見出し画像

「人とAIの協働」を体現する ― AI Shiftがサイバーエージェントグループの「AI番付」で横綱を獲るまでの半年間

こんにちは、AI ShiftでCAIOをつとめる友松です。

AI Shiftは「人とAIの協働を実現し、人類に生産性革命を起こす」というミッションを掲げ、AIエージェントプラットフォーム「AI Worker」を提供している会社です。

2026年4月に、サイバーエージェントグループ内で開催された「AI番付」において、AI Shiftが最高位である"横綱"を獲得しました。

この記事では、そもそも「AI番付」とは何か、そして私たちがどんな道のりを経て横綱にたどり着いたのかを、できる限り具体的に書いていきます。AI活用を組織に根付かせたいと考えている方に、何かひとつでも持ち帰ってもらえたら嬉しいです。

「AI番付」とは何か

AI番付は、サイバーエージェントの各組織のAI活用レベルを、相撲の番付である「横綱、大関、関脇、小結、前頭、十両、幕下」になぞらえて格付けし、可視化する全社施策です。目的は大きく2つあります。

  • 各組織のAI活用状況を可視化して、当事者意識を高めること

  • 成功事例を全社に横展開して、AI活用レベルを底上げすること

「AIの活用を競争優位性に」と掲げるサイバーエージェントらしく、AI番付は2軸で展開されています。

  • 全社版(対象76組織):経営インパクトや事業価値創造を評価するビジネス寄りの番付

  • エンジニア版(対象44の開発組織):エンジニアリング品質や技術成熟度を評価する番付

全社版の横綱の基準は、以下の通りです。

AIが組織運営の基盤として不可分となり、AI活用を前提とした事業成果を実現している

審査の仕組みは、各組織の責任者が半年間の活動実績をもとに、エビデンス資料(証左)を添えて自組織のランクを自己申告します。自分たちで目指す基準を持ち、自ら宣言することで、番付に高い解像度で向き合うことを促す設計です。提出された申告は審議委員によって、経営インパクトと活用推進・文化づくりの2軸・全9項目で厳正に審議されます。

制度の詳細は公式記事「全社のAI活用レベルを可視化して底上げする、サイバーエージェント流「AI番付」とは」で公開されているので、ぜひこちらもご覧ください。

なぜ横綱を目指したのか

AI Shiftでは2019年の設立時、「AIを民主化する」というMISSIONを掲げていました。しかしChatGPTの登場後、AIを「使うもの」から「一緒に働く存在」と捉え直し、2025年1月にMISSIONをアップデートしました。
人とAIの協働を実現し、人類に生産性革命を起こす
このMISSIONを本気で実現しようとするなら、まず自社が最も"人とAIの協働"を体現できている状態でなければ話になりません。日本一AIエージェントと協働する組織になる。AI番付は、その覚悟を全社に問われる場でした。
私はこのAI番付が開始するタイミングで「AI協働推進室」を立ち上げ、責任者を任命いただきました。

AI Shiftという社名・向き合っている事業・MISSION、これらどこを切り取っても最低でも「横綱を獲得する」というのが求められました。私自身、当時を振り返るとプレッシャーを感じつつも、自分たちの業務変革を作り上げていくことに非常にワクワクしたのを覚えています

前提:番付が始まる前の積み上げ

私たちは番付が始まった時点で、まっさらなスタートではありませんでした。番付以前から、次のような助走がありました。

  • 2019年の会社設立当初から、月1回のAI勉強会を46回積み重ね

  • 2024年12月、社内推進組織「AI Crazy Shift」を立ち上げ

  • 業務をゼロベースで洗い出す『りそう会議』(理想の業務フローを描く社内ワークショップ)と、全社員必修のエージェント構築研修を実施

  • 50体のAIエージェントを一気に構築

(この積み上げの詳細は、長くなるので別の記事で書きます)
ただ、そこで痛感していたのは、「点の業務効率化では、本質的な業務改善には至らない」ということでした。個々のタスクをAIで効率化しても、業務プロセス全体が人間前提のままなら、組織の生産性は劇的には変わらない。50体作って得たのは、成果よりもむしろこの気付きでした。

ただし、決してそのフェーズが無駄だったわけではなく、当時のAIの進化の状況や、実際にやってみてわかった勘所なども多々あり、このフェーズがあったことにより、次のステップで本質的な課題に取り組む助走になりました。

そんなタイミングの2025年10月、第1回AI番付が全社に周知されます。ここから証左提出までの約半年が、この記事の本題です。私たちは4つの戦略で走りました。

戦略①:現在地とのGAPの分解と注力ポイントの決定

番付の展開を受けて、私たちはまずAI Shift社内で「AI番付 施策説明会」を開きました。そこで共有したのは、気合いではなく構造の話です。
最初にやったのは、横綱の基準と自分たちの現在地のGAPを直視し、評価の構成要素を分解することでした。
AI番付の評価項目を分解すると以下の2点でした。

