今、夢中[散文詩]


水深三百米、水圧のドレスが肩を抱く。

「――え? うん、聞こえてる、だから今ちょっと溺れててさ」


溶けた文字盤は泡になって、クラゲたちがワルツを踊る。
防水のランタンをピピッとひとふり。
照らし出したのは、海底遺跡の――たぶんあれは......乾麺のパッケージ。

「――え、電波? いや、こっちは全然平気、息もできるし」

世界が広すぎて肩がこるから、
視野を三角コーンの形状に狭めてみたの。

あのね、ここから見える直径五センチの砂粒こそが、私の知っているいちばん大きな銀河系。
水圧で骨抜きにされたって平気。


「――あ、ねえ、ちょっと待って、なんか変な魚がこっち見てるから切るね」

だって今、この暗闇の中で名もなき貝殻のピカピカに、全人生を賭けているところなのだから。

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                              あとがき

広すぎる世界に肩が凝る日は、あえて視界をぎゅっと狭めてみよう。
手元に残るのが乾麺のパッケージや小さな貝殻だとしても、その一点を見つめる圧倒的な没頭こそが、世界を自分だけの銀河に変えてくれるのだと思っています。
今あなたが夢中になっているその小さな光が、明日へ向かう心を軽やかに照らしますように。

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