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浦賀和宏の静かな世界

 浦賀が死んだ。天才だった。
 初めはまた新作の宣伝かなと思った。記事書いてるのは桑原銀次郎とかいう名前の人なんでしょって、みんなそう思った。
 初めて浦賀作品を読んだのは19歳の頃だったように思う。今手元にないのでわからないが、『記憶の果て』はノベルスで500ページぐらいだったと思う。本を読むのが遅い僕が最初の日は100ページ読んだ。次の日はまた100ページ読んだ。そして3日目に残りの300ページを一気に読んだ。やめられなかった。止まらなかった。姉の異常な愛情、または安藤直樹はいかにして笑うのをやめて音楽とセックスにしか感動しない男になったか、という安藤シリーズの幕開けだった。面白いし天才だし表紙かっこいいし面白い。デビュー作からそうだった。一気に読ませる力があった。続きが気になってしょうがない、この物語はどのように収束するのか、そしていつ人を喰うのか、そうやって何冊も浦賀作品を読んでいった。
 はっきり言ってこんな人を喰ったようなというか人を喰う小説がそんなに売れるわけない。物好きなコアなファンしかいないんだろうなと思っていたしその通りだった。松浦純菜シリーズにしてもガンダムの話ばっかりしてたりしてなんなんだこいつなんぶらばんばんばん、――雨が降っている。ていう浦賀和宏の壊れた世界なのに、終幕は美しいんだ。ぜひ最後まで読んで心が震えるがいいや。
 かと思ったら『彼女は存在しない』が大ヒット。そんな馬鹿な……。本屋に積まれている! 確かに『地球平面委員会』は面白かったけど、それまで幻冬舎文庫から出ていた『ファントムの夜明け』まですべて増刷とかなっててファンは戸惑いを隠せない。浦賀和宏が売れっ子作家になる時代が来るなんて……。(でもよく考えたら乾くるみも『イニシエーション・ラブ』)次は積木鏡介かな(『誰かの見た悪夢』超好き)。
 それからというもの新作をどんどん出して、桑原銀次郎シリーズも(鬱屈した若者じゃなくてかっこいい主人公で)好きだけど、もう昔の作風は帰ってこないのかなって寂しくなった。そんな折、『究極の純愛小説を、君に』とかいう究極の浦賀小説とかイルカとたわむれる『姫君よ、殺戮の海を渡れ』とかが出版されて我々としてはガッツポーズなのだ。世間受けの良い『オーシャンズ・イレブン』とかでヒット飛ばして自分が本当に撮りたい映画の予算を確保すると言われるスティーブン・ソダーバーグみたいだと思った。
 最近の作品だとMの女シリーズがシリーズとは銘打ってない(はず)だけど、作品間のリンクがあったりして複数の作品を読まないと理解し難かったりして、桑原銀次郎も顔を出したりして、浦賀和宏の真骨頂だよなぁと思っていた。でもスターウォーズのエピソード5だけ観てもおもしろいのように作品単独でも面白いし、他の作品を読んで理解する必要性はないのかもしれない。これがわからない。
 気づいたら僕が新刊の発売日に小説を買う作家は浦賀和宏だけだった。ツイッターでフォローしてる作家も浦賀和宏だけだった。でも、もう、彼は存在しない。僕はこれから誰の新刊を発売日に買えばいいのだ。本屋行くたびに浦賀の本を買えばいいのか。自制しろ。でも、もっと早くそうしていればあの名作『透明人間』が文庫化することもあったのかもしれない。空からは色んなものが降ってくるんだからな。僕に才能は降ってこなかったけど。

