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村上春樹 × セルフレジ


最近、スーパーではセルフレジを使う。

理由は簡単で、人と話さなくていいからだ。

とはいえ僕は、別に人間が嫌いなわけではない。
むしろ、かなり好きなほうだと思う。

ただ、

「袋はご利用ですか」
「ポイントカードはお持ちですか」
「お支払い方法は」

と三つ続けて聞かれると、
その日の僕の社交性のだいたい八割を使い切ってしまう。

だからセルフレジへ行く。

ところが、セルフレジも僕を放っておいてはくれない。

「商品をスキャンしてください」

はい。

牛乳をスキャンする。

ピッ。

食パン。

ピッ。

卵。

ピッ。

順調だ。

僕はこういうとき、
少しだけ自分を有能な人間だと思う。

社会の仕組みを理解し、
バーコードの位置を素早く見つけ、
適切な角度で読み取り機にかざす。

なかなかのものだ。

そこでネギを出す。

ネギにはバーコードがない。

画面に、

「野菜」

というボタンがある。

押す。

すると、

「長ねぎ」
「青ねぎ」
「白ねぎ」
「万能ねぎ」

が出てくる。

急に人生が難しくなる。

僕の持っているこれは、
いったい何ねぎなのだろう。

家ではずっと「ねぎ」と呼んできた。

ねぎに名字があるなんて知らなかった。

僕は袋のラベルを見る。

何も書いていない。

仕方なく「長ねぎ」を押す。

その瞬間、

セルフレジが言う。

「商品を置いてください」

置いている。

「商品を置いてください」

だから置いている。

僕はネギを見る。

ネギも僕を見る。

「係員をお呼びします」

呼ばなくていい。

僕とネギのあいだで解決できる。

しかし数秒後、
店員さんがやってくる。

「どうされました?」

僕は答える。

「ネギです」

人生で、
これほど説明になっていない説明をしたことはない。

店員さんは慣れた手つきで画面を二回ほど触った。

すると機械は何事もなかったように動き出した。

「ありがとうございます」

セルフレジが言った。

会計を済ませ、
袋を持って店を出る。

結局今日は、
店員さんと話した。

しかも、

「ネギです」

という、
かなり意味の薄い会話をした。

人との会話を避けるためにセルフレジへ行き、

通常のレジより
よくわからない会話をして帰る。

そういう遠回りが、

たぶん僕の人生には
少し多い。

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