ショートショート 「スパイス」 #それって意味あるの? #青ブラ文学部
「今日のテーマはスパイス、言い換えると”意味”。その使い方についてです」調理講師の声が軽やかに響く。
彼女はボウルを掲げた。
「まずは鶏肉、言い換えると”素材”。またの名を“出来事”と呼びます。これ自体はタンパクな味。そのままでは美味しくないし、退屈ですね」
彼女はボウルにスパイスを振りかける。
「ここに“意味”というスパイスを少々—」
指先から落ちた粉は、金色に光った。
「入れすぎると濃くなります。『これはこうあるべき』という味が強すぎると、誰も食べられないし、食べてもらえません」
彼女は手で軽く揉み込む。
「でも、少なすぎると意味がない。時より、人はそれを“無意味”と呼びますね」
カメラが寄る。鶏肉の表面に照りが浮かぶ。
「当たり前ですが、スパイスは“味付け”であって、“主食”ではありません。フフフ」
彼女は笑う。
鶏肉をフライパンで火にかける。ジュっと油が跳ね、香りが立つ。
「焦げ目がついたら、一旦火を緩め、中まで火をゆっくり通しましょう」
焼き上がる頃には、鶏肉はもうただの”素材”ではなく、火と時間とスパイスが織り上げたひとつの”料理”となっていた。
皿に移すとき、スパイスはそっと湯気に溶けて空気を揺らす。
「はい、完成。『鶏肉のソテー』です」
彼女はお皿を差し出す。
「先生、今日の『5分半間クッキング』は実にシンプルですね?意味あるんですか?」
アシスタントは何気ない質問をかける。
「いい質問ですね〜、フフフ」
彼女は笑った。その笑みが、次の瞬間、鋭い刃物に変わる。
「お前、話聞いてた?言うなれば、この番組自体がスパイスなんだよ、ボケ!味の感じ方も人それぞれだろ?スパイスはお好みで好きなように使えばいいんだよ、カスが!気に入らないなら見なきゃいいんだよ!」
「せ、先生……」アシスタントは目を潤わせた。
「あ、スパイスだけに、スッパイ(失敗)スましたね。これまたスッパイ(失礼)スました」
…。
乾いた沈黙が、スタジオの照明の下でゆっくりと広がった。
そして番組は、何の告知もなく、静かに幕を閉じた。
完
(本文862字)
あとがき
山根あきらさんの『青ブラ文学部』企画「それって意味あるの?」に参加させていただきました。
意味は後付け。なくても生きていけるけど、ないとやっぱり味気ない。意味があるかないか?それは感じ方、考え方次第。そういう思いをショートショートにしてみようと思ったけど、スパイス強すぎましたかね?
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