 天才は早死する。
 個人的な話だが、天才した早死あるいは早死した天才と聞いて最初に浮かぶのはアイルトン・セナとカート・コバーンだ。ふたりとも94年に死んでしまった。2大ヒーローが同じ時期に。そしてそれから15年。2009年に志村正彦とアベフトシとマーク・リンカスが逝った(と思ってたけどマーク・リンカスは2010年だった)。あと天才として思い浮かぶ鷺沢萠は2004年だった。
 そんな数字に意味はないけど、(2009年から)15年後の2024年じゃないところに、並み居る天才たちからも外れた天才ぶりを発揮しているなんて思った。
 これは賛辞です。もちろん生きていてほしかったしとてつもない喪失感と悲しみがあるけど、かっこいいなって、敵わないなって思った。天才とおだてられ、そのとおり天才として生き、天才みたいに早死してしまった。死ぬときまで天才なのかよ。ぐすん。悔しいけど、(失礼な言い方かもしれないけど)かっこいいな。涙が止まらないけど。
 41歳だったということは、KinKi Kidsの二人が同い年ぐらいだなぁと思った。堂本剛が死んだって聞いたら驚きだろう。それぐらいの衝撃なわけだ。まだそんな歳なわけだ。堂本光一が死んだってなっても、舞台で階段転げ落ちたりして無茶やってるからまぁそんなこともあるだろう(失礼)とか思ってしまうけど(今宮純亡き今、光一にあとを継いでほしいぜ)。
 我々は今、浦賀のいない未知の世界に来ていて、果たして世界は崩壊してしまわないだろうか、均衡を保てるだろうかと不安です。でもきっと彼は天才としてデビューして秩序を維持するために過去に戻ったんだろう。喪主が母親ということは父親はもう亡くなっている可能性が考えられて、自分の父親として、自分が生まれるために過去に戻ったのだ。そんな妄想を描いたあの名作が一番好きです(2番目は空から色んなものが降ってくるやつ)。

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 京急本線の果て、浦賀駅。聖地(?)とも呼べるその場所に行ったことがある。ただの田舎町だ。と思うがバスに乗って横須賀美術館とかに行ける。その前に海に面した観音崎京急ホテルがあってリゾート地です。ボートの免許とったりできて走水神社とかいう古い神社があったりする。横須賀の街も近く、ハンバーガー食べたり猿島に冒険に行ったり、都心から日帰りで行ける実は素敵なところです。よこすか満喫きっぷで行くとよい。
 僕たちはその先に来てしまったのだ。本当の聖地である「浦賀行」に乗って(ペンネームの元ネタが弘明寺の祖母の家に行くのに浦賀行に乗っていたからという)、その果ての向こうにたどり着いてしまった。
 その向こうに来てしまったから知ったことがある。訃報で本名が明かされるなんて、浦賀作品のトリックみたいだと思った人は多いはずだ。浦賀作品では、シリーズ1作目では明かされない謎が残っていたりして、2作目3作目と続くごとに徐々に世界の様相が明らかになったりして、作品間の見えなかった繋がりが後々明らかになったりして我々はエクスタシー(?)。それを最後の最期にもやってくるなんてどこまでエンターテインメントを提供してくれるんだ。感動だよ。やっぱりかっこいいよ。そしてそれ本当に本名だったのかよって。しかも遺作が、殺された浦賀和宏の遺作という設定で、怖いぐらいにできすぎていて、本人の予期しないところでも天才っぷりが発揮されてしまった。昨年にスターウォーズのエピソード9の邦題が発表されたときに、

