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算数障害はわかりにくい。早期に兆候をみつけ、楽しい指導でできる範囲をひろげましょう。|算数障害研究_熊谷恵子先生インタビュー

「すうじのないまち」この絵本は算数障害を知る入り口を作りたいと思い制作しました。しかし制作途中で算数障害を表現するのは思いの外難しいことにも気づきました。
 そこで、専門的な観点が必要だということで熊谷恵子先生に解説をお願いしたところ快諾いただき今回の絵本が完成しました。
絵本の中でも算数障害について書いていただいていますが、ネットでもその情報は知ることができた方がより理解が深まるのではと思い、今回改めて熊谷先生にインタビューをお願いしました。

算数障害には大きく2つのタイプがある。

—そもそも算数障害はどういうことなのか、お聞きしたいと思います。

熊谷:算数障害は学習障害の1つです。知的能力が低くないにもかかわらず、知的能力を構成する認知能力の中にアンバランスがあって、基本的な数の理解とか計算ができないということです。

—うちの子どもの経験でもそうでしたが、算数が分からないそのこと自体が親としては理解がなかなかできないと思います。子供にどういう兆候があると気づけるのでしょうか?

熊谷:知的能力が低いわけではないので、生活を見ているとあれもこれもできる状況はあります。それにもかかわらず、小学校に入って教科学習の算数が始まると、途端にできなくなる。それが最初のつまずきだと思います。
 タイプが2つあります。
 1つは数量という数の概念が、量としてうまく理解できないタイプ。もう1つは計算の手続きがうまくいかないタイプ。大きく分けるとその2つがあります。
 どちらかによっても違いますが、小学校の算数は計算のやり方を習ったりすることが主なので、まず小学校の算数という教科学習は、算数障害の子にとってはとても大変なんですよね。地獄のような教科なんです。
 1番最初は数量が分からなかったりすると、例えば4 + 3 という時に、すべて指を使うんです。1、2、3、4、5、6、7みたいに指を折り曲げて数えます。
 しかも、その、4というのも、1、2、3、4と1から数えないと4が分からないとか。

—4を、1から数えてかないとパッと指4本ってのがわからないということですね。数量というのは、数字の文字と実際の量が結びつかないということですか?

熊谷:そうです。このようなタイプは、1の次は2だし、2の次は3という序数という順番はわかっていますが、4はどのくらいの大きさ?と聞いてもわからないんです。

—なるほど。では今度は手続きがうまくいかないタイプというのは?

熊谷:2つ目のタイプの計算の手続きがわからないというのは、例えば暗算の範囲の計算で6 + 7は13とか暗算はできたとしても、2桁以上48 + 58という筆算となると一度に簡単に答えが求まらなくなりますよね。
 筆算は「この数字とこの数字を足したものを下に、桁が1つ上がったら繰り上げて」とか、計算するその順番や手続きがありますよね。それが混乱してうまくいかなくなる。繰り上げた数字を足すことを忘れたりします。このように計算手続きができないタイプがあります。

—うちの子の例ですけど、社会や国語など他の教科は普通にできたんですね。だからまさか、算数だけができないと思えなかったんです。なのでドリルを繰り返しやるとか、そういうことで解決しようとしてました。

熊谷:そうですね。本当にあれ?って思ったらどこかお医者さんや、教育センターに相談されて知能検査を取るのが1番いいんですよね。
 個別の知能検査により、この能力は高いけど、この別の能力が低かったりと、そういうところをきちんとわかっておくことが大事ですね。本人に合わない方法で、繰り返し何度もドリルをやっても、失敗体験の積み重ねになってしまう。

—ちなみに小学生だと苦手な能力に気づける学年や年齢はありますか?

