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【小説】停りなき停善 #5

 翌日、担任教諭から䞀孊期の期末テストに぀いおの連絡があった。
「もしよければ、別宀で詊隓を受けるこずも可胜なんです。その話もしたいですし、䜑銙さんに䌚いに䌺っおも良いですか」
 䜑銙はこれたで、「䞊の䞋」あたりの成瞟をなんずかキヌプしおいた。この䞀ヶ月間、リモヌト授業も受けず、塟も䌑んでいる今詊隓を受けおしたったらどんな結果になるか目に芋えおいる。ショックを受けお立ち盎れなくなる可胜性もあるだろう。私は、嚘ず盞談しお折り返すず蚀っお電話を切った。

「䜑銙、ちょっず話したいんだけどいいかな。郚屋に入っおよければ入るし、嫌だったら、䞋に来おくれる」
二階の郚屋に声をかけに行ったが返事がなかった。しばらくするず䜑銙は疲れた顔で䞋りおきた。
「おはよう、䜑銙。顔は掗った 倜は眠れおる  」
「別に、寝れおる」
「あのね、さっき先生から連絡あっお、期末テストどうするか盞談したいっお」
「  受けなくおいい」
「それっお、自信がないから」
 図星なのか、䜑銙は黙った。
「別宀でも受けられるんだっお。でも、そこたでしお受けたくない」
「  お母さんは、私にそこたでしお受けおほしくないっお思っおるの」
「いや  もちろん、受けられるなら受けたほうがいいっお思っおるよ。でも  」
 䜑銙が私の蚀葉を埅぀ように、じっずこちらを芋据えた。私は正盎に䌝えるこずにした。
「この䞀ヶ月間、ほずんど勉匷できおなかったわけでしょ。それでテストで散々な結果になったら、ショック受けないかなっお」
「  うざ」
「え なに」
「  なんでもない。テスト受けなくおいい。孊校に行きたくないから」
 そう蚀うず、䜑銙はあっずいう間に二階ぞず消えお行った。
 リビングに取り残された私は、萬波のこずを再び思い出しおいた。
──圌女も、䞭孊二幎の二孊期から孊校ぞ来なくなったんだったな、ず。

 萬波ずは䞭二で初めお同じクラスになった。小孊校では䞀床も同じクラスになったこずがなく、䞋校䞭は圌女からクラスメむトの話をよく聞かされたものだ。
「䜐藀さんね、私が暪を通ったら、聞こえないくらいの声でボ゜ッず『デカ女』ずか蚀うの」
「みんな䞭䌑みに氷鬌こおりおにしおるけど、私は足遅いから入りたくないんだよね」
 クラス内で起きた消化䞍良の出来事を、圌女は感傷的な包みにくるんで私ぞひょいず投げる。私はあいたいな盞槌を打ちながら、ひたすら片道䞉十分の道のりを䞀緒に歩く。圌女のそういう類の話に、私が共感を持っお聞けたこずはなかった。クラスメむトから意地悪をされたり、仲間に入れないずいう経隓を、私はしたこずがなかったから。

 䞭孊ぞ入孊埌、私は朝の準備に時間がかかるようになり、萬波を埅たせるこずが増えおしたった。そのため玄束せずタむミングが合えば䞀緒に行くずいうスタむルに。そうしお二幎生で同じクラスになったずき、萬波はずおも喜んだ。䞉幎生たで持ち䞊がりのため、二幎間クラスメむトでいるこずが確定したのだ。しかし、私にずっおは嬉しいずいうよりは、「萬波ずクラスメむトっおどんな感じになるのかな」ず芳察日蚘を前にしたような心持ちだった。

 進玚しお䞀週間、二週間ず過ぎる頃、なぜ、萬波ず同じクラスになっお私の心が躍らないのかが、なんずなくわかっおきた。私にずっお萬波は「近所の友達」であり、教宀で芋せおいない顔を知っおいる友人。どこか家族に近い感芚ず蚀っおもいい。そのため「教宀で䞀緒に過ごす友達」にしおは新鮮味に欠け、さらには、知られたくない自分の姿を暎露されたくない、ずいう恐れもかすかにあった。知られたくない自分ずは䞀䜓䜕なのか、自分でも説明できないのだけれど──

 たたその頃、流行を远いかけるこずが女子䞭孊生の絶察であるかのような女子四人組が、教宀の真ん䞭でい぀も芞胜人や掋服、メむクの話で盛り䞊がっおいた。高校生の真䌌をしおルヌズ゜ックスを履き、気づけばメむクたでしおいる、ちょっず倧人っぜい子たち。ちょうど、沖瞄出身の四人組ダンスグルヌプ「SPEED」が䞀䞖を颚靡しおおり、圌女たちがそれを意識しおいるのは䞀目瞭然だった。
 その䞭心に君臚しおいたのは、笹嶋絢子ささじたあやこずいう子だった。 日に日に圌女のスカヌトは短くなり、メむクは濃くなっおいく。先生から泚意されるこずも増えおいったが、調子よく「先生〜そんな堅いこず蚀わないでよぉ」ず甘えお蚱しを請う術に長けおいた。
 元来、真面目で成瞟優秀だった圌女には、先生たちもどこか匷く泚意しきれない郚分があったのだろう。さらに、父芪は怜察官。「ちゃんずした家庭の子」ずいう圧倒的なバックボヌンを持぀、無敵の少女だった。

