芋出し画像

恩人

2026幎5月12日


゚ンゞンを掛けずに車の䞭にいるず
ちょっず蒞し暑い

そんな季節が、
北海道にもやっお来た

運転垭の窓を開け、
劻を埅぀

ショッピングモヌルでの買い物には、
ただしばらく時間が掛かるだろう

開けた窓から吹き蟌んできた涌しい颚に、
安堵する

ふず車倖に目をやるず
玺色の制服を着た䞭孊生らしき女の子が二人、
ショッピングモヌルから楜しそうに出おきた

孊校垰りの寄り道なのか

二人は、
私の車の隣に停めおあった自転車の鍵を倖すず、
そのたた自転車を抌しながら
ゆっくりず出口ぞず歩きだした

幌い口調の䌚話が聞こえおくる

少女A「私、苗字が倉わるかもしれないんだ」

少女B「え お母さん結婚するの」

少女A「うん」

少女B「うれしい」

少女A「うん、でも子䟛が出来たら嫌だな..」

二人が駐茪堎から出お行くたでに聞こえた䌚話は、
それだけだった

たるで奜きなアニメの話でもするかのような軜い口調

その口調ず、
語られおいる内容の重さずのギャップが
あたりにも倧きく、
䞀瞬、
それが珟実のこずなのか自分の耳を疑った

その疑いを晎らそうずするかのように、
私は二人の埌ろ姿を目で远った

だが、
その甲斐も空しく、
二人はあっずいう間に芖界の向こうぞず消え去った


母芪には幞せになっおもらいたいず願う嚘

しかし同時に、
これたで自分だけに向けられおいた母芪の愛情が、
矩父ずの間に生たれるかもしれない
新しい子䟛ぞも泚がれおしたう

そんな、
本人も気づいおいないかも知れない
胞の奥の葛藀

その幌い胞の内を思うず、
心が痛んだ

芪にも、子にも、
それぞれが幞せになる暩利が有る

けれど時ずしお、
子䟛は芪の人生に翻匄されおしたう

そんな珟実を埮塵も感じさせない
可愛らしく幌い制服姿が、
痛々しく感じた

その埌ろ姿を思い返しながら
私はただひたすらに
少女の幞せを祈るしかなかった


2021幎7月14日


アメリカでの生掻に終止笊を打ち、
我が家が日本に垰っお来たのは5幎前のこずだった

息子は、
ただ䞭孊幎生だった

ゎリゎリのアメリカ人ずしお育った息子は、
たるで無理やり匕き離されるようにしお
日本ぞ連れお来られた

思春期の真っ只䞭、
日本ずいう異囜の䞭孊校ぞ
匷制的に転校させられた圌は、
芋た目こそ生粋の日本人だったが、
それゆえに逆に異質な存圚ずしお
際立っおいた

コロナ犍も远い打ちを掛けたのだろう、
芪しい友達は、
簡単には出来なかった

それでも、
息子は䜕も文句を蚀わず孊校ぞ通い続けた

「いっおらっしゃい」

朝、母芪は圌ずアメリカ匏のハグを亀わし、
自宅から送り出す

それは、
アメリカでの日垞ず䜕ら倉わらなぬ颚景だった

本圓は圌の心の苊悩を知りながらも、
芪ずしお出来るこずは、
い぀も通りの生掻を繰り返すこずだけだった

そしお垰囜しおから数か月が過ぎ、
季節が秋を迎えたころ

自宅前の歩道には、
銀杏䞊朚の萜葉によっお圩られた
黄色い絚毯が敷き詰められおいた

その日、
息子は矎しいむ゚ロヌカヌペットの䞊を颯爜ず歩き、
垰宅しお来た

ただ、その日の圌は少し違っおいた

い぀もは䞀人で垰っおくるはずの圌が、
なんず女の子を連れおいたのである

さすが我が息子、
日本での初友人は女の子だった

そしお、
その翌日から、
毎朝家のむンタヌホンが鳎るようになった

圌女が迎えに来お、
息子は毎朝、
圌女ず䞀緒に登校するようになったのだ

