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OLLO Audio「X1」レビュー(モニターヘッドホン)

以前「おすすめのモニターヘッドホン(2025年・中級者~本気で良い音楽を作りたい人向け)」という記事でOLLO Audio「X1」について少しご紹介しました。
しかし、実際にレビューしているユーザーの数が少なく、また試聴できる店舗も限られている現状があります。
そこで、今回はOLLO Audio「X1」のより詳細なレビューしたいと思います。

OLLO Audio「X1」は、非常に優れたモニターヘッドホンである思いますが、国内での購入価格が高いだけでなく、後述するいくつかの注意点も存在するため、試聴せずに購入した場合に後悔する人もいるかも知れません。

そこで、この記事ではOLLO Audio「X1」の購入を検討されている方が後悔しないよう、良い点だけでなく、気になる点についても可能な限り整理しておきたいと思います。




◆開封時の写真など


梱包用の箱はシンプルな茶色の段ボールで紙製のテープで止められていました。

箱を開けると「レジストレーションカード」と記載された黒いカードが入っています。
カードの裏側にはシリアル番号があり、本国サイトにシリアルを入力することで個体差を修正するためのキャリブレーション用データやキャリブレーションプラグインをダウンロードできるようになります。


ヘッドホン本体は持ち運び用の頑丈なケースに最初から入っているため、輸送時に壊れたりする心配はなさそうです。



写真だと分かりにくいですがケーブルは上のほうのメッシュの部分に入っていました。





◆OLLO Audio「X1」の良い点


良い点①:圧倒的な音の良さ

SNSなどで「X1」の音質が絶賛されているため、かえってその評価を懐疑的に捉えている方も少なくないかもしれません。
しかし、実際に聴いてみた人であれば音の「良さ」は疑いようがないと思います。

このヘッドホンは、キャリブレーションを行わない状態でもフラットに近い特性を持ち、派手さのない、むしろ地味とも言えるサウンドにも感じます。
そのため、装着してすぐに「素晴らしい!」と感じるような、いわゆる「一聴き惚れ」するタイプのヘッドホンではないかも知れません。

しかし、一定の時間使い込み、耳がそのサウンドに慣れてくると、「X1」の真価が見えてきます。
解像度と分離感が良く、明確な定位感を実感できるようになります。
最近になって重視されるようになっているトランジェントや音の消え際も聞き取りやすいです。

例えば、アコースティックギターを爪で弾いた際の、爪の表面のわずかなザラつきまでが想像できるほど鮮明に聴き取れることがあります。
音の減衰に関しても、音が完全に消え入る最後の瞬間までしっかりと追うことが可能です。
低域も余計な膨らみがなく、必要なところでピタッと止まる印象で、引き締まったサウンドです。

一般的なモニターヘッドホンの中には、特定の周波数帯を持ち上げて分離感を強調したり、トランジェントを強くしたりする機種も見受けられますが、「X1」はどの帯域も特定の強調がないにもかかわらず、すべての帯域が明瞭に聴き取れるという点で、不思議な印象があります。

サウンドの傾向としては、どちらかというと全体的に柔らかく暖かみのある印象です。
この特性により、長時間のリスニングや作業でも耳が疲れにくく、集中力を維持しやすいというメリットがあります。

スピーカーで例えるならばFocalのような聴き疲れしにくい丸い印象や、昔のONKYOの木製キャビネットスピーカーが持つような暖かみに近い印象を受けます。
しかし、同価格帯のモニタースピーカーと比較しても解像度は高く細部の表現力は際立っています。

他の方のレビューでは、リスニングには不向きという意見も見られますし、確かにリスニング用としては分析的過ぎる印象はあるものの、個人的な感想としては(後述の装着感が気にならなければ)リスニング用途としても十分に音楽を楽しめるサウンドであると感じました。

「一番音が良いと感じたい」と評価する人がいる理由も、この音質を体験すれば納得できるかも知れません。
少なくともダイナミックドライバーを搭載したヘッドホンの中では、上位クラスの音質であると思います。


良い点②:優れたサウンドバランス

OLLO Audio「X1」のサウンドは、さまざまな意味で優れたバランスを持っていると感じます。

低域の充実感を重視する方にはソニーの「MDR-MV1」や「MDR-M1ST」を好む方もいると思いますし、トランジェントや高域成分の把握のしやすさを優先する方であればAustrian Audioの「Hi-X65」のほうが良いと感じるかもしれません。
さらに、ハーマンカーブに沿った聴き心地の良いサウンドを求めるなら、Sennheiserの「HD 490 PRO」を選択する方もいると思います。


ただ「MDR-MV1」や「MDR-M1ST」は低域成分が充実している反面、高域がやや把握しづらいと感じる方もいると思います。
逆に「Hi-X65」は高域が強調されていて低域が物足りないと感じる方も少なくありません。