熊谷:本当は小学校1年生で。少なくとも2年生には。

—1、2年生!思ったより早いんですね。

熊谷:1年生の間にたし算・ひき算の暗算の範囲の計算を全部習うんですね。11月ぐらいから。暗算の20までのたし算・ひき算のところで、できなければ非常に怪しいですね。そこでうまくいかないお子さんは、算数の教科学習が進むと、もうどんどんわからなくなってしまいます。
 算数はどんどん進みます。前のやり方がわからないと、次のやり方がわからない。できないことが積み重なる。
 1年生が終わった直後でもいいんですけど、その頃に計算が苦手な子は算数障害スクリーニング検査などでチェックしておくといいかもしれません。

—おそらくお父さんお母さんは、この算数障害という概念を知らなければ「まさか、もうちょっとやってみて2年生になったら分かるんじゃないか」と、少し待ってみようと思う気がします。

熊谷:そうですね。そのうちできるだろうと。だいたい親御さんが心配してくるのが小学校3年生ぐらいの時なんです。小学校3年生の子供でも、今更1年生でやることは勉強できないよって、そんな感じになります。

—やはり子供なりにプライドというか。

熊谷:そうですね。高学年で5、6年生ぐらいになると、算数は自分ができないことが分かっちゃうからとりかかることすら嫌だとか。そんな感じになります。

—つらいですよね。うちの子で気づいたのは高校になってからでした。

熊谷:学習する意欲もなくなってしまう。だから本当に、小学校の1、2年生の低学年ぐらいの時には、どこができないのかをチェックしてほしいです。

算数障害の日常生活の困り事

—例えば、学校の勉強だけじゃなくて、算数障害があると日常生活で困りごとはありますか?

熊谷:算数障害は元々持っているものなので、幼児期からうまくいかないことは出てくると思います。
 例えば20ページの本があったとしたら「10ページを開けて」と言われたら、私達は1ページずつめくらないですよね。大体20ページの真ん中、真ん中って大雑把に開く、そして後で微調整する感じですよね。
 数量がわからないと、そういう大雑把に真ん中が分からないとか、物を分けることができないこともあります。

—まさに「すうじのないまち」で出てくるクッキーを分ける場面のようなことですね。

熊谷:ある程度の量が多い物を分けることがうまくいかないと、おはじきやビー玉など、まずざっくり2つに分けたり、1/4ぐらいに分けたり。

—どうしてざっくり4つに分けられないんでしょうか?

熊谷:量として分かってない。概数として分かってないということです。たとえば2つに分けるときに、量がわかっていないお子さんは、1(右),1(左),2(右),2(左),3(右),3(左),・・・と1つずつ左右に分けながら1から数えていこうとします。

—数字と塊の量としての4つがイコールになってないっていうことですか。

熊谷:1、2、3、4、5とかそういう、小さい数の数詞は多分、頭に入ってるんです。
 それはあっても、じゃあ、1個、2個、3個、4個っていうふうには分けられるけど、じゃあ、飴とかクッキーとか大量にあるものを、あなたと私、同じ分量に分けましょうという時に、2つにわけられないということになります。
計算手続きがわからないタイプに関するものだと、数詞がなかなか入ってこない。1、2、3、4、8、5、9 みたいになっちゃって、順番がうまく覚えられない。と初めからつまずく人もいますね。

熊谷:それから時計が読めない子も結構多いんです。

—うちの子も時計を読むのが難しかったです。

熊谷:数量がわからないタイプの子は、時計を最初から円の物と考えると分からなくなる。わかりやすくするには、まず針金のようなもので一直線を作るんです。そこに1、2、3、4・・・12って時刻を表す数字のプレートをつけて、それをぐるっと丸く円にして、これが時計になるんだよって最初に見せておくだけでも全然違うんです。もう一つの計算手続きがわからないタイプだと、丸い円のまま4つから12個の扇形に割ってそれを元の円に再構成するというやり方がわかりやすい子もいます。

—なるほど!1時間の60っていうのを、横の長さで理解してそれが円になったのが時計だよってことですね。 算数障害がわかった時点でトレーニングしていけば改善していくのでしょうか?

