あなたはオランダの医療を信じますか。術後バクテリア感染あるある問題と陥入爪と洗剤。
我が家がオランダ北部のフローニンゲンに移住してから、あっという間に2年と3ヶ月が経過した。
結論から言うと、オランダでの生活は本当に素晴らしい。 治安は良く、人々は穏やかで平和。毎日ストレスフリーで愛娘やめ子の育児と向き合えている。移住して本当に良かったと、日々噛み締めている。
ただし。
人生、すべてが100点満点とはいかないのが世の常である。
この快適すぎるオランダ生活において、やめ太郎が本気で不平不満を抱いているポイントが2つある。
ひとつは「寒さ」。特にやめ太郎たちが住むオランダ北部の冬は、容赦なく人間の体力を奪いにくる。これについてはこれまでもnoteや記事で何度も愚痴をこぼしてきたので、読者の皆様もお腹いっぱいだろう。
問題は、もうひとつの「医療事情」である。 これまであまり触れてこなかったのだが、オランダに2年以上住んでみて、どうしても納得がいかないというか、恐怖を感じている現実があるのだ。
それは……「やたらと手術後のバクテリア感染率が高くないか?」という疑惑である。
移住してからというもの、やめ太郎の直接の知人や、あるいは巡り巡って耳に入ってくる間接的な知り合いの中で、足や腕の骨折などで手術を受けた人たちがいるのだが……
なんと、知る限り「全員漏れなく」術後にバクテリア感染を起こしているのだ。
冗談抜きで100%の確率である。
「無事に手術終わったよ〜」と胸を撫で下ろしたのも束の間、数日後にバクテリアに感染し、激痛と発熱に見舞われ、結局2度目、3度目の手術(患部の洗浄や処置)を強制的に強いられる。そんな地獄のようなループに突入した話を、一人や二人ではなく何人も聞かされているのだ。
日本であれば、術後は当然のように適切な抗菌薬(抗生物質)などが処方され、衛生管理も含めて徹底的に感染を防ぐのが当たり前だ。
だが、オランダの医療はとにかく「自然治癒力推し」。 「薬は極力出さない」「体内の免疫で戦え」というストイックなスタイル。「いや、術後のバクテリア感染くらいは薬で防いでくれよ!」と突っ込まざるを得ない。防げるはずの感染で、なぜ2回も3回も体にメスを入れられなきゃいけないのだ。
快適で平和なオランダ社会の裏に潜む、このデンジャラスな医療システム。 骨折ひとつで命がけのバトルに巻き込まれる恐怖に、やめ太郎は密かに怯えているのだった。
オランダの医療システムには疑問も多いが、幸いなことに、我が家が普段お世話になっているホームドクターは実に素晴らしい人物だ。
電話を一本入れればその日のうちにサクッと診察の枠を作ってくれるし、対応はどこまでも優しい。おまけに見た目までダンディ(ファン・ペルシーみたい)という、完璧超人である。やめ太郎も彼にはかなりの信頼を寄せていた。
「オランダの医療も、うちのダンディ先生がいるから安心だな」
そう高をくくっていたのだが……人生、そう甘くはない。
本日、どうしても病院へ駆け込まざるを得ない緊急事態が発生した。 しかし、診療所にいたのは、いつものダンディ先生ではなく、週に2回ほど臨時で入っているという見知らぬ女性ドクターだったのだ。
一抹の不安が脳裏をよぎる。だが、背に腹は代えられない。 なにせ、やめ太郎の足の親指は、すでに地獄絵図と化していたからだ。
以下、気持ち悪い患部の画像もありますので、苦手な方はこれ以上記事を読まないで下さい。
事の発端は、ごくごくありふれた「深爪」だった。 何をどう間違えたのか、爪の切り方をトコトンしくじり、いわゆる「陥入爪(かんにゅうそう)」という状態に陥ってしまったのだ。
深爪をきっかけに鋭利になった親指の爪が、歩くたびに横の生肉を「グサッ、グサッ」と容赦なく刺し続ける。 その結果、親指の横は見事に腫れ上がり、出血と膿のダブルパンチ。



