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【読書記録】おいしいごはんが食べられますように

「わかる」の洪水。

高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように」を読みました。

なんの前情報もなく図書館で手に取り、数ページ読んだところで、これはとても面白い気配がする。と思い借りました。予感、よりも、気配、と言った方がしっくりくる何か。

芥川賞受賞作だそうです。高瀬隼子さんの本、もっと読みたい。と思い、本作を読み終わってからこのnoteに手をつける前に、すでに「いい子のあくび」を読み終わり、そして今は「新しい恋愛」に手を出そうとしています。

外側を書くことで内側を表現すること

この作品を読んでいる最中、めちゃくちゃ同じ感性を共有している気がするし、わかるわかるわかると頷きたくなるのに、でもその感情が本当に登場人物のものと同じなのか不安になる時がありました。不思議だなぁと思って考えてみると、感情というものの表現のされ方にあるのではないか?というところに落ち着きました。
私はこれまで、感情を考えたり表現するということは、感情自体を分解したり、背景を整理したり、自分の感情がどこにいくのか、そしてここにある感情がどういう類のどんな色形をしているのか、ということに焦点を当てるものだと思っていました。でもこの作品は、対象や感情の分解ではなく、その感情によって変化する五感が受け取る情報や、感情を元に行われる行為に焦点が当たっている。例えば同じ景色を見てもその時の感情や気分で違うものが目に入るということは日々起きているはずで、そっち側が掬い取られている感覚。登場人物たちがとる行動や受け取っている感覚情報は、淡々としているのに感情がそこにあることがわかって、でも答え合わせはできない。だから読みながら、これは私と同じ気分た同じ感性だ、と思う気がするのにやっぱり分からないような気もする、ということが起きたのではないかなと。

登場人物の、全員を私だ、と思って、そして全員を私とは全然違う、とも思う感じ。

分かる、シリーズ

そんなふうに確信を持てないながら、もう、「わかる!」「わかりすぎる!!!」ということもちらほらありました。多分それはその人に自分を重ねているというよりは、友達、それもたわいもないことから人生についてまで話せるような、仲のいい友達と話していて、その中で生じる「わかる!」と同じ類のものだと思います。

語り手の二谷は食べることが多分あんまり好きではない、というよりは、食べるということにあまり興味がなくて、その感覚自体が共有されえないことであるということに対して嫌気がさしている人間。私も、そこまでではないにせよ、若干同じ気があるので、他人の食べることへの執着に対する反応や、食べ物を粗末にするな派の人間への不可解さは、めちゃくちゃわかる。でした。これに対して、めちゃくちゃわかるとか、書いていいのかなって思ってしまうことがまた、わかる、なのです。

もう1人の語り手である押尾さんは、ここに表現されている限りの人物像であれば、頑張りたくなくても頑張れてしまうから頑張ってしまう人で、職場にいたら、本当に辞めてほしくない人。もしかしたら初めは、ちょっと怖いと思ってしまうかもしれないけど。
押尾さんのセリフの中でも、途方に暮れてしまいそうになった文を載せておきます。背景がわからないと何も分からないと思いますが、あぁ、この感覚って、他の人の中にもあるんだ。って思って。

「大丈夫でした」
と言って急に立ち上がった。周りの人に「びっくりさせてしまってすみません、大丈夫でした」と声をかける。みんな、曖昧に頷く。表立って心配したと言う人はいなかった。押尾さんは手に持っていたビニール袋をくしゃくしゃにまるめ、
「大丈夫でした。吐きもしなかった」
と言った。

おいしいごはんが食べられますように

最後に

読みながら、どこへ辿り着くのか知りたい、という気持ちが結構大きかったです。どうやって着地するんだろう。着地するのかな。地面に叩きつけられてくしゃくしゃになるのだろうか。それとも、べったりと床にくっついてそのまま潜っていってしまうのだろうか。なんか上手く言えないけど、見届けたい、みたいな、そういうような感覚で、一気に読んでしまいました。途中でわかるわかるわかると思いながら。

私はこれまでのある時点で、自分を削ると他人を攻撃したくなる自分の性質を嫌というほど心得て、まあ心得ていたってうまく制御させてもらえるとは限らないけど、まず自分を削らないことを最優先にしたいと思っているところがあります。とにかく無理をしない。頑張らないことを、頑張る。みたいな。
自分の中の押尾さんが攻撃性を増さないために、芦川さんみたいな人 (?) の真似をしているところがあって、でも中身は芦川さん側に行けない。そういうのを、こんな風に物語として提示されて、びっくりしてしまいました。
いい子のあくびも、似たような感じだったので、そのうちそっちも感想書きます。

おしまい。

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