ショートショート 「消えた下書き」
リビングで開きっぱなしのノートPC。その画面を覗き込んだ瞬間、僕は眉をひそめた。
「おかしい……書いたはずのショートショートがない」
下書きフォルダを開き直す。何度クリックしても、そこにあるはずの物語が消えている。背中にじんわり汗が滲む。
「そんな理由ないよな…」
カーソルを動かし、保存履歴を確認する。確かに、昨日の深夜に保存したはずなのだ。
「あれ?あれれ?」
そのとき、キッチンの方から声がした。姿は見えないが、食器を片付ける音がかすかに聞こえる。
「なに探してんの?」
「ショートショート!」
「えぇ?あれ?あれなら食べちゃったよ」
「え!ショートショートだよ!?」
「うん、御免、ついね」
「つい?ショートショートを食べるって……やっぱショートケーキと勘違いしてない?薫」
「え?ショートショートでしょ?勘違いしてないよ。まぁまぁの出来だったね」
「え?まぁまぁ……、ま、まぁ、下書きだからね…」
食器を拭く布の音が止まり、薫の声だけが続く。
「導入はいい、オチは悪くない。ただ言葉遊びに頼っていることと、後半の説明がくどい。あと1割〜2割削ってブラッシュアップすれば、もう少し伸びるわね」
「マジで食べたの?」
「咀嚼して、美味しく頂きました。ごちそうさま」
僕はしばらくソファに座ったまま、空になったフォルダを見つめていた。画面の白さは、どこか満腹になった紙の表情に見えた。夕暮れの光が反射して、そこに“食べられた物語の残り香”が漂っている気がした。
僕はしばらくソファに座ったまま、空のフォルダーのようにあんぐりと口を開けていた。
📘 本日の記事について
というわけで、本日の記事はアップできませんでした。(妻の味の感想は☆3.5/5でした。次回はもう少し旨味のあるオチを仕込もうと思います。)
完
(本文733字)
あとがき
頭が空っぽになって、何も書けなくなった。そこで書けなくなった言い訳を考えていたら、物語は降りてきた。もっとブラッシュアップできたはずだけど、今日は疲れたのでこのまま下書きでアップします。