  • 経営インパクト

  • 活用推進・文化醸成

すでに積み上げができているものは2つ。

  • 社外向けの生成AI事業の成果

    • AI Shiftの事業(AI Worker VoiceAgent / Solution事業)によって社外に生成AIを用いて生み出したインパクト

  • サイバーエージェントグループ内へのサポート

    • サイバーエージェント内での生成AI活用の推進(リスキリングプログラムの提供 / CAグループ内向けのAIエージェントの構築 / 発信等)

これらは特に介入をせずともしっかりと取り組めているかつ、今季も貢献できる見込みがあったので、AI協働推進室としては追わない。
これから強化すべきものが2つ。

  • 「AI駆動なビジネスプロセス」

  • 「文化醸成」

横綱獲得へのGAPをこの2点に絞り具体的なロードマップを示しました。

もうひとつ、説明会で強調したことがあります。それは、横綱は目的ではなく結果であるということです。掲げたのはあくまで「MISSIONのもと、AI前提とした働き方・AI駆動な業務フローに置き換えていく。結果として、AI番付で最高ランクの横綱を獲得する」という順番でした。番付のために取り組むのではなく、やるべきことをやり切った証明として横綱を取る。この順番が、半年間の推進力になったと思っています。

戦略②:「点」から「線」へ ― 業務プロセスごとAIに置き換える

実行の中核を担ったのは、AI Crazy Shiftを進化させた「AI協働推進室」です。
CAIOである私を責任者とする全体統括のもと、業務フローごとに担当チームを置き、文化醸成チームと二軸で並走する推進体制を組みました。

  • セールスフロー

  • AIコールセンター事業のCSフロー

  • ソリューション事業のCSフロー

  • 人事フロー

  • マーケフロー

注力すると決めた2点に、体制をそのまま対応させた形です。

プロセス再構築の考え方

説明会で示したポイントは2つです。

1つ目は、「AIが前提になったときの理想」から考えること。
たとえば営業のヨミ会(受注見込みとアクションを確認する会議)なら、「アポが終わった瞬間にAIが項目を蓄積していき、人間はアクションの判断をするだけ」という理想像から逆算する。現状業務の改善ではなく、理想からの逆算です。

2つ目は、徹底的な仕組み化。
人間なので「使いましょう」という推進だけでは限界があります。理想状態が勝手に達成される構造を作り、属人性を排除する。

  • 人によるリマインドを排除する仕組み

  • 一元的なデータ入力を担保する仕組み

  • 業務が終わったら自動で連携される仕組み

入口のデータの質を担保できれば、それに紐づく様々な業務をそのデータを中心に回せるようになります。私自身が『社内FDE(Forward Deployed Engineer:現場に入り込んで実装まで担う技術者)』となって、この仕組み化を徹底すると宣言しました。

やったこと

この考え方のもと、やったことは大きく3つです。

  • 業務プロセスを「線」で置き換える:点の業務を効率化するのではなく、一連の業務全体をプロセスとしてAIに置き換える

  • データの蓄積場所を決める:チームごとにバラバラだったデータの置き場所を統一し、分散していたドキュメント・営業データ・タスク・ナレッジを一箇所に集約。AIが参照できる状態にデータを整えることが、すべてのエージェントの精度の土台になる

  • 各ツールとAI Worker Platform(※)を連携する:いつでも社内情報を引き出せるように連携を拡大し、エージェント構築を加速

※AI Worker Platformは弊社で開発しているAIエージェント構築プラットフォーム

さらに、推進チームによる週1回のエージェント評価・改善と、月1回のチーム横断ナレッジ共有を回し続けることで、AI前提の【データ蓄積→活用→評価→改善】のループが組織全体で回っている状態を作りました。

各チームで起きた変化

この半年で業務プロセスがどう変わったか、いくつか紹介します。

セールス
商談にセールスエージェントを設定するだけで、ミーティング終了後にエージェント駆動でタスクが進行するようになりました。

  • 商談前:会議情報と顧客の事前調査を自動生成

  • 商談中:AIがリアルタイムにフォローアップ

  • 商談後:議事録をNotionに自動格納、お礼メールと次回提案資料の大枠が商談終了直後に完成

  • 失注リスクのある商談はマネージャーに自動エスカレーション、お手本になる「いい商談」はハイライトとしてチーム全体に共有

結果、オンライン商談でのエージェント利用率は100%になり、商談に紐づくノンコアタスクは約50%削減されました。

AIコールセンター事業のカスタマーサクセス
「QCD向上プロジェクト」として、Backlogへのタスク自動登録・リマインド、テスト仕様書の自動生成、シナリオテストの自動化に取り組みました。
また生成AIを取り込んだプロダクト自体のアップデートにも取り組みました。

