『はじめて好きになれた一人時間』
ようこそ、秘密の図書館へ。
今夜も一冊、本棚から小さな物語を取り出してみましょう。
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少女は、いつも「みんなと一緒」が少し苦手だった。
休みの日。
近所の子どもたちの笑い声が、窓の外から聞こえてくる。
「遊ぼう!」
そんな元気な声に、少女はカーテンを少しだけ開けて外を眺めた。
楽しそうだな。
そう思う。
でも、その輪の中へ飛び込んでいく勇気は、なかなか持てなかった。
人と遊ぶことが嫌いなわけではない。
ただ、楽しい時間のあとには、必ず心がくたくたになってしまう。
家へ帰ると、誰とも話したくなくなる。
それがどうしてなのか、少女にはまだ分からなかった。
だから、
「一人でいるなんて寂しい子。」
そんな言葉を聞くたびに、
私は少し変なのかな、と心のどこかで思っていた。
その日の午後。
家には誰もいなかった。
窓から入る夏の風が、白いレースのカーテンをふわりと揺らす。
時計の秒針だけが、静かに時を刻んでいた。
少女は本棚から一冊の本を取り出した。
お気に入りの物語だった。
冷たい麦茶をコップに注ぎ、窓辺へ座る。
ページをめくる。
紙の匂い。
風が運ぶ草の香り。
遠くで鳴く蝉の声。
誰にも急かされない時間。
少女は気づいた。
「あれ…。」
胸が苦しくない。
息が、とても楽だった。
本を読みながら、ときどき空を見上げる。
入道雲がゆっくり流れていく。
庭の木々が、風に揺れている。
その景色を眺めているだけで、心が少しずつほどけていくのを感じた。
「一人って、寂しいだけじゃないんだ。」
その日、少女は初めて思った。
静かな時間は、私を元気にしてくれる。
誰とも話していないのに、
心は満たされていく。
誰もいないからこそ、
私は私に戻れる。
そんな不思議な午後だった。
それから少女は、ときどき一人の時間を過ごすようになった。
お気に入りの本。
ノート。
色鉛筆。
窓から見える空。
雨の日には、雨音。
晴れの日には、鳥の声。
どれも少女にとっては、大切な友だちだった。
「今日は何をしよう。」
そう考える時間が好きになった。
一人だからできることが、たくさんあることを知った。
誰かと笑う幸せも好き。
でも、一人で過ごす静かな幸せも、同じくらい大切なんだ。
少女の心に、小さな灯りがともった。
長い年月が流れた。
私は秘密の図書館の奥にある窓辺へ歩いていく。
そこには、一冊の本が静かに置かれていた。
『はじめて好きになれた一人時間』
私はページを開く。
すると、あの日の夏の午後が広がった。
窓辺に座り、本を読んでいる小さな少女。
風がカーテンを揺らしている。
私はその隣へ、そっと腰を下ろした。
少女は本から顔を上げる。
「あ…。」
少し恥ずかしそうに笑った。
「一人でいるのって、変じゃないよね?」
私は優しく微笑んだ。
「もちろん。」
「むしろね。」
「あなたにとって、一人時間は心のお布団みたいなものなんだよ。」
少女は目を丸くする。
「お布団?」
「そう。」
「疲れた心を、ふんわり包んでくれる場所。」
「だから、一人になりたくなる日は、自分を守ろうとしている日なんだ。」
少女は窓の外を見つめた。
木漏れ日が、床の上で揺れている。
「でも、みんなと違うよ。」
その小さな声に、私はゆっくり首を振った。
「違うんじゃない。」
「あなたには、自分を元気にする方法がちゃんとあるだけ。」
「それは、とても素敵なことなんだよ。」
少女は本を胸に抱きしめた。
「じゃあ、この時間を好きになってもいい?」
「うん。」
「胸を張って好きになっていい。」
「だって、この時間があったから、大人になったあなたは、優しい文章を書けるようになったんだから。」
少女は嬉しそうに笑った。
その笑顔は、これまで見たどの笑顔よりも自然だった。
風が吹く。
本のページが、ふわりとめくれる。
その音は、まるで図書館が拍手をしているようだった。
私は本を閉じる。
秘密の図書館の窓からは、夕暮れの柔らかな光が差し込んでいる。
本棚には、たくさんの思い出が並んでいる。
どれも、あの日は「みんなと違う」と思っていた出来事ばかり。
でも今は違う。
その一つひとつが、今の私をつくってくれた、大切な一冊になっている。
静かな時間を愛せる心。
風の音に耳を澄ませること。
本を読む喜び。
自然の景色に癒やされること。
それらは全部、少女が見つけてくれた宝物だった。
私は今日も、その子に小さく手を振る。
「ありがとう。」
「あの日、一人時間を好きになってくれて。」
少女は本を抱えたまま、にっこり笑って手を振り返してくれた。
その笑顔は、もう寂しさではなく、安心で満たされていた。
☘️今日の心の栞
一人時間は、孤独な時間ではない。
自分の心が「おかえり」と微笑みながら迎えてくれる、大切な帰り道。
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