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『人と違っても大丈夫』


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今夜から、物語のテーマ曲を添えました。
よかったら再生して、
秘密の図書館の扉をそっと開いてみてください。

Music created with Suno.

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ようこそ、秘密の図書館へ。

今夜も一冊、本棚から小さな物語を取り出してみましょう。

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休日の午後だった。

青い空が広がり、街にはたくさんの人が歩いていた。

母の隣を歩きながら、少女は少しだけ胸がざわついていた。

駅前には、人、人、人。

笑い声。

話し声。

車の音。

信号機の電子音。

お店から流れる音楽。

色とりどりの看板。

香水の香り。

焼きたてのパンの匂い。

全部が一度に押し寄せてきて、少女の心は、どこへ気持ちを置けばいいのかわからなくなっていた。

「早く行くよ。」
母が振り返る。

少女は「うん。」と返事をした。

けれど、その声は、自分でも驚くほど小さかった。

歩けば歩くほど、人の波は大きくなる。

誰かの肩がぶつかる。

すぐ横を人が追い越していく。

遠くでは子どもが泣いている。

誰かが大きな声で笑った。

少女は、少しずつ呼吸が浅くなっていくのを感じていた。

胸の奥がぎゅっと縮こまり、空気がうまく入ってこない。

苦しい。

でも、どうして苦しいのか、自分でもわからない。

ただ、人が多いだけなのに。

みんな平気そうなのに。

どうして私だけ…。

そう思うと、ますます息が苦しくなった。

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やっと入った本屋さんは、不思議なくらい静かだった。

外のざわめきが、扉一枚で遠くなる。

紙の匂い。

ゆっくり流れる音楽。

ページをめくる小さな音。

少女は大きく息を吸った。

ようやく息ができた。

本棚を眺めながら歩く。

背表紙がきれいに並んでいるだけで、不思議と心が落ち着いていく。

「ここなら大丈夫。」
少女は小さく呟いた。

一冊の絵本を手に取る。

森の中で、一匹の小鳥が羽を休めている表紙だった。

ページを開く。

そこには、木漏れ日の中で深呼吸をする動物たちが描かれていた。

少女も一緒に、ゆっくり息を吸ってみた。

すぅ…。
吐く。
ふぅ…。

胸の苦しさが、少しずつほどけていく。

その時だった。

少女は初めて気づいた。

私は、人が嫌いなんじゃない。

少しだけ、たくさん感じてしまうんだ。

だから疲れてしまうんだ。

まだ、その言葉を知ることはなかったけれど、小さな心は、それをちゃんと感じ取っていた。

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帰り道。

夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。

風が少女の髪を揺らす。

人も少なくなり、鳥の声が聞こえてきた。

少女はようやく、いつもの自分を取り戻していた。

「今日は疲れた?」
母に聞かれ、

「うん、ちょっとだけ。」
そう答えた。

本当は「すごく苦しかった。」と言いたかった。

でも、その言葉は胸の中へしまった。

まだ、自分でも説明できなかったから。

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長い年月が流れた。

私は秘密の図書館の一番奥にある本棚から、一冊の本を取り出した。

表紙には、やさしい文字で書かれている。

『人と違っても大丈夫』

ページをめくる。

あの日の街並みが広がっていた。

そして、小さな女の子が、本屋さんの隅で絵本を抱きしめて座っている。

私は静かに、その隣へ腰を下ろした。

少女は少し驚いた顔で私を見た。

「ここなら息ができるの。」

小さな声だった。

私は微笑んでうなずく。

「うん。」
「よくわかるよ。」

少女は目を丸くした。

「本当に?」

「本当に。」

私は少女の手をそっと包んだ。

「あなたは弱いから苦しかったんじゃない。」

「人よりたくさんの音や空気や、人の気持ちを感じられる心を持っていたんだよ。」

少女は静かに耳を傾けている。

「だからね。」

「疲れたら静かな場所へ行っていい。」

「一人になっていい。」

「本を読んでいい。」

「それは逃げることじゃない。」

「あなたの心を大切に守ることなんだよ。」

少女の瞳に、小さな涙が浮かんだ。

「守ってもいいの?」

私は大きくうなずいた。

「もちろん。」

「あなたの心は、世界にひとつしかない宝物だから。」

少女は胸に抱えた絵本をぎゅっと抱きしめた。

その表情は、少しだけ安心したように見えた。

私は続ける。

「大人になったあなたはね。」

「静かな部屋が好きになる。」

「風の音や鳥の声、本のページをめくる音に癒やされるようになる。」

「そして、その優しさを言葉にして、たくさんの人へ届けるようになるんだよ。」

少女は照れくさそうに笑った。

「じゃあ、このままでもいいんだ。」

「うん。」

「このままでいい。」

「その繊細さが、あなたの優しさになるから。」

窓から風が吹き込んだ。

本のページが、ふわりと一枚めくれる。

まるで図書館そのものが、少女を優しく祝福しているようだった。

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私は本を静かに閉じた。

秘密の図書館は、今夜も穏やかな灯りに包まれている。

本棚には、まだ迎えに行けていない「あの日の私」が眠っている。

でも焦らなくていい。

一冊ずつ。

一話ずつ。

少しずつ、その子の隣へ座りに行こう。

そして、
「大丈夫。」

「あなたは、そのままでいい。」

と伝え続けよう。

きっと、その言葉は、昔の私だけではなく、今日この物語を読んでくれた誰かの心にも届くはずだから…

今日の心の栞☘️
人混みで息が苦しくなった日は、弱かった日ではない。

たくさんの世界を感じられる心が
「少し休ませてね」と教えてくれた日だった。



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