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「幸せな組織作り」は何からはじめる? 「目の前の課題から」は落とし穴

事務所の窓からやわらかな陽射が差し込む午後。
「こんにちは」と聞き慣れた声と共に、あの若い経営者が顔を出す。先日よりも表情は和らいでいるが、どこかまだ答えを探しているようだった。

「ナカさん。僕もゼンドリ思考で経営していこうと決めて、自分の幸せについて考えたんです」

おー、ええやん、ええやん。

自分の幸せと社員の幸せを実現する組織にしようって、仲間とも話しました。そのときに、みんなの幸せについても聞いてみたんです」

いいね〜。ほんでほんで?

「自分にとって何が幸せなのかみんなで共有はできたけど、現実問題、僕たちの組織って課題だらけだよね? って話になって…」

どんなことが課題としてあがったん?

「組織全体のモチベーションが下がっているとか、チームとしての一体感がないとか。もっと自主的に動ける仕組みも必要なんじゃないかって」

うん、うん。

こんな課題だらけの状態で、幸せな組織作りを目指せるんですかね?

目指せるよ。経営者が自分の幸せをちゃんと定義して、自分たちは幸せな組織を目指すんだって宣言するなら、どんな状態からでも目指せるよ。

「よかった。まずは課題を一つずつ解決していくことから始めたらいいですか?」

そうやなあ。目の前の課題を解決した先に、幸せな組織があると考えている?

「そう…だと思っているんですが…違うんですか?」

そのやり方だと、今までと変わらない組織になっていくと思うねんな。僕だったら、いまの組織がどれだけ素晴らしいかを知ることからスタートさせんねん。

幸せな組織作りは、お互いを知ることから

「幸せな組織」を目指すとき、多くの経営者は目の前の課題を一つずつ解決するアプローチを選びます。しかし、目の前の課題を解決しても、新しい課題はすぐに生まれるし、本当に取り組むべきことが見えなくなります。

それに、「今すぐ取り組むべき重要な課題」と思っていることも、実は大した課題ではなかった、なんてこともよくあります。

じゃあ、さまざまな課題があるように見える企業が、どうやって幸せな組織作りにとりかかればいいのでしょうか。

僕は、社員同士が「お互いを知る」機会を設けることを提案しています。

あるとき、北海道の企業から「社員に一体感を持たせたい」という相談を受けて、経営層を含めた約50名が参加する全社員研修を実施しました。

僕はまず、「皆さんの会社のことがまだよくわからへんので、僕に教えてください」と投げかけました。

部署ごとに「業務サポートメンバーでは、こういうことをやっています」と発表されると、僕は「そんなことやってんの? すごいね!!」と、リアクションを返します。

そこから他の社員に、「こんな業務をしてくれているって知っていました?」とふると、意外と知らないんですよね。

社内でどんな人が、どんな仕事を、どんな思いを持ってやっているのか、知らずに働いていることはとても多いんです。

総務の話を聞いて、「そんな工夫をしてくれてたの?」と驚く営業がいます。営業の話を聞いて、「そんな苦労があったんだ!」と驚く経理がいます。

そこから僕は、「それぞれが、やるべきことをやってくれているから、業務が円滑に回っているんですね」なんて言いながら、”全ての業務が誰かとの繋がりの中で進んでいる”ことに、気づいてもらえるようにファシリテーションをします。

「自分の業務の次に作業する人」の存在に意識が向くようになると、業務効率がめちゃくちゃ上がるんですよ。「次に作業する人」が「顔と名前を知っているあの人」となると、なおさらです。

この段階で参加者は、自分の業務を支えてくれる人や、普段は顔を合わせないけど一緒に働く仲間の存在に意識を向けられるようになる。

そこに僕がもうちょっとだけ介入して、「あなたの仕事がスムーズに進んだのは、総務が完璧な契約準備をしてくれたからやん、ありがたいねえ」「え! 準備のこと知らんかったん? ほんなら、今、お礼言うとき!」と、感謝を伝えるきっかけを作ります。