熊谷:考え方を習得してしまえばできるようになります。ただ今の学校の学習指導要領のあのスピードについて行けるかどうかは難しいかもしれない。
 同じ学年の子ども達と比べるとどうしても、うまくいかない方に入ってしまうことはあります。ただ、子どもにあったやり方で数量がわかった、計算手続きがわかったと、できる範囲を広げることはできます。

—そういう時は親の心構えとしてはみんなと同じよりも、通級で指導を受けることになりますか?

熊谷:そうですね。さっきの時計の見せ方のように1次元の横の長さが丸くなっただけだよ。という指導がされれば頭の中でわかるようになると思うんです。

—僕はいつも通級だけでなく普通のクラスでもそれをやれば、置いていかれる子どもが減るんじゃないかと思うんです。

熊谷:そうなんです。それをやってくれればと思います。また10の合成分解は取り扱っているけど、5の合成分解を取り扱っている教科書は少ないんです。

—合成分解というのは?

熊谷:3と7で10、9と1で10となる。10は4と6、5と5に分けられるなどということです。
 それを5でやっている教科書は少ないんですね。3と2で5、4と1で5、5は2と3、5は1と4に分けられるということです。
 実は10の合成分解って算数障害があるとすごく難しいんです。また5個のものをサビタイジングすることも難しい。サビタイジングってわかります?

—わかりません。

熊谷:サビタイジングは一目把握ということです。おはじきが1個、2個、3個、4個までは一目(1.5秒以内)でわかります。でも5はパッと見て把握するのが難しい。一般の人でも2と3に分けないと5はわからないので。だから5は一目把握の範囲ではできないんです。
 今の学習指導要領の内容が、難しすぎると私は思っています。中学3年生でルートなどもやりますよね。方程式も1変数でも難しいのに、2変数になったり。
 それよりも生活の中で出てくる計算って、買い物でこの洋服2割引ですとか。そういうところじゃないですか。あとは1mってどのくらいの長さかなとか。
 1mの長さをイメージすることは、どんな働く現場でも必要ですよね。150cmって大体どのくらいの身長なんだろうねとか、そういうところが分かれば基本的には生活はできると思う。そこまでを義務教育できちんとやってほしいなと思っています。

算数はできない子には残酷

—高学年で算数が苦手なのに気づいた時に親はどんな声かけをしたらいいでしょうか?

熊谷:算数の学習というのは基本的には楽しんでやらないとダメですね。外国では「算数不安」という言葉もあるくらいなんですけど。算数に対する不安とか恐怖が残っちゃって、算数やること自体を拒否しちゃうんです。

—発達障害への理解が昔よりは少しずつ広まっていると感じています。一方で算数障害はそこまで広まっている気がしないのですが、どのように感じていますか?

熊谷:算数って複雑なんです。例えば読み書きというのは技能ですよね。算数というと、脳のいろんな部位を使うし、算数の技能をどうのように捉えて行くかも整理しなきゃいけない。そういう意味では算数障害自体を理解することが難しいんです。伝えにくく、伝わりにくいし、わかりにくい。

—ウチも、何がわかっていないのかが分からなかったんです(笑)

熊谷:そうですよね。知的な能力があってできるところもあるけど、算数に関してできないところもあるから難しいんです。他の勉強の意欲も下がることもあります。学年が進むと算数・数学の教科が全体的にできないように見えてしまうので。
 そうすると勉強の意欲は下がりますよね。さっき、算数不安って言いましたけど、算数ってできるかできないか、○か×かで、三角がない。
 国語の読解だったら、三角があるかもしれないですけど。○じゃなければ×。×をつけられると「ああ、できなかった!」と非常に自尊感情に響きます。

—そういう意味では算数って残酷ですね。

熊谷:できない子にとっては残酷なんです。算数は積み重ねの学習なので、それより前の学習でおろおろしてるうちに、もうあんなところまで行っちゃったみたいになる。
 算数障害があると他にできることもあるはずなのに、あたかも全体的にできない子に見えやすい。そうなると、親はあの子がドリルやってないからじゃないの?宿題やってないからじゃないの?と考えがちです。努力不足と言われると、ものすごく子どもは傷つきますよね。