  • CS1人あたりの月間施策実行数:2.5倍

  • 施策の平均リードタイム:約半分

ソリューション事業のカスタマーサクセス
資料作成の作業環境をCursorに集約し、ナレッジ共有をGitHubに統一。PowerPointで手作業していた議事録や提案資料を、MarkdownとMermaidで作る運用に変えました。

  • 日々の定例や提案の資料作成工数:90%以上削減

マーケティング
4万件のハウスリードにAIで情報を付与するデータクレンジングを実施しました。

  • 案件化率:27%→最大42%まで改善

  • メール施策での商談獲得が過去最多を記録し、架電の外注費用をゼロに

人事
人事領域では、採用業務のうちノンコア業務をAIで効率化しました。
スカウトでは、下準備の一部をAIが支援し、担当者は候補者一人ひとりに合わせたメッセージづくりに集中できるようになりました。面接でも、事務作業をAIが支援することで、担当者は候補者との対話により多くの時間を割けるようになっています。

リスキリングコンテンツ制作
ボイスチェンジャーや音声合成を活用して動画研修の制作を完全内製化し、これまでかかっていた外注費をゼロにしました。
どの取り組みにも共通するのは、「AIツールを導入した」ではなく、業務プロセスそのものをAI前提で描き直したことです。

※本記事の削減率・倍率は、ツールの利用ログと各チームの工数記録をもとに、番付証左資料用に集計した値です。

戦略③:AIエージェントを徹底的に使い込む習慣化の醸成

仕組みを作っても、使われなければ意味がありません。プロセス再構築と並行して、私たちが最も泥臭くやったのが習慣化の醸成です。やったことはシンプルです。

  • 毎週月曜に組織でのAI活用率の目標を掲げる

  • 金曜の夕会で結果を発表する

  • ChatGPT・セールスエージェント・AI Workerの利用率を継続的に追跡し、部門別の利用時間を「目標40時間に対して40.1時間で100%」といった粒度で毎週可視化する

これを回し続けることで、組織全体で「使うのが当たり前」の空気を作っていきました。

大事にしたのは、推進チームだけの取り組みにしないことです。説明会では全メンバーにこうお願いしました。

  • 皆さんは必ずどこかの業務フローに関係しています。理想のフローは全員で作るもの

  • 活用事例やTipsをどんどん社内へ発信してほしい。皆さんのインサイトが横綱獲得に直結します

実装されたエージェントや施策は推進メンバーが発信する推進チャンネルでじゃんじゃん発信し、リアクションで盛り上げるということを実施しました。

2025年12月には、「週次利用率100%」を目標に掲げて追い込みをかけました。象徴的だったのは、ある週の「利用時間があと13時間足りません!」という推進チームからのSlack投稿です。そこから「この会議に設定します!」「今の会議で1.5時間追加されます!」とメンバーが次々に反応し、数時間後には「今週クリアです!みんなありがとう!」のようなやり取りがなされていました。1時間ごとの集計をリアルタイムで追いかけながら、全員で目標を取りに行く。この熱量こそが、組織全体で横綱を目指す一体感醸成だったのかもしれません。

一見すると「強制的に使わせる状態」は本質的でないように見えます。ただ、ここで増えたのは見せかけの数字ではなく、実業務でエージェントを使う経験の総量です。そもそも徹底的に使うという経験をせずに机上の空論で理想ばかり話していてもAI活用は進みません。組織として強制的に使う状態を作るというのはAI活用のフェーズとしては重要な取り組みでした。

戦略④:証左での棚卸し

2026年3月6日がAI番付の証左提出締め切りでした。

横綱を目指すとなると、これまでやってきた取り組みを漏れなく証左としてまとめる必要があります。私たちは100ページを超える証左資料とともに、「横綱」を自己申告しました。
資料では、横綱の要件を4つの柱で立証していきました。戦略①で整理した「積み上げてきた2つ」と「強化してきた2つ」が、そのまま資料の骨格になっています。

