光とともに
【第一部】|再会する過去
第一章 ともに
冬の朝は、音が少ない。
優衣は駅のホームで、コートの襟を立てながら電車を待っていた。
吐く息が白く、すぐに消えていく。
スマートフォンを取り出しても、特に見るものはない。
通知は静かで、時間だけが規則正しく進んでいる。
——このままでも、悪くない。
そう思える朝が、増えた。
電車が滑り込んでくる。
ドアが開き、人の流れに身を任せて乗り込む。
窓際に立ち、外を眺める。
ビルの間から、淡い光が差し込んでいた。
強くもなく、眩しくもない。
ただ、そこにある光。
「……ちょうどいいな」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもない声。
若い頃は、
光は追いかけるものだと思っていた。
明るい未来、成功、選ばれる人生。
掴みにいかなければ、手に入らないもの。
でも今は、
光は“ともにあるもの”でいいと思える。
奪い合うでもなく、
証明するでもなく。
編集部に着くと、いつもの一日が始まる。
コーヒーの匂い、キーボードの音、
誰かの笑い声。
「おはようございます」
挨拶をして席につく。
パソコンを立ち上げ、スケジュールを確認する。
淡々とした朝。
それが、嫌いじゃない。
午前中の会議で、
次号の特集案が話題に上がる。
「人物インタビューを軸にしようと思う」
編集長の声に、
優衣はメモを取りながら頷く。
「過去と現在をどうつなぐか、がテーマかな」
その言葉に、ペンが一瞬だけ止まった。
過去と、現在。
心のどこかが、かすかに反応する。
「優衣、進行まとめお願いできる?」
「はい」
返事は、いつも通り。
表情も、変わっていないはずだ。
昼休み、ビルの外に出る。
空は高く、冬の光が街に落ちている。
歩きながら、ふと、思う。
——私は、ちゃんと前に進んでいる。
そう思える根拠は、
特別な出来事じゃない。
毎日が続いていること。
今日もここに立っていること。
それだけで、十分だと、
最近は思えるようになった。
午後、一本のメールが届く。
件名だけを見て、指が止まる。
内容は、まだ開かない。
なぜか、
今は開かないほうがいい気がした。
理由は、わからない。
ただ、
この穏やかな光の中で、
何かを揺らしたくなかった。
定時を少し過ぎて、仕事を終える。
ビルを出ると、空はもう夕方の色だった。
オレンジと青が混ざり合い、
一日の終わりを知らせている。
駅までの道を歩きながら、
優衣は立ち止まる。
街灯が灯り始め、
昼とは違う光が生まれる。
「……一緒に、来たんだよね」
ぽつりと、
そんな言葉がこぼれる。
何と一緒にか、は
自分でもはっきりしない。
過去かもしれないし、
選ばなかった未来かもしれない。
それでも、今の自分は、
光の外にいるわけじゃない。
影を抱えながらでも、
歩ける場所にいる。
優衣は、再び歩き出す。
光とともに。
第二章 光の届く距離
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