そよ風だけで鳴る理由がある──下町の町工場に息づく、風鈴作りの神髄と驚きの事実 @探検ファクトリー (元教授、定年退職812日目)
子どもの頃のヒグラシ、蚊取り線香、風鈴の記憶
以前「のれん」の記事でも綴りましたが、実家は男三人兄弟で何かとがさつだったため、風流なものはほとんどありませんでした。今回のテーマである「風鈴」も、我が家にはなかったように思います。ただ、子どもの頃、夏休みに田舎の祖父の家へ行って昼寝をすると、ヒグラシの声で目覚めたときに、蚊取り線香の匂いと風鈴の音がしていたことをよく覚えています。また、夏祭りに行くと、境内に何百個もの風鈴が並んで売られていました。買ってもらった記憶はありませんが、その光景を見るだけで「夏だなぁ」と感じたものです。
『探検ファクトリー』で知る、江戸風鈴の魅力
今回は、NHK『探検ファクトリー』で、そのガラス風鈴を作る工場を訪れていました。初めて知る内容がいくつもありとても驚きましたので、今回はその魅力をご紹介したいと思います。舞台は、東京・江戸川区にある小さな町工場です。江戸時代と変わらない方法でガラス風鈴を作っているとのことでした。入り口には風鈴職人の内職募集の張り紙があり、「風鈴のひも付け 1個 10円〜」と書かれていました。いかにも下町の町工場らしく、何ともいい雰囲気です。まず、工場で製造しているさまざまな風鈴を見せてくれました。涼しげな絵柄のものが多数並んでいます。透明な球体に絵が描かれているため、風鈴が揺れると、表と裏の絵によって奥行きが生まれます。たとえば、富士山越しの桜と、桜越しの富士山が交互に見えたり、金魚鉢の風鈴を回すと、たくさんの金魚が泳いでいるように見えたりするのです。ちなみに、江戸時代のガラス風鈴は、今のような透明ではなく赤色だったそうです。たとえば、宝船の裏に松の木が描かれたものもあり、「宝船」がやってくるのを「待つ」という意味を込めた縁起物だったそうです。こういう洒落の効いた感覚も、江戸らしいところですね。(下写真もどうぞ)


<追記> 風鈴の起源は、仏教とともに中国から日本に伝わった「占風鐸」だそうで、音の鳴り方で占いをするものでした。日本ではお寺の屋根に下げられ、音が聞こえる範囲には災いが起こらないという魔除けの役割を担うようになったそうです。その頃は金属製でしたが、江戸時代に長崎でガラス製造が盛んになり、ガラス製の風鈴が誕生しました。その後、技術の広まりとともにガラス製品が安価になり、庶民へと普及していったようです。普及する過程で、風鈴の役割も少しずつ変化しました。風鈴の音がスズムシの鳴き声に似ていることから、縁起物や魔除けとしてだけでなく、夏の涼を感じる風物詩へと変わっていったのです。
ガラス風鈴の知られざる職人技
番組では次に、ガラス風鈴の伝統製法である「宙吹き」を見せてくれました。1300 度の炉で溶かしたガラスをガラスの竿に巻き取り、型を使わず、息を吹き込んで膨らませる伝統技法です。息の量や竿の角度を精緻に調整しながら、形を整えていきます。たとえば、玉を縦方向に伸ばしたいときは、重力を利用して管を下向きにします。横方向に広げたいときは上向きにし、形を整えたいときは水平にして吹いていました。実に繊細な作業です。実は、私も化学者の端くれでしたので、学生時代からガラス細工はかなり仕込まれました。複雑なものこそ作れませんでしたが、毎日のように壊れたガラス器具を修理していましたので、その技術のすごさがわかります。風鈴作りでは、まず小さな玉を作り、そこへ再びガラスを巻きつけ、もう一つ大きな玉を重ねて雪だるまのような形にしていました。なぜ二つの玉を重ねるのかというと、後で二つの玉の間のくぼんだ部分(下図、赤矢印)を切り離し、小さな方を取り除くためです。すると、その縁が風鈴の口の円周になるというわけです。(下写真もどうぞ)

ギザギザの縁が奏でる奇跡──音色を変える風鈴の秘密
ここまでは、何となく予想できる工程でした。しかし、この後に大きな驚きがありました。番組ではファクトリークイズとして、「さらに音が良くなるように、ここからあることをします。それは一体何でしょう」と出題していました。その答えは、なんと「音を良くするために、縁の部分をギザギザにする」でした。私は答えを聞いても、すぐにはその理由がわかりませんでした。しかし、社長が縁をツルツルに加工したものと音を比べてくれると、その違いは明らかでした。縁をギザギザにすることで、あの涼しげでやさしい音色が生まれていたのです。私はこれまで、風鈴の音はおもり(舌: ぜつ)がガラスに当たることで鳴るものだと思っていました。しかし実際には、こすれる音もきれいな音色を奏でていたのです。つまり、少しこすれるだけでも音が鳴る仕組みによって、そよ風に揺れるだけで涼やかな音が響くようになっていたのです。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

風鈴が生む癒しの 1/f ゆらぎ
番組ではさらに、なぜ風鈴の音を聞くだけで涼しい気持ちになるのかについて、音響工学の専門家である同志社大学の土屋隆生先生に話を聞いていました。ガラス風鈴の音には、その大きさや鳴る間隔に、小川のせせらぎや小鳥のさえずりと同じ「1/f ゆらぎ」が含まれているそうです。大きな揺らぎと小さな揺らぎが絶妙に入り混じっているため、聞いているだけで涼しさや癒しを感じるのだといいます。さらに風鈴には、揺らぎだけでなく音の高さにも特徴があります。20KHz 以上という、人間の耳には聞こえない超音波成分が含まれており、それが癒しの効果を高めるという研究報告もあるそうです。また土屋先生は、長い歴史の中で、日本人の脳には「風鈴の音=心地よいそよ風が吹いているサイン」として記憶されてきた効果もあるのではないか、と語っていました。(下写真もどうぞ)

絵付けは「逆算」で描く?
番組の最後には、ガラス風鈴の絵付けも紹介されました。技法として難しいのは、内側から描くことと、描く順番です。風鈴の絵は、雨風に強く、ガラス本来の艶を活かすために、内側から描きます。そのため、下書きなしで迅速かつ正確に描く熟練の技が不可欠です。さらに、完成時に一番手前に見せたい要素から描くのがルールでした。たとえばウサギなら、まず目を描き、その上から輪郭や色を重ねていきます。この「逆算」の技法が、非常に難しいところのようです。また、グラデーションをつけて立体感を出すために、プロは毛先を直角に付け替えた特殊な刷毛なども使っていました。それによって描かれた「水の揺らめき」は、さすがの出来映えでした。
せっかくということで、MC の中川家のお二人とすっちーさんも絵付けに挑戦していました。やはりなかなか難しく、皆さん苦戦していましたが、私が気に入ったのは、以前「絵心ない芸人」にも選ばれていた礼二さんの風鈴です。タイトルは「東京の地下鉄」でした。どうぞお楽しみください。それでは、また。(下写真もどうぞ)

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注1:NHK『探検ファクトリー』の特集「ガラス風鈴工場」より