しかし「X1」は(イヤーパッドの密着具合にもよりますが)低域もそこそこ把握ができて、かつ中高域が埋もれてしまうこともありません。
高域が耳に刺さるような強調もなく、自然な聴こえ方です。
他の方のレビューで「低音がもう少し欲しかった」という意見を見かけることもありますが個人的にはミックス作業をする上では低音はこのくらいが丁度良いのかなと感じます。
(ヘッドホンのドライバーと耳の位置関係を調整することで、低音の量感は変わることがあります。)

また「X1」はデフォルトの状態ではフラットに近い周波数特性を持っていますが、付属のプラグインを使用することでハーマンカーブに近い特性に補正することも可能です。
これによりSennheiser「HD 490 PRO」と似たような聴き心地のサウンドを再現することもできます。

このように「X1」は(装着感や重量の問題を除けば)他社の個性的なヘッドホンが持つ「良いとこ取り」をしたかのような印象を与えます。
かといって没個性的なサウンドというわけでもなく、各帯域のサウンドはそれぞれが高い品質を保っており十分に魅力的です。
もし「ヘッドホンを一つしか持てない」という状況に置かれたなら「X1」は有力な選択肢になる人は多いと思います。


良い点③:そこそこの遮音性がある

OLLO Audio「X1」は分類上は開放型(オープンバック)ヘッドホンに属しますが、そこそこの遮音性があります。

もちろん密閉型に比べると遮音性は低いのですが、他社の開放型ヘッドホンを使用しているとエアコンの送風音や場合によっては空調の風がイヤーカップに当たる際の「風切り音」のようなノイズが気になることがあります。
しかし「X1」においては、そのような風切り音が気になることが少ないです。

エアコンの稼働音など比較的大きな環境音は完全に遮断されるわけではありませんが、PCのファンノイズ程度の音であれば作業中にあまり意識することなく集中できます。
密閉型ヘッドホンほどの遮音性はないとはいえ、開放型特有の自然な音場感を保ちつつ、適度な集中環境を提供してくれる点はメリットだと思います。



良い点④:キャリブレーション用のソフトウェアが付属する

OLLO Audio「X1」には、前記の専用のキャリブレーション(及びエミュレーション)用のプラグインが付属している点もメリットです。
このプラグインを使用することで、ヘッドホン自体の個体差を補正したり、スタジオ環境のサウンド特性を再現したり、あるいはハーマンカーブに沿った聴き心地の良いサウンドに調整したりすることが可能になります。

この「X1」付属のキャリブレーションソフトウェアは定評のあるRealphonesという製品をベースにしているようです。
Realphones単体で購入すると通常99ドルから219ドル程度(セール時は変動あり)の費用がかかります。

キャリブレーションソフトウェアとしては、Sonarworksの「SoundID Reference」などが有名ですが、こちらも定価では比較的高価な製品で、この記事を書いている2025年6月時点では「X1」のキャリブレーションデータが含まれていないようです。

そうした状況を考えると「X1」に専用のキャリブレーションソフトウェアが標準で付属していることは便利だと思いますし、追加費用なしでサウンド調整が可能になるため様々な制作環境や好みに合わせて「X1」のポテンシャルを引き出すことができます。
購入後にすぐにプロフェッショナルな音響環境を構築したいと考えるユーザーにとってはメリットであると思います。

私も「SoundID Reference」や「ARC」は元々持っているのですが補正用のプラグインは面倒になってしまったり、プラグインを挿したままエンコードしてしまうという事故が怖くなって、使う頻度が減っています。

その点「X1」は次で説明するようにオーディオインターフェイスのDSPでの補正も可能なので、お使いの機材が対応していれば便利だと思います。


良い点⑤:一部のオーディオインターフェイスのDSPでもキャリブレーション可能

「X1」は付属の専用プラグインだけでなく、主要なオーディオインターフェイスのDSP(デジタルシグナルプロセッサ)機能を使ったキャリブレーションにも対応しています。
具体的には、RMEの「TotalMix FX」、MOTUの「MOTU Control」、Neumannの「Monitor Mission」といった高機能なオーディオインターフェイスの内部DSPで、X1の特性に合わせた音響補正を行うことが可能です。

オーディオインターフェイスの処理能力を活用することで、プラグインを立ち上げる手間を省いたり、PCの負荷を軽減することができるため、既にこれらのオーディオインターフェイスを所有しているユーザーにとっては強力な連携機能であると思います。


