新プールオープン!:ピカピカのプールで気付いた古い施設の「意外な便利さ」
地元に、新しいプールがオープンした。
初日の午前10時からテープカットがあり、10時半から泳げるという。
せっかくなら、その瞬間に立ち会うのも悪くない。
しかし、私は考えた。
新しいものができれば、初日に見に行きたくなるのが人情である。
まして、しばらくは無料開放だ。10時半に行けば、きっと同じことを考えた人たちで混んでいる。
そこで、あえて正午ごろに出かけた。
読みは当たった。
水泳教室の子どもたちがちょうど帰るところで、その時間にプールに来たのは私と若い男性の二人だけ。
できたばかりのプールを、ほぼ二人で貸し切ることになった。
初日にしては、ずいぶんぜいたくなデビューである。
新品の床に、いきなり足を取られる
まずは水中ランジから始めた。
ところが、床に足を踏ん張った瞬間、つるりと滑る。少し力を入れただけで、足が逃げていく。
なるほど。これが新品の床か。
きれいなのは大歓迎だが、こちらの足腰への歓迎は、やや手荒い。
ビート板を持ち、いよいよ泳ぎ始める。壁に足をつけて、いつものように蹴った。
ツルッ!!
今度は壁まで滑った。
「あれ、進まない」
新しいプールに入って最初に学んだのは、新しい壁の蹴り方だった。
施設は最新でも、利用者のほうは自動更新されないらしい。
何度か試すうちにコツが分かり、ようやくいつものように壁を蹴れるようになった。
そこで、今度は蹴伸びの練習を始めた。
きれいすぎて、自分が動いているのか分からない
壁を蹴り、あごを引いて、床を見ながら水中を進む。
5メートルを越え、7メートル、8メートルあたりまで進んだ。距離としては、いつもと変わらない。
ところが、感覚がまるで違う。
自分が前へ進んでいるのか、よく分からないのだ。
スタート後5メートルのライン、そして中央のラインを越えると、ゴール手前の5メートルラインまで、床にはほとんど目印がない。
傷も汚れもなく、視界の中を後ろへ流れていくものがない。
床を見つめていると、世界が静止している。
私は進んでいるのか。
それとも、ただ水の中でポーズを決めているだけなのか。
たまに床材の継ぎ目を見つけて、ようやく「ああ、ちゃんと進んでいる」と確認できる。
ここで、思いがけず古いプールのよさに気付いた。
古いプールの傷は、私の速度計だった
これまで使っていたのは、テント張りの古いプールだった。
屋外とつながりやすい造りなので、虫やほこりが入り、風が強ければ小さな枯れ枝までやって来る。
もちろん掃除はされている。
それでも、すべてを完全に取り除くのは難しい。
床にも長年使われてきた傷や、わずかな色の違いが残っていた。
それが蹴伸びのときには、ちょうどよい目印になっていたのだ。
床の傷が後ろへ流れていけば、自分が進んでいると分かる。
流れる速さを見れば、自分のスピードも何となく分かる。
古い床は、頼んでもいないのに毎回タイム感覚を教えてくれる、無言のコーチだったのである。
もちろん、汚れているほうがよいと言いたいわけではない。
ただ、なくなって初めて、それまで目印として使っていたものに気付いたのだ。
背泳ぎでも、同じ発見があった。
古いプールは天井に鉄骨が何本も通っていた。その一本を見ながら泳げば、自然にまっすぐ進める。
壁の近くにも横向きの鉄骨があり、そこに合わせて手を伸ばせば、頭を壁にぶつけずに済んだ。
新しいプールの天井は、すっきりとしたタイル張りである。
今度はタイルの線を頼りにまっすぐ泳ぎ、どの位置で手を伸ばせばよいかを一往復ずつ確かめた。
新しいプールに慣れるとは、設備の使い方を覚えることだけではない。
自分だけの目印を一から探し直すことでもあるらしい。
それでも、新しいプールはやはりありがたい
ここまで新品の床と壁に翻弄された話を書いたが、新しいプールが快適なのは間違いない。
クロールも平泳ぎも、久しぶりのバタフライも気持ちよく泳げた。
とりわけありがたいのが、スタート側とゴール側の両方に、分針と秒針のある時計が設置されたことだ。
何秒にスタートし、25メートルを何秒で泳いだか。往復すれば、50メートルのタイムもすぐ分かる。
これまでは常設されていなかったので、自分のペースを確認しながら泳げるのは大きい。
泳ぎながら、「今日は少し速い」「ここは抑えよう」と調整できる。これは私にとって、かなりうれしい設備である。
昼をまたいで泳げるのもありがたい。
以前なら正午でいったん営業が終わるため、11時半に着いても、11時45分ごろには上がる準備をしなければならなかった。
新しいプールなら、正午が来ても時計に追い立てられず、きちんと練習時間を確保できる。
シャワールームもトイレもきれいになり、入口には強制シャワーもある。
保護者が子どもたちを見守れる見学スペースも設けられた。
泳ぐ人にも、付き添う人にも使いやすい施設になっている。
料金は1回200円から300円に上がるが、新たに回数券や定期券ができた。
ほぼ毎日通う私の場合、昨年は230日。200円でも4万6千円かかった。
定期券を使えば、その負担はおよそ3分の1になりそうだ。
値上げしたのに、私の年間負担は大幅に下がる。
こういう値上げなら、喜んで受け入れたい。
新旧どちらのプールにも、支えられている
夏休み中は午前中も子どもたちに開放されているが、この日はほとんど姿がなかった。
考えてみれば、このプールは水遊びをする場所ではなく、コースロープに沿って泳ぐための場所である。
遊びたい子どもたちにとっては、少々まじめすぎるプールなのかもしれない。
一方、中学生や高校生の部活動は、まだ健在の古いプールで練習していた。新しいプールと古いプールが、しばらく並んで役目を果たすことになる。
新しい施設は、きれいで、便利で、気持ちがよい。
けれど、真っさらな床を見ながら蹴伸びをしていると、古い床の傷も、天井の鉄骨も、ただ古びていただけではなかったのだと分かる。
私は知らないうちに、それらを頼りに泳いでいた。
新しいプールで得た最初の気付きは、新しさの素晴らしさと、古さの中にあった使いやすさだった。
そして何より、こうした施設が身近にあり、毎日の健康づくりを支えてもらえることがありがたい。
これからは、新しい床の小さな継ぎ目を見つけ、新しい天井のタイルを数えながら泳ぐことになる。
そのうち、それらも私だけの目印になるのだろう。
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