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長く勤めるほど損をする?「忠誠心の税金」という残酷な構造

前にいた会社で、後から入ってきた中途社員の方が自分より年収が高いという話を聞いたことがあります。本人は何年もそこで頑張ってきたのに、同じ仕事をしている人が外から来ただけで給料が上。「なんで?」って思うのは当然です。

実はこれ、偶然じゃない。長くいる社員ほど給料が低くなるという構造的な問題があります。最近、この現象が「忠誠心の税金」と呼ばれているのを知りました。調べてみたら、思った以上に残酷な仕組みだったので、今回はこの話をお伝えします。


「忠誠心の税金」とは何か

「忠誠心の税金」(Loyalty Tax)は、同じ企業に長く在籍する社員が、転職組よりも平均的に給料が低くなる現象です。米国の大手HR企業ADP Research Instituteの調査では、同じ会社に長く在籍している社員と転職者の間に、無視できない年収差が生じるとされています。

なぜこんなことが起きるのか。それは給与の決め方の違いにあります。社内昇給の上限は年2〜5%程度。一方で転職は「市場価格のリセット」。つまり企業側が新しい人材に対して提示する金額は、その職種・スキルの市場価値に合わせて設定されるわけです。結果として、同じ仕事をしているのに「内部昇給組」と「転職組」で差が出てしまう。

特に日本では年功序列が残る企業ほどこの傾向が強いです。若手から中堅層の給料が市場価格から乖離している。それなのに、2025年の春は大企業の初任給ラッシュが話題になりました。初任給だけ引き上げて、中堅層は据え置き。その結果、新入社員と5年目社員の給料がほぼ同じという逆転現象まで起きています(笑)。本来なら年功序列だはずなのに。

なぜ企業がこんなことをするのか。簡単です。採用市場では競争があるから、初任給は相場に合わせざるを得ません。でも既存社員は「いるもの前提」。離職率のリスク計算をして、ギリギリのラインで給与を据え置く。その結果が、この逆転現象なんです。


「辞めない人」に会社がやっていること

会社側の視点に立ってみると、実に巧妙です。

新規採用の給料は市場価格で設定する。既存社員の給料は内部テーブルで据え置く。 これ、両方を同時にやるんです。なぜか。新入社員を採用するなら市場価格を提示する必要があります。競争があるから。でも既存社員は「辞めない前提」で管理される。昇給は少しずつ。退職金は温存。

ここで興味深いデータがあります。日本の企業が導入している施策を見ると、「退職金の月給化」(27.7%)と「賞与の月給化」(32.8%)が進んでいる。これ、一見すると「福利厚生が充実した」に見えます。でも実態は「見かけの年収アップで引き留める」という戦略。退職金を年間で配分すれば、退職者を減らせますし、転職リスクも低下します。

つまり、会社にとって「辞めない社員」は最もコスパが良い存在。少ない昇給で、かつ安定した労働力。採用コストもかかりませんし、教育コストも不要。

采用を兼務していた時に実感したのですが、既存社員で運用できる職務は極限まで「内部昇進」で回す。そうすれば、採用費も育成期間も削減できる。転職がない前提で給与テーブルを設計できれば、企業の利益率はぐっと上がるわけです。

だから企業は、社員が「辞めようかな」と思うギリギリのラインの給料を提示する。心理学的には「Satisficing(充分満足)」と呼ばれていますが、労働者が「今の待遇で満足できる範囲」を計算して給与を決めている。データとしては、日本企業の70%以上が「社内のジョブディスクリプション(職務記述書)を明確に定義していない」という調査結果も出ています。つまり、給与基準そのものが曖昧。その曖昧さの中で、「この人ならこのくらいでいいだろう」という経営判断がされているんです。


でも2026年、転職しても上がらなくなってきた

ここまでは「転職したら給料が上がる」という前提ですが、その前提が揺らいでいます。

転職プレミアムは確実に縮小しています。求人は多い。でも「年収アップ転職」は難しくなっている。なぜか。経済全体が不確実性を増してきたから。企業も採用に慎重になりました。新しい人材に対しても、高い給料を提示するリスクを取りにくくなっているんです。

実際、米CNBCが報道した「Great Resignation以降のトレンド分析」では、転職インセンティブが全体的に下がっていることが示されています。求人数は増えているのに、給与の上昇幅は鈍い。転職成功者の平均年収アップ幅は、2021年の8.7%から2024年には4.2%にまで低下している。つまり、「辞めても損、残っても損」という新しい袋小路が生まれた。

