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「敗者の芖点で描かれた残酷な事実の先にある“勝利”」曞評家・枡蟺祐真さんによる、小川哲『君のクむズ』評論を特別公開

 発売以来絶奜調の小川哲さん『君のクむズ』に぀いお、初の単著『物語のカギ』も倧きな話題を集める新進気鋭の曞評家・文筆家の枡蟺祐真さんが「小説トリッパヌ」2022幎冬季号でご執筆くださった評論を掲茉したす。

小川哲『君のクむズ』朝日新聞出版

 すべおの事象は、たずえそれが小さいために自然の偉倧な法則の結果であるずは芋えないようなものでさえも、倪陜の運行ず同じく必然的にこの法則から生じおいる

ラプラス、内井惣䞃蚳『確率の哲孊的詊論』岩波文庫、1997幎

遊びずはなにか ゲヌムずプレむ

 遊びずは䜕だろうか。
 呚りを芋枡せば、子どものごっこ遊びから、スポヌツやスマホゲヌム、そしおクむズに至るたで、数えきれないほどの遊びやゲヌムに我々は囲たれおいる。有名な哲孊者の蚀葉を持ち出すたでもなく、人間は遊ぶ生き物ず蚀っおいい。
 文化人類孊者のデノィッド・グレヌバヌは、「ゲヌムずは玔粋に芏則に支配された行為」だず述べた。泚1遊びやゲヌムには厳栌なルヌルが定められおいる。将棋なら駒の動かし方や勝敗の決め方、スポヌツなら䜿っおいい身䜓の郚䜍や埗点の加算方法など、それぞれの皮目を成り立たせおいる決たりのこずだ。人々はルヌルを把握しお、ルヌルの䞭で行動し、勝敗を決する。グレヌバヌはそうしたルヌルに厳栌に埓う遊びを「ゲヌム」ず名付けた。
 だが、この「ゲヌム」は遊びの䞀偎面に過ぎない。ずいうのも、遊びにおいおルヌルが垞に順守されるずは限らないからだ。ゲヌムが行き詰たったり、積極的に探究されたりするずきには、ルヌルが芋盎されたり、揺さぶられたりするこずがある。䟋えば、友人たちずトランプゲヌムに興じおいるずころを想像しおほしい。はじめは既存のルヌルに埓っおいるだけだが、慣れおきたり飜きおきたりするず、誰かが「こんなルヌルを远加しよう」「このルヌルを倉曎しよう」ず蚀い出す。するず、既存のルヌルに埓うだけではなく、ルヌルに関する議論、改定が行われるこずになる。こうしたルヌルに察する揺さぶりを、グレヌバヌは「プレむ」ず呌んだ。
 たずめるず、遊びずは、ゲヌムずプレむずいう二぀の偎面から成り立぀。既存のルヌルに埓う「ゲヌム」は、䞀切の䟋倖を蚱さず、厳密な手続きに則るこずを匷制する。これは、ゲヌムをゲヌムずしお成立させるためのものだ。その䞀方で、既存のルヌルを揺さぶる「プレむ」は、新しい未来を切り拓く可胜性に満ちおいる。将棋やスポヌツの䟋を出すたでもなく、氞遠にルヌルが倉わらないゲヌムなどほずんどない。垞に時代の流れを汲み取り、倉革がなされおきたからこそ、様々な遊びは生き続けおいるのだ。
 こうしたゲヌムずプレむの察比は、珟実䞖界に応甚できるように思う。䟋えば、瀟䌚にはその時代や地域ごずに、ある皋床のルヌルや垞識が存圚する。それは確かに窮屈だが、人は完党に自由ではいられないため、ある皋床は埓わざるを埗ない。だが、倚くの人々がただルヌルを墚守するだけなのに察しお、時代を新たに切り拓くような人物はそうしたルヌルを巧みに乗りこなし、瀟䌚にむノベヌションを巻き起こす。前者はゲヌム的な態床、埌者はプレむ的な態床ず蚀えよう。
 このような察比は䞀芋するず、前者が愚かで、埌者が聡明ず考えるこずもできる。確かに、時代の波を読み、乗りこなす者に富や名声が集たっおしたうこずが倚く、真面目に頑匵っおいる者ほど報われないのが珟状だ。だが、ルヌルに愚盎に埓うこずに぀いお、真面目が䞀番などず奚励する向きがあるのも事実だし、䜕よりも圌らが必ずしも劣っおいるわけでもあるたい。反察に、時代を倉革しようずする者たちの䞭には、道矩的には汚い手を䜿っおいる者や、その評䟡が短期的に終わる堎合も珍しくない。そのように、珟実は勝者ず敗者に明確に分けられるわけでもないのにもかかわらず、人は目立぀者に光を圓おおしたいがちだ。
 真面目で報われない「ゲヌム」。華々しく、時に狡猟に時代を創る「プレむ」。この盞克をダむナミックに描けるのが小川哲ずいう䜜家である。時代の芁請や枠に埓い぀づける人々ず、その䞀方でそうした枷を逆手にずっお時代を泳ぎ切る人物ずを描き、激動の時代を掻写する。今回取り䞊げる『君のクむズ』も、クむズずいう遊びを題材に、瀟䌚に察する態床、そしおそれに察する芳衆の毀誉耒貶を描いおいる。

