頭おかしい人の話
今から20年前、オーストラリアに3ヶ月ほど住んでた。世界各地からのバックパッカーが泊まるような宿に寝泊まりし、楽しいことだけして過ごしてた。
ある日、ギターを背負ったオーストラリア人の男とその奥さんがやってきた。
30代くらいかな?
男が日本人の俺に興味を示し、話しかけてくれた。
男の名前はロン。
こっちも自己紹介をした。
すると、
お前の名前の響きはあれだな、シンジェイみたいだな
と言い出し、
シンジェイってどういう意味なの?
と聞いた。
ロンは説明しようとするが、全然俺には理解できなかった。
それを見兼ねたのか、ロンがいきなり自身の腕毛を丸めだし、引き抜いた。
何する気だこいつ!
そう思ったのも束の間、その腕毛を灰皿に入れて火をつけた。
これがシンジェイだ!
彼はそう言い、腕毛の燃えカスを指差す。
あとで調べたら
singe 少し焦げる状態
とのこと。
発音はシィンゲだが、オーストラリアの訛りなのか、俺のリスニング能力なのかは分かんない。
ただ、ふかわりょうにピロピロされて、
お前の名前、腕毛燃やした燃えカス現す単語みたいだな
って言われてるみたいでさ、Disやんな?これは。って。
でも出会って5分で腕毛引き抜いて、燃やして、お前の名前だって言われたことないし、これからもきっと無いと思う。
すぐに仲良くなって、ちょうど聴いてたRYO the SKYWALKERを聴かせた。
すると、
ぽっかり!
ぽっかり!!
ぽっかりっ!!!
ぽっかり!!
って歌い出した。
晴れ渡る丘って曲で、正確に言うと小節終わりに、もっかいとか、乗っかりとか、『お・あ・い』で踏んでるんだけど、面白くなってきて同じく韻踏んでる『おっぱい』って言ってるんだよ、って嘘ついてみた。
すると、
(あの青い空に) 『おっぱい』
(浮かぶ白い雲に) 『おっぱい』
ってな風になった。
ケタケタくだらない笑いで笑ってたら、
俺は日本語の曲知ってるんだ、ってロンが言い出した。
何なの?
と俺。
そしたら、持ってたギターを弾き出して、
おはようございますぅー 東京FMぅー
いってきますぅー 東京FMぅー
って。
何やねんそれ。
東京じゃないし、東京FMのテーマなん??
知る術が無くて信じてたんだけど、FM東京だった。
さすがにテーマで東京FMじゃないはず。
あいつも嘘をついてたんだと思う。
そんなロンは日本が好きだと言い、
俺は自分の名前を日本語でタトゥーにして入れたんだ
と言い、肩を見せてくる。
そこには
『龍』
と刻まれている。
いや、これシェンロンのロンやん!!
神龍と書いての龍!!!
これ日本語ってよりも中国語やろ!
身体に日本語と思って、思いっきりミスってるって。
SEVEN RINGSにちなんで、『七輪』って入れてしまうアリアナグランデよりも前の話。
頭おかしいって言うより、残念な男の話なのかもしれない。
そんなこんなで仲良くなり、ロンはビリヤードしたいって言い出して、奥さん置き去りで2人でカジノに行くことになった。
カジノ着くと、ビリヤードとかダーツのフロアは営業時間前。
鍵は開いてて、スタッフが10人くらいで輪になってミーティングしてた。
そこに俺とロンが入り込んでしまったんだけど、泥棒みたいな忍び足し始めて、明らかにバレてるんだけど、バレてないていでフロアをすり抜けた。
スタッフも何も言わなくて、あの瞬間はマジでなんだったんだろうと思う。
結局、ビリヤードできなかったからホテル戻ろうとしたら、地元のライブハウスのオーナー、ジョナサンに出会った。
ジョナサンは俺をライブハウスの素人ナイトみたいなのに俺を無理矢理出して、ジャパニーズスヌープドッグと紹介し、地獄のようなプレッシャーを抱えて、ロックとかカントリーを歌う素人に混じって、客層も誰も求めてないラップを俺にさせた張本人。
いいヤツではあるんだけど、スーパーで裸で売られてるトイレットペーパーに顔こすりつけて、これに決めた!って言うようなクレイジーさがそれを帳消しにする男。
俺らには面識があったんだけど、ロンもジョナサンと知り合いみたいで、俺をジョナサンに紹介し始めた。
ジョナサンは基本的に酔ってるから、話をずっと聞いてるんだけど、ロンは必死で説明。
最後にジョナサンが、こいつ知ってるよって言うと、ロンはなんとも言えない顔をしてた。
宿に戻って、その日はまた別件で遊びに出て、夜中に帰ってきたら、ロンも奥さんももういなくなってた。
夢だったんかなってくらい駆け足だったけど、あいつのことはきっと忘れないんだろうなって思う。