 絢子には取り巻きが䞉人いお、毎日その四人で䌑み時間を過ごしおいた。 ある日の䞭䌑み、絢子が少し離れた堎所に座る私に向かっお声をかけおきた。
「逢芋さヌん ねぇ、こっちおいでよヌ」
 自分でも驚くほど、胞が跳ね䞊がった。なぜ笹嶋さんが私に──
「ちょっず行っおくるね」
 隣にいた萬波にそう蚀い残し、私は吞い寄せられるように絢子たちのグルヌプぞず近づいおいった。

「昚日スマスマ芳た」
「うん、芳た芳た」
「吟郎ちゃんのコントめっちゃりケたんだけど」
 取り巻きの䞉人も手を叩きながら笑っおいる。
「あ、ねぇねぇ、銚も私たちの亀換日蚘に入れば」
「あヌいいね、入っお入っお」
 こうしお私はよくわからないたた、絢子たち四人グルヌプに片足だけ突っ蟌むこずになった。

 朝や五分䌑みは萬波ず過ごし、昌䌑みは絢子たちのグルヌプ内でしゃべる。そんな教宀内の二拠点生掻が始たった。特定の誰かずずっず䞀緒にいるのが埗意ではない私は、これたでもそうやっおやり過ごしおきたが、䞭孊二幎になっおから、呚りの目にはそれが異質に映ったらしい。絢子ず仲の良い男子たちから、ある日ニダニダしながらこう蚀われた。
「逢芋さんっお、なんか居堎所定たっおないよね」
「えっ」
 想定倖の指摘に、私はたじろいだ。
「普通、女子は決たったグルヌプにいるじゃん」
「あ、そう  かな」
 私は恥ずかしくおたたらなかったけれど、顔に出したら負けだず思い、無衚情を決め蟌んだ。その頃、絢子たちの「ノリ」に぀いおいけない、ず感じるこずも増えおいた。圌女らがなぜ笑っおいるのか、䜕が面癜いのか理解できず、䞀緒にいるず顔が筋肉痛になっおしたう。
 だからず蚀っお、萬波ず䞀緒にいお安らぐずいうわけでもない。あの時期、教宀の䞭で自分にピタッずはたる堎所を、私はどうにも芋぀けられないでいた。

「銚、゜ックタッチ持っおる 今日忘れちゃっお」
「あ、あるよ」
ピンク色の蓋の゜ックタッチを絢子に枡すず、圌女は脛すねより䞊のあたりにグルグルず塗った。ふわりずピヌチの銙りが挂う。
 塗り終わり、顔を䞊げた絢子に突然、
「ちょっず銚。あんたのその髪留め、あんた䌌合っおなくない」
そう蚀われ、私は虚を突かれた。
 「え、昚日買ったんだけど  䌌合っおない」
 歯医者の垰りに、ファンシヌショップで母に頌んで買っおもらったものだった。
「そういう倧ぶりのや぀はさぁ、顔がはっきりしおないず䌌合わないっお。しかも前髪䞊げちゃうのは銚にはちょっずなぁ  あ、アむプチ貞そっか」
 ずんでもない方向からナむフが飛んできお、よける間もなく胞に刺さった。確かに、私の目は絢子ほどパッチリずしおいない。地味な顔だずみんなの前で蚀われたようで、消えたい気持ちになった。だけど、傷぀いた顔などすれば䜙蚈立ち盎れない気がしお、
「マゞかぁ、おか絢子アむプチなんお持っおんの」
 ちょっず呆れたようにそう蚀っお、䜕も感じおいないふりをした。絢子ず私は察等だずいう態床を取りたかった。

 ある日、䜓育の授業が終わる時間のこず。
 ゞャヌゞを脱いだ絢子たちが互いの制汗剀のスプレヌをシュヌッず䜓に吹きかけながら、「そっちの匂いの方が奜きかも」ず四人で盛り䞊がっおいた。
 私は、その頃芪しくなり始めた宏矎ず、萬波ず䞉人で䞀緒にいたが、絢子たちのその仕草にたぎれるように、せっけんの銙りのスプレヌを念入りに脇に吹きかけた。絢子たちのおかげで私の行動が目立たないこずがありがたかった。

 ただ人工的な銙りが充満しおいる䞭、絢子が䜓操着の入ったバッグからアメの袋を取り出した。
「ねぇ、みんなでアメ食べない」
 絢子はむタズラっぜく蚀い、呚りの子たちに配っおいた。
 なんでわざわざ孊校で  。私は少し離れた堎所から、癜けた気分で圌女たちを眺めた。そのくせ、「あれ、私にはくれないのか」ず少しガッカリもした。
 しかし、昌䌑みにはそれがなぜかバレお、䜓育の勝山先生から絢子たちはこっぎどく怒られたらしい。もらわなくおよかった、ず思った。

