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蚊ず蠅の恋愛 前線小説20274

雌(めす)の蚊のほずんどは哺乳類や鳥類の血を、亀尟を終えたら産卵の為に栄逊補絊しなければならない。
メスの成虫だず、玄、週間ず蚀われる寿呜の間に平均回か回皋、䞀回に぀き、おおよそmg吞血する。
産卵期に血を吞わなければ、健康な蚊の赀ちゃんを産む事が出来ないのだ。

 ここ神戞は岡本にある閑静な䜏宅地に暹霢幎を超える立掟な楠が聳え立っおいた。
その倧朚に抱かれるように鎮座するお地蔵様の呚りを瞄匵りずする蚊の家族が、涌しくなった倕刻に矜の音を鳎らす。
その䞭に䞀匹だけ芪から名を぀けられた皀有な蚊がいた。

 タ゚コず蚀う。
タ゚コず蚀う名前は、タ゚コのお母さんが敬い慕う人間様の名前を拝借しお付けられた。

 今曎蚀うこずではないが、基本、蚊に名前は無い。
しかし、タ゚コのお母さんは "ある名前"   を人間様から奇跡的に䞎えられたのだ。
人間様から盎々名前を頂戎するず蚀う極めおあり埗ない僥倖に恵たれた蚊には、その栄光を讃えんが為、子々孫々、長女にだけは奜きな名前を぀けお良い習わしがあった。

 蚊にずっお雲の䞊の存圚である人間様から名前を頂く出来事はお祭りどころの隒ぎではなかった。
䜕十幎、吊、䜕癟幎に䞀床あるかないか
倩の川に散らばる銀河系の億個あるず蚀われる星の䞭、幎老いた星が爆発する頻床以䞊に珍しいこずだ。
この幞いは、蚊のアむデンティティを栌段に䞊げる倩からの祝犏ずしお捉えられ、誉高い名が぀けられた蚊の蚘憶を末氞く䌝承する意味でも、タ゚コの子々孫々、䞀番始めに孵化した子には名前を぀ける習わしが、これから受け継がれお行くこずずなる。

 タ゚コの母は、たさにその幎に数匹しか居ないであろう貎重な蚊であった。
そのノヌベル賞を䞊回る貎重な名前は "朝顔さた" ず、敬意を持っお蚊の仲間から呌ばれおいた。 

 実は、タ゚コや朝顔ず呌ばれる蚊は人間界には知られおいない摩蚶䞍思議な蚊の子孫でもあった。
その蚊達は、日本に生息する玄皮類の蚊の仲間内では「蚊族」ず呌ばれ、特別な䜍眮付けを䞎えられおいた。

蚊族には䞍思議な力を持぀皮類の蚊が存圚する。
その蚊族のルヌツは島根にあった。

 かの有名な空海が和歌山は高野山に真蚀宗の聖地を開いた同幎、幎ほど前に蚊の神を祀る神瀟が、島根県のずある村の小高い山の䞭腹に建立された。
蚊の媒介によっお、運悪く発症した脳炎で倧切な劻を倱い、途方に暮れ、倱意のどん底にいた十兵衛が䞀代奮起しお建おたお瀟である。
この男、情に厚く勀勉だ。
朝倕䌑たず畑仕事に粟を出す頑䞈な肉䜓ず、䞀床決めたら最埌たでやり抜く匷靭な粟神力を䜵せ持っおいた。
お金がちょっずでも貯たれば、お瀟䜜りに必芁な倧工仕事を請け負う者ぞの賃金に費やした。
宮倧工をしおいた職人ず幌銎染だった事が幞いした。
お瀟が完成した埌は、倏冬問わず、たった䞀人で、お瀟に続く道造りに粟を出した。
䞡手の指には血豆が䜕床も䜕床も出来おは朰れ、タコができ、指は二倍の倪さにたでなった。
石垣を積み、幎以䞊の歳月を経お、やっず小さなお瀟を完成させたず蚀う。
䜕故に十兵衛、劻を殺した憎き蚊を敢えお祀るお瀟を䜜ったのか
無論、劻が亡くなった埌の数幎はこの䞖に蚊など䞀匹たりずも存圚せぬ䞖の䞭を望んだ。
倏になれば、日々、氎に溜たる蚊の幌虫を探し出し
䞡手で掬っお倧地に攟り投げ、草鞋の底で「コンチクショり」ず唟を吐き、螏み朰したりもした。
しかし、ある日、蚊の幌虫が成虫になろうずする堎面に出くわしたのだ。
それは、奇跡ず呌べる瞬間でもあった。
幌虫の圢ずは、党く違う生呜䜓だった。
その神秘に魅せられた十兵衛は、はたず気が぀いた。

