見出し画像

「日本VSブラジル戦を午前2時から見た。決勝トーナメントのブラジルは、対戦相手にとっては、怖いチームだったと思う」。

 1998年のワールドカップに日本代表は初めて出場した。

 テレビ観戦に過ぎないけれど、勝てる気がしなかった。

 3戦全敗。

 それは、その当時では順当な結果に思えた。

 唯一の得点を挙げたのは、中山雅史だった。ただ、その試合で中山は骨折した。

 そういう犠牲がないと、得点すらできないのか。

 ワールドカップは、怖いところだと思った。


初めての決勝トーナメント

 それから4年後。

 2002年。韓国との共催での自国開催のワールドカップ。

 予選リーグを突破した。それは、前回のことを考えたら、ウソのようだった。素直にうれしかった。

 そして、決勝トーナメント。相手は、トルコ。

 その試合をテレビで解説していた岡田武史(1998年ワールドカップ日本代表監督)は、これだけのチャンスはないはず。もちろん相手が弱いわけではない。だけど、ワールドカップの決勝トーナメントでは、もっと強い相手と戦うことがほとんどだから。といった話をしていた。

 その切実な響きは、世界の現場に自分で立った人の言葉に思えた。

 だが、試合は、1対0のまま、終了し、日本代表はベスト16で終わった。

 3戦全敗から、4年でベスト16。そのスピードであれば、もしかしたら、ベスト8に進むことも、それほど時間がかからないのではないか。それまで、ずっとワールドカップ出場すらできない年月が長かったのだけど、逆に、その時間の蓄積のために、一気に強くなっていく可能性はないだろうか。

 そんなことも、2002年の視聴者としては考えていた。

 だが、その決勝トーナメント1回戦の壁は、2022年のワールドカップまで4回のチャンスがあったのに、1度も破ることができなかった。

 最初に決勝トーナメントに出場してから、20年が経っていた。

2026年決勝トーナメント

 2026年のワールドカップ。初めて、3カ国で開催する大会。

 日本代表は、2026年のワールドカップで、グループリーグを2位で勝ち上がることになった。

 相手はブラジル。試合開始時刻は、日本時間で午前2時。

 これで決勝トーナメントは5回目になるが、優勝経験国が相手になるのは初めてだった。

 それを考えたら、次に同じような機会が来るまで、思った以上に年月が必要かもしれない。そう思うと日常的な生活時間とは違うけれど、見ようと思った。すでに歴史的な試合だと思ったからだ。

 午後9時過ぎに帰ってきて、食事をし、午前2時までに時間があるので、キッチンタイマーで時間をセットし、少し寝ようと思ったけれど、ただのテレビ視聴者なのに、変に興奮しているせいか眠れなかった。

 NHKの衛星放送が見られないので、フジテレビで見るしかない。

 まだ試合まで、1時間以上ある。

テレビ中継

 フジテレビではサッカーの番組を、月曜日のこの時間に放送しているが、今回はワールドカップの現地からの放送になった。出演者の小野伸二が、今回の日本VSブラジルの解説を担当するせいもあるようだ。

 小野伸二は、これから始まる試合に関して、必ず日本が勝つ。2対1で勝つ、と断言していた。

 テレビを見ていて、その表情を読み取ろうとしてしまったのは、それが小野伸二の本当に思っているかどうかを、テレビの視聴者として知りたかったからだ。高校生の頃から、日本のサッカーの希望のような存在だった。言っても仕方がないけれど、あのケガさえなければ、本当に世界的なプレーヤーになったと思えるようなプレーヤーだった。天才という名前が大げさではないサッカープレーヤーが日本から出るとは思っていなかったが、その経歴をもつ小野伸二が、試合の予想をする時に応援的な意味が持つのは仕方がないとしても、それが本気なのかは、気になった。

 自分が解説をする試合がもうすぐで、同じ放送局の番組の中で、負けたり、引き分けたり、という言葉を言いづらいのはわかる。

 だけど、そんなに勝つと断言していいのだろうか、と思ってしまったのは、ブラジルが強豪国だった年月がとても長いからだった。1958年に初めてワールドカップに優勝してから、5回も決勝戦で勝っている。

 その中で、決勝トーナメントの経験をどれだけ積んでいるのだろうか。そうした歴史の蓄積は無視できない。

 そんなことを思っていたが、そのままフジテレビを見てしまっていたら、試合前の日本代表の、まだ誰もいないロッカールームの映像が流されている。ナレーションでは運命の一戦と表現されているが、そう思っているのは現在では日本側だけなのではないか。もし、ここで日本が勝つことがあれば、ブラジル側の見方も変わってくるとは思う。