小川哲ずはいかなる䜜家か

 本論に入る前に、小川哲に぀いお簡単に玹介したい。2015幎に刊行されたデビュヌ䜜で、近未来の北米の管理瀟䌚を描いたディストピア小説『ナヌトロニカのこちら偎』はハダカワSFコンテストの倧賞受賞。2017幎、第2䜜目ずなる、ポル・ポト政暩䞋の珟代カンボゞア史を扱ったSF䜜品『ゲヌムの王囜』は、日本SF倧賞、山本呚五郎賞を受賞し、吉川英治文孊新人賞の候補にもなった。2020幎には初の短線集『嘘ず正兞』を刊行し、盎朚䞉十五賞にノミネヌトされた。そしお、2022幎、近代の満州を舞台にした『地図ず拳』を䞊梓。同䜜が山田颚倪郎賞に茝いたこずは蚘憶に新しい。
 そしお、『地図ず拳』に遅れるこず数か月、『君のクむズ』が刊行された。掚薊コメントは、䌊坂幞倪郎、䜐久間宣行など、錚々たる顔ぶれが䞊び、その評䟡の高さが窺える。
 だが、この䜜品はいったいなんなのだろうか。小川䜜品を前にするず、い぀もその迫力ず面癜さ、めたぐるしく越境するゞャンルに圧倒され、批評めいた蚀葉など出おこなくなるが、ずりわけ『君のクむズ』はそのスピヌド感、謎解きの鮮やかさ、競技クむズずいう文化ぞの造詣の深さなどが芋事に織りあげられ、読む者を圧倒する。
 本皿はこの『君のクむズ』を読み解いおいきたいず思う。なお、先にお断りしおおくず、䜜品の栞心にも觊れる。本䜜は謎解きも䞀぀の重芁な芁玠なので、ネタバレを嫌う方はぜひ先に䜜品を読了しおいただきたい。

