なぜシャンプーはワンプッシュで出るのか?──シャンプーボトルは「心臓」と同じ仕組みだった @チコちゃん(元教授、定年退職761日目)
喫茶店で味わうサイフォンコーヒー
最近、コーヒーを飲みに行くとなると、ほとんどがスタバなどのチェーン店です。しかし昔は、よく喫茶店に行きました。そして、その多くではサイフォンでコーヒーを淹れてくれました。今でも大阪では、三番館チェーンなどで楽しむことができます。ドリップコーヒーは、抽出中にどうしても温度が下がりますが、サイフォンは高温の状態で抽出するため、アツアツのコーヒーになりやすく香りも一気に広がるそうです。また、圧力差を利用してコーヒー抽出液を移動させるため、コーヒー粉と液体が素早く分離され、すっきりした味わいになるともいわれています。私が勝手に思い浮かべるのは、黒いベストに蝶ネクタイをしたヒゲのマスターが、目の前で一杯ずつ丁寧に淹れてくれる光景です(笑)。(下写真もどうぞ)

物理でいう「サイフォンの原理」
ただし、このコーヒーのサイフォンは、物理でいう「サイフォンの原理」を使ったものではありません。では、サイフォンの原理とはどのような現象でしょうか。高い位置にある液体を、ホースなどでいったん上に持ち上げたあと、低い位置へ流し出すと、ポンプなしでも液体が流れます。そして水面の高さがほぼ同じになるまで、自動的に流れが続く現象です。(下写真もどうぞ)

<追記> ちなみに、この原理については長年、世界中の教科書や事典で「大気圧」が原因だと説明されてきました。私も学校でそのように習い、深く疑うこともありませんでした。ところが 2010 年(ごく最近!)、オーストラリアの物理学者ヒューズ博士が、「大気圧がなくてもサイフォンは作動する」ことを真空環境下での実験などによって示しました。つまり、サイフォンの本質的な要因は、大気圧だけではなく、「重力」と「液体分子間の凝集力」にあるというのです。
『チコちゃんに叱られる』で知ったシャンプーボトルの仕組み
なぜこのような話から始めたかというと、NHK『チコちゃんに叱られる』で、「シャンプーのプッシュポンプを押すと、なぜ液体が出るのか」というテーマを扱っていたからです。私は最初、シャンプーボトルの仕組みにもサイフォンの原理が関係しているのではないかと思いました。しかし、残念ながらこれは間違いでした(ただし、石油ストーブ用の手押しポンプでは少し関係します)。というわけで、今回の主役はサイフォンではありませんが、関連する話として面白かったので、イントロにさせていただきました(少し長すぎましたかね)。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注3)

シャンプーボトル、心臓、石油ポンプの共通点
番組では、シャンプーやリンスのプッシュポンプ容器を押すと、なぜ液体が出てくるのかをわかりやすく解説してくれました。少し複雑ではありますが、非常によく考えられた機構です。さらに番組では、その原理が心臓のポンプ機能と同じであることや、石油ストーブに給油するときに使う手押しポンプ、いわゆる「シュポシュポ」も同じ考え方で動いていることを紹介していました。
たった4ミリのボールが生む一方通行の流れ
番組では東洋大学の望月先生が、実際にシャンプーボトルのポンプ部分を分解しながら、その仕組みを説明してくれました。構成要素は、ノズル、キャップ、管、バネ、直径約4ミリの小さなボール、そして上部のふた(弁)です。ざっくり言えば、上には穴をふさぐふたがあり、下には栓の役割をするボールがあります。まず、買ってきたボトルのノズルを上げると、バネの力でノズルが上昇します。すると内部の圧力が下がり、注射器のように液体を吸い上げます。このとき、下部のボールが上に引っぱられて栓が開き、容器の中の液体が管を通って吸い上げられます。一方、上部の弁は閉じているため、上から空気や液体が逆流することはありません。次にノズルを押すと、内部にたまった液体が押されます。このとき、液体は上下どちらの穴からも出ようとしますが、下のボールは押しつけられて栓となり、下側を閉じます。一方、上部のふたは液体の圧力で開き、液体はノズル側へ押し出されます。つまり、ノズルを上げると「下が開き、上が閉じる」。ノズルを押すと「下が閉じ、上が開く」。この交互の動きによって、液体は逆流せず、一方向にだけ進んでいくのです。何気なく使っているシャンプーボトルですが、内部では小さなボールとふたが、見事な連携プレーをしているわけです。(下写真もどうぞ)


心臓もまた、弁で一方向の流れをつくっている
この仕組みは、心臓の働きにも通じています。心臓は筋肉でできたポンプで、収縮と拡張を繰り返しながら血液を全身に送り出しています。構造としては、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があり、それぞれの流れを調整する弁があります。たとえば右心系では、右心房が縮むと弁が開き、血液は右心室へ流れます。続いて右心室が縮むと、心房側へ戻らないように弁が閉じ、肺動脈側の弁が開いて、血液は肺へ送り出されます。左心系でも同じです。肺から戻ってきた酸素を含む血液は、左心房から左心室へ進み、そこから全身へ送り出されます。このときも、弁が開いたり閉じたりすることで逆流を防ぎ、血液が一方向に流れるようにしています。プッシュポンプと心臓は、もちろんスケールも役割もまったく違いますが、基本原理は共通しているのです。人間の血管の全長は約 10 万キロメートル、その途方もない距離に、心臓は1分間に 60〜100 回ほど拍動しながら、約6リットルもの血液を循環させているのです。(下写真もどうぞ)

「シュポシュポ」も同じ原理で動いている
一方、石油ストーブに給油するときに使う手押しポンプ、いわゆる「シュポシュポ」も、同じような仕組みで動いています。このポンプの内部にも2つの弁があります。ポンプ部分をふくらませると、内部の圧力が下がり、下側の弁が開いて液体を吸い上げます。そのとき、横側の弁は閉じているため、空気や液体が逆向きに流れることはありません。次にポンプ部分を押してしぼませると、今度は下側の弁が閉じ、横側の弁が開きます。すると、吸い上げられた液体が一方向に押し出されます。ここでも、2つの弁が交互に開閉することで、流れの向きを一定に保っているのです。さらに石油ポンプの場合は、いったん液体の流れが始まると、その後は液柱の重さを利用するサイフォンの原理が働き、連続的に流れ続けます。ここでようやく、冒頭のサイフォンの話が少しだけ関係しました(笑)。(下写真もどうぞ)

私たちが毎日使っているシャンプーのプッシュポンプは、手押し式の石油ポンプや、生体の中心である心臓と、共通の物理的基盤の上に成り立っていました。さらに現在では、こうした流体輸送の知識が、人工心臓や人工弁の開発にも活かされているそうです。物理法則と生命のメカニズムが、こんな身近なところで見事に響き合っていることは素晴らしいですね。それでは、また。
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注1:野々山憲子さん『【イラスト図解】サイフォン式コーヒー徹底解説!』より
https://cafe-de-chef.jp/column/siphon-coffee/
注2:中学受験サイト『スタペディア』「サイフォンの原理」よりhttps://stupedia.tekibo.net/siphon/?utm_source=openai#google_vignette
注3:NHK『チコちゃんに叱られる』の特集「シャンプーのプッシュポンプを押すと、なぜ液体が出るのか」より
