アメリカザリガニと過ごした子ども時代、驚異の生存戦略、そして脱皮に隠された完璧なリサイクル (元教授、定年退職538日目)
子ども時代のザリガニ釣り(捕り)
子どもの頃、私は虫を捕まえるのが大好きでした。夏休みには森へ出かけ、セミやクワガタ、カブトムシを夢中で探したものです。一方、田んぼの用水路や池の縁に目を向けると、そこには赤いアメリカザリガニが群れていました。友だちはタコ糸の先にスルメを結びつけ釣っていましたが、私は素手派でした。背後から胴体をつかめば、大きなハサミに挟まれる心配もなく捕まえられます。奥様に子どもの頃の話を聞いたところ、「いじめっ子の男の子は全然釣れなかったのに、私は何匹も釣れた」と誇らしそう。そして、捕まえたザリガニを大きなタライで飼っていたものの、よかれと思って入れていたホテイアオイを伝ってしばしば逃げられたことも懐かしい思い出だそうです。このように「ザリガニ」は、日本の子どもたちが共有する原風景のひとつだと思っていました。ところが近年では、ゲーム「あつまれ どうぶつの森(通称:あつ森)」でしかザリガニを見たことも釣ったこともない子どもが多いと聞き、時代の変化を感じさせられます。
『ヴィランの言い分』で知った新しい視点
先日、NHK の番組『ヴィランの言い分』で「アメリカザリガニ」が取り上げられました。世間で嫌われがちな存在(=ヴィラン)に光を当て、その「言い分」を科学的に検証するというユニークな企画です。私自身は懐かしさから番組を見始めましたが、外来種としての拡散経緯や脱皮のリサイクル機構など、知らないことばかりで驚かされました。子ども時代の単なる遊び相手が、実は壮大な生存戦略を備えた生物だったのです。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

アメリカザリガニの生態
名前に「カニ」とありますが、分類上はエビの仲間です。カニとの違いは尾部にあり、アメリカザリガニは尾を使って遊泳しますが、カニは折り畳んで「カニのふんどし」と呼ばれる構造になります。食性は雑食で、小魚や水生昆虫、両生類を捕食する一方で、水草も好みます。水草をハサミで引き寄せ、茎を根元から切り取って食べるのです。金沢のある池では、わずか3年で水草を食べ尽くしたという報告もありました。番組では、実験として水槽に2匹を入れると、2週間足らずで青々と茂った水草が消え去りました。(下写真もどうぞ)

わずか 20 匹が全国へ
アメリカザリガニが日本にやってきたのは昭和初期。神奈川県鎌倉市でアメリカ産ウシガエルの養殖が始まり、その餌として導入されました。1927 年、100 匹のザリガニが横浜港に到着しましたが、長旅で多くが死に、生き残ったのは 20 匹だけでした。養殖場はやがて閉鎖されましたが、ザリガニは池から逃げ出して野生化。約 100 年の歳月をかけて全国に広がり、今では 47 都道府県すべてで確認されています。日本のザリガニは、すべてその 20 匹の子孫と考えられているのです。(下写真もどうぞ)

驚異の生存力
日本固有のニホンザリガニと比べると、その強さは際立っています(上写真)。体の大きさは約 1.6 倍、水温は 0度 から 40度 まで耐え、汚れた水でも生きられます。エラが湿っていれば陸上でも呼吸ができるため、自力で移動することも可能です。繁殖力も桁違いで、ニホンザリガニの産卵数が 30〜60 個なのに対し、アメリカザリガニは 100〜900 個。母ザリガニは卵を腹部に抱えて守り、孵化した子どもも一定期間は保護を受けます。こうした強力な適応力が、外来種としての拡散を後押ししたのでしょう。
脱皮に隠されたリサイクル戦略
硬い殻に覆われたザリガニにとって、成長には脱皮が欠かせません。ここに驚異的なリサイクルの仕組みが隠されていました。脱皮前になると古い殻から炭酸カルシウムを血液中に溶かし出し、胃の中の「胃石」に蓄積します。その結果、古い殻は柔らかくなり、脱皮が容易になるのです。脱皮後は胃石を溶かしてカルシウムを再吸収し、新しい殻を一気に硬化させます。さらに脱ぎ捨てた殻を自ら食べ、残された栄養まで取り込むのです。資源の少ない淡水環境でも生き抜くための、まさに完璧なリサイクル機構といえるでしょう。(下写真もどうぞ)

<追記> 2023 年6月以降、アメリカザリガニは外来生物法に基づき「条件付特定外来生物」に指定されました。釣りやペットとしての飼育は可能ですが、捕獲した個体を別の水域に放すことは禁止されています。釣ったその場でのリリースは認められますが、飼育する場合は逃げ出さないように適切な管理が求められます。かつての子どもたちの遊びは、今や「生態系を守る学び」の場へと変わりました。ザリガニ釣りは単なる娯楽ではなく、外来種問題や自然保護を考えるきっかけになっているのです。(下写真もどうぞ)

最後に余談ですが、関西に「アメリカザリガニ (通称:アメザリ)」という漫才コンビがいます。第1〜3回『M-1 グランプリ』で決勝に進出した漫才界のベテランでありながら、現在は声優、ゲーム開発、VTuber活動など多方面で活躍しています。名の由来となった生物のように、旺盛な生命力と適応力で、新しい笑いの世界を切り拓いていって欲しいものです。それでは、また。
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注1:NHK『ヴィランの言い分』の特集「アメリカザリガニ」より