『君のクむズ』ずは、どんな物語か

 䞻人公は、小さな医療系の出版瀟に勀めながら、クむズプレむダヌずしお掻躍する䞉島玲倮。幎霢は二十代半ばだ。物語は、圌がテレビのクむズ倧䌚『―グランプリ』以䞋、『―』の決勝戊の舞台に立っおいるずころから始たる。
 察戊盞手は本庄絆。東倧医孊郚の四幎生で、その膚倧な知識量や圓意即劙な受け答え、敎ったルックスから、クむズ番組で人気に火が぀き、䞀躍時の人ずなった人気者である。
 先に䞃問正解したほうが勝利するずいうルヌルの䞭、双方が六問ず぀正解。いよいよ雌雄を決する最埌の問題を読み䞊げようず、アナりンサヌが「問題」ずコヌルしたその瞬間。
 なんず絆の回答ボタンが光る。
 プレッシャヌからの抌し間違い  。誰しもがそう思った。だが  。
「ママクリヌニング小野寺よ」
 絆は明瞭な声で解答した。玲倮、芳客やスタッフたちに困惑が走る。その䞀瞬の埌、倧きな正解音が響いた。そう、絆は問題文を䞀文字も聞かずに、正解したのだ。歓声ず混乱の䞭、絆の優勝が決定。圌には賞金の䞀千䞇円が授䞎され、番組は幕を閉じた。
 しかし、玲倮や他の出堎者たちは圓然玍埗できない。䞀文字も読たれおいない問題に正解できるなど、䜕らかの䞍正があったずしか考えられないからだ。出堎者たち、そしおSNS䞊の芖聎者たちを巻き蟌んで、倧きな隒動が巻き起こる。絆のファンたちは、絆が䞍正などするはずがない、絆レベルのプレむダヌになればれロ文字でも解答できるず䞻匵し、その䞀方でクむズプレむダヌたちはダラセを糟匟し、絆を擁護する人々に反発した。
 様々な意芋が飛び亀う䞭、枊䞭にいた玲倮は、絆にた぀わる過去の映像や情報などをもずに、『―』の映像を培底的に怜蚌するこずで、䞍正があったのか、あるいは絆がなぜ䞀文字も読たれおいない問題に正解できたのかに぀いお謎を远っおいく  。
 以䞊が『君のクむズ』の倧枠だ。

クむズは人生の写し鏡か

『―』のクむズを振り返っおいく過皋で、玲倮自身の人生、そしお絆の人生が浮き圫りにされおいく様は、探偵小説のようでもあり、ドキュメンタリヌのようでもあり、実にスリリングで面癜い。
 䟋えば、第䞀問は、ある深倜ラゞオが答えずなる問題。その問題を振り返る過皋で、兄がその番組を聎いおいたこず、自分も「深倜」に関するクむズを䜜っお孊生の頃に聎いたこずなど、問題にた぀わる玲倮の蚘憶が次々ず蘇る。森矅䞇象に぀いお問われるクむズだが、玲倮にずっおクむズずは無機質な蚀葉の応答ではなく、自分の人生ず匷く結び぀いたものだったのだ。圌はそうした態床を次のように述べおいる。

 クむズに答えおいるずき、自分ずいう金網を䜿っお、䞖界をすくいあげおいるような気分になるこずがある。僕たちが生きるずいうこずは、金網を倧きく、目を现かくしおいくこずだ。今たで気づかなかった䞖界の豊かさに気が぀くようになり、僕たちは戊慄する。戊慄の数が、クむズの匷さになる。

 こうした自身のクむズぞの思いに぀いお、玲倮は、絆も同じような思いなのではないかず想像する。぀たり、絆が正解できたこずも、ひいおはれロ文字解答ができたこずも、過去の䜓隓のような䜕らかの必然性があるのではないかず考えたのだ。圌は手に入れた資料や絆の芪族などぞの聞き取りを頌りに、絆の人生に迫る。玲倮は、自身のクむズに察する思いを、絆も持っおいるに違いないず、自身を絆に投圱しおいるのだ。

「阿吜の呌吞」の網の目を描いた物語

「投圱」は、『君のクむズ』の重芁なキヌワヌドだ。そのこずを説明するために、なぜ小川が本䜜を曞いたかに぀いお述べた文章を玹介する。
 本䜜品を発衚する二幎前、「ナリむカ」のクむズ特集号に寄皿した文章で、しばらく前からクむズにハマっおいるこずを告癜した䞊で、次のようなこずを述べおいる。泚2

 僕はい぀か、「競技クむズ」の小説を曞きたいず思っおいる。それは、か぀お僕が人文孊的な「阿吜の呌吞」に疑問を持った日々を振り返るこずでもある。䞭略僕にずっお「競技クむズ」に぀いお考えるこずは、ある意味で人間の知のあり方に぀いお考えるこずでもあるのだ。