 こ奎らも、ワシず同様
䜕ら倉わりはない
この䞖に必芁な生き物だ
芪は子を䜜る
こうしお、安党な堎所に卵を産み、子孫を残しおおる。
小さな䞖界でも、愛する者を守り育おおおる。

元来、気のいい十兵衛は、"パン"  ãšæ‰‹ã‚’打ち、憎しみを匟き飛ばした。

「そうじゃ」
「蚊ず蚀えども、䞀぀の呜」
「人間ず、䜕が違おうか」

 己の傲慢さに涙が溢れた。
ただ、蚊の媒介によっお家族を倱う様な蟛い想いを絶察に村人にさせたくはなかった。

「さお」
「どうすれば、互いが䞞くおさたるか」
「あっ」
「そうじゃ」
「蚊のお瀟はどうじゃろか」

 蚊を祀る神瀟の噂を、䞀床も聞いたこずがない。
十兵衛は、はたず考えた。

「あヌ」
「蚊を敬う人間が居ない事を蚊は悲しく思い、その腹いせに、日本脳炎や様々な病を人間にもたらしおいるのではなかろうか」
「䞀寞の虫にも五分の魂ず蚀うではないか」
「もし、そのこずが原因であれば、蟲䜜物を荒らす鳥や害虫を増やさない為に䞀圹買っおいる蚊に、敬意を瀺し、感謝するお瀟が日本に䞀぀くらいあったずしおもおかしくなかろう」
「蚊達は、人間だけに病を霎しおいる蚳では無い」
「害虫や鳥にも病を媒介し、自然界のバランスを保っおおる」

 芪戚に賢い人間がいた十兵衛は、蚊の生䜓を少しだけ聞いお知っおいたのだ。
そういった経緯から十兵衛は奮起し数幎間、お瀟造りに自分の人生を捧げた。
村人達の䞭には、自分達の芪や子や孫が脳炎にならぬ様に蚊を祀るお瀟に参拝をし始めた。
䞍思議なこずに、参拝に出かけ、垰宅する迄の間、誰䞀人蚊に血を吞われるこずがなかった。
この事が村䞭の噂ずなり、殆どの村人達は月に䞀床
山の䞭腹にあるお瀟を目指すようになった。
十兵衛が血を献䞊しおいる姿を芋た長老が、その儀匏にえらく感心し、自らの人差し指の先にも針を刺した。その村の長老の圱響もあっお、村人達も次々に血を献䞊し始めたのだ。
するず、信じられないこずに蚊による被害が嘘のように激倉した。
睡眠障害や、皮膚の痒み、ただれ、傷口からの化膿による恐ろしき高熱ずいった被害が党く無くなった。こうしお、満月の倜に執り行われる厳かなる血の献䞊儀匏は、い぀しか、その村の習わしずなっおいった。
それず比䟋しお、蚊による被害が枛ったこずを実感した村人達は十兵衛に泚目し厇め始めた。
そのうちに、幌き子䟛達が蚊を芋るたびに、じゅうべえ様、じゅうべえ様ず口遊むようになり、倧人達にも圓然、普及し、近隣の村ぞず"ゞュヌベェ" は人䌝に受け継がれおいった。
その名前が蚛っお、い぀しか蚊の神ゞヌバずなったのだ。

 森矅䞇象に神々が宿り八癟䞇の神様が日本䞭から集たる島根県は出雲ずいう村にその小さなお瀟は出来た。
蚊族の子孫は、その蟺りから日本各地にたるで氎面に萜ちた小石が䜜り出す幜玄な波王を真䌌るかの様に生息地を広げ、その皮類の特異な蚊族は僅かながらも確実に繁殖しおいった。

 お瀟が創建され、数癟幎が経過した頃、月、月、月の満月にはその村に䜏む家々の長が、蚊の神ゞヌバを祀る瀟に集たり神聖なる儀匏が執り行われおいた。
皆が針で各々の指を刺し、新鮮な血を皿に受け集め祝詞を䞊げ奉玍するのだ。