これが「Great Detachment」(静かな離脱)と呼ばれる現象の根本原因だと考えます。転職しても給料が上がらない。でも今の会社にも未来が見えない。だから最低限の努力で仕事をして、仕事以外に時間を使う。その結果、組織へのロイヤルティがゼロになっていく。

ここで厄介なのが、この傾向は今後ますます強まるということ。企業側も「転職者には高い給料を払わなくていい」という学習をしたから。わざわざ転職プレミアムを払う必要がない。同じスキルセットなら、内部昇進の人間を使った方が、長期的には安上がりだからです。


忠誠心の税金を払わないための3つの戦略

ここからは現実的な対抗策です。まず大事なのは、転職するかどうかは別問題だということ。目的は「忠誠心の税金を払わないこと」。

① 年に1回、転職エージェントと面談して市場価格を把握する

転職しなくていい。ただ、年1回は自分の市場価値を客観的に知ること。エージェントに職務経歴書を見せて、「この経歴だと市場でいくらくらい?」と聞く。相場を知らないから、会社の低い昇給に甘えてしまう。相場を知っていれば、社内交渉の武器になります。

一般的に、転職エージェントに登録してオファーを受けると、相場がはっきり見えます。「自分と同じスキルの人は、こういう企業でこのくらいの給料をもらっている」という情報は、本来なら社内では絶対に教えてくれません。でもそれが市場の現実。その現実を知っているのと知らないのでは、キャリア判断の精度が全く変わる。

② 社内で「年収交渉」を仕掛けるタイミングと言い方

昇給面談時に「市場価格はこのくらい」という根拠を持って交渉する。もちろん、実績がある前提です。「同じ仕事をしている転職者の平均年収は〇〇万円。自分の実績を踏まえると、妥当な評価は…」という言い方で。この時点で、会社側も無視しづらくなります。

注意点は、相手を責めないこと。「会社のシステムが悪い」ではなく「市場ではこのくらいが相場です」という客観的な事実提示。企業側も、優秀な社員が去られたくないなら、最低限の市場対応はします。その水準を提示することが交渉の第一歩です。

③ 「転職カード」を持った状態で残る

ここが最も重要。「いつでも辞められる人」が、実は一番良い待遇を受ける構造です。転職エージェントから打診があっても「今の会社で頑張る」という体で、その情報を持ったまま現職に残る。そうすると、会社側も「この人を引き留めないといけない」というマインドに変わります。

実は、会社の経営層も「留任リスク」という指標で人材管理をしています。採用を兼務していた時に経営層の会議を見ると、特定の優秀層については「こいつは転職リスクがある」と明示的にマーク。その層に対しては、給与やポジションで対抗措置を取る。逆に「この人は安定層」と判断された人材には、昇給は据え置きになる傾向が強い。つまり、企業心理としては「安心」は自分の首を絞めるということなんです。


「ここに長くいたい」と思える会社の見分け方

ただし、ここで忘れてはいけないポイントがあります。長く勤めることが悪いわけじゃない。 大事なのは、どこに長くいるのかです。

忠誠心の税金が発生しにくい会社には、特徴があります。それは外部ベンチマーク型の給与制度を導入している企業。つまり、市場価格と連動させた給与テーブルを使っているところです。ジョブ型採用やスキルベース採用を導入している企業も、この傾向が強い。なぜなら、「職務内容と市場相場が一致している」という前提で運用するから。

採用面接も兼務していた経験から言うと、こうした企業は「給与テーブルの透明性」を高く評価します。新入社員でも転職者でも、同じ職務ランクなら同じ給与。シンプルです。昇給も「市場連動」「成果評価」という明確な基準。長くいるから得をするのではなく、成長するから給与が上がる。この構造ならば、忠誠心の税金は発生しません。

反対に、年功序列ベースで「長く勤めることが報酬」という古い給与体系の会社では、忠誠心の税金を払い続けることになります。面接で「給与テーブルはどういう基準で決まっていますか?」と聞いて、明確な答えが返ってこない企業はリスク。その企業では、給与は「恣意的」に決まっています。


大事なのは「主体性」を保つこと

長く勤めるかどうかは関係ありません。大事なのは、自分の市場価値を知っている状態を保つこと。「ここに長くいたい」と思って残るのと、「辞められないから残る」のは全然違います。

今日からできることはシンプルです。転職サイトに登録して、自分と同じ職種・年齢の求人の年収レンジだけ見てみてください。5分で終わります。その数字があなたの「本当の市場価値」です。

もし今の会社の昇給が、その市場価格から大きく乖離していたら。それは単なる「給料が低い」じゃなくて、「忠誠心の税金を払い続けている」という状況です。

焦らず、でも行動は早めに。あなたのキャリアの主体性を応援しています。


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