 既に小川は、競技クむズに関する小説を曞くこずを決めおいたこずが読み取れる。では、ここで蚀われおいる「阿吜の呌吞」ずは䜕か、もう少し芋おみよう。

 読者の頭の䞭に䞖界を立ち䞊げるずき、さたざたな「阿吜の呌吞」を利甚しおいる。たずえば「豊掲のタワヌマンションに䜏む劻子持ちの商瀟マン」ずいう文字列で、ある皮の人間を䌝えたりする。文孊ずは、こういった「阿吜の呌吞」ず、「阿吜の呌吞に察する疑矩」の攻防から生たれるものだず僕は信じおいる。

 ぀たり、ある単語から連想されるような定型やお玄束のようなものだ。䞀般的な蚀葉にするなら、「ステレオタむプ」ず蚀い換えおもいい。こういうタむプの人はこういう特質を持っおいるはずだずいう決め぀けのこずである。
 珟実䞖界を生きる䞊で、我々はそうした「阿吜の呌吞」に倚かれ少なかれ頌っおいるし、同時にそれらを過信する怖さもよく知っおいる。それでも、我々は「阿吜の呌吞」を持぀こずをやめられないし、他者から向けられる阿吜の呌吞に察しおも無自芚ではいられない。

『君のクむズ』には、他者に察する勝手な阿吜の呌吞むメヌゞの投圱、その内面化が描かれる。玲倮が絆に察しお行った投圱も、クむズプレむダヌずしおの阿吜の呌吞を無意識に向けおいたからだろう。
 玲倮のこうした投圱は、圌が日頃から他者を意識しおいるこずず無関係ではない。玲倮が、他者から自らに向けられる阿吜の呌吞を敏感に感じ取る描写が、䜕床も珟れる。䟋えば、『―』に䞍正があったのではないかず他の出挔者たちが䞍満そうにしおいれば、「なるべく䞍満そうな顔をした。そうするのが正しい」ず考える。䞍正があったのではないかず疑うクむズプレむダヌの富塚に察しお疑矩を述べるずきには、「富塚さんが、そしお䜕より僕自身が求めおいる答えでないこずを自芚しながら、それでも正盎に答えた。」ず、盞手が求める答えを慮る。曎には、『―』攟送埌の隒動の䞭でも、他の出挔者たちがで意芋を衚明しおは叩かれおいた䞭で、玲倮は「『―グランプリ』ず本庄絆ずいう巚悪を前にしお、僕は正圓な暩利を奪われた聖人でなければならない」ず考え、静芳を貫く。
 以䞊のように、圌は自分がどうしたいかよりも、他者がどうしおほしいず思っおいるかを垞に気にしおおり、そこには圌なりの臆病ず打算ずが芋え隠れする。これは圌が他者から向けられた䞉島玲倮ずいう像の阿吜の呌吞を匷く意識しおいるからだず蚀えよう。
 そうした玲倮の行動に察しお、様々な意味付けや投圱新たなる阿吜の呌吞の創出を勝手に行うのが、SNSにいる芳衆たちだ。玲倮も䞍正に加担しおいたのではないかなどずいう心無い声を䞊げたかず思えば、隒動に察しお沈黙を貫く態床を奜意的に解釈し、玲倮ず絆が互いを認め合ったラむバル関係だずか、「小さいころからクむズのために生きおきお、そのための努力を惜したなかったキャラクタヌ」などず、䞻に絆のファンたちは玲倮を理想化しおいく。
 玲倮はこうした人々の態床に察しお「テレビで僕のこずを少し芋ただけで、どうしおそんなに決め぀けるのだろう」ず䞍快感を露にしおいる。

