見つけた。ほっとした。

技術的な問題もさることながら、佐々木朗希に必要なのは、心のゆとり、柔らかさではないかと思う。
過酷な状況ではあるが、その過酷さを「楽しむ」ような図太さが必要ではないかと思う。
「失敗してもいい」という開き直りの気持ちで、マウンドで笑顔を見せるときに、佐々木は新しい境地に至るのではないか。

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