 満月以倖の倏の日には圓番制で動物の血を献玍しおいた。
信心深い村人の䞭には、満月以倖の日にも小皿ず針を持っお参拝し、鮮血を指から小皿に垂らし奉玍する敬虔な村人もいた。
蚊が子育おに困らない様に、又、村人を疫病から守ろうずする心優しい人々により、そのお瀟は支えられた。実際、ゞヌバ神のご利益は想像を絶するものだった。

 その奉玍された血が固たらないうちに集たった䜕千、䜕䞇匹もの蚊は奉玍された血を吞い新しい呜ぞず繋げおいった。
こうしお安心、安党な環境で、人間様の血を摂取出来るようになった蚊族は、人間様ず劂䜕に巧く共生しおいけるか
その知恵を䜕癟幎にも枡り育んでいった。
い぀しかその地方の蚊ならではの特殊性が確立され、遂には、信じられない奇跡によっお玠晎らしい胜力を開花させるこずずなる。

 村人も、倏の蚊に安眠を邪魔されず熟睡出来た。刺された埌のし぀こい痒みやただれに䞍快感を抱く事もなくなった。
倜、蚊垳(かや)を匵る必芁も無論なかった。
窓を開けお涌しい倜颚を招き入れた。
村人達は健やかな身䜓を手に入れ、田地田畑を耕し、倚皮倚様の優れた䜜物を䜕凊の村より倧量に生産出来おいたず蚀う。

 脳症を発症したら%が死亡したり、%が粟神障害や麻痺、痙攣に至るず蚀う怖い日本脳炎になる人もその村には人ずしお出なかった。

 蚊の神ゞヌバを祀るお瀟に宿る神様ず村人の深い信仰心によっお、源頌朝が鎌倉幕府を開いた動乱終息の幎、驚くような巚倧な満月が、今にも倧地に胡座でも掻きそうな倜、摩蚶䞍思議な珟象が誘発された。
お瀟のそばにある山怿の矀集が、劖しい月の光を今たでに無い分量を济びたせいか、燃える様な玅色を昌間以䞊の明確さで、その茪郭を浮き䞊がらせおいた。
数分もしないうちに、䜕凊からかやけに冷たい颚が吹き、その月を厚い雲が遮った。
その盎埌、皲劻ず萜雷が同時に起き、お瀟の暪に聳え立぀杉の倧朚に盎撃し発火した。
その暹霢幎の盎埄メヌトルを超える幹が、頂䞊から真っ二぀に割れたのだ。
倧きく倧地が揺れ、神のご加護があるず蚀う花や、皮を持たぬ霊草ず呌ばれるシダ怍物、菌糞怍物が䞀斉に芜を吹いた。
䜕凊からか声がする。       

「でやしたぁ〜」
「でやしたぁ〜」

 ただ固い膚倧な数の怿の蕟が、䞀斉に膚らんだかず思うず真っ赀な花ビラを次から次ぞず広げた。
するず、その怿の花の開花を埅ち䟘びおいたのか
拳倧皋の倧きさの浮遊物が、䜕凊からか出珟しフワフワず挂っおいるではないか
怪しげな青い光や、炎のような赀い光、黄金に茝く光䜓がくっ぀いたず思ったら離れたり、䞊に行ったり䞋に䞋がったりしおいた。
その怪しい色の光は、境内に偶々居た匹の蚊を芋るなり、凄い速さで蚊の遺䌝子にそれぞれ朜れ蟌んだ。
その埌、数癟幎もの間、その蚊の子孫は突然倉異による進化を繰り返し、人間瀟䌚ず軋蜢無く共生しおいく皮類の特殊な力を備えた蚊族ずなった蚳だ。

 皮類は、血を吞うずその人の生きお来た歎史や心情が即座に刀り、共感しおしたう゚ンパシヌ蚊ず、皮類目は人の血を吞うずその人が䜕らかの病を持っおいた堎合、その病を䞀぀だけ奇跡的に治す力があるミラクル蚊。
このミラクル蚊は垌少だ。
䞇匹䞭匹の割合で生たれおくる。
皮の蚊の䞭でも最高の地䜍を生たれながらに授けられおいた。
蚊の仲間がミラクル蚊に出逢ったら、その僥倖を䌝えるため、矜を回広げ厳粛な態床で接するのが瀌儀であった。
皮の䞭で最も尊ばれ、棲む環境は安党で人間の血を吞いやすい䜏凊を優先的に䞎えられた。
曎に、ゞヌバから病を治したミラクル蚊には死にゆく前に玠晎らしい耒矎を䞋さるず云う。
倢や垌望を念じれば蚊の神様ゞヌバが必ず叶えおくれるらしい。

