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ルーマニア南西部の中華料理屋

7月下旬、友人とルーマニア南西部に位置する「Târgu Jiu(トゥルグ ジウ)」という小さな街を訪れた。ルーマニアが誇る芸術家、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻作品群を見るためである。この彫刻作品群は、「無限柱」、「接吻の門」、「沈黙のテーブル」といった3つの作品で構成されている。それぞれの作品は重厚な佇まいを見せながら、周囲の景観とも調和していた。

さて、そんな小さな街の中心部には中華料理屋があった。看板には「Madam RESTAURANT」と書かれ、黒を基調としたシックな外観であった。ワインの樽が店頭に置かれていることもあり、モダンなバルのような雰囲気を醸し出していた。だがよくよく見ると中華料理店でよく見る赤ちょうちんもぶら下げられている。そのうえ、中を覗くとアジアの定食屋のような雰囲気だった。「『千と千尋の神隠し』を彷彿させる。」とまではいかないが、やや異様な雰囲気だった。午後5時という早い時間帯だったが、お腹が空いていたので入店を決めた。

中華料理店の外観

お店に入ると、奥のテーブルで中国人夫婦がスマホをいじっているのが見えた。どうやら、彼らが経営する中華レストランらしい。時間帯が早く、他にお客さんがいないからか、エアコンはかかっておらず、中の空気はかなり蒸し暑かった。

「Buna ziua(こんにちは)」と声をかけると、奥さんはスマホを置き、角のテーブルに案内してくれた。彼女はこちらに目を合わせないばかりか、全く言葉を発しなかった。彼女は私たちにメニューを手渡すと、そそくさと自分の定位置に戻り、再びスマホいじりを再開した。私たちが食べるものを決める最中、彼らは大音量でTikTokかYouTubeショートか、インスタのリールを見ていた。二人がそれぞれのスマホの画面を真顔で見つめながら一定の間隔で縦にスクロールしている姿はあまりにもシュールだった。

奥さんが注文を取りに来、注文伝票に注文した品々を書き留めると、それを旦那さんに無言で渡した。旦那さんはだるそうにしながらスマホをテーブルに置き、奥の厨房へと入っていった。旦那さんが調理している間、奥さんは相変わらずスマホから目を離さなかった。しかも終始真顔だった。

しばらくした後、奥さんは黙って厨房の方へ行き、注文した品々を私たちのテーブルに運んできた。私が注文したのは海鮮ビーフン。友人は豚ビーフンと茄子の炒めものを注文した。「ガチ中華の味」を期待していたが、全くクセがなく、日本風かのような、あっさりとしたやさしい味だった。



注文品



私たちの元に料理が運ばれてから数分が経過。夫婦は厨房から2膳の大盛りライスと何らかの炒め物を運び、早めの夕食を食べ始めた。なお、奥さんはスマホスタンドを彼女の目の前に設置した。お店に響き渡るのは彼らのスマホのショート動画の音声。動画からは奇声やらなんやら発しているのにも関わらず、微笑だにせずに、箸も止めることなく、スマホの画面を見続ける彼らの姿が何ともシュールだった。

こちらの中華料理屋は、静かながらもブランクーシの作品群に負けない存在感を放っていた。

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