て、ファンは震えたよ。すげー。さすが浦賀って。

 そうやって、映画が好きだった浦賀さんを知ったのはツイッターのおかげだった。
 最初、浦賀和宏がツイッター? 謎めいた人なのにツイッターなんかやるんだって不思議だった。ファンは(勝手に)作者を作中のキャラクタと重ね合わせてしまいたい心理があって、浦賀和宏という人は安藤直樹みたいな人なんだと思っていた。勝手なイメージだ。そうであってほしいという願望もあった。謎めいた男だったのに、浦賀先生は映画が好きで、穏やかで、すごくいい人なんだろうなって感じた。ファンを大事にして、浦賀は人を喰ってるみたいなファンのイメージを壊したくないって述べてたりしてた気がするし、世間のイメージを逆手に取って、作者と同名のキャラクタを書くときに利用するとか応えていて(IN★POCKET 2014年4月号)、もっとクールだと思っていたらちゃんと読者の事意識してるじゃんって嬉しかったな。
 もう新しいツイートを読めないのは寂しいな。心が荒んでいるときでも、浦賀ツイートがタイムラインにあると、わーいうらがしぇんしぇいだ、って穏やかな(?)気持ちになったものな。
 鬱屈した少年たちの小説を読んで鬱屈した青春を一緒に過ごしたんだよな。新刊の発売日にわくわくしながら買いに行った思い出。古本屋で絶版の浦賀小説をさがした思い出。いつも楽しませてもらった。
 講談社ノベルス30周年企画として、メフィスト誌上で初めて読んだノベルス(だったと思う)として『十角館の殺人』を紹介していて、それで綾辻行人読んだことなかったけど読もうと思ったのも浦賀さんのおかげだ。一番好きな作家は島田荘司で、一番好きな作品は『異邦の騎士』だってこれもまたIN★POCKETのインタビューで応えているけど、まだ読んでいないなぁ。『ケインとアベル』もよんでないヤ……。読んでツイッターに感想書いたらリツイートしてくれたのにな……。だいぶ前に『12人の怒れる男』を観た僕の感想をリツイートしてくれて嬉しかったな。浦賀さんも好きなんだって。名作すぎるからな。

 今度、川崎の映画館に行こうと思う。川崎の中の楽園。そしてこの、

かっこいい。大人の男だ。そんな大人になりたいぜ。
 きっと川崎の映画館にいったら、浦賀の亡霊がいて、僕になにかを言うだろう。安藤直樹のように。あの台詞をいってくれ。
「し……て……まえ」
 え?
 あの名台詞?
 音楽とセックスにしか感動しないことに決めた男の?
 あの?
 死んでしまえ?
 ……言われたい!
 ……え?

「知ってしまえ」

 そうだ。知ってしまえばいい。浦賀和宏の静かな世界。知ってしまったらもうあとには戻れないぞ。浦賀と出会わなかった自分は、昔好きだった人の、彼女の倖せを祈れないままだったろう。世界でいちばん醜い子供のままだったろう。とにかく、天才の書く小説は面白かった。これからも何度読んでも面白いだろう。とっくに知ってしまった我々は、天才と同じ時代に生きて、リアルタイムで新刊を読めた幸せ。どうもありがとうございます。
 晩御飯はアミルスタンの羊の肉にしますネ。

 生まれ来る子供たちのために

 内容をほとんど覚えていないものもあるけど、代表作を紹介するよ。知ってしまえ。※個人の感想です

・記憶の果て THE END OF MEMORY(デビュー作。別名、電脳戯話)
・時の鳥籠 THE ENDLESS RETURNING(最高傑作。とても静かだ)
・記号を食う魔女 FOOD CHAIN(羊)
・透明人間 UBIQUITY(最大名作)
・松浦純菜・八木剛士シリーズ(青春小説。異能バトル(?)。そして救い)
・眠りの牢獄(「著者畢生の悪仕掛け!」←文庫版にもこの文句載せてほしかった)
・浦賀和宏殺人事件(YMOマニアのYMOマニアによるYMOマニアのための密室本。なんで俺が密室本なんか書かないといけないんだ、他にも氷川透とかいうかっこいい名前の人とかいるだろっていうシーンが印象的(『インサイド・アウト』待ってます))
・彼女は存在しない(なぜか売れた。世間的には代表作)
・地球平面委員会(名作)
・彼女の血が溶けてゆく(桑原銀次郎シリーズの幕開け。溶けて「ゆ」くか、溶けて「い」くか迷っていたよね)
・姫君よ、殺戮の海を渡れ(浦賀ンダムΖΖ(イーノとかリィナが出てくる)。萩原重化学工業シリーズ番外編みたいな感じ)
・緋い猫(異色作。横溝リスペクト(?))
・デルタの悲劇(遺作)

『AKIRA』が4KでIMAX上映されるってサ。観たかったろうな……。

4/26追記 殺人都市川崎 (ハルキ文庫)  2020年5月15日発売予定!!!


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縁川央 もっと本が読みたい。