空への入り口|シロクマ文芸部
水たまりを娘が指さした。
「パパ、こんなところに、お空があるよ」
しゃがみ込んで、真剣に覗いている。
雨上がりの、駐車場の隅。
泥の混じった水たまりだ。
「ほんとだ」
覗いてみると、確かに空があった。
青い空、白い雲。
さほど大きくない水面に、まるごと映っていた。
「ここからお空にいけるかな」
「どうかな」
私には、汚れたただの水たまり。
娘には、空への入り口。
娘は、しばらく水たまりを見つめていた。
そのあと買い物を済ませて、
家に帰ろうとする頃には 水たまりは、
もう乾き始めていた。
「あ、お空がちいさくなってる」
夕日が沈んでいく。
小さくなった水たまりの中の空も、オレンジだ。
「これじゃあ、お空にいけないね」
娘は、少し寂しそうだった。
「また雨が降ったら、戻ってくるよ」
私の言葉に娘はコクリと頷いた。
そうだ。明日も空はある。
雨上がりには、水たまりが空を映してくれる。
二人で手をつないで、家路を急いだ。
小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加します。
