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【湯の工学】ーコラム:「弁が固まるのは、弁のせいではない」

ドジャースの勝ち方のようにスッキリしない便秘のようなタイトルだな。

1か月ほど前から、温浴施設におけるモノクロラミン消毒と機器腐食のレポートを書いている。

そんななか、スパメンさんの「ゲート弁が開閉できなくなる原因判定」を見かけた。
そこにある「①腐食やスケールによるバルブの固着」が、まさに自分のレポートで扱っている機序と重なる。いい機会なので、コラムにしてみた。

次亜塩素酸ナトリウムも、モノクロラミンも、薬剤である。
それを温浴施設に処方する会社は、いわば「薬局」と同じ役割を担っている。
だとすれば、効能だけでなく、その薬剤が設備に与えるダメージまできちんと説明すべきではないか。薬局なら、患者の「既往症」を確認してから薬を出す。温浴施設に入っている設備の材質は、まさにその既往症にあたる。

昨今、「次亜が効きにくい施設には(高価な)モノクロラミンを」という提案が少し安易に流れていないだろうか。薬価が高いうえに設備へのダメージも大きいとなれば、施設のランニングコストの負荷は、あまりに大きくなりすぎるのではないか。

交換部品の費用を提案者に請求したくなる。


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弁が固まるのは、弁のせいではない

── 消毒薬と水質が変える、循環設備の腐食 ──

循環系の点検で、しばしば「弁が動かなくなった」という報告に出会う。ハンドルが固くて回らない、あるいは全く動かない。多くの現場では、これを整備の問題として処理する。袋ナットを緩め、パッキンを打ち直し、それで済ませる。しかし弁が固着する本当の原因は、しばしば水の側にある。
そして、どの消毒薬を使っているかで、その固着の顔は変わる。

弁が固まるとき、何が起きているか

ゲート弁の開閉不良は、大きく三つに分けられる。
第一に、腐食生成物やスケールが弁体・弁座・ねじ部の隙間を埋めて物理的にロックする固着。これは全く動かなくなる。第二に、パッキン部の袋ナットの締めすぎ。漏れを止めようと締め込みすぎて弁棒への摩擦が過大になった状態で、力を加えれば動く。第三に、弁棒ねじと弁体ねじの経年摩耗。噛み合いが緩み、開閉時にガタつく。

このうち第二は整備の問題であり、第三は経年の問題である。薬剤運用と直結するのは第一の固着である。そしてこの固着こそ、消毒薬の種類によって様相が入れ替わる。

次亜塩素酸ナトリウムのとき ―― 塩化物が主役

次亜塩素酸ナトリウムで消毒している系では、弁を侵す主役は塩化物である。ステンレス鋼の弁棒やねじ部では、塩化物がすきまに濃縮して孔食・すきま腐食を起こす。青銅の弁体では、脱亜鉛腐食と孔食が進む。鋳鉄の弁体は、溶存酸素による全面腐食を受ける。いずれも、塩素系酸化剤の下での古典的な腐食である。

ここで重要なのは、次亜単独の系では、消毒剤の生成のためにアンモニウム塩を意図的に持ち込まないという点である。利用者由来のアンモニア性窒素は別として、後で述べるモノクロラミン運用由来のアンモニア負荷は存在しない。

モノクロラミンのとき ―― アンモニアとpH低下が主役

モノクロラミンは、次亜塩素酸ナトリウムにアンモニウム塩を加えて生成する。このアンモニウム塩が硫酸アンモニウム(硫安)であっても塩化アンモニウム(塩安)であっても、系にアンモニアを持ち込む点は変わらない。そして、このアンモニアが弁の腐食の顔を変える。

青銅・黄銅の弁体・弁棒では、アンモニアが銅と錯イオンをつくり、保護皮膜を溶かして連続的に侵食する。溶け出した銅化合物が析出し、固着に加わる。この経路は、アンモニウム塩を薬剤として持ち込むモノクロラミン運用で特に問題となる。

鋳鉄・炭素鋼の弁体では、別の経路が効く。モノクロラミンが持ち込むアンモニアを硝化菌が酸化すると、窒素1モルあたり水素イオンが2モル生じ、pHが下がる。水の緩衝力が薄ければ、pHの低下は鋳鉄の全面腐食を加速する。硝化の中間体である亜硝酸は、pHに依らず鋳鉄を侵す。生じた赤錆と水酸化鉄が弁体と弁座の隙間に堆積し、楔形の弁体を噛み込ませて固着させる。


「硫安に替えれば安心」という誤解

ここで一つの誤解を解いておきたい。塩化アンモニウムの塩化物を嫌って硫酸アンモニウムに替えれば、弁の固着は避けられる――そう考える向きがある。しかし、これは正しくない。

弁の固着を起こす主役は、対アニオン(硫酸か塩化か)ではない。モノクロラミンが持ち込むアンモニアそのものと、その硝化によるpH低下である。硫安に戻しても、アンモニアを供給する以上、硝化・pH低下・亜硝酸・銅侵食の経路は残る。対アニオンの違いが効くのは、ステンレス鋼のねじ部のすきま腐食に限られる。ここでは塩化物が腐食を上乗せするため、塩安のほうが不利になる。しかし、鋳鉄の固着と青銅の固着は、いずれの塩でも進行する。