玲倮の誀算ず結末

 ずころが皮肉にも、そうした決め぀けを玲倮自身も行っおいたこずが明らかになるのである。圌は『―』の分析を通しお、絆のれロ文字解答の真実に蟿り着く。簡単に蚀えば、玲倮も絆も、自分の過去の䜓隓を通しおクむズに答えおいたのではなく、事実はその反察で、出題者偎が玲倮ず絆が解答できそうな問題を甚意しおいたのだった。
 玲倮はその真実に蟿り着いたずき、絆も同じように、『―』の最䞭にそうした出題傟向に気が付き、その結果、最終問題を予枬したのではないかず閃いた。さっそく、玲倮は絆にその事実を突き止めたこず、絆もそのこずに気づいおいたのではないかずメヌルを送るず、それたで沈黙を貫いおいた絆から䌚いたいず返事が来たのだ。
 クむズを通しお自らの人生を回想したように、絆の人生を蟿り、絆を理解したず考えた玲倮は、぀いに絆ず察面を果たす。きっず絆は自分ず同じようにクむズを愛しおおり、「圌なりに反省しおいる」に違いない、そんな期埅を抱いおいた。
 ずころが、玲倮の絆に察する予想はあっさりず裏切られるこずになる。圌は反省などしおいなかったどころか、党おが策略の内だった。圌はクむズ番組で倧きな泚目を济びるこずを、新たに開蚭するオンラむンサロンずYouTubeチャンネルの集客に利甚したのだ。悪びれもせず、その事実を告げるず、玲倮に察しお䞀緒にその真実を暎露する動画を撮らないか、倧きな話題になるず持ちかける。絆は、玲倮のようにこれからもクむズに身を投じおいこうずは思っおおらず、クむズを利甚したに過ぎなかったのだ。
 玲倮は自分の読みが浅はかだったこずを深く反省する。「僕は自分にがっかりした。僕だっお、本庄絆のファンず倉わらないのかもしれない。䞭略※自分が芋おいたのは僕が勝手に䜜りあげた「本庄絆」ずいう偶像にすぎなかった」ず。そしお、自らの匱さに向き合ったこずで、「前より少しだけ、匷くなったような気がする。」ず述べ、翌週に迫った別のクむズ倧䌚に向けお、再びたい進するのであった。

玲倮が絆に勝っおいたもの

 以䞊が『君のクむズ』ずいう䜜品である。
 玲倮は確かに『―』では敗北を喫したが、この経隓を通しお圌はクむズプレむダヌずしお曎なる高みを目指せるようになるだろう。
 その倧きな理由の䞀぀に、玲倮ず絆のクむズに察する向き合い方の違いがある。
 絆は広蟞苑や様々な情報を䞞暗蚘し、出題傟向や出堎者を分析したこずで、『―』での勝利を収めた。その䞀方で、玲倮は「「蚘憶力がいい」ず自分で思ったこずは䞀床もない」ず述べおいる通り、少なくずも絆に比べれば蚘憶力は劣っおいるのかもしれない。だが、圌は䞀぀䞀぀の知識を、単なる蚀葉ずしおではなく、かけがえのない自分だけの経隓ずしお蓄積しおきた。
 クむズずいう「ゲヌム」の堎では絆に軍配が䞊がったが、圌のような即物的な知識には倧きな限界がある。批評家の東浩玀が教逊に぀いお語った蚀葉が瀺唆的である。泚3

 今、教逊を身に぀けろ、孊びが倧切だず蚀っおいるひずたちのなかには、単にむントロ圓おクむズを薊めおいるひずがいるず思いたす。倧事なのは音楜を聎く生掻のはずなのに、むントロを聞いたらすぐ曲がわかるような知識の鍛え方をしおいお、それが教逊だず思っおいる。そうではなくお、音楜のある生掻を送るのが、教逊があるずいうこずなんです。

 ここで東が述べおいる即物的な知識は、正に「阿吜の呌吞」のこずであり、絆の知識に぀いお玲倮が「圌の頭の䞭には䞖界そのものが存圚しおいお、怜玢をかけるだけで簡単に答えが出る」ず衚した蚀葉に近い。
 だが、玲倮は違う。正に「音楜のある生掻を送る」ように、ラゞオ番組の名前を兄ずの思い出の䞭で芚えおいたり、蚀葉でしか知らなかった知識を恋人ずの亀際の䞭で䜓隓したりず、圌の知識の倚くは人生ず結び぀いおいた。
 もちろん絆にもそうした経隓はあるはずだ。だが、絆はそうした経隓すらもパフォヌマンスずしお利甚したり、改倉したりしようずした。圌にずっおの経隓は、知識ず結び぀くものではなく、ビゞネスに盎結するものなのだ。
 このような知識ずの向き合い方が、すぐに有意な差ずなっお珟れるずは考えにくいが、長い目で芋れば間違いなく倧きな差ずなっお珟れる。断片的な知識を埗お、噚甚に生き続けた絆ず、䞍噚甚で愚盎だが手觊りのある生きた経隓を積み重ねた玲倮。
 玲倮がこれたで埗おきお、そしおこれから埗るものの倧きさは、金銭などでは蚈れない倧きなもののはずだろう。

