三毛猫にオスが3千~3万匹に1匹しかいない理由は?性染色体が関係するの?
前回まで性染色体の話を書いてきましたので、今回もその延長の記事を書きます。
テーマはオスの三毛猫についてです。
なぜ、性染色体の話の延長で三毛猫が出てくるの?と思ったかもしれません。
三毛猫のオスは大変珍しいと言われています。
そのせいか古くから航海安全の守り神の福猫と呼ばれています。
実際にオスの三毛猫が南極観測船「宗谷」に乗せられ、南極の昭和基地に連れていかれました。
一般には下記の記事の様に、約3千匹から約3万匹に1匹しかいないと言われています。
私もオスの三毛猫は少ないことは知っていましたが、それでも3匹に1匹くらいかなと思っていました。
実際に具体的な数字を知ると、え!こんなに少ないの!と驚きました。
1.なぜ三毛猫はこんなにオスが少ないのか?
三毛猫の本質は毛色ではなく、 X染色体遺伝子の組み合わせです。
三毛猫には黒色メラニン色素を茶色メラニン色素に変換するオレンジ遺伝子があります。
なお、外国では毛の色を茶色でなく、オレンジ色と見て名付けられた遺伝子名です。
オレンジ遺伝子の内、黒い毛を茶色にする遺伝子を大文字でO遺伝子と表し、黒い毛をそのままにする遺伝子を小文字でo遺伝子と表します。
(遺伝子名は通常イタリック(斜体)で表記します)
この記事では三毛猫の毛色を黒・茶・白で記述します。
三毛猫の黒と茶はX染色体上のオレンジ遺伝子の対立遺伝子によって決まります。
通常の性染色体はメスがXXで、オスがXYです。
ここで決定的なポイントはオスはX染色体を1本しか持たないという点です。
そのためオスは黒か茶かどちらか一方しか発現できません。
一方、メスはXを2本持つため、黒と茶を同時に発現できます。
これが三毛猫がほぼ全てメスである理由です。
2.それでは、なぜオスの三毛猫が存在するのか?
先ほどの説明だと、三毛猫は理論上ほぼ全てがメスになるはずで、オスは存在しないことになりますが、例外が存在します。
ここで登場するのが、性染色体の通常でないパターンです。
三毛猫のオスはほぼほとんどが XXY型(クラインフェルター型)です。
つまり、染色体構成はX染色体が2本とY染色体が1本となります。
この状態ではYがあるため生物学的にはオスで、Xが2本あるため毛色はメスと同じ条件になります。
なお、正確には、モザイク個体(キメラ)や遺伝子転座ということもありますが、ここでは深入りしません。
3.三毛模様が生まれるメカニズム
三毛模様は単に2色あるからできるわけではありません。
鍵となるのはX染色体不活性化です。
哺乳類ではX染色体が2本ある場合、 どちらか一方をランダムに不活性化するという仕組みがあります。
また、細胞レベルでのモザイクが存在することが重要です。
「O遺伝子(茶)がオン・o遺伝子(黒)がオフ」と「O遺伝子(茶)がオフ・o遺伝子(黒)がオン」いう選択が発生初期の細胞でランダムに起こります。
そして、細胞分裂により 同じ選択をした細胞群がクローンとして広がるため、黒のパッチと茶のパッチが体表に現れます。
これが モザイク発現(遺伝子発現の空間的不均一)です。
三毛猫の毛の白はX染色体とは別です。
これはメラノサイト(色素細胞)の移動を制御する遺伝子によって、 色素細胞が存在しない領域、つまり白が形成されます。
三毛猫はオレンジ遺伝子と色素細胞を作らない遺伝子の複合現象です。
オスの三毛猫の特徴はヒトのクラインフェルター症候群と本質的に同じです。
したがって、ほぼ不妊で、染色体の本数に由来する健康リスクがあります。
また、クラインフェルター症候群と同様に脚が長いという話もありますが、特に研究報告はないようです。
最後のこのオレンジ遺伝子が2025年に世界で初めて日本の大学で特定されましたので、紹介します。
【コラム】九州大学が「三毛猫の遺伝子」を特定
2025年5月、九州大学を中心とする研究グループは、世界で初めて三毛猫の茶の毛色に関与する遺伝子領域を特定しました。
具体的にはX染色体上のARHGAP36遺伝子領域の欠失が茶色の発現に関与していることを解明しています。
ARHGAPはエーアールエイチギャップと読みます。
実は、「三毛猫はなぜ三色になるのか」という仕組み自体は遺伝形式は確立していましたが、分子実体が不明でした。
今回の研究によりX染色体上の具体的遺伝子とその変異の実体が初めて実証されました。
この研究の意味は単なる猫だけの話ではなく、 エピジェネティクス(遺伝子のオン・オフ制御)の理解を深める重要なモデルになります。
参考資料
なお、動物行動学者でエッセイイストの竹内久美子さんの『オスの三毛猫の謎』に詳細な解説があります。
このエッセイは『遺伝子が解く! 男の指のひみつ』に収録されています。
ここでは白の遺伝子が2種類でてきますが、本記事では複雑さを避けるため、あえて複数あるような表現はしませんでした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は4月13日(月)午前10時です。
次回のテーマですが、猫の記事を書きましたので、猫の血液型にします。
猫の輸血は命がけなんです。
読者離れが心配ですが、記事のテーマの範囲を広げたいと考えています。
よろしくお願いいたします。
少しでもご参考になれば、スキを押して下さい。
