8月20日は【世界蚊の日】 蚊の病気媒介対策は発展途上
8月20日は「世界蚊の日(World Mosquito Day)」だ。
1897年のこの日、イギリスの医師ロナルド・ロスがハマダラカの体内からマラリア原虫を発見した。
その後、ロスは蚊が病原体を媒介することを証明し、1902年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
これを背景に、米国蚊対策協会(AMCA)は毎年キャンペーンを展開している。
2026年は、AMCAのマスコット蚊の「Meep」を主役に据えた「Where in the World is Meep?(ミープは世界のどこにいる?)」で、蚊対策の重要性を啓発している[3]。
前に『マラリア対策に飲み薬開発中』の記事を書いたが、蚊による病原体拡散の防止には様々な手段が取られている。
最近の研究で、蚊の対策法が時に効果逆転すると分かったため、今回はこの知見を解説しよう。

今回のキーワード
蚊の基本生態と標的探知
蚊が人を刺すのは産卵期のメスのみだが、獲物を探す際は、においや二酸化炭素を手がかりにする。
この探知の仕組みの中心にあるのが、触角に存在する嗅覚受容体(OR)である。
また、同じ香り成分であっても、割合や濃度が異なると蚊の行動が正反対に変化する。
特定の匂いが蚊を引き寄せる働きになることもあれば、条件が変わると遠ざける働きに変わるのだ。
病原体ブロッキング
蚊は世界中に生育し、自身が持つウイルスを吸血対象に感染させることで、様々な病気を伝播する。
しかし「Wolbachia」という細菌に感染された蚊は、その体内でデング熱ウイルスが増殖しにくい(病原体ブロッキング)。
そのため、「蚊を事前にWolbachiaに感染させることで、デング熱の拡大を抑える」といった試みが、世界12か国以上で試されている。
研究結果
研究①:蚊の主食は花の蜜
蚊は血を吸う昆虫として知られているが、日常的には何をエネルギー源にしているのか?
Riffellらは、蚊が栄養源にどう引き寄せられるかを、先行研究からまとめ直した[1]。
主な結果
主たるエネルギー源
産卵に血を必要とするのは一部の種のメスのみ
雌雄ともに、普段は花の蜜や果汁などの糖分を主なエネルギー源としている環境による病気媒介能力の変化
植物からの栄養が豊富な環境では、栄養が乏しい環境に比べて、ハマダラカが病気をうつす力が最大250倍増加香り成分による行動変化
一般に花の香りは複数の化学成分から成る
似た香りであっても、その成分比率が異なると、蚊を引き寄せたり遠ざけたりする香りで誘引して毒エサを食べさせる実験(ATSB)
フロリダ:ネッタイシマカが最大80%減
マリ、ザンビア、ケニア:効果なし
論文の考察
市販の誘引剤は保存状態などで匂い成分がばらつき、天然の香りを再現しきれていないため、毒エサ実験の効果に違いが出た
研究②:細菌Wolbachiaの影響はウイルスにより様々
「Wolbachiaを感染させた蚊」はデング熱ウイルスの抑制には有効だが、他のウイルスではどうだろうか?
Dodsonらは、3種のウイルスへの影響を調査した[2]。
実験方法
Wolbachia(wMelまたはwAlbB)を感染させたネッタイシマカを準備
それらの蚊に3種類のウイルスを投与
主な結果
シンドビスウイルス(SINV)
Wolbachia感染済の蚊:実験7日後にウイルス感染率が上昇し、14日後には上昇効果が消失オニョンニョンウイルス(ONNV)
Wolbachia未感染の蚊:ウイルス感染率0〜11%
Wolbachia感染済の蚊:Wolbachia未感染の蚊と明確な違いなしマヤロウイルス(MAYV)
Wolbachia未感染の蚊:ウイルス感染率91%
wMel感染済の蚊:20%程度に低下
wAlbB感染済の蚊:Wolbachia未感染の蚊と明確な違いなし
論文の考察
Wolbachiaが、蚊のウイルス感染に対して「増強」「抑制」「変化なし」と様々な効果を示した。
ウイルスへの影響が変化するメカニズムはいくつか推測できるが、その解明が今後の課題。
まとめ
蚊の対策に「万能薬」はない
「香りによる誘引・忌避」と「Wolbachia菌を用いたウイルス対策」は、特定の条件が揃わなければ十分な成果を出せない点において共通している。
また、蚊の吸血は卵を作るためであり、行動エネルギーには花の蜜や草の果汁を使っている。
庭木やベランダの観葉植物は餌場となり、放置された水たまりは産卵場となるため、これらの管理が蚊の対策に有効だろう。
【今回の論文から得られた知見】
Wolbachia菌に感染させた蚊は、デング熱対策として実績があり、人への健康被害も報告されていない。
しかし、別種のウイルスに対して異なる効果が見られており、新しい技術が全ての面で効果的とは限らない点が確認された。
【注意点】
特定の香り(揮発性の化学成分)が、その組成比の違いで蚊を誘引も忌避もさせる。
虫よけ剤は汗や時間の経過で効果が薄れる(組成が変わる)ため、定期的な塗り直しが必要である。
また、一般的にハーブなどは蚊を忌避させると言われるが、自分が使っているものの、実際の様子を観察した方がよい。
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参考資料
[1] Leon Noreña M, Riffell JA, et al. The olfactory neurobiology and chemical ecology of mosquito attraction to plant nutrient sources. Proc Biol Sci. 2025;292:20251806.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12569477/
論文データ: 蚊の植物栄養源への誘引に関する嗅覚神経生物学・化学生態学レビュー。誘引毒餌(ATSB)による対策技術の実地成績も解説。
[2] Dodson BL, Rasgon JL, et al. Variable effects of transient Wolbachia infections on alphaviruses in Aedes aegypti. PLoS Negl Trop Dis. 2024;18:e0012633.
https://journals.plos.org/plosntds/article?id=10.1371%2Fjournal.pntd.0012633
論文データ: Wolbachia2系統をネッタイシマカに感染させ、3種のアルボウイルスへの影響を比較した実験。ウイルス種により増強・無効果・抑制と異なる結果を確認。
[3] American Mosquito Control Association. World Mosquito Day. 2026.
https://www.mosquito.org/pr-tools/world-mosquito-day/
引用内容: 世界蚊の日の公式啓発ページ。2026年はマスコット「Meep」を用いた啓発企画を実施。
【End】
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