良い点⑥:所有欲を満たす(かも知れない)洗練されたデザイン

この点は個人の好みが分かれる部分ではありますが、OLLO Audio「X1」のデザインが好きであるという人も多いのではないかと思います。
近年の他社製モニターヘッドホンの中には軽量化を追求するために、プラスチックのような素材が多く使われていたりして、価格の割には安っぽさを感じてしまう製品も増えてきています。

しかし「X1」はハウジングには木材が使われ、ヘッドバンドやバックプレートなどには金属が使われています。
実際に手に取ってみるとずっしりとした重厚感があり安っぽさを感じる方は少ないと思います。

サウンドクオリティだけでなく機材の見た目にもこだわりたいクリエイターや、所有欲を満たしたいタイプの人によっては「X1」のデザインは大きな魅力かも知れません。


良い点⑦:充実した修理用パーツ

「X1」は修理用の部品も販売されており、製品が廃盤になった後も一定期間は修理用部品の販売を継続してくれるようです。

他社のヘッドホンではユーザーが購入できる交換部品はイヤーパッド、ヘッドバンド、ケーブルなどに限られているケースも多く、説明書にも「ユーザー自身で修理できる部品は使用されていませんので、ヘッドホンを分解しないでください」といった注意書きがあることもあります。

しかし、OLLO Audioはイヤーカップの筐体、バックプレート、さらにはスピーカーユニットといった主要部品までも販売されおり、公式サイトにも「家庭用工具で交換可能なすべてのパーツ」「特別な技術を必要としない自宅で簡単に交換可能なX1の消耗部品」と記載されており、ユーザー自身による修理を積極的に容認する姿勢が伺えます。

充実した部品供給と、ユーザー自身が容易に修理・交換できることを前提とした設計思想は、万が一の故障時にも、修理に出す手間なく自分で対応し、長期間にわたって「X1」を使い続けられるという安心感があるかも知れません。


良い点⑧:堅牢性・耐久性

OLLO Audio「X1」を手に取ると、ちょっとした鈍器と同じくらいの重量感があります。
ハウジングは木材とアルミニウムで覆われヘッドバンドには耐久性の高いステンレスが採用されているため、万が一落としてしまったとしても(筐体については)簡単には破損しないだろうと感じるような造りになっています。

OLLO Audioの公式動画では、メーカーの人が「X1」をサッカーボールのように軽く足で蹴るパフォーマンスをしており、メーカーも製品の頑丈さ自身を持っていることが伺えます。

構造面も非常にシンプルで、ヘッドバンド内部にケーブル類が埋め込まれているわけではなく、左右のイヤーカップに直接ケーブルを差し込む形式が採用されていります。
これにより断線の可能性のある箇所が限定され、万が一断線した場合でも、ケーブルを交換するだけで対処できます。

イヤーカップはケーブルを取り外せば360度回転させることが可能で、落下時にイヤーカップの付け根に不自然な力がかかり破損するリスクを低減してくれるかも知れません。

重量があるため、落とした際にケーブルや、ケーブルを接続する端子部分が破損しないか心配な部分はありますが、前述の通り交換用部品が用意されているようなので、破損しても修理が可能かも知れません。

プロの現場での使用や、長期にわたる使用を考えている方にとって安心感があるかも知れません。

良い点⑨:SONY「MDR-CD900ST」からの乗り換える場合に違和感が少ないかも?

モニターヘッドホンの「定番」と言われることが多いSONY「MDR-CD900ST」を長年使い続けてきた人にとっては、その独特の音色に耳が慣れてしまって他のヘッドホンへの移行が難しいと感じることもあると思います。

しかしOLLO Audio「X1」なら、そのような場合にも比較的スムーズに移行できるかも知れません。
両機は音の傾向は異なる部分もありますが「高域の明瞭さ」や「控えめな低域」といった周波数特性において共通点があります。

海外よりも日本国内のほうが盛り上がりを見せている印象のあるOLLO Audio「X1」ですが、その理由は本機が「MDR-CD900ST」など長年日本人に親しまれてきた機材に近い特性を持っていて、日本人の耳に馴染んだサウンドバランスに近いからなのかも?とも思います。

「CD900ST」でのミックスバランスが身体に染み付いている人にとっては、作業の感覚を損なわずに導入しやすい「X1」は有力な乗り換え候補になるかも知れません。



◆OLLO Audio「X1」に不満を感じる点


これまでOLLO Audio「X1」の優れた点を紹介してきましたが、正直なところ購入当初はいくつか不満点も抱いていました。
ここではデメリットを率直に整理しておきたいと思います。


悪い点①:最初は装着感が悪かった(ヘッドバンドの問題)


「X1」を最初に装着した際に感じたのは装着感の悪さでした。

「X1」のヘッドバンドはゴムのような素材でできており、このゴムの伸縮によって頭部にフィットさせる構造を採用しています。
しかし、このヘッドバンドのゴムが頭頂部を強い力で押さえつけるため、当初はかなりの不快感を覚えました。