 試合会場に入るところから、カメラが入って、建物の中まで映像としてプレーヤーたちを追っている。そのことは、本当にプラスなのだろうか。集中力のようなものに関係ないだろうか。それは考えすぎかもしれないけれど、視聴者も、そこまで求めていないし、さっきのロッカールームの映像も必要かどうかは疑問が残る。

 そんなうるさいことを考えながら、一つ良かったと思えたのは、もしもPK戦になったときは、森保一監督自身が蹴る順番を決めると明言したことだった。できたら、4年前にもそれをして欲しかったなどと感じてしまった。

日本VSブラジル

 ブラジルは20年以上、ワールドカップで優勝をしていない。5回優勝はしているけれど、その実績だけではなく、現代でも優勝をしないと、古豪などと言われてしまうかもしれないかもしれず、そのことをブラジルの国民は許してくれないだろう。

 今回も、優勝しないと国民が怒りそうだし、まして、決勝トーナメント1回戦で負けたら、どこかで暴動が起きるかもしれない。大げさかもしれないが、関係者の誰かの命が危ない事態になる可能性すら考えられる。

 そういう国に勝てるだろうか。

 まだキックオフまでには時間があって、試合会場の外にいる日本人サポーターたちに、女性アナウンサーがインタビューをしている。ややあおられるような気配の中で、「3対0」と叫んでいる。

 それが応援する、ということなのだろうけれど、本当にそこまでの点差がつくと思っているのだろうか。ただ、さまざまなものを踏み越えるようにして、この会場にいるのだから、それくらいのことは言いたくなるのかもしれないと思う。

 そんなことを考えながら、ただテレビの前にいるだけなのに、少し日常からは離れているような感覚になっている。

 ぜいたくなことだった。

 キックオフまで30分ほど。

 すでにピッチではウォーミングアップが行われ始めているようだ。

 そのセンターサークルに、フジテレビの女性アナウンサーと、元・日本代表の柿谷曜一朗が立って、中継している。試合前のピッチの中にプレーヤー以外がいることは許されるのだろうか。現在の報道事情を知らないから、他の国も行っているのかもしれないけれど、でも、もしサッカーの神様がいるのならば、きわどい場面で、日本に味方をしてくれないのではないか、と思えるような光景だった。

 テレビ画面は、ブラジルのヴィニシウスのプレーがVTRが流れている。

 改めて、本当にうまくて、速い。見ていて、気持ちがいい。

 このプレーヤーを90分間止められるのだろうか。

試合開始

 日本時間で午前2時に試合が始まる。

 ここまでの1時間半くらいが思ったよりも早かった。

 日本代表は、初めてアウェイの白いユニフォーム。商品としては、こちらの方が多く売れているらしいけれど、人気があるのはわかる。白をベースに、いろいろな色も使われていて、かわいい。

 キックオフから2分足らずで、ブラジルがシュートをうってくる。このタイミングなのか、という早くて、怖いプレーだった。

 試合の緊張感は、遠い場所のテレビの視聴者にまで伝わってくる気がするのは、ブラジルのプレーに圧力があるせいだと思う。

 試合が始まってから10数分で、何度もブラジルのチャンスがあって、それは自らつくりあげたシュートだったり、ゴール前のプレーだったりもしたのだけど、日本代表のゴールキーパー・鈴木 彩艶がパンチングし、セーブをし、前に出てキャッチを繰り返し、失点を防いでいる。

 すごい。改めてすでに世界的なプレーヤーになっているのだと思った。

 試合開始18分頃に、ボール支配率のデータが画面に出たが、ほぼ五分五分だった。

 シュートは4本と1本でリードされているが、これまで日本代表の冨安健洋は、ブラジルのヴィニシウスをかなり抑えていて希望が持てる展開だった。

 ただ、約20分のとき、ヴィニシウスが冨安を振り切った瞬間があって、それはやはり怖いスピードだった。

 その後、ハイドレーションタイムになって、それは日本にとっては、良かったと思える時間に感じた。

 その後、前半29分。佐野海舟が相手のボールを奪って、そこからドリブルをし、うつ瞬間に改めてグッと力が入ったシュートは、お手本のようなグランダーでゴールの左隅に刺さり、本当に見事で、信じられないほどだった。

