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私の転職日記|ネットスーパーで応募したのに、水産部門になった話

ガスの検針にもすっかり慣れてきた頃。
午前中には仕事が終わるし、休みも多い。
「この午後を有効活用したら、収入アップできるんじゃない?」
そう思って、兼業を検討し始めた。

ちょうどその頃、
息子の高校の修学旅行の話が出た。
行き先は、九州かオーストラリア。
息子が入ったのは、
国際的な学習に力を入れているクラス。
こんなチャンス、オーストラリアしかないっしょ。

オーストラリア一択。
親としては、「行ってこい!」である。
……財布は泣いていたけれど。
親というものは、子供のためなら頑張れる。
ダブルワークをするか悩んでいた私の背中を押した。

「よし、働こう。」

そう決めて応募したのは、
近所のスーパーのネットスーパー部門だった。

数日後、採用の電話。
「ネットスーパーではなく、水産部門でお願いしたいんですが。」

えっ。
水産?

頭の中では、長靴を履いてマグロを一本担いでいる自分が浮かんだ。

どうしよう…できるのか?
迷った末に、
「お願いします。」
と返事をしていた。
人生、勢いも大事である。
…たぶん。

初日に教わったのは、商品の品出し。
これが全然できない。
置く場所もタイミングも分からず、
完全に足を引っ張る新人だった。

そして三日目。
お局さんに怒鳴られる。
無視される。
心がポキッと折れた。

五日目。
主任に言った。
「辞めます。」
すると主任は、私の顔を見て言った。
「状況は分かってる。あなたは悪くない。」
そして続けた。
「品出しじゃなくて、お刺身担当をやってみない?」

人生は、配属先で変わる。
本当にそう思う。
お刺身担当には、優しいおばさん。
紳士的な男性。
そして、クールで静かな若い男性。
昨日までの戦場が嘘みたいに平和だった。

まず教わったのは、お刺身の切り方。
お刺身は、基本15グラムが一番おいしいと言われるサイズ。
切り口はスパッと角を立てて、
ひし形に美しく並べる。

「筋がいいね。」
その一言で、
単純な私はどんどんやる気になった。
褒められて伸びるタイプとは、私のことである。

半年後には、お刺身の盛り合わせも作れるようになった。

一年後。
本部の人が視察に来て、
お刺身コーナーを見ながら言った。
「ここの刺身、レベル高いね。」

ガラス越しだったけど、しっかり聞こえていた。
心の中では盛大にガッツポーズ。
スーパーのお刺身コーナーって、ガラスで仕切られているけれど、お客様の声は意外とよく聞こえる。

ある日も、お客様がこちらを見ながら、
包丁を動かすジェスチャーをして、
「切るの上手いね!」
最後に親指を立てて「👍」。
……ちなみに、お客様の指差したお刺身を切っていたのは私じゃなかった。
でも、なんだか自分までうれしかった。

その後、水産部門では、
お寿司づくりも始まった。
新しく「お寿司部屋」ができ、
私もそのメンバーに。

新しく入ったおじさんも、おばさんもいい人。
最初は全く話さなかった若い男性とも、
普通に話せるようになった。

いつの間にか、職場は最高に居心地のいい場所になっていた。
夏はガスの検針で汗だくになり、
一回自宅でシャワーして午後は水産部屋へ。
水産部門のひんやりした空気は、天国だった。
私の自律神経もかなり整った気がする。

冬は逆に寒すぎる。
作業着の下にフリースを着ても寒い。
指先がカチカチになり、ラップをする機械の熱で手を温める。
あれは、水産部門だけの冬の暖房だった。

途中からは、コールセンター時代のM子が、品出し部門に夕方勤務で入ってきた。
職場が変わっても、また一緒に働けるなんて。
そんなこともあるんだな、と思った。

気づけば、ダブルワークは6年間続いていた。
収入は増えた。
社会保険にも入れた。
光熱費も少し節約できた。
今日はお寿司にしちゃおうかな、という日が増えた。
使ってる化粧品も、少しランクアップした。

そして何より、毎日動き回ったおかげで
10キロ痩せた。
娘と一緒に筋トレも始めて、
お肌の調子まで良くなった。
子どもたちの同級生からは、
「若くて美人のお母さん。」
なんて言われることも。

人生、魚を切っていて、褒められる日が来るとは思わなかった。
……ちなみに、その後パン屋で働いて15キロきっちり回収しました。

人生って、本当にプラスマイナスゼロでできているらしい。(いや増えてるし)

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