① 活用推進・文化づくり

  • MISSIONのアップデート

  • AI Crazy Shift・AI協働推進室という推進体制

  • 46回のAI勉強会と知識の資産化

  • 利用率追跡による習慣化

  • ブログや登壇による発信

② AI前提の業務プロセスの再発明

  • りそう会議による業務フローのゼロベース再設計

  • 50体以上のAIエージェントが実働する業務プロセス

③ AI前提の事業の再発明
自社のドッグフーディングで磨いたプロダクト/ソリューションの外部提供を実施
※具体は省きます

④ CAグループ・社外への還元

正直に言うと、100ページの資料づくりは大変でした。ただ、やってみて気付いたのは、証左資料の作成そのものが、自分たちの事業と組織の取り組みを俯瞰する最高の機会になるということです。半年間の活動を評価項目に沿って棚卸しすると、できていること・できていないことが嫌でも解像度高く見えてきます。次の半期で目指すべきポイントも明確になりました。

そして、横綱へ

2026年4月3日の全社総会で、AI Shiftの横綱獲得が発表されました。

嬉しかったのは順位そのものよりも、審議で評価されたポイントでした。横綱・大関の評価に繋がったのは「経営インパクト」と「組織推進カルチャー」の2軸、そして自組織で得たものを外に広げる「還元力」。運営チームからは、どんなAIツールを導入したかという施策そのものよりも、「どのように取り組んできたか」「現状をどう整理し、目標設定したか」「推進体制や文化醸成をどう進めたか」というプロセスと思考が評価につながったと聞いています。

その後、6月には横綱・大関チームによる全社共有会に登壇する機会をいただき、戦略・推進体制・文化づくりのプロセスを全社に共有しました。第1回のAI番付全体では119もの活用事例が事例集として全社に展開されており、「成功事例の横展開で全社を底上げする」という施策の狙いが、まさに回り始めています。

横綱を取って見えたこと

半年間を振り返って、組織のAI活用を本気で進めたい方に伝えたいことを5つに絞ります。

1. 現在地とのGAPを分解し、注力点を絞る
私たちは最初に施策説明会を開き、「積み上げがあるもの」と「これから強化するもの」を分解して、AI駆動なビジネスプロセスと文化醸成の2点に注力を集中させました。ゴールの基準が言語化され、GAPが構造化されていれば、日々の優先順位は自ずと決まります。そして番付のランクは目的ではなく、やるべきことをやり切った結果です。

2. 「点」の効率化で満足せず、プロセスを「線」で置き換える
個別タスクの自動化では本質的な業務改善に至りません。業務プロセス全体をAI前提でゼロベースから描き直し、「人間がやらないこと」を決める。データの蓄積場所を統一し、ツールを連携し、週次で評価・改善を回す。「データ蓄積→活用→評価→改善」が回り続ける状態こそがゴールです。

3. 主役は現場。推進部門は「技術の壁」を取り払う役に徹する
DX部門や推進部門だけが進めてはいけません。業務理解が一番高いのは、実際にその業務をやっている現場の人です。その人たち自身が主体的に業務を分解し、理想のフローを描き、実行する。自分たちの業務が変わるのだから、モチベーションも高い。その過程で出てくる技術的な壁を、推進部門が取り払えばいいのです。

4. 経営陣の「押し付け」にしない
「現場でよろしく」と任せるだけでは、絶対に進みません。経営陣自身が最重要経営課題として本気で考え、体制・投資・自らの時間を注ぐこと。AI Shiftでは経営層がチームの顔となって、利用率やAgent化の状況を追いかけました。トップの本気度は、想像以上に組織に伝播します。

5. 組織全体で取り組める状態を作り、全員の「自分事」にする
仕組みは使われて初めて文化になります。推進メンバーだけの取り組みにせず、全員が当事者になる設計を徹底しました。月曜に目標を掲げ、金曜に結果を発表する。利用率を可視化し、足りなければ全員で取りに行く。泥臭い数字の追いかけと自分事化の積み重ねが、「気付いたらAIを使っている」状態への一番の近道でした。

おわりに

第2回AI番付は2026年10月に発表されます。今度は挑戦者ではなく、追われる立場になりました。私たちは「横綱の維持」と、個別施策を称える三賞(殊勲賞・敢闘賞・技能賞)の獲得を目指す半期に入っています。

とはいえ、AI番付はあくまで手段です。私たちが本当に目指しているのは、MISSIONに掲げた「人とAIの協働を実現し、人類に生産性革命を起こす」こと。自社で実験し、磨いたノウハウを、サイバーエージェントグループへ、そして社外のお客様へ還元し続けることを目指します。

AIが組織の基盤として不可分になる」という横綱の基準である状態は、数年後にはあらゆる企業にとっての当たり前になるはずです。その未来を、私たちは自分たちの組織で体現し続けたいと思っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

組織のAI活用推進に取り組む皆さんの参考になれば幸いです。

公式X(旧Twitter)でも情報を発信しています!ぜひフォローしてください!