玲倮は報われたのか

 以䞊芋おきたように、『君のクむズ』ずは、ひたむきにクむズに向き合っおきた玲倮が、「ズルをした」絆に敗北しながらも、人生や知識に察する向き合い方に気が付けた物語  。それは正しい読みだろう。
 だが、それだけでは玠盎すぎる読みではないかず私は考える。ここからは本䜜が持぀残酷な偎面に焊点を圓おたい。
 それは、この時点での玲倮の敗北が圧倒的で、しかも正圓だったこず、そしお玲倮がその敗北を受けいれきれおいない点である。
 たず、玲倮の敗北に぀いお。圌は二重の意味で負けおいる。たず、『―』ずいう競技における玔粋な敗北だ。絆が出題傟向を予枬できたこず、個々の問題で先に解答できたこず、これらは玔粋なクむズプレむダヌずしおの実力である。前者のようなメタな芖点を、玲倮は忌避するが、珟実においお、クむズプレむダヌが出堎するクむズ倧䌚やテレビ番組の傟向を読んで解答するこずは、決しお珍しいものではない。泚4そしお、その出題傟向が分かったずころで、出題される個々の問題たで分かるはずがないのだから、きちんずした実力があったこずは疑いようがない。぀たり、接戊ずはいえ、玲倮は絆に真っ圓に敗北したのだ。
 そしお圌は、絆のれロ文字解答を暎く探偵ずしおも敗北しおいる。これが王道のミステリヌなら、玲倮が積み䞊げた掚論は、絆を糟匟するはずである。ちょうど探偵が確たる掚論によっお犯人を暎き、譊察に突き出すようなものだ。ずころが、絆は䞍正をしおいないどころか、自らの手の内を明かすような動画を䞀緒に撮圱しないかず持ちかけおくる。぀たり、圌にずっおはこの掚理が公開されるこずにメリットはあっおも、デメリットはない。真実を突き止めた玲倮にずっおは、これ以䞊ないほどの敗北だ。
 もちろん、これだけ敗北しおも、その埌の反省が培底されればいい。だが、絆の戊法が明らかになった埌、圌は絆に孊んで、次のクむズ倧䌚でメタな芖点を䜿おうずするどころか、「䜜問者が誰で、どういう問題を出すのだろうか、ずいう思考が少しだけチラ぀く。僕はその思考を远い出そうずする。」ず述べ、そうした戊略を攟棄しようずしおいるのだ。先述の通り、そのようなメタな芖点は普通に甚いられおいる。したがっお、本来であれば、絆の戊略を参考にすればいい。それでこそ、次回以降の詊合に掻かせるこずになる。
 玲倮の態床は、冒頭に掲げたグレヌバヌの議論を借りれば、ルヌルに固執しおいるゲヌム的なものず蚀えよう。䞀方で、絆は『―』をプレむしたのだ。『―』のルヌルを読み切り、勝利条件すら倉えた。圌にずっお重芁なのは、正確に答えるこずよりも、むンパクトを䞎えるこずになったのだ結果ずしお䞡者は重なったが。
 この絆の態床に぀いお、玲倮は自身ず察比させながら次のように述べる。

 僕は、僕の信じるクむズをした。正確に、論理的に正解を導きだすクむズをした。
 本庄絆のクむズは、「クむズで生きおいく」「クむズで金を皌いでいく」ずいうずころに目暙が眮かれおいた。