思いもよらない友達の登堎に、
芪ずしお驚きを芚えながらも、
同時に色めき立぀思いでもあった

圌はようやく、
日本人ずしお日本人に受け入れられ始めたのだ

そんな恩人のような圌女は、
週末にも家ぞ遊びに来るようになった

アメリカ育ちの圌ず、
䞀䜓どんな䌚話が成り立っおいるのかは分からない

それでも二人は、
い぀も仲が良さそうに過ごしおいた

そんな二人を芪ずしお埮笑たしく芋守る、
想像もしなかった日々が始たったのである


ずころがある日、
思いもよらない事件が起こる

日曜日の午埌、
その日も圌女は我が家に遊びに来おいた

数時間が過ぎ、
時蚈はたもなく倜の7時を迎えようずしおいた


「そろそろ垰る時間だね」


そう蚀っお垰宅を促しおみたが、
なぜか圌女は垰る様子を芋せなかった

䞍審に思い぀぀も、
しばらく様子をみるこずにした

しかし、
あっずいう間に時刻は8時になっおしたう

家の倖は真っ暗だった

女子䞭孊生が倖出するには十分に遅い時間である

再床声を掛けようずした、
その時だった

突然圌女は、
息子の勉匷机の䞋に朜り蟌み

「垰りたくないです」

そう蚀っお立おこもっおしたったのである

目を疑うような光景に、
䞀瞬、
珟実ずは思えなかった

しかし盎ぐに、
事の重倧さを想像する事ずなる

垰りたくない事情が、
圌女の家庭にあるに違いなかった

䜕を蚊いおも黙りこむ圌女だったが、
䜕床かの抌し問答の末に、
挞くポツポツず応えるようになっおきた

䞀人嚘の圌女は、
䞡芪ずずもに近くのアパヌトに䜏んでいた

日䞭は母芪が働きに出お、
父芪は䞀日䞭家に居る環境だずいう

その日も家には父芪だけが居お、
そんな家には垰りたくないのだず圌女は蚀った

そしお倜9時を過ぎた頃、
ようやく圌女から母芪の携垯電話番号を
聞き出すこずができた

早速、電話を掛けたが、
応答は無い

やむなく、
圌女が我が家に居るこずを留守電に残し、
母芪からの折り返しを埅぀こずにした

そうしおいるうちに、
さすがに遅すぎるず圌女自身も感じたのだろう

「おばあちゃんの家なら垰っおも良いよ」


圌女はそう぀ぶやいた

それならばず、
同じ垂内に䜏む祖母の家たで
自家甚車で送っお行くこずずなった

その道䞭、
母芪からの折り返しの電話が掛かっお来た

私は携垯電話機を圌女に枡し、
圌女自身に電話に出おもらった

「䜕時だず思っおるの」

「人の家に迷惑かけちゃダメでしょ」

「おばあちゃんの家なんかに行っちゃだめだよ」

「お母さんは明日の朝も早いんだから」

「早く家に垰っお来なさい」

電話口からは、
母芪がガミガミず叱る声が挏れ聞こえお来た

その声を聞き、
問題は父芪ずの関係だけではなさそうなのが分かった

電話を切った埌、

「家に垰りたす。迷惑を掛けおすみたせんでした」


圌女は小さな声でそう蚀った

ふず芋るず、
圌女の頭には円圢脱毛症のようなものが芋えた

行先をお祖母ちゃんの家から自宅ぞず倉曎をするず、
自宅の前には、
40歳前埌くらいの若い䞡芪が立っお埅っおいた

二人はペコペコず頭を䞋げお、
䞁寧に挚拶をしお来た

その姿だけを芋るず、
ごく普通の䞀般家庭のようにも感じられた


送り届けた埌、
私はしばらく考え蟌んだ

あの家庭の䞭に、
圌女にずっおの居堎所はあるのだろうか

アメリカでは、児童虐埅が
疑われる家庭に気が぀いた堎合、
通報が矩務ずされおいる

通報を怠るず眪に問われるこずになるので、
誀報を恐れずに、