「あの人のために」のパワーはすごい

日頃言葉にできていない感謝を伝えるきっかけを作るだけで、感謝のバトンは次々と渡っていく。感謝された側も、「あの人のためにまた頑張ろう」ってモチベーションがわいてくる。

研修では、業務内容だけでなく「あなたはどうしてこの会社で働いているの?」「この会社のいいところは?」 と投げかけます。

社員たちは楽しそうに「会社のここが好き」「社長の考え方が素晴らしくて」と話してくれます。経営層にとって、とても嬉しい声ですよね。

こうした会話をすることで、会社の魅力、素晴らしさが言語化されて、「自分たちはいいチームで働いているんだな」と再認識できるんですよ。

そして、誰がどんな仕事をしていて、どんな思いで働いているかを知ると、働くモチベーションも「会社のため」ではなく「あの人のため」へと変わります

「あの人のため」がモチベーションになっていると、相手が困っていたら、自然と手を差し伸べる文化が育ちます。

「会社のため」ではなく「あの人のため」と思える文化は、むちゃくちゃ求心力があるんです。この文化があるから、「みんなでやっていこうぜ」という一体感が生まれ、組織はより強くなります。

お互いの業務を知るだけで? と思われるかもしれませんが、「お互いの仕事への理解」や「努力への感謝」って、再認識する機会が少ないんですよ。

だから、言葉にして伝えあう状況を作るだけで、「課題」と思っていたことは、課題ではなくなる。結果的に、意識が高まり作業効率もよくなり業績も上がっていくんです。

どんな会社もいいものは山ほどある

「そんなの、そもそもがいい会社だっただけでしょ」と思われる方もいるかもしれません。

僕は、どんな会社も、「チームがあって会社が存続している時点で、いいものは山ほど持っているんだよ」と声を大にして言いたい。

どの会社にも「いいところ」も、そこで働く理由もたくさんあるんです。ただ、それが見えなくなっているだけ。掘り下げて言語化されていないだけなんです。

経営層が「社員のモチベーションが…」と思う時は、めっちゃ頑張ってる人や、他者のために動いてる人が全然フューチャーされていないことが多い。

「社員が…」という前に、みんなの頑張りに、公平に目を向けているかを振り返ってみてください。

売上を持ってくる営業だけが評価されていませんか? それってバックオフィスの人がめっちゃ下支えしてくれていませんか?

支えてくれる人がいるから、営業がすごく動きやすくなっているのに、その人に全然、陽が当たっていない。誰も気づいてない。経営者さえ評価してない。そんな状況になっていませんか?

そんな状況であれば、働くモチベーションは上がらないし、チームも疲弊していきます。

一人ひとりの努力を明るみにしていく力が、経営者には必要なんです。

僕は研修で、組織の中にあるいいところを掘り起こすお手伝いをしているだけです。出てくるものは全部、その会社にすでにあるものなんです。

「課題」に見えるのは、慣れてしまったから

「いいところ」を知っていても、「ありがたい」と思っていても、だんだんそれに慣れてしまうと、意識しなくなるもの。

さらに人って、慣れてくると悪いところに目がいきがちになります。「あの人がこうだ」「経営のここがダメだ」と、不満ばかりに目がいって、「あれもこれも課題だらけの組織」に思えてくる。

そんな状態では、会議も「責任を追及するような否定的な議論」になりがちです。「業績を伸ばすための前向きな議論」とはまったく違うものになり、結果として組織の成長を止めてしまうこともあります。

だからこそ大切なのが、「この人のサポートがありがたかったよね」「この取り組みは素晴らしい」といった“いいところ”に改めて意識を向ける時間をつくること。そして、お互いに感謝を伝え合うこと。

そうすることで、「経営のここがダメだ」「あのチームのやり方が気になる」と思っていたことが、いつの間にか“解決すべき課題”ではなくなっていくのです。

「自分たちのいいところを言葉にする時間」、ちゃんと作れていますか?

次回に続きます。

編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)


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