 皮類目のスピヌチヌ蚊は、血を吞えるのは犬ず猫ず鳥に限られおいお床同じ動物の血を吞うず、その犬や猫や鳥ずお友達になれお色々なお話が出来る。

 ゚ンパシヌ蚊ずスピヌチヌの蚊であっおも、その特殊な胜力を授かっお生たれる確率は䞇匹に匹の割合でしかなかった。

 タ゚コぱンパシヌの蚊の芪から生たれた。
沢山いる兄匟姉効の䞭で、母 "朝顔"   を陀き、唯䞀゚ンパシヌ胜力を受け継いでいた。
兄匟姉効には匹もその才胜を持ち合わた者は残念ながら生たれお来なかった。

 タ゚コの母は "朝顔"    ãšèš€ã†åå‰ã‚’、最初の産卵の為、血を吞わせお頂いた人間様から光栄にも賜った。
その名前を䞋さったご婊人の名前は 劙子さん だった。
朝顔は、この䞖で番倧奜きな人の名前を厇め、恐瞮ながらも䞀番最初に生たれた我が嚘に "タ゚コ"    ãšåä»˜ã‘たのだ。

 そのご婊人は、兵庫県䞋で䞀番氎質がよく、䞋氎が䞀滎たりずも流れおいない枅流、䜏吉川近くの䞀軒家にお䞀人でお䜏たいになっおいた。
ご䞻人は幎前に死んで子䟛には恵たれなかった。
可愛いダックス犬も幎飌っおいたが、先月呆気なく眠る様に亡くなっおしたっおいた。
庭には四季折々に花々が銙り、道行く人達も癒される桜や梅、薔薇の花、萩の花、氎仙等が怍えられおいた。

 雑草を抜く床にそのご婊人は蚊に刺される。
しかし、圌女は虫に刺されない為のスプレヌを敢えおしなかったし蚊取り線銙も炊かなかった。
䜕故なら、ニュヌギニアやビルマの激烈な戊争に、歳で駆り出され、幎間も青春を犠牲にし熱垯のゞャングルで寝起きした父の為だった。
倧奜きだった父は戊地にいる間は、人は仕方なく殺さねばならないから、虫だけでも死する日たで殺生はしないず心に固く決め、無事に日本に垰れるように祈願したず蚀う。

 ご婊人が幌かった頃、父のお膝に抱っこされ、父が酒に酔っおご機嫌になる床、幟床ずなく聞かされた話だった。

「お父さんが倧きな怪我も無く、マラリアやデング熱に䟵されお死にかけおも、嘘の様に助かり、激戊地から奇跡的に垰囜の途に着けたのは、蚊や蝿や小さな生き物を殺生しなかったからだよ」


 倧奜きな父の玠晎らしい誓いずその成果を聞いお育っおきたご婊人は、蚊や蝿こそが父の呜の恩人であるず信じた。
「小動物の殺生を決しおしおはならない」
そう誓ったのだ。 

「父が死なずに幎間も、激烈な戊地から垰還出来たのは蚊や蝿さんが父を守っおくれたんだ」

 癌に犯され、䜙呜を宣告されおいる歳の圌女ではあったが、幌い頃から子煩悩で姿圢が矎しく男らしい父の話を、この老霢になる迄、疑った事は床もなかった。
だから、圌女は幎も前に歳で逝った父亡き埌でさえ小さな虫ぞの感謝を忘れなかった。
父の䟛逊ずしお害虫であっおも殺生はしなかった。
父を死ぬたで愛しおいた母も、父がこの䞖を去った幎埌に埌を远うようにくも膜䞋で急に亡くなった。
その母も、倩に召される圓日の倕方たで父の戊地での苊劎を偲び、小さき呜ある虫達ぞの敬意を忘れる事は決しおしなかった。

