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三省堂書店神田神保町本店定点観測から考える、「何のために書店をやってるの?」という問い

「誰も来ねえよあんな分かりづらいとこ」と本気で心配した地獄のような立地にある仮店舗(ここに書けないレベルで仮店舗営業中いろいろあったのもちょくちょく耳にしてる)での営業を終え、2026年3月19日(木)、三省堂書店神田神保町本店がついにリニューアルオープン。

書店っていうのは儲からない業態なので基本的にもう新しく作る意味がないんですわな、当たり前の話ですけど(※https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260706-books25fy/ (※リンク先 全国「書店経営」動向調査(2025年度)リポート・帝国データバンク)。だからリニューアルオープンとはいえ、新規にデカい売り場が都心にできるってのは今後数十年起きないであろう激レアケースであり(……と書いてたらつい昨日、東京駅八重洲口より地下直結の大規模複合施設『YAESU CORE(ヤエス コア)』に八重洲ブックセンターが入るって話が浮上してました)、個人的にはワクワクというか、お手並み拝見というか、未来の書店をどう三省堂書店が考えているのかというところ――つまりは、売り場・蔵書に関してどう三省堂書店神保町本店らしい色を出していくのだろうか、というところ、大変関心を寄せておりました。

もちろん開店初日に突撃しました。近くの書泉さんのお偉いさんのお顔なども拝見いたしまして、それなりに盛りあがっておりましたね。

ただ、フロアを廻って棚を見ていくうちに、個人的には
なんとなく違和感というか、コレジャナイ感が強くて。

ネットというかXでは在庫量が減った云々が叩かれてましたけど、私個人的にはそこは仕方ないのかな、と。お客様導線しっかりさせて商品が目立つ陳列をするなら在庫量にしわ寄せがいくのは仕方のないことなので。そもそも在庫量蔵書量でAmazonとかジュンク池袋に勝とうとしてはならんのです、売り場の容積的にどだい無理なんだから。問題はそこじゃない。

1階のフェア催事コーナーが鬼のように奥まってる(これ見つけるのほぼ謎解きに近いので皆さんぜひ探してみてほしい)とか、POPをつけるのをほぼ許さないとか、1階以外は平台の平積みはほぼやらないとか、棚の上にジャンル表示がないとか中ジャンル小ジャンルインデックス差さないとかはもうお店の方針なのでそこも仕方ない。売り場にガチャガチャした要素を持ち込まないさっぱり感、清潔感(Cleanliness)重視というのは私も嫌いじゃないし今っぽい。問題を感じたはここでもない。

棚の商品(選書)が由緒正しき三省堂書店神保町本店にしてはあからさまに取次主導すぎやしないか、もう5カ月経ってるぞ

開店初日ばーっと棚を見て思ったのは商品ランクごとの取次配本がしっかり入りすぎてる印象で、謎の2挿し3挿し(棚の挿しがABBCDDDEFGHHIJKLMN・・・みたいになってること。伝わるかなー?書店員ならわかるよね!笑)が各棚で多発していたことなんよね。平台がないから棚下にストックを持たない運用体制になっていると思うので、開店に合わせての取次送り込み初回仕入れをそのまま棚にぶち込んでいるだけ、ってのはわかるんよ。開店初日から完全に選書しておけなんてこれっぽっちも思ってない。無理だもんそんなの。でもストーキングのようにこの店を定点観測しているけど、それが改善される気配がないのがひじょーに気になる。

自分が書店員やってたときって2挿し3挿しやるくらいならそれ抜いて1冊でも多くの種類の本を挿したかった。相当棚挿しの回転がよい売れるものでやっと2挿しギリギリありかな、くらい。技術書とか資格書なら品切れ即死傾向があるので2~3挿しはありなんだけど、文芸書・文庫コーナーで3挿しは楽をしすぎ、ありえない。この店たまに5挿しとかあるからね。

ここで書店員がやるべきこととしては、手元に全点注文書を置いて、2挿し3挿しで売れてない作品を抜いて、古いけど売れそうな既刊本を入れること。Amazonにジュンク堂に在庫量で勝てるわけないだろ、ってさっき書いたけど、こういうとこで地道に「欲しい本がなかった」って状況は改善できる。やってる? やってなさそうなんだけど。

そもそも売り場にマジで書店員がいないんよ。これこの店だけでなく全国的に起こっている現象と俺はにらんでいるんだけど、たぶん朝か閉店後に棚整理したらそのまま放置するのが昨今の書店経営のトレンドなんだと思う。お客様に話しかけられて仕事の手が止まることもないし、そもそもクソ邪魔だからねお客様が探されているあいだに書店員に仕事されるのって。

でも、それが許されるのってTSUTAYAとかじゃね? ここ天下の神保町本店よ? においがしなさすぎる、書店員の匂いが。初老の書店員のじいさんがよたよた歩きながら店内をうろうろしており、お客様と談笑しながらこだわりの選書で客をうならせる、みたいなイメージって(たとえそれがファンタジーでも)もっとあってもよくないか? そのイメージに近づけるのが三省堂書店神保町本店の、この町のシンボルとしての役割ではないのか? って思うのよ。

この店独自の仕掛けを感じられない。

辻村深月の『ファイア・ドーム』大変よござんしょ、でも『ファイア・ドーム』を多面で売るより、開店時にやっていた旧三省堂神保町で一番売れたという外山滋比古『思考の整理学』をもっとでっかく500冊レベルで置いて絶対買え今買わないと後悔するぞくらいの勢いで売るほうがよくない?