 その後は、当然、ブラジルも点を取る空気にさらに変わって、圧力を増しているようだったけれど、日本の集中力は途切れず、1対0のまま前半が終わった。

 重いゲームだった。

 そこから大量のCMが始まる。ゲーム中に入れないから、それは仕方がないことかもしれない。

後半が始まる

 こうした展開だと、経験のある強いチームは、後半に変わってくる怖さがある。

 ブラジルは選手を替えてきた。

 それだけはなく、得点を取るためのサッカーをしてきて、圧力が一段高まったように見える。

 それを日本は、よく耐えている。GKの鈴木は、よくキャッチし、止めている。

 後半の8分くらい。ゴール前でシュートをうたれ、GK鈴木が止め、冨安もふせぎ、一瞬何が起こったのかよくわからないボールの動きをしながら、失点を防ぐ。ちょっと信じられないような止め方。

 だが、ブラジルの攻撃が続き、後半11分に、クロスボールからヘディングでカゼミーロがゴールを決める。

 スタジアム全体が、息を止めていたのが、フーッと呼吸をして、空気が流れるようになったように見えた。

 1対1。

 ずっと攻められ続け、耐え続けたのに、それでもやられた感じに思えた。

 その2分後くらい。

 それまで冨安が抑えていたのに、ヴィニシウスがワンタッチで抜いたすごくうまいプレーから、ドリブルでゴールに迫り、最後も信じられないタイミングでのアウトサイドでのシュートをうった。

 もしかしたら、この試合での最もファンタスティックな瞬間だったかもしれないのに、このボールにも、GKの鈴木は反応し、さわり、そのおかげでポストにあたって、失点にならなかった。すごい反応だった。

 その後も、試合はブラジルがボールを支配したまま、時間が進む。

 一瞬でもスキを見せたら、やられる。そんな緊張感は視聴者にも伝わってくる。

アディショナルタイム

 後半21分。日本代表は、交代によって、中村敬斗と、堂安律を下げた。

 こうした得点につながるきらめきのあるプレーヤーたちがいなければ、勝てないのではないか。その後も、伊藤純也や、鎌田大地など、このワールドカップで点を取ってきたプレーヤーを交代させた。

 テレビの観戦者にとっても、これでは守れても勝てないのではないか、と思ったし、日本代表の怖さが減ってしまったように思えた。

 一瞬のゆるみや、スキが失点につながる。そんな緊張感の中でずっと守っている日本代表の集中力はすごいし、疲労感もとんでもないのではないか。

 冨安も、ずっとヴィニシウスを止めている。

 後半の45分が過ぎる。

 もう終わる。あとは延長になる、と思えたアディショナルタイム6分。

 田中碧がボールを奪われ、ブラジルは狭い中でパスをつなぎ、最後はガブリエウ・マルティネッリが得点を決めた。

 1対2。

 その後、残されたわずかな時間も、日本代表はあきらめなかったが、試合はそのまま終了した。

試合後のこと

 ピッチに座り込んだり、倒れ込んで、動けなくなる日本のプレーヤーは、テレビで見ているだけでも、何人もいた。

 そこに日本の他のプレーヤーやスタッフだけではなく、ブラジルのプレーヤーも手を差し伸べるシーンもあった。

 カメラが止まったのは、ブラジルの9番、クニャが、ミスをしてしまった田中碧に近づき、声をかけ、まっすぐ目を向けて、何かを真剣に話しかける場面だった。詳細はわからない視聴者にとっても、それが田中のことを尊重しているのは伝わってきた。

 残り時間10数分で、田中は交代してピッチに立った。グループリーグとは明らかに異なる空気の中で、途中からプレーするのが大変なことは、少しは想像できる。 

「彼のためにこのことは覚えておこうと思います。彼にとって悔しい瞬間なのは分かっていますが、彼がどれほど日本チームを助けてきたかを心にとどめておくことは大切なことです」

(『毎日新聞』より)

 これは、試合後のクニャのコメントなのだけど、そのベースにサッカーそのものをとても大事に扱っている気配を感じるし、それは、ブラジルのサポーターにも、国民にも、100年くらいをかけて、身についている気がしていた。

 試合後のインタビューで、これだけの戦いをしたあとだから、当然かもしれないけれど、放心した表情で、まだ対等に戦えていないと語っていた上田綺世の姿は印象的だった。悔しさがありながらも、現実を受け止めているように見えたからだ。

 同じようなコメントを残していたのが、ヴィニシウスをほぼ完全に押さえ込んだように見えた冨安↓だった。

 試合の途中で、この戦いに勝つことを、新しい歴史と、アナウンサーは表現していたようだったが、これだけの試合をしたこと自体が、すでに日本サッカーにとって、新しい歴史だと思った。

