笑い声は、まだ続いている(23)白石、ほのか|ルミナリエの光の中で、凛が名前を伝える
長編小説『写真の中の笑い声』から続く、三部作・第三部の次世代編です。
第23話は、神戸ルミナリエの光の中で、伊藤凛が白石悠に「白石ほのか」という名前を伝える物語です。
父がnoteに書いていた小説。そこに出てきた、悠と同じ名字を持つ女性の名前。
偶然だと思っていた点が、神戸、広島、親世代の記憶とともに、二人の前でつながりはじめます。

「聞いてほしいことが、あるんやけど」
「はい」
灯りが、二人の、まわりで、ゆれていた。
凛は、いちばん、入りやすい、ところから、話そう、と、決めていた。
「うちの、お父さんって、銀行員、なんやけど」
「はい」
「最近、なんか、こっそり、小説、書いとるんよ。noteっていう、サイトに」
悠が、ちょっと、意外そうな、顔を、した。
「小説、ですか」
「うん。お母さんに、ちらっと、見えたみたいで。それで、うちも、検索して、見つけて」
凛は、ゆっくり、言葉を、選びながら、続けた。
「あらすじだけ、読んだんよ。プロローグも。……最後までは、まだ、読めてない」
「どんな、話、なんですか」
「五十歳の、男の人が、若い頃のことを、思い出して、書いとる話。たぶん、恋の話」
「……はい」
「広島が、舞台、なんよ」
悠は、黒目を、こちらに、向けたまま、聞いていた。
光が、その、顔の上で、ちらちらと、動く。
「その中に」
凛は、少し、息を、止めて、言った。
「『白石ほのか』、っていう、名前が、出てくるんよ」
その、瞬間だった。
悠の、表情が、止まった。
いつもの、「考えているような」止まり方じゃ、なかった。
もっと、深く、固まるような、止まり方だった。
目だけが、少し、見開かれている。
でも、何も、言わない。
凛は、その、変化を、すぐ、目の前で、見ていた。
いままで、ずっと、「気のせいかも」で、すませてきたものが。
いま、現実に、起きている。
でも、止まらなかった。
止まったら、もう、言えない、気がした。
「悠くんの、名字も、白石、やろ」
「……はい」
声が、いつもより、低かった。
「最初は、よくある、名字や、と思ったんよ。気のせいや、って」
凛は、続けた。
「でも――。お正月に、おじいちゃんが、言うとったんよ。うちのお父さん、若い頃、神戸の大学、行きたかったらしい、って。なんか、行けんで、結局、山口に、なったって」
悠は、まだ、何も、言わない。
「神戸。お父さんが、行きたくて、行けんかった、神戸。その、小説の、あらすじにも、『二人で、神戸の大学を、目指した』って、あったんよ」
白石、ほのか。
神戸。
その、二つが、悠の中で、どう、繋がっているのか。
凛には、見えなかった。
でも、悠の、止まった顔が。
何かが、繋がっている、ということだけは、はっきり、語っていた。
しばらく、二人とも、何も、言わなかった。
まわりの、灯りの、ゆれる音さえ、聞こえそうなくらい、静かだった。
遠くで、人混みの、ざわめきが、していた。
やがて、悠が、ゆっくり、口を、開いた。
「……俺も」
声が、少し、かすれていた。
「俺も、話したいこと、あります」
それだけ、だった。
何が、なのかは、まだ、言わない。
ただ、「ある」という、ことだけ。
凛は、うなずいた。
言うてしもうた。
ほっとした、気持ちと、こわい、気持ちが、同時に、胸の中に、あった。
もう、戻れない。
あの、画面の、ひかりを見た、夜から、ずっと、思っていたことが。
いま、本当に、そう、なった。
ルミナリエの、光が、まだ、二人の、まわりで、ゆれている。
金色の、光の粒が、悠の、まだ、固まったままの、横顔の上を、ゆっくり、流れていった。
凛は、その、横顔を、見ながら。
次に、何が、起きるのか、分からないまま。
ただ、その、光を、見ていた。
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読んでくださってありがとうございます。
あなたには、
偶然だと思っていたことが、あとから一本の線でつながった経験
がありますか。
名前、場所、誰かの一言。
そのときは意味が分からなかったものが、時間が経ってから、急に形を持ちはじめることがあります。
凛のように、言葉にした瞬間から何かが戻れなくなった記憶があれば、そっとコメントで聞かせてもらえたら嬉しいです。
♪ 今回のBGM:ニシエヒガシエ(Mr.Children)
▶ 前回
『笑い声は、まだ続いている(22)ルミナリエの、夜』
▶ 第一部・本編
『写真の中の笑い声』
広島で出会い、再会し、失った初恋の物語。
▶ 第二部・外伝
『写真の外の笑い声』
本編の出来事を、彼女――白石ほのかの側から描いた外伝。
▶ 第三部・次世代編
『笑い声は、まだ続いている』
神戸で出会った白石悠と伊藤凛が、親世代の記憶と自分たちの未来へ近づいていく物語。
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