男性は老化するとY染色体が喪失する!!喪失するとどうなるか??(Y染色体シリーズ3/4)
以前に将来、男性のY染色体が消滅する可能性の記事を書きました。
今回は人類の男性のY染色体の消滅でなく、個人の男性のY染色体の喪失がテーマです。
男性の体内で、年齢とともにY染色体が失われる現象があることをご存じでしょうか。
この現象はY染色体喪失と呼びます。
Mosaic Loss of Y chromosome(mLOY=エムロイ)
mはモザイク状にという意味です。
そして、現在ではこのmLOYが心臓病、アルツハイマー病、がん、感染症の重症化などさまざまな健康リスクと関連する可能性が指摘されています。
さらに興味深いことに、この現象は男性の寿命が女性より短い理由の一つかもしれないとも考えられ始めています。
今回は、近年急速に研究が進んでいるY染色体喪失(mLOY)について解説しましょう。
1.加齢で起きる「Y染色体喪失(mLOY)」とは
ヒトの細胞には通常、23対46本の染色体があります。
そのうち性別を決める性染色体は女性がXX、男性がXYです。
しかし、男性の場合、年齢とともに細胞の一部からY染色体が消えてしまうことがあることが分かってきました。
その結果、体内にはXYの細胞とYを失ったXだけの細胞が混在する状態が生まれます。
このように異なる遺伝情報を持つ細胞が混在する状態を遺伝学ではモザイクと呼びます。
そのため、この現象はモザイク型Y染色体喪失(mLOY)と呼ばれています。
2.mLOYはどのくらいの男性に起きるのか
mLOYは決して珍しい現象ではありません。
研究によると、この現象は年齢とともに急激に増えることが分かっています。
一般的には40代では比較的少ないものの、60代頃から急増し、70〜80代ではかなりの割合の男性で観察されると報告されています。
研究によってばらつきはありますが、代表的な目安は以下の通りです。
40代:0〜3%程度
50代:約5%前後
60代:10〜15%程度
70代:15〜25%程度
80代以上:30〜40%以上(場合によっては50%近く)
英国バイオバンク(PMC)におけるモザイク染色体Yの喪失予測因子および死亡率との関連
つまり、mLOYはある意味で男性の老化現象の一つと考えられる可能性があります。
また、研究ではmLOYの発生には生活習慣も関係している可能性が示唆されています。
特に関連が強いとされているのが喫煙です。
喫煙者では非喫煙者と比較してY染色体喪失の発生率が数倍高いという研究結果が報告されています。
これはタバコによってDNA損傷、細胞分裂エラー、酸化ストレスなどが増えるためではないかと考えられています。
また、禁煙すると、mLOYの割合が低下する可能性を示唆する研究もあり、生活習慣がこの現象に影響を与える可能性が指摘されています。
3.Y染色体喪失とさまざまな病気リスク
2020年代に入り、mLOYに関する研究は急速に増え、その中で最も注目されているのが病気との関連性です。
研究ではY染色体を失った細胞が多い男性ほど、いくつかの病気のリスクが高い可能性が報告されています。
a.心血管疾患との関連
mLOYと最も関連が指摘されているのが心血管疾患です。
具体的には動脈硬化、心筋梗塞、心不全などとの関連が研究されています。
最近の動物実験では、Y染色体を失った免疫細胞が増えると心臓の線維化(心筋が硬くなる現象)が進むことが分かりました。
心臓の線維化が進むと心臓のポンプ機能が低下し、心不全の原因になります。
つまり、mLOYは心臓病の新しいリスク因子である可能性があるのです。
b.アルツハイマー病との関連
mLOYはアルツハイマー病との関連も指摘されています。
疫学研究ではY染色体を失った血液細胞が多い男性ほどアルツハイマー病の発症率が高いという結果が報告されています。
その理由として考えられているのが免疫系の異常です。
脳の老化や神経変性には免疫細胞や炎症反応が深く関わっています。
Y染色体を失った免疫細胞が増えることで、炎症反応の調節がうまくいかなくなる可能性があります。
c.がんとの関連
mLOYはがんの発症リスクとも関連する可能性があります。
特に膀胱がん、前立腺がん、血液がんなどとの関連が研究されています。
Y染色体を失った免疫細胞が増えると、本来働くはずのがん免疫監視機構が弱くなり……
がん細胞を排除する能力が低下する可能性があります。
d.感染症の重症化との関連
近年のmLOYが感染症の重症化とも関連する可能性が指摘されています。
特に新型コロナではY染色体喪失の割合が高い男性ほど重症化や死亡リスクが高い傾向があることが報告されました。
男性の新型コロナ死亡率が女性より高かった理由の一部としてmLOYが関係している可能性も議論されています。
4.男性の寿命が女性より短い理由の一つ?
以前はY染色体は男性になるための染色体と考えられていました。
しかし、現在ではY染色体には免疫調節、炎症制御、細胞増殖などに関わる遺伝子が含まれていることが分かっています。
つまり、Y染色体は単なる性決定遺伝子ではなく、健康維持に関わる遺伝情報も持っている可能性があるのです。
そのため、免疫細胞がY染色体を失うと慢性炎症、組織修復の異常、免疫機能低下などが起きる可能性が考えられています。
世界のほとんどの国で男性の平均寿命は女性より短いことが知られています。
これまでその理由として喫煙、飲酒、男性ホルモン、生活習慣などが考えられてきました。
しかし、最近では染色体構造の違いも関係している可能性が指摘されています。
女性はⅩ染色体を2本持っていますが、男性はXとYです。
もし、Y染色体を失う細胞が増えると、男性の体内にはX染色体1本しかない細胞が増えることになります。
この状態が臓器機能や免疫に影響する可能性が研究されています。
実際、マウスの研究では心臓機能の低下、心筋線維化、寿命短縮などが確認されています。
まとめ
加齢とともに男性の体内で起きるY染色体喪失(mLOY)は、近年急速に研究が進んでいる分野です。
現在の研究では、この現象が心血管疾患、アルツハイマー病、がん、感染症の重症化などと関連する可能性が指摘されています。
そして、この現象は、男性の寿命が女性より短い理由の一部かもしれないとも考えられています。
かつては「男性を決めるだけの染色体」と思われていたY染色体ですが、現在では健康や老化に関わる重要な役割を持つ可能性が見えてきました。
人間の老化の仕組みを理解するうえで、このY染色体喪失という現象は、今後さらに重要な研究テーマになると考えられています。
参考資料
本記事は下記の書籍を参考にしています。
詳しく知りたい方はこちらの本をご覧ください。
また、本書の内容の一部がダイヤモンドオンラインで読めます。
同じ著者が同じテーマで別の本も出版しています。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断、治療、予防を目的とするものではありません。
体調に不安がある場合は、医師等の専門家にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は4月2日(木)午前10時です。
寿命は男性が女性より短い理由についての記事です。
少しでもご参考になれば、スキを押して下さい。