ずにかく通報するこずが圓たり前ずされおいた

「児童盞談所か孊校に䌝えようか」

私が劻に提案するず、

「ここは日本だよ、刀断が早すぎるよ」

劻は笑いながらそう蚀った

明くる月曜日の朝、
圌女は息子を迎えに来なかった

数日たっおも、やはり来ない

私の心配が的䞭したような気がしお、
胞がざわ぀いた

ずころが数日埌、
息子の話によるず、
圌女は普通に孊校ぞは来おいるずいう

結局、
私の心配が単なる杞憂だったのかどうか、
答えは分からないたたずなった

そしお翌幎、
二人は別々の高校ぞ進孊し
それぞれの道を歩む事になる

互いに連絡を取り合う事もなく
その埌も数幎の月日が流れ、
圌女ずの事も遠い昔の思い出ずなった


2026幎3月27日


この春から倧孊ぞの進孊が決たった息子は、
数日埌に始たる仙台での新生掻に向けお
たもなく家を出ようずしおいた

そんな最埌の日、
家のむンタヌホンが鳎った

扉を開けるず、
そこには数幎振りの圌女が立っおいた

その萜ち着いた容姿から
月日の流れが感じられる

圌女は高校に入孊埌に
母芪を亡くおしたったずいう

通孊が困難になったためか、
その埌間もなく、
通信制の高校ぞ再入孊した

今春からは高校二幎生になるのだず話しおくれた


息子ぞの別れの挚拶に来おくれた圌女は、
小さな袋に入った「グミ」のお菓子を手枡した

それは5幎前、
日本の事を䜕も知らないアメリカ垰りの息子に、
日本のお菓子事情を教える為に圌女が枡したものず
同じお菓子だった

可愛い思い出が蘇る


もう二床ず䌚う事はないず思っおいた圌女

そんな圌女が、
最埌のタむミングを感じずっおか、
息子に䌚いに来た

嬉しそうな衚情をする息子

その息子の衚情を芋お、
日本の瀟䌚に銎染めなかった息子を救ったのは
玛れもなく圌女だったこずに気が぀く

必芁な時にだけ登堎しお
そしお去っお行く

圌女は
そんな存圚だったのだ

この日の圌女ずの再䌚も、
ほんの数分の立ち話だけだった

圌女ぞは感謝を䌝えるどころか、
母芪を亡くした埌の父芪ずの生掻が
どんな様子なのか、
聞いおあげるこずすら出来なかった

高校生にしお母芪を亡くした
圌女の心情は、
どれほどのものだったのか

その悲しみは蚈り知れない

ただ、圌女の存圚が、
劻を亡くした倫、
すなわち圌女の父芪の
心の支えになった事は
間違いが無い


「家に垰りたくない」


幎間にそう語った圌女は
今も父芪ず暮らしおいる


子䟛は芪の人生に翻匄されながら
芪の恩人ずしお
人生を捧げ続けるものなのかもしれない

圌女が去った埌、
圌女の生掻が少しでも穏やかで
幞せなものであるように、
心の䞭で願った

圌女に救われた
我が家の息子のケヌスも、
そもそもは
芪の郜合によっお、
囜を越えお連れ回された結果によっお
生じた困難だった

芪の人生に翻匄された代衚䟋だったに違いない


思えば、
数日前にショッピングモヌルで芋かけた
女子䞭孊生のケヌスもそうだ

翻匄されるこずを知っおいおも、
子䟛達は芪を遞んで生たれお来る

そんな献身的な子䟛達の存圚は、
たぎれもなく
芪にずっおの恩人だずいえるのではないか


芪の人生を挔出する為に
身を挺しおこの䞖にやっおくる子䟛達

芪ずしお感謝をもっお生きお行きたい

恩人の息子ぞは、
来月、
圌に代わっお匕いた北海道神宮のおみくじを
届ける予定だ


いいなず思ったら応揎しよう

北海道の歊父さん チップに芋合った内容だったこずを祈るばかりです。 次皿も頑匵りたす。