またゴムバンドは左右のイヤーパッドを耳に押し付ける役割も担っているのですが、その力が強すぎるためかイヤーパッドが頬の周辺の骨を強く圧迫する感触があり、痛みを伴うこともありました。
イヤーパッド自体は柔らかくて「ぶ厚い」のですが、厚いイヤーパッドが潰れて、イヤーパッドの奥にあるハウジングの硬い部分が顔に当たっている感触があるほど、側圧は強めであると感じました。
そのため、使い始めの頃は頭も顔も痛みを感じて、肝心の音の良し悪しを冷静に判断する余裕すらないほどで、この時点で売却も検討したほどです。

私自身は頭や顔が小さい方だと思いますが「X1」の装着感に不満を訴える人が少ないため、もしかしたら頭や顔が小さい人よりも、欧米人のように体格が大きい人のほうがフィットしやすい設計になってい可能性もあるかも知れません。

またヘッドバンドのゴムは、将来的に伸びることを考慮して初期はきつめに作られている可能性もあります。

【解決策】
この「ゴムが強すぎる」という問題には解決策があります。

ゴム製のヘッドバンドの上部には金属製のアーチ状のバンドがあるのですが、ゴムバンドを金属製のバンドの方向へ向かってマジックテープなどで3箇所ほど固定すると、頭や顔を押さえつける力が弱くなり装着感が改善しました。

ただ見た目は良くないですし、この方法でゴムを伸ばすと側圧が弱まるため(「X1」の筐体自体が重いこともあり)顔を下や上に向けた際にヘッドホンが前後にズレやすくなります。
また側圧が弱まりイヤーパッドの密閉度が下がることで低域の量感が少し減ってしまうという問題は残ります。

なお、現在ではゴムのテンションが緩くなっきて、上記のようにマジックテープで固定しなくても、ほぼ違和感なく装着できるようになりました

ちなみに、公式サイトには「ヘッドバンド…ストラップは自分で調節可能」との記載が見られますが、私が見たり動かしみたところではヘッドバンドの長さを調整できるような構造には見えません。

その他の問題点として、「X1」ゴム状のヘッドバンドを頭に乗せヘッドホンの自重でゴムを伸ばして固定するという方式のため、スイートスポット(ドライバーと耳の高さが丁度良く一致する場所)を正確に合わせることが難しいのもデメリットかも知れません。
経年劣化でヘッドバンドのゴムが伸びてくると、その分スイートスポットの位置がズレてくる可能性も考えられます。

この点、ソニーのモニターヘッドホンなどは、ヘッドバンドを数ミリ単位で調整でき、さらに数値付きのメモリが刻まれているため、いつでも、どのスタジオであっても、常に同じ位置にドライバーの高さを正確に調整することが可能です。
他社の製品を使用しているとヘッドバンドの自由な調整が当たり前だと感じますが、「X1」を使っているとヘッドバンドの仕様は不便であると感じてしまいます。

装着感に関しては前述のソニー「MDR-MV1」、Austrian Audio「Hi-X65」、Sennheiser「HD 490 PRO」などの方が優れていると感じます。
前記のとおり「X1」も使い続けることで装着感は改善してきますが、購入を検討している方は、可能であれば一度実際に装着してみて、ご自身の頭や顔の形にフィットするかどうかを確かめておいたほうが無難だと思います。

ちなみに、ソニーのモニターヘッドホンMDR-M1STも個人的には長時間の使用で耳が痛くなることがしばしばあります。

しかしデフォルトの状態(ヘッドバンドの調整をしない状態)では「X1」の方が装着感は明らかに悪いと感じました。
これまでに様々なヘッドホンを使用してきましたが音に集中できないほど苦痛を感じたのは「X1」が初めてかもしれません。

とはいえ、前記のように「X1」は、しばらく使っていればゴムが伸びてきて付け心地は大幅に改善しますし、サウンドが良いことは間違いないので、装着感を多少犠牲にしてでも使う価値は十分にあると思います。

悪い点②:重さと大きさ

前述の装着感にも関係する点ですがOLLO Audio「X1」の重量と大きさは、不満に感じる可能性のある要素です。
ケーブルを除いた本体重量は約390gです。
ダイナミック型であるにも関わらず、平面駆動型と同じくらいの重量があり、作業用のモニターヘッドホンの中では重いほうだと思います。

