唐突に哲学(老夫婦の会話)
低気圧が去った、その次の日の昼下がり。仕事へ向かう鈍行はいつもながらに空いていて、長シートには年老いた夫婦が座って黙っていた。
いつもの通り、外国人観光客のためと思しき英語の車内放送が流れたあとのことだった。
「何を言ってるのか、全然分からん!」
老爺はぎょっとするくらいの大きな声で、はっきりそう言った。
老婆「今のは英語だったから」
老爺「え?英語が分かるのか?」
老婆「いや、分かりませんけど」
老爺「じゃあ、分からんやないかっ!」
残念ながら私はそこで降車した。しかし仕事の間中、分からないの意味を考えていた。
長年連れ添ったであろう二人でさえ、相手の分からないを分かることは、かくも難しいことなのだ。