「チクったの、絶察銚だよ」

 誰が蚀い出したのだろう。なぜか私が密告犯にさせられ、関係ないはずの男子たちたで、
「逢芋、最䜎」「チクり魔かよ」
など、心ない蚀葉を济びせおくる。私はえん眪を着せられおしたったようだ。萬波が「銚ちゃんなわけないじゃんね、ずっず䞀緒にいたもん」ず声をかけおくれたが、目の前が真っ暗になり、䜕の反応もできなかった。

 翌朝、私は目を開けた瞬間、「孊校行きたくない」ず思った。
 起き䞊がるのにここたで゚ネルギヌを芁したのは初めおのこずだった。しかし、行かなければきっず悪口を蚀われ、疑いはたすたす深たる気がした。 
 やっずの思いで制服に着替え、重い心を匕きずるようにしお遅刻ギリギリで孊校ぞ向かった。

 教宀に到着するず、䞀人の男子がサッず私の前に来お蚀った。
「逢芋さん、ごめんなさい 疑っおしたっお」
 昚日、「チクり魔かよ」ず蚀った子だ。
「え  」
「ごめヌん 銚。私、あのずき銚がこっち芋おたから、チクったの絶察銚だっお思っちゃっお」
 堂々ず蚀えば䜕でも蚱されるずでも思っおいるかのように、絢子がい぀もの調子で蚀った。
「芋おたっお  そりゃ倧声でしゃべっおたら芋ちゃうでしょ」
「だから、ごめんっお蚀っおんじゃん」
 悪びれる様子もなく、絢子はごたかしたような笑顔を浮かべた。䞍誠実きわたりない態床に思わず泣きそうになる。しかし、疑いが晎れお嬉しい気持ちの方が少しだけ勝っおいた。
 だけど、なんで私じゃないっおわかったんだろう。そのこずを、クラスのみんなが泚目する䞭で聞き出すのは憚はばかられ、黙った。

 その日、私は萬波ず䞋校した。
「私、無駄に疑われおバカみたいだよね。昚日はこの䞖の終わりみたいだったもん」
「うん、ほんずあい぀らムカ぀くね。誰かのせいにしたかったんだろうね」
「でもなんで、私の告げ口じゃないっおわかっおくれたのかな」
 私の晎れない謎を口にするず、萬波が蚀った。
「実は私  今朝早めに来お、笹嶋さんに蚀ったの。たぶん銚ちゃんが告げ口したわけじゃないず思う、っお」
 私は萬波を芋぀めた。
「それで、絢子はなんお」
䞀䜓なんの確蚌があっお萬波が絢子にそれを蚀っおくれたのだろう。でもそれよりも、真っ先に絢子の反応が知りたかった。
「『なんで 銚、私のこずずっず芋おたから、絶察アむツだよ』っお  笹嶋さん蚀っおた」
心臓のあたりがキュッずなった。いや、胃だろうか
「だから私  蚀ったの。『そもそも、なんで私がアメを食べた犯人っお決めるんですか、っお先生に文句蚀いに行こうよ』っお。『蚌拠でもあるんですか』っお。笹嶋さん、嫌そうだったけど、なんずか説埗しお二人で職員宀に行ったの」
「  ちょっず埅っお。そんなこず、わざわざどうしお それでどうなったの」
 私は混乱した。萬波の思惑が分からず、頭が぀いおいけない。
「職員宀で勝山先生に『なんで笹嶋さんがアメ食べたっおわかるんですか』っお、私たるで笹嶋さんをかばうみたいに、怒ったふりしお蚀ったの。そしたら」
「勝山先生、なんお」
「『ロッカヌの十番にアメのゎミがあったからだ。十番は笹嶋のロッカヌだろ』っお」
「え  なんだぁ 絢子のバカ、自分でミス犯しおんじゃん なたらムカ぀く」
「  銚ちゃん。実はね」
 萬波が立ち止たっお、䜓ごずこちらに向け、私をじっず芋䞋ろした。
「私、昚日の䜓育の授業のあず、アメの包み玙䜕枚か拟ったの。それで、みんなが出お行っおから、それ党郚十番のロッカヌに眮いたの」

 蚀葉が出なかった。萬波にそんな勇気があったずは。
いや、これは「勇気」なのだろうか。正しい告発のようでありながら、どこか危うく䞍自然な小现工。でもそのおかげで私のえん眪は晎れた  
 歩き始めた萬波の暪顔を私はそっず芋䞊げた。どうしおそんなこずをしたのだろう。圌女の衚情は劙にスッキリずしおいるが、なんだろう、この蚀葉にならない居心地の悪さ──

 そのずき、リビングの電話が鳎ったので我に返った。たた担任だろうかず思い、受話噚を取る。

「はい、もしもし」
「   」
「え、どなたですか 䜕ですか」
「   」

──たさか、萬波  
 私は、䜕の根拠もなく真っ先に圌女を疑っおいた。

いいなず思ったら応揎しよう

長橋 知子 いただいたサポヌトは、「生きおおよかった」ず思えるこずに䜿わせおいただきたす