他の比較的高価格帯のモニターヘッドホンと比較するとソニー「MDR-MV1」が約223g、Sennheiser「HD 490 PRO」が約260g、Austrian Audio「Hi-X65」が約310gであるあため、これらの軽量なヘッドホンに慣れている場合にはは「X1」は「重い」と感じる人が多いと思います。
私自身も「X1」を長時間使用していると首や肩に負担がかかり痛くなってきたり、凝りを感じることがありました。
私は前記のようにゴムのテンションを緩めていてヘッドホンが前後にズレやすくなっているため無意識に首を動かしてバランスを取ろうとして負担がかかっているという事情もあるのかも知れません。
肩こりや頭痛に悩まされやすい人にとっては長時間の使用は少し辛いかも知れません。
椅子の背もたれで首や頭をしっかりと支えた状態で「X1」を使うと負担感が小さいように感じました。

他社がプラスチックなどの素材を活用して軽量化を図る一方で「X1」はハウジングに重量感のある堅牢な木材や金属を使用しています。
このことは「重くなってもいいから最高の音質を追求する」というOLLO Audioの信念による設計なのかも知れません。
オーディオの世界ではスピーカーやギターアンプのキャビネットにおいて「重ければ重いほど良い音がする」と言われることがありますが、ヘッドホンの筐体も一種の音響的なエンクロージャーであることを考えると「X1」の重さは、優れた音質を実現するための重要な要素の一つなのかも知れません。

なお「X1」のイヤーカップとイヤーパッドは非常に厚いため、装着時に小型のスピーカーを耳に付けているかのような感覚になることもあります。

「X1」には頑丈で立派な専用のキャリングケースが付属しますが「X1」自体は折りたたみ機構を持たないため、ケースもかなり大きめのサイズです。
スタジオや自宅での使用においては大きな問題とはならないと思いますが外出先へ持ち運ぶとなると、それなりの荷物になるため、携帯性を重視する方には気になる点かも知れません。

ちなみに私も荷物が増えるのは嫌なので自宅外にはソニーの「MDR-EX800ST」というイヤモニを持って行くことが多いです。


悪い点③:マニュアルが情報不足

OLLO Audio「X1」に限った話ではありませんが、近年の音響機材はマニュアルの説明が少ない傾向があると思います。
「X1」も使用方法などはインターネット上で確認するスタイルでが、マニュアルや本国の公式サイトを見ても製品の具体的な使い方、付属ソフトウェア(キャリブレーションプラグイン)の入手方法が少し分かりにくいと感じました。

例えばヘッドホンに付属するケーブルは自分で左右のイヤーカップに差し込む必要がありますがマニュアルにはどちらがL(左)でR(右)かという記載がありません。
おそらく赤いプラグが「R」だろうと推測しつつ、よくよくプラグを確認してみると非常に薄く「L」と「R」の文字が印字されていました。
ヘッドホン本体に記載されている「L」と「R」の文字も見づらいのですが、この点は「赤いプラグが刺さっているほうがR」と覚えておけば間違えることは無さそうです。
(ソニーのモニターヘッドホンもR側に赤い印があります)


悪い点④:公式サイトも少し分かりにくい


「X1」用のキャリブレーションプラグインなどを利用するためには公式サイトでユーザー登録を行い、所有製品を登録する必要があります。

 「USC I & II キャリブレーションの入手方法」:
https://abendrot-int.co.jp/olloaudio/usc_regist/

キャリブレーション用のプラグインの入手方法や設定方法も公式サイトでは分かりにくい部分もあります。
この点は以下の記事で整理しましたので、各手順が分からないという人は参考にしていただければです。


本国の公式サイト全体の情報量が少なめでサイト構成も非常にシンプルであるものの、一度登録をしたメールアドレスなどを変更する画面などはないようで、一度ユーザー登録を済ませた後に登録情報を変更したい場合に手間がかかるかも知れません。

ヘッドホンの譲渡にあたり付属のキャリブレーションソフトウェアのアカウントを引き継ぐ際には、「https://olloaudio.com/pages/register」のページの「Transferring ownership?」からをクリックして「Product Deregistration Form」の欄に、氏名、メールアドレス、シリアルなどを入力する形式になっているようなのですが、この点も少し分かりにくいと思いました。


「X1」を中古で購入する際は付属するキャリブレーションソフトウェアなどを引き続き利用できる状態にあるか、事前に出品者や販売店に確認しておいたほうが良さそうです。

最近では、他のメーカーが製品を販売する際にライセンスの引き継ぎに関するFAQを用意するケースが増えていまので、OLLO Audioの公式サイトでもこの点に関する説明があれば、ユーザーはより安心して製品を購入できるであろうと感じます。




◆その他に気になる(かも知れない)点


その他「X1」を使用していく上で、人によって気になる可能性のある点についても触れておきます。

気になる点①:価格が高い

「X1」は国内で購入する場合には、定価は9万9000円で、2025年時点の優待版で 9万4600円です。

正直なところ「約10万円」という価格に見合った性能があるかというと人によって評価が分かれると思いますし、少なくとも他人に手放しでオススメできるような価格ではありません。

