Y染色体が存在しない哺乳類!!人類のY染色体が消滅しても男性は存続?!(Y染色体シリーズ2/4)
前回は将来的に人類のY染色体が消滅する可能性があるという研究を紹介しました。
もし将来、Y染色体が消滅するとしたらどうでしょうか?
男性が存在しないとなれば、人類は滅亡するのでしょうか?
最近では、Y染色体がなくても雄が生まれる哺乳類が発見され、性決定の仕組みが進化で変わる可能性も示されました。
今回はそのような哺乳類とメカニズムについて紹介しましょう。
1.「男性を作る染色体」はY染色体が絶対ではない
人間を含む多くの哺乳類では性別は染色体によって決まります。
一般的にXXは女性、XYは男性とされ、この仕組みは学校でも習うため、Y染色体があるから男性になるという理解をしている人がほとんどでしょう。
実際、Y染色体にはSRYという遺伝子があります。
SRYはスライと読み、Sex-determining region Y、Y染色体性決定領域遺伝子です。
この遺伝子が働くことで胎児は精巣を形成し、男性へ発生すると考えられています。
つまり、生物学の基本的な理解ではY染色体は男性を作る染色体とされてきました。
ところが近年、この常識を揺るがす非常に興味深い発見が報告されました。
それはY染色体を持たない哺乳類が存在するという事実です。
2.Y染色体が存在しない哺乳類「トゲネズミ」
進化生物学者を驚かせたその動物がトゲネズミと呼ばれる小型の哺乳類です。
トゲネズミは日本の奄美大島や沖縄、東アジアなどに生息するネズミの仲間で、体毛の一部がトゲ状になっているのが特徴です。
この動物の染色体を詳しく調べた研究者は、非常に奇妙な事実に気づきました。
それはY染色体が存在しないということです。
さらに驚くべきことにY染色体がなく、男性化の鍵とされてきたSRY遺伝子も存在しないにもかかわらず、オスとメスが正常に生まれているのです。
これは生物学の常識からすると非常に不思議な現象です。
なぜなら従来の理解ではSRY遺伝子がないと男性は生まれないと考えられていたからです。
この発見は「性別は本当にY染色体で決まるのか」という大きな問いを進化生物学に投げかけました。
もし、Y染色体がなくてもオスとメスが生まれるのであれば、哺乳類の性決定の仕組みは私たちが思っているよりもずっと柔軟なシステムである可能性があるのです。
3.新しい性決定遺伝子の可能性
それではトゲネズミでは何が性別を決めているのでしょうか。
現在の研究ではSOX3(ソックス3)という遺伝子が関与している可能性が指摘されています。
SOX3はもともと脳の発生や神経系の形成などに関わる遺伝子として知られていましたが、進化的に見るとSRY遺伝子の祖先と考えられています。
つまり、進化の歴史の中ではSOX3からSRYへ遺伝子の機能が変化した可能性があります。
そして、トゲネズミでは逆にSRYが消失し、SOX3が性決定に関わるようになった可能性があるのです。
これはまさに進化によるシステムの置き換えと言える現象です。
生物学の研究からわかってきたのは、性決定の仕組みは思っているほど固定的でないということです。
動物の世界には染色体で性別が決まる種だけでなく、温度で決まる種や社会的環境で変化する種などさまざまな仕組みが存在します。
実際、ワニやカメ、一部の魚類では卵の温度によって性別が決まることが知られています。
つまり、性決定の仕組みは進化の過程で何度も変化してきた可能性が高いのです。
トゲネズミの研究は、哺乳類でも同様の変化が起こり得ることを示した非常に重要な発見でした。
4.もし、将来、Y染色体が消えたら
人類のY染色体は進化の歴史の中で徐々に小さくなってきたことが知られてます。
そのため、将来、Y染色体が消滅する可能性があるという仮説を一部の研究者は提唱しています。
もちろんこれはすぐに起こる話ではなく、もし起こるとしても約1000万〜1400万年後という非常に長い時間スケールの話です。
しかし、トゲネズミの研究は非常に重要な示唆を与えました。
それは仮にY染色体が消えたとしても、別の遺伝子が性決定の役割を引き継ぐ可能性があるということです。
つまり、進化は一つの仕組みが壊れても別の仕組みを作り出す柔軟性を持っているのです。
学校の生物学よりも、最前線の研究では生物の世界は私たちの常識よりはるかに複雑で柔軟であることがわかります。
Y染色体がなくてもオスは生まれる可能性があり、性決定の遺伝子は進化の過程で入れ替わることもあり、生物は必要に応じて新しい仕組みを作り出してきました。
トゲネズミの研究は生命が持つ進化の柔軟性を示した非常に興味深い例であり、将来の遺伝学や進化生物学の理解にも大きなヒントを与える可能性があります。
トゲネズミの研究は人類のY染色体が消失しても、男性は存続し、人類は滅亡しない可能性があるということを教えてくれます。
参考資料
本記事は下記の書籍を参考にしています。
詳しく知りたい方はこちらの本をご覧ください。
また、本書の内容の一部がダイヤモンドオンラインで読めます。
同じ著者がトゲネズミについて1冊の本も出版しています。(アイキャッチ画像は下記の本の表紙)
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は3月30日(月)午前10時です。
男性の加齢によるY染色体喪失の話です。
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