アカデミー賞で無視された瞬間に響いた歌――中島みゆき『ファイト!』
第96回アカデミー賞授賞式で起きた、ある小さな出来事が私の胸に刺さった。
助演男優賞を受賞したロバート・ダウニーJrと、主演女優賞を受賞したエマ・ストーンが、プレゼンターのキー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨーにほとんど目を向けなかった――。ネット上で物議を醸したが、米国メディアは大きく取り上げなかった。
これは単なる偶然か。それとも、ハリウッドや米国社会に根強く残るアジア人への無意識の差別意識が映し出された瞬間だったのか。
私には後者に思えてならない。
この出来事を見たとき、なぜか中島みゆきの名曲『ファイト!』を思い出した。
人は時に、虐げられ、馬鹿にされ、無視される。それはされた側にとって、深い傷となり、一生心に残るかもしれない。
『ファイト!』は、中島が深夜ラジオで受け取った「中卒で働き始め、差別に苦しんでいる」という女性の手紙から生まれた歌だ。
不条理な境遇に打ちのめされている人々へ、ありったけのエールを込めたこの曲は、単なる励ましを超え、聴く人の魂を震わせる。
私自身、この曲を聴くと涙がこみ上げる。だがそれは悲しみの涙ではなく、「もう一度立ち上がろう」と決意するための涙だ。
この歌には、理不尽に負けそうなときに再び歩き出させる力が宿っている。吉田拓郎をはじめ、多くのミュージシャンがカバーし続けるのも、その力を受け取ったからだろう。
アカデミー賞の場で無視されるアジア人の姿を見て、私は胸の中で『ファイト!』を響かせずにはいられなかった。
「生きててよかった」と思える瞬間をつかむために、人は今日も歯を食いしばっている。
では、私たちはどのようにすれば、誰もが声をかけ合い、手を差し伸べ合える社会をつくれるのだろうか。
その問いを胸に、私はこの歌をもう一度口ずさむ。
ファイト!
あとがき
この出来事に心を動かされたのは、私自身もまた「理不尽な無視」や「存在しないかのように扱われた経験」を忘れられないからだと思う。
きっと誰もが人生のどこかで、そのような瞬間を経験しているのではないだろうか。
だからこそ、この曲は私にとって特別だ。
倒れそうになったときに「立て」と励ましてくれるのではなく、「泣いてもいい、でも歩こう」とそっと背中を押してくれる。
それは誰かを排除する社会のあり方とは正反対の、人と人とをつなぐ力だと思う。
今回の投稿を通じて、同じように傷ついた記憶を抱える誰かが「一人じゃない」と感じてくれたら、それだけで意味がある。
そんな願いを込めて、このエッセイをお題企画「#一言で表せない感動」に応募することにした。
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