[詩97]刀鍛冶
ものすごく
凝り性な
刀鍛冶がいた
というより
その刀鍛冶は
凝り性というか
偏執的というか
一つの妄執に
取り憑かれていた
それは
武器というものは
大きくすれば
大きくするほど
強くなるものだという
考えで
大きくない武器は弱く
大きい武器は強い
そして
最高の刀鍛冶というものは
最高の武器を作るものであり
最高の武器とは
要するに
最強の武器であり
ということは
必然的に
最強の武器は
最大の武器でなければならないと
そのように考えていた
そして刀鍛冶は
実際に
そのような武器を作り始めた
最初に作ったのは
ふつうの刀の二倍の長さで
馬すら両断するような
そんな刀だった
刀鍛冶は満足したが
他の国からやってきた
剣豪がその刀を
いとも簡単に振り回し
もっと大きくて
強い刀が必要だといったから
刀鍛冶は
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
さらに
大きな刀を作り始めた
刀は無事に完成し
大きさは前のものよりも
ふたまわりも
さんまわりも
大きくなっていた
するとどこか遠くの国から
身の丈が建物の屋根に
届くほどの剣豪がやってきた
そして刀を軽々と振り回し
巨岩をたやすく両断して
もっと大きくて
強い刀が必要だといった
そしてまた
刀鍛冶は
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
同じことを繰り返した
新しい刀ができあがると
さらに遠くの国から
木の梢よりも背が高い
巨大な剣豪がやってきて
戦で敵の城を
真っ二つに両断すると
もっと大きくて
強い刀が必要だといった
刀鍛冶はさらに
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
大きくて
強くて
これ以上はないというほどの
新しい刀を作ったが
聞いたことがないほど
遠くの国から
雲に届くほどの
背の高さを持つ
剣豪がやってきて
戦でその刀を
振り回すと
国ごと真っ二つにしてしまった
そして
もっと大きくて
強い刀が必要だといったから
刀鍛冶は
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
さらに大きくて
強い刀を
真っ二つになった国で作った
すると
海の向こうから
巨大な剣豪が
海を歩いてやってきて
その刀を軽々と
振り回すと
大陸が真っ二つに
切れてしまった
そして
もっと大きくて
強い刀が必要だといったから
刀鍛冶は
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
もっともっと大きくて
強い刀を
真っ二つになった
大陸の上で作った
すると
星空の彼方から
想像もできないほどに
大きな剣豪がやってきて
刀を軽々と
振り回すと
星を真っ二つにしてしまい
もっと大きくて
強い刀が必要だと
いったものだから
刀鍛冶は
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
真っ二つになった星の上で
新しい刀を作ったが
宇宙の外から
とてつもなく
大きな剣豪がやってきて
刀を軽々と振り回すと
宇宙を真っ二つにしてしまい
もっと大きくて
強い刀が必要だといった
刀鍛冶は
自尊心を傷つけられ
憤怒し
それでも
今まで以上の情熱と
技術をこめて
新しい刀を作り始めたが
そのとき
突然
天啓のように
ひとつの閃きが
頭の中を貫いた
それは
武器というものは
大きくすれば
大きくするほど
際限がなくなるものであり
大きい武器は
より大きい武器より弱く
より大きい武器は
さらに大きい武器より弱い
ということは
すべての武器は
必ず弱いということになる
そうであるならば
大きい武器を作る刀鍛冶というものは
弱い武器しか作っていないと
そういう結論になる
大きさとは
弱さを意味し
武器とは
大きさを持たざるを得ないから
必然的に弱くなる
ということは
最高の武器とは
要するに
大きさを持たない武器であり
ということは
必然的に
最強の武器もまた
大きさを持たぬ武器でなければならないと
そのように考えた
しかし
大きさを持たない武器が
なんであるのかが分からないので
刀鍛冶は今でも
うーんうーんと
唸り続けて
この真っ二つになってしまった宇宙を
たった一人で
道具を手にしたまま
漂流し続けているのだとか