モニタースピーカーの場合であればペアで10万円程度というのは一般的な価格帯であるため、スピーカーの代わりになる性能の高いヘッドホンでミキシングなどの作業を行いたいという人であれば「X1」の価格も納得できる範囲であるようにも思われます。
しかし、普段はモニタースピーカーで作業を行いヘッドホンは主に細かい確認作業やノイズチェックといった補助的な用途でしか使用しない方にとって、ヘッドホン単体で10万円弱という価格は高く感じるかも知れません。

また「X1」一台に10万円弱を投じるよりも以下の5万円前後のモニターヘッドホンを2台購入し、用途や状況に応じて使い分ける方が結果的に満足度が高いと感じる人もいると思います。

  • ソニー MDR-MV1

  • ソニー MDR-M1ST

  • Austrian Audio Hi-X65

  • Sennheiser HD 490 PRO



【海外の販売価格との比較】

ヨーロッパのオンライン楽器店Thomann(トーマン)のウェブサイトを参照すると、2025年6月現在「X1」の価格は452.94ユーロ程度(日本円で約76,200円、1ユーロ=168.27円で計算)です。
運送費や関税などの問題があるため単純な比較はできませんが、ヨーロッパ市場と比較すると日本国内では約2万円程度高い価格設定となっています。

「X1」の価格には付属する高機能なキャリブレーションプラグインのライセンス料なども上乗せされていると考えられます。
そうすると「X1」本体の本来の価格は6万円前後と推測され、国内価格はやや割高な印象を受けるかもしれません。

ただNeumannのフラッグシップモデルの「NDH 30」も同程度の価格帯で販売されており、「NDH 30」よりも「X1」のサウンドのほうが好きという人もいると思いますので、最終的に「高い」と感じるかどうかは、個人の予算やヘッドホンに求める価値観によって意見が分かれると思います。



気になる点②:付属するケーブルの長さ

OLLO Audio「X1」に付属するケーブルの長さは実際に計測してみると約2m弱でした。
これは一般的なモニターヘッドホンと比較すると短いです。

私個人の環境ではオーディオインターフェイスを手の届く範囲に置いているため、2m弱という長さはむしろ取り回しが良く丁度良いと感じています。
しかし、例えば、オーディオインターフェイスやヘッドホンアンプが作業スペースから離れた場所にある場合や立ち上がって作業する場合にはケーブルが短いと感じるかも知れません。


気になる点③:人によっては音源の粗が見えにくいかも知れない

この点はOLLO Audio「X1」に限らないことですが、「X1」のサウンドはバランスが良い故に、逆に音源の粗が見えにくいと感じる人もいるかも知れません。

もちろんミックスが破綻しているような楽曲であれば「X1」で問題なく確認することはできますが、「X1」が特定の周波数を強調することなくバランス良くフラットに鳴らしてくれるために、個性の強いヘッドホンに慣れている場合には、複数のヘッドホンやスピーカーを使い分けて多角的に音源をチェックしたほうが良いかも知れません。

ミックスの問題点を洗い出すためには、前記のAustrian Audio「Hi-X65」や、YAMAHAの「HPH-MT8」のように、個性のあるヘッドホンの方が問題点が分かりやすいと感じる人もいると考えられます。



気になる点④:定番のモニターヘッドホンにはならないかも?

OLLO Audio「X1」の将来性を考えた場合、定番的なモニターヘッドホンにはならないようにも感じています。

OLLO Audioの公式紹介動画を見ると、同社はフルタイム従業員が5名、外部委託が2名という、非常に小規模なメーカーであるようです。
製品の生産は外部に委託していると思われますが、ソニーやゼンハイザーのような巨大企業と比較すると生産能力には限界があると思われ、実際に「X1」は2025年現在でも注文してから手元に届くまで1〜2ヶ月を要する状況が続いています。

前述したヨーロッパの通販サイト(Thomann)を見ても、2025年6月時点では「X1」のレビューは5件しかなく、Neumann「NDH 30」の69件と比べるとレビュー数がかなり少ないです。
このことからOLLO Audioの拠点があるスロベニア周辺(ヨーロッパ)の市場においても、「X1」が爆発的に普及しているわけではないことが伺えます。

現時点での「X1」は音質にこだわる一部のエンジニアやオーディオマニアが使用する機材という印象が強く、かつてのソニー「MDR-CD900ST」やオーテクの「ATH-M50」のように業界の定番製品になる可能性は低いような気がします。