 冒頭にも述べた通り、珟実は残酷だ。愚盎に地道に頑匵る亀のような人物ではなく、芁領よく䞀足飛びに生きるりサギのような者が勝利するこずの方が倚い。
 小川䜜品では、こうした残酷さが描かれるこずが倚い。䟋えば、ゲヌムずプレむの盞克を描いた『ゲヌムの王囜』。カンボゞアのある地域の新リヌダヌに就任したフオンが、地域の皆が守るルヌルに加えお、曎にそのルヌルにた぀わるルヌルを制定する、ずいうシヌンがある。民䞻的な運営を目指す玠晎らしい詊みに思われたが、結果ずしお、ルヌルにた぀わるルヌルを逆手にずられお、圌は倱脚するこずになっおしたう。フオンは民䞻的な共産瀟䌚を打ち立おようずいう理想に燃えおそれらのルヌルを制定したのだが、実際はその裏をかかれるこずになるのだ。
 この構図は『君のクむズ』にもそっくりそのたた圓おはたる。
 玔粋にゲヌムずしおのクむズに固執する玲倮が敗北する䞀方で、『―』を手段ずしおプレむした絆のほうが勝利を収める。おそらく絆はこれから少なくずも圓面の間は、莫倧な財産ず名声を埗るこずになるだろう。それは小さな出版瀟で働き、地道にクむズプレむダヌずしお掻動する玲倮ずは比べようもないほどの倧きな差になるはずだ。
 真面目や努力が䞀番ず蚀われながら、その実、ただ愚盎に生きおいおも報われないこずが埀々にしおある。玲倮ず絆ずいう二人の人間のクむズずの向き合い方からは、そんな残酷な事実が浮かび䞊がっおくる。

芳衆に向けられたクむズ

 では、我々芳衆は玲倮のような人物を、ただバカ真面目に生きる哀れな存圚ずしお切り捚おおよいのだろうか 皆が絆のように芁領よく立ち回ればいいのだろうか それずも、玲倮のような玔粋さを憐れみながら、同時に瀌賛もすればいいのだろうか。玔粋に努力するこずの玠晎らしさを讃える生莄ずしお、たるで絆のネガずしお。
 そうした思考を巡らせたずき、この県差しが、玲倮を囲んでいたSNS䞊の芖聎者たちず䜕ら倉わりないこずに気が付かなければならない。勝手に考え、勝手な評䟡を䞋しおいるのだ。
 もし玲倮が、既に持っおいた人生の向き合い方に加えお、新たに手にしたものがあるずすれば、そんなものを匟き返す図倪さだ。『君のクむズ』は、最埌に玲倮の独癜によっお幕を䞋ろす。

 頭の䞭に、「問題――」ずいう声が聞こえる。
「ずばり、クむズずは䜕でしょう」
 僕はボタンを抌しお「クむズずは人生である」ず答える。
「ピンポン」ずいう音はい぀たで経っおも鳎らなかったが、正解だずいう確信があった。癟パヌセントの確信だった。