すなわち、要点は塩の種類ではない。アンモニア系運用そのものをどう管理するかである。

弁の固着は、水質の問題である

弁が動かなくなったとき、袋ナットを緩めて打ち直せば、その場は動くようになる。しかし固着の根本が腐食であれば、同じことは繰り返される。固着で重くなった弁を無理に動かしてパッキンを傷め、漏れを止めようと締めすぎ、さらに重くなる。この悪循環の根本は、整備ではなく腐食にある。

対策は、本シリーズが繰り返し説いてきたものと同じである。pHを下限に維持して硝化の自己加速を抑える。緩衝力を確保してpHの転落を防ぐ。更新時にはアンモニア環境に適した材質を選ぶ。遊離塩素を監視して破過による塩化物すきま腐食を抑える。弁の開閉不良を整備の問題としてのみ処理すると、根本の腐食を見逃す。

ゲート弁は、循環系の腐食が最も分かりやすい形で現れる場所の一つである。消毒薬を選ぶとき、それが弁のどの部位を、どのように侵すのかまで見通しておきたい。

一つの弁は、一つではない

ここで、視点を一段引いてみたい。温浴施設に、遮断弁はいくつあるだろうか。

浴槽水は、吸込から循環ポンプ、ろ過、加温、消毒を経て浴槽へ戻る循環系を持つ。一つの循環系統だけでも、ポンプの吸込側と吐出側、ろ過器の入口と出口、熱交換器の入口と出口、バイパス、逆洗系統、排水系統、補給水系統、薬注周辺と、要所ごとに遮断弁が入る。設備構成によっては、一系統だけでも五個から十個程度になる。

大型のスーパー銭湯では、浴槽が多数あり、循環系統もその数だけ並ぶ。仮に十から十五系統に各五個から八個を見込めば、それだけで数十から百個を超える。そこへ給湯・給水・原水・温泉水・ボイラー・熱源・機械室ヘッダー・炭酸泉・水風呂チラー・薬注設備の弁が加わる。施設全体では、遮断弁が百個のオーダーに達することも珍しくない。

ここで注意したいのは、施設全体で水質が一様なわけではない、という点である。給湯、原水、温泉、浴槽循環、水風呂、炭酸泉といった系統ごとに、水も薬剤もpHも異なる。しかし一つの循環系統のなかに限れば、話は変わる。同一の系統に属する弁の多くは、同じ循環水に接し、同じ消毒薬とpH条件に曝されている。そして同じ材質のものが、その系統内に何個も並んでいる。

すると、一つの弁の固着を、その弁だけの経年劣化として片づけてよいのか、という問いが立つ。同じ水、同じ薬剤、同じpHにさらされている同材質の弁が、その系統内にほかにも並んでいるのなら、最初の一個の固着は、単品の故障ではなく、系統全体に出はじめた兆候かもしれない。

この見方に立てば、弁は水質のセンサーである。ハンドルの重さは、その一本の弁の状態であると同時に、同じ系統にある同材質の弁にも同じ変化が進んでいる可能性を知らせる、最初の兆候でもある。ハンドルの重さは、水の状態を映す鏡なのである。


この問題は、ポンプでも起こる

弁で起きることは、弁だけの話ではない。同じ循環系のなかで、より深刻に、より見えにくい形で進むのが循環ポンプである。

循環ポンプは、しばしば三つの異なる材質から成る。ケーシングは鋳鉄、羽根車は青銅、主軸はステンレス鋼。この三つが同一の水に浸かり、主軸を介して電気的に接続されると、意図せぬガルバニック電池が形成される。三材質のなかで最も卑な鋳鉄ケーシングが、構造的にアノードとなって犠牲的に腐食する。

そこへモノクロラミンのアンモニアが加わると、事態はさらに複雑になる。アンモニアが青銅羽根車の銅を溶かし、溶け出した銅イオンが鉄の表面に析出して微小なカソードをつくる。鉄はいっそうアノード化し、局部腐食が加速する。弁の固着が「動かない」という形で現れるのに対し、ポンプの腐食は、ケーシングの肉厚減少やシール漏れ、効率低下といった形で、より静かに進行する。

図2 循環ポンプは三材質のガルバニック電池である

弁もポンプも、同じ系統の水質異常から異なる顔で壊れていく。
主役は対アニオンではなく、アンモニアとpH低下、そして材質の組み合わせである。
個々の部品を整備で追いかけるのではなく、循環系全体を貫く水質と薬剤の管理として捉えること――それが、この一連の故障を個別修理ではなく、根本原因から捉える道である。

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本コラムは報告書は『湯の工学』の姉妹コラムシリーズの一環である。

本稿は技術報告書『モノクロラミン導入と機器腐食』第9章の議論を、独立した読み物として再構成したものである。


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