近年はモニターヘッドホンの選択肢が非常に増え、ユーザーそれぞれが好みの製品を使う傾向が強まっています。
しかし、多くの人が使用している定番のヘッドホンを所有していることで、オンラインでの共同作業などの際に、音のニュアンスに関する情報共有がスムーズになるというメリットも存在します。
そのため、「X1」を自分だけが使用している状況だと、伝えたい細かいニュアンスが共同作業を行っている他の人に伝わりにくい、といったケースもあり得るかも知れません。


気になる点⑤:生産継続の不確実性

OLLO Audio「X1」の生産がいつまで続くのかも予測しにくい部分があります。

OLLO Audioの公式YouTube動画では「会社が小さいので、品質を維持するために、1種類~2種類のモデルしか提供していない」と述べています。
実際にOLLO Audioは以前は「S5X」「S4X」「S4R」といったシリーズを展開していましたが、「X1」が発売されて以降、これらの旧ラインナップは本国サイトでは販売されていない様子です。
(日本国内ではまだ流通在庫を販売している店舗が存在するようです)

このことから将来的に「X1」の後継機種が発売された場合、現在の「X1」の生産が終了する可能性は十分に考えられます。

確かに、交換用の部品は10年程度は販売するとされていますし「新しい機種が発売されるなら、その新しい機種を使えば問題ない」と考える方にとっては、この点は特に気にならないかもしれません。
しかし、一度気に入った製品を繰り返し購入して使い続けたいと考えるユーザーにとっては、将来的に全く同じヘッドホンが入手できなくなる可能性は不安を感じる要素になるかも知れません。


気になる点⑥:外箱のデザイン(シンプルさ)


OLLO Audio「X1」の外箱は、その価格帯を考えると、人によっては気になる点かもしれません。
最近のZOOMなどの製品と同様に、茶色の段ボールにヘッドホンの絵と文字がシンプルに印刷されているだけの地味な見た目をしています。

私個人は全く気になりませんが中には「高価なヘッドホンを購入したのに外箱が安っぽい」と感じる方もいるかも知れません。

プロフェッショナル向けの業務用機材では、本体の品質や性能にコストを集中し梱包を簡素化するケースも多いため、「X1」に関しても音質や堅牢性にこだわりが詰まっている分、梱包は実用性を重視している可能性があります。
また「X1」には頑丈で立派な持ち運び用のケースが標準で付属しているため、外箱の地味さはあまり目くじらを立てるほどのことではないと思いますし、製品自体の価値を考慮すれば外箱がシンプルであることは些細な点であると思います。

気になる点⑦:木製のイヤーカップは防水加工ではない


OLLO Audio「X1」のハウジングは木製で美しいデザインになっていますが、防水加工は施されていないようで、うっかり濡れた手で触ってしまったり水分が付着したりすると、筐体が水を吸収し、その箇所の色が一時的に濃くなってしまいます。

しばらく時間が経ち、乾燥すれば元の色に戻りますが、このような色の変化を気にする人もいるかも知れません。
水分が内部に浸透することで、木材の劣化や変形などを心配する人もいそううです。
濡れたタオルやアルコール類で直接木の部分を拭くのは避けたほうが良さそうですし、手入れをする際には乾いた柔らかい布を使用し水分には注意を払ったほうが良いと思います。


気になる点⑧:エミュレーション「酔い」?

前記のとおりOLLO Audio「X1」に付属する「USCⅡ」というプラグインを使用することで、ヘッドホン個体の特性を考慮してフラットで正確なモニタリング環境を構築する(キャリブレーション)だけでなく、様々なリスニング環境や音響システム(スタジオのコントロールルーム、クラブ、カーオーディオ、ハーマンカーブなど)のサウンド特性を仮想的に再現すること(エミュレーション)ができます。

サウンドをフラットにするキャリブレーションは非常に便利なのですが、仮想空間を構築するエミュレーションのほうは個人的には「車酔い」のような気持ち悪さを感じることがありました。
エミュレーションの適用量はデフォルトで50%であり、好みに合わせて0%~100%の範囲で変更できるのですが、特に60%以上に調整すると気持ち悪さを感じてしまうことが多いです。

プラグインでエミュレーションを適用するとサウンドが(通常のヘッドホンのように左右の耳の中心にある脳内で焦点を結ぶのではなく)、スピーカーのように目の前で焦点を結んでいるような印象になるので、左右の音を少し遅らせて逆にチャンネルに送り込んでいるのだと思われますが、実在の空間でのサウンドと、プラグインで仮想的に作り出した空間のサウンドの微妙の差異に耳が違和感を覚えてしまうのかも知れません。

この点は個人差もあると思いますので「全く気にならない」という人もいると思います。

「USCⅡ」と同様に仮想空間をエミュレートするプラグインとしてはWavesのNXシリーズなども使うことがあるのですが、個人的にはWavesのプラグインでは「酔う」ことはありませんでした。

ただ音質に関してはWavesのNXシリーズは劣化したような印象が感じられるのに対し、「USCⅡ」は音質が劣化している印象が少ないので、音質が良いが故に微妙な差異を感じやすく「酔い」やすいという可能性も考えらるかも知れません。


気になる点⑨:キャリブレーション用のデータのポイントが少ないかも?