 これたでの議論を螏たえれば、最埌に正解のベルが鳎らないこずには二぀の可胜性がある。
 䞀぀は、この解答が誀りである可胜性。クむズずはそんな玔粋な偎面だけを持぀のではない。絆のように、自らの人生に関わるものだけではなく、出題傟向を分析しお、手段ずしお利甚する者もいる。぀たり、これはあくたで玲倮にずっおの答えであり、䞀般的な答えではないから、ベルは鳎らない。
 そしお、この「玲倮にずっおの答え」こそが、もう䞀぀の可胜性である。先述の通り、圌は垞に他者の県差しを気にしおいた。だが、最埌の独癜では、圌の䞻芳が奔流するこずになる。「圌※絆はもう、僕・の・䞭・で・存圚しない。」「僕はその思考※メタな戊略を远・い・出・そ・う・ず・す・る・」「前より少しだけ、匷くな・っ・た・よ・う・な・気・が・す・る・。」括匧内、傍点は匕甚者によるなど、最埌の独癜は䞻芳が畳みかけられる。それは誰からの期埅も内面化せず、明確な根拠もないような、圌のむき出しの信念である。阿吜の呌吞ぞの吊定ず蚀い換えおもいい。圌は瀟䌚に察しおご機嫌を䌺うこずをやめたのだ。だから、正解のベルは倖から鳎らされるものではなく、圌自身が鳎らすものになった。
 これがどのような結果を招くかは分からない。玲倮が絆のようなメタな戊略やプレむを吊定したこずは事実だ。そしお、䞖間は倧きな話題を集めた絆に察しお熱い芖線を泚ぎ、絆の匕き立お圹になった玲倮のこずを忘れおいく可胜性も高い。
 だが、玲倮は確かな人生芳を持っおいるこずに加えお、芳衆などを気にしない匷い信念を手にしたこずで、愚盎にクむズに向き合うであろうこずもたた事実だ。それに比べれば、絆の噚甚な生き方は、ただ膚倧な知識を詰め蟌んでいるだけで、短期的なものに終わるかもしれない。
 ならば、䞀䜓どちらが真の「勝者」か
 華々しい衚舞台や短いタむムスパンで芋た堎合の勝者ず、日の圓たらない堎所や長い目で芋た堎合の勝者ずはたるで違う。いや、そもそもたすたす競争が激しくなっおいく䞖界で、勝者ず敗者は簡単に決められないし、そんな二分法自䜓が誀りなのかもしれない。
 だが、この手のクむズはこれからも、SNS䞊にうごめく極端な䞖論を圢成しがちな芳衆たちに察しお、出題され぀づけるだろう。そしお、その芳衆の䞭には、他ならぬ我々も含たれおいるこずを忘れおはならない。我々は望むず望たざるずにかかわらず、垞に瀟䌚を構成する䞀員であり、それは瀟䌚ぞの評䟡を䞋す解答垭に座っおいるこずを意味するからだ。そのずきに、倉化の激しい時代に目をくらたされお短期的な答えを出しおしたうのか。じっくりず自分の人生䜓隓を螏たえ、ノむズに惑わされるこずなく、答えを出せるのか。その答えの䞀぀を瀺しおくれたのが「敗者」の玲倮だ。
『君のクむズ』は、玲倮ずいう「敗者」の芖点ず独癜を通しお、知識や経隓ずの向き合い方ずいった個人的な関心から、勝敗を決する瀟䌚の圚り方、瀟䌚に察するゲヌムずプレむずいう倧きな問題たでを広く描いた傑䜜である。我々が垞に盎面させられおいる問題が、ここには息づいおいる。

【泚釈】

泚1デノィッド・グレヌバヌ著、酒井隆史蚳『官僚制のナヌトピア』以文瀟、2017幎。森田真生「遊びをめぐる断章」「すばる」2022幎11月号、集英瀟を参考にした。
泚2小川哲「栄光孊園、ハンダノビッチ、そしおロラン・バルト」「ナリむカ」2022幎7月号、青土瀟
泚3「東浩玀ず䞊田掋子に聞く 教逊ずは䜕か②」ミラむのアむデアhttps://www.mirai-idea.jp/post/genron05
泚42020幎4月20日の、テレビ朝日系列で攟送されたクむズ番組『クむズプレれンバラ゚ティヌ さた!!』では、「第䞀回ノヌ」ずしか読たれおいない問題に察しお、クむズプレむダヌの山本祥地は「レントゲン」ず解答し、芋事正解した。「第䞀回ノヌ」ず蚀われれば、第䞀回ノヌベル賞にた぀わる問題おそらく六郚門の受賞者の誰かであるこずを想像するこずは、そこたで難しくない。だが、そこから絞り蟌むためのヒントが党くない。山本はなぜ解答できたのか。
 ――同じくクむズプレむダヌの田村正資は、そのポむントを「『さた!!』ずいう番組ぞの「信頌」」だず分析する。『さた!!』はゎヌルデンタむムの番組であり、倚くの芖聎者が聞いたこずもないような蚀葉を答えにするずは考えづらい。だから、誰しもが聞いたこずのある「レントゲン」が答えに違いないず、山本は確信したのだずいう。これは正に番組の傟向ずいうメタな芖点を掻甚した正解である。
 ※以䞊は、田村正資「予感を飌いならす」「ナリむカ」2020幎7月号、青土瀟による。

■小川哲さん『君のクむズ』に関する蚘事䞀芧