2種類の血液型を持つ血液キメラの人!!A型とB型が混ざってもなぜ固まらないのか?!(キメラシリーズ2/5)
(アイキャッチ画像は2枚ともpixabayのフリー画像より引用 右:ギリシア神話の怪物キメラ)
前回はキメラについて解説しました。
キメラとは分かりやすく言うと、2つの命が1つになる現象です。
厳密には、異なる受精卵に由来する細胞が1つの個体の中に共存している状態またはその個体を指します。
つまり、キメラは2種類のDNAを持っています。
キメラは三毛猫だけでなく、人間にも存在する現象です。
そして、血液型についてもそのような現象があります。
つまり、2つの血液型を持つ人が存在するのです。
2の血液型を持つことを血液キメラといいます。
しかし、例えばA型の血液とB型の血液を混ぜると凝集するはずですね。
※ 凝集(ぎょうしゅう)=固まること(赤血球の表面に抗体などが結合し、赤血球同士がくっついて大きな塊を作る現象)
それではなぜ、異なる型の血液が混ざっている状態でも凝集しないのでしょうか?
今回は血液キメラと2種類の血液型があっても固まらない謎について解説します。
1.血液キメラとは?二つの血液型を持つ人
血液キメラとは2種類の血液型を持つことです。
詳しくは、異なるDNAを持つ造血細胞が同一個体の体内で共存している状態を指します。
その結果として、異なる血液型の赤血球が同時に循環することになります。
この状態が生じるメカニズムの代表的なものは発生期における受精卵の融合です。
本来は二卵性双生児として発生するはずだった二つの受精卵が初期段階で融合します。
それが一つの個体として発生を続けることで、遺伝的に異なる二系統の細胞が体内に存在することになります。
例えば、A型の受精卵とB型の受精卵が初期発生で1つの個体として融合した場合です。
A型とB型の赤血球を持つ人が誕生するのです。
(なお、AB型というのは全ての赤血球にAとBの抗原があるもので、A型の赤血球とB型の赤血球が混在しているのではありません)
ただし、半分ずつではなく、どちらか一方の赤血球が多いという特徴になります。
後天的なケースとして骨髄移植があります。
骨髄移植では他人の造血幹細胞が体内に定着し、移植後には自分由来と他人由来の血液細胞が同時に存在する状態になります。
この場合も広い意味で血液キメラと呼ばれます。
異なる血液型の赤血球が同一の血管内で共存しているにもかかわらず、通常は問題が無いことが重要です。
2.異なる血液型の血液が固まるメカニズム
一般に、血液型が違う血液が混ざると危険です。
実際に輸血では適合しない血液を投与すると赤血球が凝集し、重篤な副作用を引き起こすことが知られています。
しかし、血液キメラのように体内に2つの血液型が存在する人がいることも事実です。
異なる血液型が同時に存在すれば、体内で凝集が起きると普通は考えます。
しかし、血液キメラの人間の多くで体内の赤血球は凝集しません。
この理由を説明する前に血液が凝集するメカニズムについて解説しましょう。
血液が凝集する現象は赤血球表面の抗原と血漿中の抗体の反応によって生じます。
ABO式血液型では、赤血球の表面のA抗原とB抗原の違いによって血液型が決まります。
A型の人はA抗原を持ち、抗B抗体を持ちます。
B型の人はB抗原を持ち、抗A抗体を持ちます。
AB型の人はA抗原とB抗原を持ち、抗体は持ちません。
O型の人は抗原を持たず、抗A抗体と抗B抗体を持ちます。
異なる血液型の血液が混ざると、体内に存在する抗体が赤血球表面の抗原を認識し、赤血球同士を結びつけて凝集を引き起こします。
この反応は溶血を伴うこともあり、生命に関わる重大な問題となります。
※溶血=赤血球の膜が破れ、中のヘモグロビンが血漿(けっしょう)中に漏れ出す現象
3.血液型が2つあっても固まらない理由
血液型が2つある状態とは、異なる抗原を持つ赤血球が同時に体内に存在している状態を指します。
なお、このような状態は血液キメラ(骨髄移植を含む)の他にモザイクもありますが、ここでは触れません。
例えば、前述のようにA型とB型の赤血球が同時に存在することがあります。
このような場合でも、通常は血液が自然に凝集しません。
血液キメラにおいて凝集が起きない最大の理由は、免疫系がそれらの細胞を自己として認識していることにあります。
人間の免疫系は自己と非自己を区別する能力を持っていますが、この識別は発生の初期段階で形成されます。
キメラでは異なる細胞系統が発生初期から同時に存在するため、免疫系はそれらを2つとも自己として認識するようになります。
その結果として、本来であれば産生されるはずの抗A抗体や抗B抗体が作られにくくなるのです。
異なる血液型の赤血球が互いに攻撃されることなく共存できる状態が成立します。
この現象は免疫寛容と呼ばれています。
輸血で凝集が起こる理由は、体内に存在しなかった血液が突然導入されるためです。
この場合、免疫系はそれを非自己として認識し、既存の抗体が反応して赤血球を攻撃します。
一方でキメラでは、異なる血液型の細胞が発生の初期から存在しているため、免疫系はそれらを異物と認識しません。
この違いが、体内では凝集が起こらず、輸血では凝集が起こる理由です。
4.ただし、完全に安全ではない
血液キメラの状態が常に安定しているとは限りません。
抗体が部分的に存在する場合には軽度の凝集反応が起こる可能性があります。
また、血液型の比率が大きく偏っている場合もあり、非常に不安定になることがあります。
骨髄移植の後のように免疫系が再構築される過程では、一時的に不安定な状態が生じることがあり、慎重な管理しなければいけません。
血液型の組み合わせによって理論上の反応の強さは異なります。
ただし、キメラにおいては組み合わせより免疫寛容の方が重要になります。
例えば、A型とB型の組み合わせは本来強い免疫反応を引き起こします。
しかし、キメラでは抗体そのもの産生が抑制されているため、実際には問題が生じないことが多いと考えられます。
まとめ
血液型が2つ存在する人では、異なる赤血球が同時に存在しているにもかかわらず、免疫系の働きによって凝集が起こりません。
血液が固まるのは血液型の違いではなく、抗体の有無と免疫によるからです。
血液キメラでは発生初期から2つ細胞が存在するため、免疫系は2つとも自己として認識します。
抗体が作られにくくなるため血管内で凝集が起こらないのです。
一方で輸血では外部から血液が導入されるため、免疫系がそれを異物として認識し、凝集が起こります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は5月14日(木)午前10時です。
キメラの続きで、女性(XX)型細胞と男性(XY)型細胞のキメラ人間についてです。
性別はどちらになるかということも含めて解説します。
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