—でも親ってそう言っちゃいがちなんですよね。うちもそうでした。親が算数障害の概念を知らなければ、勉強が足りないからだって思っちゃいますよね。

熊谷:それが早期にわかるためにも『算数障害スクリーニング検査』というのを学研から出したんです。30秒で10問の問題を解くというもの。時間制限を設けて問題を解く。そうすると計算する速さが大事になる。制限時間の中で、できないという場合にその子たちに網というかスクリーニングをかけることになるんです。

算数を使う体験の減少と合理的配慮

—今、キャッシュレス決済が増えていますけどどう思いますか?

熊谷:よくないですね(笑)お金を持ってお店に行って値段をみて、お金を出して払うっていう流れが子どもには必要ですね。生活の中でいかせる算数を身につけてほしいです。
 昔は駄菓子屋さんがありましたよね。大体小学校で習うような10円20円という単位でお菓子が買えたんですけど。あれが勉強になってたんです。
 また、兄弟が少ないので、分け合う場面が少ないですよね。ホールのケーキを分けるとか。圧倒的に昔に比べると幼児期から算数を使う経験が減ってきてます。“ダルマさんが転んだ”で10数えて待つとか、そういうのが重要なんですね。お風呂で100まで数えるとか。

—スゴロクとかでも3が出たら3マス進むとかは、数詞と数字と具体物のマッチングのトレーニングになってますよね。 

熊谷:計算の訓練により正確に計算が解けるというより、生活の中で使える数の量的な概念の理解が大事ですね。4個もらえたら嬉しかったとか、1個しかもらえなかったから悲しかったとか。情緒的なものと結びつけることが重要なんです。
 算数障害って難しいんですけど、やっぱり頑張りたいと思っても努力が足りないみたいに思われる子ども達がいることは心配です。親がこんなこともわかんないの?みたいに子どもを見ちゃうのが可哀想。

—私の経験では、親が算数障害を受け入れるまでにすごいハードルがありました。そうですかって、親はすんなりは受け入れられなかったです。そんなはずはないって。でも、受け入れないことには進めない。親は葛藤あると思うんですが、算数につまずいているお子さんがいる家族に向けてメッセージはありますか?

熊谷:そうですね。例えば算数障害って認められれば、今は合理的配慮があります。
 例えば大学の共通テストでも、時間配分割り増しもできます。計算に時間かかる人は、1.3倍まで延長することができる。障害とわかったらむしろその立場で支援を受けることもできるんです。
 障害って言われるとショックかもしれないですけど、それで悪いことばかりじゃない。それを使うことによってもっと自分を発揮できるような場所や場面に行くことはできるので。
 国連と2014年に障害者権利条約を結んだのは非常に大きかったです。その前に障害者差別解消法ができて、国内法をきちんと整備してから日本は条約を結んでいるので。合理的配慮をしなきゃいけないという法的な裏付けもあるんです。
 会社に入った時なんかは、合理的配慮をしてくださいね。それが会社の義務ですよって言っちゃった方がいいですね。それがなくて普通のごく一般的な人達の中でやっていくのはすごく大変ですよね。

—なるほど障害がわかっている方が配慮を求めやすいこともあるんですね。それ聞くだけでも気持ちが違うと思います。本日はありがとうございました。

熊谷恵子(くまがいけいこ) 元筑波大学人間系教授、筑波大学名誉教授。研究は、発達障害についての心理学を行ってきた。これまで、主に学習障害の中の算数障害、および視覚の過敏症の研究を行ってきた。臨床心理士、公認心理師、言語聴覚士、特別支援教育士SV。

熊谷恵子先生監修の新刊です!もしさらに詳しく知りたい方はぜひこちらを読んでみてください。↓



取材・撮影 水木志朗

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