#11 藤井風「満ちてゆく」
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エッセイ「満ちてゆく」
何かを求め続けたとき、それに比例して心が貧しくなっていく。「もっともっと」といった感覚は心を蝕んでいく。何かを追い求めて手に入れようと必死になると、それはどんどん遠ざかってゆき、貧しい心だけが残る。
そんな経験を何度もしてきて、では手元に残ってくれたものはなんだろう、と考えてみる。そういうものは決まって、手放そうと試みたけどまた引き寄せられたものや、執着せずにともに歩んできたものばかりだった。
藤井風の「満ちてゆく」を繰り返し聴いている。この人の歌には毎回感動させられるのだけど、今回は格別だった。メロディ、歌詞、すべてが刺さりまくって、リピートがとまらない。
明けてゆく空も暮れてゆく空も
僕らは超えてゆく
変わりゆくものは仕方がないねと
手を放す、軽くなる、満ちてゆく
手放すことで軽くなって、心が安定していく、満ちてゆく感覚。求め続けていたときの虚しさや荒れ狂う心とは正反対の心。悲しみの夜が来たって、朝は必ず来るし、ゆっくり寝てそれが過ぎ去るのを待つのもよい。変化は不安にもなるけれど、それでも変化の波を乗りこなして楽しんでみるのもよい。
そんなふうにひとつひとつ手放していったときにしか感じられない、満たされた心、それを得たときの喜びを見事に表現した歌だと思う。
藤井風の歌から感じられるメッセージはずっと一貫しているように感じる。この歌に対する藤井風のコメントからもそれが読み取れる。
始まりがあるものには終わりがあるということ。愛は求めるものではなく、すでにたくさん持っているもの。与えれば与えるほど、「満ちてゆく」もの
わたし自身も、手放し、与えることで自分自身が満たされていく感覚は何度も味わったことがある。
例えば目の前の人のために時間と言葉を尽くした先に感謝されたときだとか、数人分のご飯を作って食べてもらったときだとか。そのときは、なにかを求めていたときの虚しさはいっさいなく、まさに「満ちてゆく」自分を感じることができた。
ものごとを軽んじて考えているわけではなく、執着をせずに緩やかな気持ちで、終わるものにも続くものにもすべて愛して与えていく。その姿勢がいつかの幸せになることをこの人はよく知っていて、形として表現していることに尊敬を抱く。
曲初めの優しいピアノの音色が、この歌の歌詞にぴったりだ。軽やかに響くメロディ、そのあとに続く優しい言葉が「藤井風」という人間を表しているのだろうな、とちょっと羨ましくなる。
晴れてゆく空も荒れてゆく空も
僕らは愛でてゆく
何もないけれど全て差し出すよ
手を離す、軽くなる、満ちてゆく
この曲は、自分には何もないけれど、何もなくたって満たされるのだと、気づけばどんどん何かを欲してしまう自分を見直すきっかけになってくれる。わたしにとってお守りのような曲ができて、嬉しい。

結婚をして、自分だけの人生ではなくなった感覚がずっとしていて、ご飯を作るのにも洗濯をするにも1人ではない。自分だけが得をしようとすると、結局家族みんなが損をする。
それならばと、家族のために力を尽くせる女性になりたいしそうでありたい。そうして自分の時間や言葉を使って与えていった結果、自分が1番満たされていくのだろうな。
この歌のように、愛する人をこよなく愛し、手放し与えていく姿勢をもっていたい。どうしても見返りを求めてしまいそうになるけれど、愛する人が健康に生きていってくれることをなによりの望みとして、尽くしてみたい。
久々にお守りにしたい曲と出会えた。欲深くなってしまったとき、心が荒れてしまったとき、この曲を聴き直して愛を与えられる周りのことを大切に生きていきたい。
詩「Overflowing」
雲ひとつない青空を想う
あの人がだいすきだった空
子どもがはしゃぐ声と
そよ風の音と
愛するあの人との思い出を
わたしにはなにもない
同じ仕事を何十年と続けて
気づけばこんな歳になっていた
それでも満たされている
尽くせることは尽くしてきた
もう手放すものばかりだけれど
しあわせで満たされている
わたしはわたしの人生を生きてきた
そう思える人生だった
ありがとう、ありがとう
今度はあなたの番
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