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読書感想文・原本📖 大滝瓶太『その謎を解いてはいけない 黒歴史について語るときに我々の語ること』実業之日本社文庫、2026年

#読書感想文 📖 原本

大滝瓶太『その謎を解いてはいけない 黒歴史について語るときに我々の語ること』実業之日本社文庫、2026年


■「黒歴史」は、隠したい過去ではなく、生きてきた証である。


【ネタバレなし】

大滝瓶太『その謎を解いてはいけない』は、連続怪事件を追う本格ミステリーでありながら、「黒歴史とは何か」という誰もが抱える問題を描いた青春小説でもある。

舞台は廃墟の観光ホテル。金色の画鋲を刺された黒猫の死体と、現場に残された「春」の赤い文字。やがて「夏」「秋」「冬」と続く連続事件が発生し、女子高生・小鳥遊唯と「暗黒院真実」探偵事務所は事件の真相へ迫っていく。

本作の魅力は、まず登場人物の個性の強さにある。暗黒院真実、小鳥遊唯、天野川恒星、白日院正午。一度聞いたら忘れられない名前と、それぞれが抱える痛みや秘密が物語を牽引する。登場人物が多すぎて混乱しがちな海外ミステリーとは異なり、初心者でも人物関係を追いやすい。

また、本作は古典的な本格ミステリーへの愛情に満ちている。怪異めいた連続事件、密室殺人、読者への挑戦状、探偵による推理披露。ミステリーの伝統的な作法を踏まえながらも、「黒歴史」という現代的なテーマを重ね合わせることで、新しい物語へと昇華している。

特に印象的なのは、登場人物たちが互いの過去や失敗に向き合う対話である。誰にも知られたくない記憶。思い出すだけで恥ずかしくなる過去。しかし、それらを否定するのではなく、人間を形づくる大切な一部として描いている。

謎解きを楽しみたい人にも、人間ドラマを味わいたい人にも薦めたい一冊だ。



【ネタバレあり】

本作を単なる連続殺人ミステリーとして読むと、見落としてしまうものがある。

本書の真の主題は、題名そのものが示しているように「解いてはいけない謎」である。

事件の発端は二年前の「綾野あだな事件」にある。そこで登場人物たちは、それぞれが誰かを傷つけ、誰かを庇い、誰かを誤解した。その記憶は消え去った過去ではなく、現在まで尾を引く「黒歴史」となった。

とりわけ小鳥遊唯の物語が印象深い。異色虹彩や珍しい名字を持つ彼女は、周囲から勝手なイメージを投影され続けてきた。白日院正午との対話は、本作の思想的中心である。

人間は他者の想像によって形づくられる。しかし同時に、その想像だけでは決して説明できない存在でもある。矛盾し、揺れ動き、ときに自分自身すら理解できない。その自己矛盾こそが自我であるという白日院の語りは、哲学的でありながら、小鳥遊の成長物語としても機能している。

また、本作には探偵と小説家を対比させる仕掛けがある。

探偵は謎を解く。しかし小説家は、解けない問題を抱え続ける。

一二三と綾野の対話に繰り返し現れる「フィクションと現実」の議論は、その象徴だろう。小説とは嘘をつく営みでありながら、同時に真実へ到達しようとする営みでもある。だからこそ本作は、殺人事件の真相だけではなく、人間が抱える言葉にならない痛みにも光を当てている。

そして終盤の「読者への挑戦状」は、本格ミステリーへの鮮やかなオマージュである。小鳥遊自身が推理を組み立て、犯人へ到達する構成も美しい。

一方で、私は天野川恒星の動機には一定の違和感を覚えた。

猫殺しや長野殺害という重大犯罪と、「小鳥遊への憧れ」「一度でいいから女の子を振ってみたかった」という供述との間に、大きな飛躍があるように感じられるからだ。現実的な人間心理として考えるなら、読者が納得するにはもう一段階の説明が欲しかった。

ただし、本作を「黒歴史の物語」として読むならば、別の見方もできる。

天野川は犯行の合理的理由を語らない。むしろ語れないのである。誰かに認められたい。記憶に残りたい。特別な存在になりたい。その未熟で説明不能な欲望が暴走した結果として事件が起きたと考えるならば、彼自身もまた「黒歴史」に囚われた人物だったと言える。

最後に暗黒院が問いかける。「右眼で何が見えるか」。
それに対する小鳥遊の答え、「暗黒院真実が立ち向かう謎です」は、本作を象徴する名場面だろう。この世には解くべき謎もある。しかし、解いてしまえば壊れてしまう謎もある。
だから探偵は真実を追い、小説家は人間を見つめ続ける。

本書は、本格ミステリーへの敬意と、「黒歴史を抱えながら生きる人間」への深い眼差しを両立させた意欲作である。そしてシリーズの続きが読みたいと思わせる、見事な幕引きでもあった。

▼合わせて、読むとおもしろいです。


▼読書感想文の感想文:

読書感想文を書くにあたって、いろいろな書き方があると思います。
こちらの【原本】では、小説を読んで、あらすじに沿う形で、まとめました。

しかし、ここで大きな問題が浮上しました。

「なぜ小説を書くのか、読むのか。」小説はフィションでもあり、ストーリーでもある。
「テーマになる黒歴史とは何か。黒歴史が象徴するものは何か。」
前作と『理系の読み方』も材料にしながら、もう一度、数学的分析を交えながら、哲学的に書き直します。もちろん、楽しみながら。

つづく

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