発症した当初などは、ちょっと歩くだけで「ぎゃあぁぁっ!」と声が出るほど痛く、朝起きれば靴下やシーツに膿がついているという地獄の日々。
それでも「まあ、そのうち治るだろ」と高をくくり、日本の万能薬・オロナインを塗りたくったり、消毒液をしこたまぶっかけたりして誤魔化していた。
だが、甘かった。
1週間が過ぎ、10日が経過しても、一向に改善する気配がない。 むしろ親指は日々存在感を増し、赤く腫れ上がったまま主張してくる。
「ダメだ、これ以上は無理だ……」
こうしてやめ太郎は、重い足(文字通り痛む足)を引きずりながら、お世話になっている診療所のドアを叩いたのだった。
「洗濯洗剤で足を洗え」〜オランダ医療の洗礼〜
診察室に入ると、挨拶もそこそこにドクターから「じゃあ、足の状態を見せてちょうだい」と促された。
やめ太郎は言われるがまま診察台のベッドに横たわり、靴下を脱ぎ、絆創膏をそっと剥がして、地獄絵図と化した親指をドクターにお披露目した。
ドクターはチラリと親指を一瞥すると、実に軽やかな調子で言い放った。
「ああ、まあよくある深爪が悪化したやつね。これに関しては簡単な手術(爪を切除する処置)もできるけど、今はそれほど悪くもないから。とりあえず清潔にして様子を見るのが大切ね」
「まあ、そうですよね」と頷きつつ、やめ太郎は心の中で(よし、これで強い抗生物質か炎症を抑える軟膏を出してもらえるぞ……!)と確信していた。日本なら間違いなく「はい、抗生物質と塗り薬出しておきますね〜」の流れだからだ。
しかし、次に彼女の口から飛び出したのは、やめ太郎の予想を遥か斜め上、いや、大気圏外まで突き抜ける驚愕の言葉だった。
「今すぐスーパーに行って、『ビオテックス(Biotex)』を買ってきて頂戴」
ビオテックス……? なんだそれは。
軟膏の商品名か? 消毒液のブランドか? 必死に頭を回転させるやめ太郎のフリーズぶりに気づいたのか、
ドクターは「知らないなら、今からパソコンの画面で見せてあげるわ」とカタカタと検索を始めた。
そして、彼女が見せてくれたPCモニターに映し出されていたのは——

どう見ても、ただの「洗濯用洗剤」だった。
え? ちょっと待ってくれ。
「え……これ、洗濯用洗剤ちゃうん……?」
思わず関西弁でツッコミを入れるやめ太郎。するとドクターは、満面の笑みで頷いた。
「そうよ!」
「そうよ!」じゃないのよ。
「え、洗濯用洗剤で足を洗えってこと……?」 「そうよ!」 「マジで!? そんなことやって大丈夫なんですか!?」 「そうそう、大丈夫大丈夫! 綺麗にして清潔に保つのが一番大事だから! もし1週間か2週間やってみてダメだったら手術すればいいし。まあこの程度なら抗炎症剤も抗生物質も出す必要ないから。じゃ、それまで上手くやってね〜!」
……唖然である。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。 炎症を起こして膿が出ている生傷に、衣類を洗うための酵素洗剤をぶっかけろというのだ。正気の沙汰とは思えない。
「いやいやいや! お金はちゃんと払うから! 頼むから抗生物質を出してください!!」
食い下がるやめ太郎。しかし、ドクターは「出さない」の一点張り。 オランダのドクターは一度「ノー」と言ったら地球がひっくり返ってもノーなのだ。
「ダメだ……この人とはもう会話が成立しない……」
諦めたやめ太郎は、重い足を引きずりながらトボトボと帰路についた。そして途中のスーパーに寄り、指定された「洗濯用洗剤ビオテックス」を買い求め、我が家へと戻ったのだった。
「もう、どうにでもなれ……」
ヤケクソになったやめ太郎は、愛娘のやめ子が見守る中、洗面器にぬるま湯を張り、そこに青い箱の洗濯洗剤をドバッと投入した。

泡立つぬるま湯。
漂う、完全に「お洗濯物」の香り。
意を決して、膿の出ている親指をその中に静かに沈めた。 ……そのままじっと待つこと10分。
これで綺麗になっているのかどうなのか、さっぱり分からない。 ただ分かっているのは、やめ太郎の足から「海外の柔軟剤のような良い匂い」が漂っているということだけだった。
これってどうなんだろう。
消毒薬の代わりに洗剤ということなのかもしれないけど。
本当に医学的に大丈夫なんだろうか。
やめ太郎は実験台にされているのではなかろうか??
オランダの医療。
やっぱりこれだけはやめ太郎はこれからも信じることはないだろう。
数ヶ月後、やめ太郎の右足親指がなくなってたら。。。
そういうことなんだろな、と察してほしい。
君はオランダ医療をシンジルかシンジナイか。
あー、お仕事したい。
