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ゆっくりのなかのひかり(絵本)

この絵本をひらいてくださったみなさまへ


この場所に立ち寄ってくださり、
ありがとうございます。

こうして出会えたことに、
心から感謝しています。

みんなと、
すこしだけ
歩く速さが ちがっても。

それでもいい、と
自分のままで 眠れる夜は、
きっと どこかにあります。

これは、そんなひかりのお話です。


     — ゆっくりのなかのひかり—



ある 小さな 港町(みなとまち)に、
ひとりの
女の子が、住んでいました。

女の子は、
どうしても
すこしだけ おくれてしまいます。

みんなは
まっすぐ 歩いて、
ちゃんと 急いでいるけれど。

女の子は
ふっと 空を 見上げてしまいます。
きょうの 雲が、
あまりに やさしい色を していたから。

道ばたの 小さな 石さんに、
そっと しゃがみこみます。
「きょうは なんだか
さびしそうだね」
石さんは だまったまま。

でも、女の子がなでると、
すこしだけ あたたかくなりました。  

川へ 行くと、
お魚が ぴょん、と はねました。
「水が すこし つめたいよ」

女の子は
手を ひたして、
水の つぶと お話しします。
「きらきら、きれいだね」

森では、その日
なぜだか お花さんたちが
さみしそうに うつむいて 咲いていました。

女の子は、
となりに おしりを おろして
いっしょに 風に 吹かれました。

「いっしょに、ひとやすみ しようね」

まわりの 大きな 木々たちは、
そんな 二人を 囲(かこ)むように、
大きな 枝を そっと 広げて、
しずかに 見守って いました。

銀色の 星を まとったような
ダンゴムシさんが、
ころころ 歩いてきました。

「みんなと ちがう、わたし
へんなのかな?」
女の子が、そっと きくと

ダンゴムシさんは、
大切な 宝物を まもるように
くるり、と 丸まりました。

「みんなちがうから、
ここに いるんだよ。
わたしも、きみもね」

そう言って、
ダンゴムシさんは、
うれしそうに、しずかに うなずきました。

この声は、
町のみんなには、きこえません。

「前を 見て 歩きなさい」
「もっと いそいで」
「そんな こと、なんの 役にも 立たないよ」

という言葉が、
きこえるたびに

女の子の胸の奥は、
ぎゅーっと 小さくなって、
すこしだけ 苦しくなりました。

ある日、
がんばって、
みんなと 同じ 速さで 歩いてみました。
空を 見上げないで。
石さんにも 手を ふらないで。

みんなは 上手に 歩いていました。
それは、とても すてきな ことでした。

でも――
女の子の胸の まんなかは、
しずかに からっぽに なりました。

そのとき
やわらかな 風が、
女の子のほっぺを なでました。
空の、ずっと ずっと 上。

雲の にじみの なかで、
かみさまみたいな
大きな やさしい 気配が、
そっと 手を かざしました。

なにも 言いません。

ただ、子守唄のような
あたたかな ぬくもりが、
心を
包みこんでいました。

ある日、町に
激しい 大風が 吹き荒れました。
吹きつける 風の 冷たさに、
みんなの 心は、
ぎゅっと かたく なりました。

町から、
やわらかな 声が
すこし 消えた ようでした。


激しい大風に
ふるえる 草花(くさばな)たちの そばに、
女の子は、ただ すわりました。

「わたし、ずっと そばに いるね」

大風は、
しばらく 吹きつづけました。

それでも、草花たちは
ひとりでは ありませんでした。


……やがて
だれかが、ぽつり。

「あれ……
なんだか、風が
すこし やわらいだ 気が する……」

女の子は、
「ほんとだ。やさしい風だね。」と、
空を あおいで、にっこり 笑いました。

女の子を見上げて
ダンゴムシさんは、
「わたしは、しっているよ」と
いうように、
満足そうに、目を ほそめました。

通りすぎた 風さんは、
女の子の
髪を ふわりと ゆらし

空の上では、
やさしい ひかりたちが
「よかったね」と いうように、
うれしそうに、目配せを していました。

早く 走れる 足も、
立ちどまる 足も、
町は どちらも だいじに していました。

その夜。
星を 見上げながら、
女の子は
星たちに 向けて
つぶやきました。

「わたし…… ゆっくりだけど
このままでも いいんだよね」

すると、夜空の 星たちが
いっせいに、キラキラと 輝きました。

その ひとつが、
そっと 強く ひかる 瞬間に
空の 上で、
目には 見えない ひかりが、
くすっと 笑いながら、
はなびらみたいな 声で ささやきました。

「それで よいのですよ。」

「そのままで。」      

つぎの 朝。

女の子は、
やっぱり すこし おくれて
歩いています。

でも。
きょうの 雲を
だれより ちゃんと 見上げながら


ゆっくりの なかに、
ひかりは 住んでいます。



この物語について

この絵本は、
はがぬの錬金術師さん
との出会いのなかで
生まれました。


言葉の奥にある
やわらかな
純粋な光にふれたとき、
わたしも、
自分の歩き方を
そのまま書いてみようと思いました。

ゆっくりでも、
少し違っていても、
それでいいのかもしれないと。

そんな気持ちを
そっと物語にのせています。

はがぬさんの錬金術師さんに、
心から感謝しています。


そして、
この物語を手に取ってくださった
みなさんへ。

みなさんの歩く速さのままで、
どうかそのままで。

今日という一日が、
やさしい光に包まれていますように。

     ゆっくりのなかに愛を込めて
      —  mimi おとのわ 🌱 —


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