国書刊行会であり、ミシマ社であり、点滅社であり、共和国であり、ブルーモーメントであり……つまりはトランスビュー仕入れや直取引みたいな「ここにしかない出会い」「この本を買うことで独立系・小規模出版社の本、そこに存在する著者をお迎えでき、このいつ斃れてもおかしくない業界を支えられる」が入っているワクワク感、もっとつけてよくない?

このワクワク感は同じ神保町なら東京堂書店のほうが今のところ遥かに上。
単体企画力なら書泉ブックセンターのほうが今のところ遥かに上。

まだ開店して5カ月、なのかもしれないけど、違う、もう5カ月も経った。

ZINEやってたのは面白いなって思ったけどZINEの選書して仕入れるのって要するにクリエイター、著者支援でもあるわけじゃん。あの棚をめぐってZINEのクリエイターたちがあそこで売りたいって思える、しのぎを削るようなムーブメント、起こせるでしょ? 三省堂書店神保町本店なら? どうしてあのままなの? 売り上げを取る棚ではないよあの棚は、お客様とZINEクリエイターとの出会いのための棚だよ?

取次の薦めるようなベストセラーなんか神保町に買いに行っているわけねえだろ、ってのが分かってない。

神保町という歴史ある本に由緒のある街へ繰り出して、そのシンボルである三省堂本店に寄り、自分にとって敷居の高そうな本を手にとり、この超々物価高の大不況のさなか本などという人生で全く必要のない半ば高等遊民のための商品をレジで買うという自傷行為をすることで、「あ、私いま知的好奇心を満たすというドキドキを味わえてる!!」という日常では味わえない稀有な体験をし、インスタ用の画像を撮りながらなんかよく知らないけど有名らしいかなり独特なスパイスの効いたカレーを食べ、落ち着いた雰囲気のあるカフェに立ち寄ってゆっくりしてさっき買った本を開いてまたインスタする……。

……という、おしゃれでハイソサエティっぽくて知的な「ちょっとゆとりのある生活のなかの三省堂書店神保町本店」という位置づけが、まっっっっっったくできていない棚、という印象しかないんすわ。そもそも3フロアしかなくて(※4フロア目はなぜかジャンプショップであり)、池袋ジュンクの在庫量に勝てるわけないのに、品揃えがただ単に「ちょっと大きくなった文〇堂」みたいになっていて、ほんとにこれからこの店どうするのこれ、という話ですよ。ほんま。

効率化、ノータッチ運用、クリーンな売り場。バックヤードのオペレーションを減らし、人件費を削り、取次のデータをそのまま流し込んで作られた売り場。ビジネスモデルとしてそれが正解だという経営判断は、一書店員(元)として理解はできる。

でも、ここは神保町だ。そして「三省堂書店神保町本店」だ。
お客様がこの場所に求めているのは、アルゴリズムが弾き出した「あなたにおすすめの売れ筋」の現物確認じゃない。

いや、もっと深いところまで話そうか?
これはネットでもAIでもあんま書いてない話。特別ね。
みんなには内緒だよ?

ズバリ売り上げのほとんどは売れ筋にある。
多くのお客様は結局売れ筋を買う。
自分の未知の価値観との事故のような遭遇がおこるなかで、その出会いを愛するが、結局売れ筋も「同時に」お買い上げになっていただけるのだ。売れ筋を置かずマイナー本だけ置けばいいという意味ではけしてない。

成城石井に行って「聞いたこともない輸入チーズや食品」をワクワクしながらカゴに入れるけど、結局「明日の食パンと牛乳」も一緒に買ってレジに並ぶでしょ? 厚切りタンが有名な焼肉店に行ったって、結局カルビも頼んでること、多くない?

食パンや牛乳やカルビ(=売れ筋)が売り上げの柱なのは間違いない。でも、それ『だけ』を綺麗に並べたお店に、人はわざわざ足を運ばないのだ。 この三省堂本店に求められているのは、単なる「効率よく食パンが買える倉庫」ではない。

「こんな本、誰が読むんだよ」と苦笑しながら「ま、俺は買うけどね」と思わず手を伸ばしてしまうような、棚の後ろにいる「狂った選書者(書店員)」の気配、この異常な古書店街を誇る町の持つ雰囲気そのものを、三省堂書店神保町本店は売るべきなのだ。

「何のために書店をやっているのか?」
「何のための三省堂書店神保町本店なのか?」

店舗が街から消え行き、本がデジタルで完結する時代に、あえて巨大なリアル店舗を都心に構える意味とは何なのか。 もしそれがコストコのような倉庫でしかないのだとしたら、私も含めた非日常を求める文学ジャンキーたちはおそらくそこには行かない。結構遠いもん(笑)
Amazonで明日には届く本だけを読んでいればいい。AIでおすすめされた本だけを読んでいればいい。

観光地だから行く。上等でしょう。求めているのは、日常の破壊と狂った出会いなのだ。昔、旧神保町本店では1階でえんえん「古地図フェア」をやっていた。昔の東京の街並みを遺した古地図を売っていた。意味がわからないけれど、俺はこのフェアが大好きだった。神保町らしさを感じていた。

リニューアルから5カ月。綺麗になった三省堂書店神保町本店に入るたび、俺は期待と失望のあわいに立ち尽くす。三省堂書店神保町本店が、神保町の誇りを取り戻して覚醒するためには、書店員なのかはさておき、超・ド・アナログな、人の力が必要だ。このままでは、かなり良くない予感がする。

あの2挿し3挿しの棚を確かめに足繁く神保町へと向かってしまうのは、期待しているからでもある。きっとできる。信じている。

リアル書店が全部潰れても、ここだけは、神保町のために残ってほしいなって、思っているんよね。がんばって。


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