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山田五郎を追って ⑦アッシジの聖フランチェスコ大聖堂「祈りの時間には御用心」

その絵を観たとき、
思わず声を上げた。

ミュンヘンの絵画館の一角に、
改築中の新・絵画館の絵が
一部移されて展示されていた。
その中に、
観たことのある風景を
見つけたのだ。

「アッシジの眺め」
カール・ブレッヒェンが
1830年代に、
聖フランチェスコ大聖堂を
描いた風景画である。

カール・ブレッヒェン
「アッシジの眺め」

あすやせたちが訪れた
2025年8月のアッシジの
聖フランチェスコ大聖堂も、
この絵とほぼ変わらない姿をしていた。
修道士と羊飼いが登っている山道が、
いまはバスが通るアスファルトに
変わったぐらいのものである。

奇しくも、
ミュンヘンの絵画館で
アッシジの絵を認めたのと同じ、
夕刻あたりであった。

聖フランチェスコ大聖堂の
上部聖堂にやっと辿り着いた
あすやせとツレは、
お目当てのジョットのフレスコ画
「小鳥に説教する聖フランチェスコ」
を見つけて魅入っていた。

ジョットらが手がけた
「小鳥に説教する聖フランチェスコ」

するといつの間にか現れた
数人の修道士たちに、
「信者以外はお断り!」とばかりに
強い口調で後方の柵の外へと
追い払われてしまったのである。

慌てて下部聖堂へ移動したものの、
しばらくすると
やはり修道士たちに、
厳しく追い出されてしまった。

信徒の祈りの時間、
晩課(晩の祈り)が
始まったのである。

確かに
あすやせは信徒でもない、
ただの観光客である。
しかし、
修道士たちの強引な態度には、
いささか憤慨を覚えた。

と同時に、
約30年前の光景が
突然、オーバーラップして
思い起こされたのである。

関西の禅寺だったと思う。
あまりに昔のことで、
記憶は定かではない。
庭の白い玉砂利が
眩しかったのを覚えている。
その砂利の上に、
怒声と共に雲水のような若者が、
いきなり縁側から
突き飛ばされたかのように、
放り出されたのだ。

観光客の拝観スペースと
立ち入り禁止区域を分ける
柵のそばにいたあすやせは、
図らずも目の前で
その光景を見た。

時が流れ、
聖フランチェスコ大聖堂から
追い払われたあすやせは、
ここでも柵の外から
立ち入り禁止区域を眺めながら、
30年近く忘れていた
同じ衝撃に打たれていた。

1人の観光客として
眺めていた景色が一変して、
宗教施設が
本来の姿を取り戻す瞬間を
垣間見た衝撃である。

聖フランチェスコ大聖堂の
修道士たちの厳しい口調と、
禅寺で雲水を放り出した
あの怒声が、
重なって聞こえたような
気がした。

修道に励む者たちにとって、
聖域を守るために
厳しさを用いるのは、
当然のことだろう。

それに思い当たったとき、
自身の素朴すぎる感覚が
なんだか恥ずかしくなった。

大聖堂から外へと続く
長い回廊沿いを歩きながら、
名残惜しく振り返って
聖堂を眺めた。

堅牢な下部聖堂の上に
バラ窓を掲げた上部聖堂を
後から乗せたような、
不思議な姿だ。

夕陽に照らされた
聖フランチェスコ大聖堂

その見た目通り、
聖フランチェスコ大聖堂は
上下に分かれた聖堂と、
修道士たちの生活する
僧堂が一体となった、
巨大な宗教施設である。

下部聖堂は天井が低く、
チマブーエや
シモーネ・マルティニーらの
フレスコ画が堂内を彩る、
静謐な空間である。
この下部聖堂のさらに地下に、
聖フランチェスコは眠っている。

下部聖堂の内部。
アーチ型のヴォールト天井が美しい

一方、上部聖堂は
ファサードにバラ窓を掲げる
高い天井と、
ステンドグラスから光が差す
明るい聖堂である。
その下の壁一面には、
ジョットとその工房が手掛けた、
「聖フランチェスコの生涯」が
描かれている。

明るい上部聖堂。
柵の外から残り惜しく眺める

YouTubeチャンネル
山田五郎「オトナの教養講座」で
紹介された、
中世の巨匠たちのフレスコ画が
一気に鑑賞できる至宝の場だ。

あすやせたちは、
この日の午前中に訪れた
スポレートで
のんびりし過ぎたせいで、
大本命のこの大聖堂を
未消化のまま去ることになった。

ここは丸1日をかけて、
じっくり過ごすべき場所である。
ランチの赤ワインが悔やまれた。

しかし、生きている限り
本当に行きたいのならば、
何度でも行けばいいのだ。

2026年7月に帰天された
山田五郎氏が
最後の動画で残された言葉は、
「メメント・モリ」と
「カルペ・ディエム」
である。

行けない言い訳を並べる前に、
行ける方法を考えたい。

幸いにも、
時間はまだ、この手の中にある。

山田氏の蒔いた種は、
あすやせの中に
確実に生きている。

また、ここに帰ってくるだろう


[次回予告]
⑧番外編
ウルビノ「キリストの鞭打ち」

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