 ブラジルにとっても、すでになめていい相手ではなく、手強いチームとして、認識されたはずだからだ。

 日本のプレーヤーたちは、できることはすべてやったと思う。

代表監督の交代

 決勝トーナメントでは、オランダも負けてしまった。

 ワールドカップの優勝、という目標を聞くたびに、3回も決勝に進んでいるのに、オランダはまだ優勝したことがないのに、それだけの難しさがあるから、少なくともベスト4に何度か入るような力がないと、突然、優勝するのは不可能に近いのではないかと思ってしまう。

 日本代表が、さらにワールドカップでベスト8か、それ以上の成績、優勝を目指すのであれば、まず代表の監督を交代させるべきだと思う。

 欲を言えば、ワールドカップの優勝を経験した指揮官を監督として迎えることができれば、とも思うけれど、まずはベスト8を知っている人を監督に就任してもらい、W杯ベスト8を目指す。

 それで何年かかるか、もしくは何人かの監督が交代するかはわからないが、ベスト8を達成して、そこにプレーヤーとして立った人が指導者になって、代表監督になれば、もしかしたら、さらに上を目指せる日本人監督になるかもしれない。

 今回、ブラジル代表は、優勝を目指して、これまでブラジル人監督だけだったのに、イタリア人の監督を迎えたのだから、それだけワールドカップで勝つのは難しいことを見せてくれているのだと思う。

献身の功罪

 さらに目指すべきプレーについても、さらに考え直す時期に来ているのかもしれない。

 今回、堂安が、守備にも献身的に貢献したことが、とても好意的に評価されていた。そのプレー自体は、今回、ワールドカップを戦うためには必要だったことだろうし、攻撃にも守備にも力を発揮していた堂安は、すごいプレーヤーだと思う。

 ただ、どれだけ優れたプレーヤーであっても、攻撃にも守備にもどちらも90分間フルに力を発揮するのは、実は不可能に近いことではないだろうか。

 アルゼンチンのメッシは極端な例かもしれないが、守備はほぼしないで、得点だけに特化するのは、やはり、あれだけの才能があっても、守備も攻撃もどちらにもフルに貢献していたら、肝心のゴールシーンの時に自分の才能の全てを発揮するのは難しいのではないか。

 日本代表で言えば、堂安は、やはり、得点につながるプレーが、もっとも才能を発揮する場面のように思える。守備の貢献と献身は素晴らしいけれども、そのことで消耗し、攻撃のときに自分の能力すべてを出すことができない、ということはないだろうか。守備の貢献もあるから、90分フル出場が難しくなっていないだろうか。

 だから、特に攻撃のプレーヤーの、守備への貢献や献身の功罪について、改めて考えてもいいと思う。

 ワールドカップで優勝に近づくということは、そのプレーヤーの長所や優れているところを、どれだけ生かすか?というのが、思ったよりもより重要なことで、それが、個々の力を伸ばすことに、つながっていないだろうか。

 つまりどれだけすごいプレーヤーでも、90分間、守備も攻撃も全部はできない。だから、どのプレーヤーが、攻撃や守備にどの程度の貢献をすべきなのか。その見極めも含めて、チーム力を上げることになるのではないか。

 ブラジルのフォワードはあまり守備をしない、ということが、場合によっては、どこか否定的に語られることもあるけれど、もしも、フォワードが献身的に守備をしたとして、それに加えて、ヴィニシウスのような、あの信じられないような相手を抜くような動きは可能なのだろうか。

 ワールドカップ優勝を目指すのであれば、そうした献身に対しての再検討も必要なのだと思った。

 最高の景色を見られるのは、そうした試行錯誤のあと、思ったよりも長い年月が経過してから、なのかもしれない。

午前4時30分の感覚

 試合が終わって、少し経ったら、午前4時30分頃になっていた。

 この季節だと、少し明るくなってきている。

 以前、介護をしているときは、このくらいの時間に毎日眠っていた。妻と二人で、ほぼ24時間体制の介護生活をしていたからだ。久しぶりに、この早朝に近い時間帯の感覚を思い出す。

 10年くらいは、そういう生活をしていたけれど、やはり、体にも負担がかかっていたのかもしれない、と改めて思う。






#ワールドカップ #サッカーを語ろう #日本代表 #サッカー
#ブラジル代表 #試合 #決勝トーナメント #テレビ中継  
#得点 #失点 #鈴木彩艶 #堂安律 #代表監督 #再検討 #毎日投稿
#エッセイ #エッセイ部門  

いいなと思ったら応援しよう!

おちまこと 記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。