OLLO Audio「X1」は本国の公式ウェブサイトにアクセスすることでヘッドホンの個体差を測定したキャリブレーション用のデータをダウンロードすることができるのですがデータの中身を見ると211Hz~1500Hzの間の測定データがありません。
そのため300Hz~1400Hzのあたりはキャリブレーション機能によってあまり補正がされていないように思われます。
300Hz~1400Hzの帯域は「こもり」感を補正するのに必要であったり、ボーカルにとって重要な成分を含む領域でもあるため、この部分の測定データが含まれていないのは気になります。

ちなみに他社のキャリブレーション用ソフトであるSonarworksの「SoundID Reference for Speakers & Headphones」のデータを見ると300Hz~1400Hzの帯域も補正しています。

「SoundID Reference」には現時点では「X1」のデータは無かったため参考までにOLLO Audioの旧モデルの「S4X」のデータを見てみると300Hz~1400Hzの帯域も補正の対象になっていることが分かると思います。


気になる点⑩:スタンドアロン版のキャリブレーションの出力設定がリセットされてしまう

OLLO Audio「X1」に付属するキャリブレーション(エミュレーション)用のプラグインはスタンドアロンで立ち上げることも可能であり、DAWを起動していない状態でも、OS全体の音声出力にキャリブレーション等を適用することができます。

この際にスタンドアロン版のプラグインで以下の方法で出力設定をする必要があります。

プラグイン画面の左下にある三本線のマーク(☰)をクリックし、「App Settings」から「Audio-MIDI settings」を選択する。

「Audio device type」でご使用のオーディオドライバ(ASIOなど)を選択し「Device」からオーディオインターフェース名を選択する。

これでオーディオインターフェースからUSC IIを通した音が出力されるのですが、私の環境では毎回のように出力設定がリセットされてしまうためPCを立ち上げる度に上記の設定をやり直す必要があります。

環境によっては設定がリセットされない場合もあると思いますが、他社のキャリブレーション用ソフトであるSonarworksの「SoundID Reference for Speakers & Headphones」ではどのような環境でも一度出力先を設定すればPCを再起動した後も設定を維持してくれます。
その点で「X1」付属のプラグインの出力先を毎回設定をし直すのは面倒であると感じます。



◆まとめ:「良い音楽を作りたい人」「良い音で音楽を聴きたい人」におすすめできるモニターヘッドホン


デメリットや気になる点も多数挙げましたが、結論としては「X1」は「良い音楽を作りたい人」「良い音で音楽を聴きたい人」におすすめできるモニターヘッドホンだと思います。

実際に私は今のところは「X1」をメインのヘッドホンとして使っています。

装着感、重さ、価格といったいくつかのデメリットがあるものの、それを補って余りある優れたサウンドクオリティを持つモニターヘッドホンであるため、音質を最優先で考えている人には自信を持っておすすめできます。

「X1」の最大の魅力は、正確でバランスの取れた音質にあります。
キャリブレーションなしでもフラットに近い特性を持ち、解像度、分離感、定位感に優れているため、音源の細部までを正確に把握できます。
特定の帯域を強調せず、それでいてすべての帯域がクリアに聴こえるという不思議な特性は、長時間の作業でも耳が疲れにくい、暖かみのあるサウンドと相まって、(装着感の問題をクリアできる人であれば)制作作業に集中できる環境を提供してくれます。

付属のキャリブレーションソフトウェアや一部のオーディオインターフェースのDSPに対応している点も大きな利点です。
これにより、個体差の補正やハーマンカーブへの調整が可能となり、さらに最適なリスニング環境を構築できます。

頑丈な造りや修理部品の提供といった点も、長く愛用したいユーザーにとっては安心材料となるでしょう。
見た目の重厚感も安価なプラスチック製ヘッドホンとは一線を画す魅力です。

確かに、国内価格の高さや装着感、重量は購入を躊躇させる要因になるかもしれません。
特に装着感については、試聴せずに購入すると後悔する可能性もゼロではありません。
しかし、ヘッドバンドの調整によって装着感を改善できる余地があり、そのサウンドの質の高さを考えれば、これらのデメリットを乗り越える価値は十分にあります。

「X1」は実際にプロでも愛用している人がいることからしても、ミックスやマスタリングといった作業に耐えてくれるモニターヘッドホンを探している方にとって、非常に有力な選択肢となると思います。

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