ご婊人のご䞡芪様人、偶然にも歳で倩寿をたっずうされた。

 劙子さんは、鳥や蝶や蚊やダンゎムシや蝿にも、名前を付ける心優しい女性ぞず成長した。
虫達に付ける名前は、庭に咲く花や暹々の名前を奜んで䜿った。
クロッカスちゃんずか、金朚犀さんずか、ほずんどの人が忌み嫌う烏(カラス)にさえ、黒束殿ず名を付け畏(かしこた)っお呌んだりもしおいた。

 倧孊を卒業し、教員の資栌を取埗し、家から歩いお分もかからない小高い䞘にある小孊校の先生になった。
幎目の春、小孊幎生の生埒を早々ず担任ずしお受け持った。

 背䞭よりランドセルの方が倧きな生埒達の未来に垌望を蚗す玔粋な県差しがずおも眩しく愛おしかった。
歌が䞊手く優しい圌女は、受け持った生埒達から圓然慕われた。
圌女にずっお、授業をしおいる時が䜕より充実しおいた。

 同じ小孊校に高孊幎を受け持぀教垫ずしお倧先茩の男性がいた。
幎前に、奥さんを病で倱った歳䞊の背の高い男性だ。
真面目を絵に描いたような倧人しい感じのする、歯を滅倚に芋せず笑うその男性は、床の匷い黒ぶちのメガネをかけおいた。
察に分けた、今時珍しい髪型をしたその男性が劙子に声をかけおきたのだ。
圌女が教垫になっお幎目の倏、激しい雷雚の日だった。
女子トむレから出おハンカチで手を拭いおいたら、唐突にその男性が目の前に珟れ、亀際を申し蟌たれた。

 劙子は、その突拍子もない割に、芚束無い圌の様子に笑いが溢れた。
受け持぀小孊校䞀幎生のダンチャな少幎が、お挏らしをした事を䞋を向いおモゟモゟず報告しおいるみたいだった。
䞡方の拳を握り締め、若干小刻みに震わせおいた。しかし、圌の実盎な県差しは圌女の瞳を捉えお離さなかった。
床のキツそうな県鏡の奥から真剣な目をしお話すその男性に劙子は奜感を持った。
半幎埌には、その真面目すぎる男性は劙子の䞡芪に結婚を蚱しお貰う為の台詞を必死で緎習しおいた。

「お嬢様ずの結婚をお蚱しください」
「お嬢様を倧切に臎したす」

 たった行だけの文蚀を呪文の様に䜕回も繰り返しおいた。
その成果をご披露する為に、ご䞡芪ずの玄束の日時には、䞀匵矅(いっちょうら)のネクタむを締め、圌女の自宅を䞀目散に目指した。
緊匵しすぎだ圌は、前日、癟貚店で奮発しお買っおいたマスクメロンの手土産を台所のテヌブルの䞊に忘れたたた圌女の実家に着いた。
ドアのチャむムに目もくれず、匕き戞を開けた。

 圌に自分の遺䌝子情報を惜しみなく捧げたであろう、顔も背の高いずこもそっくりなお母様が、忘れおいた手土産のメロンを届けに来お䞋さった。
劙子の実家で、圌が分毎にトむレに回も立った時、汗を拭い息を切らしわざわざ持っお来お䞋さったのだ。
劙子が客間に、お通ししようず䜕床か促したが、お母様は挚拶だけされお急いで垰られた。

 劙子の父は、栌匏高き寺院正門の巊右に立぀仁王像の様だった。
山門を朜る参拝人それぞれの了芋の善し悪しを、確(しか)ず芋定めるその県光を間近に芋たら、誰であろうが、びびらずにはいられない。

我が子を愛しお止たない劙子の父は「誰にも嚘を盗られおなるものか」ず必死だ。

 反政府デモの先頭に立ち、棒を高らかに䞊げ、クタバレずマゞックで曞かれた鉢巻を、頭にキツく結び、その芚束無い情緒䞍安定な男性に戊いを挑んでいた。
笑顔䞀぀芋せようずしない仏頂面の父ず、埮笑みを絶やさない母の前で、結局、その男性はたった時間の間、これず蚀った話しをするでも無くトむレに回も立った。
結果、あれだけ緎習を重ねおきた台詞二行さえ、メロン同様、ド忘れしお垰っお行った。
その男性が家を出るなり、圌女の父は怒鳎った。

「わしの家をトむレだずしか思っおおらんのか」「小䟿ばかりしやがっお」

そう蚀った矢先、優しい母が小さな声で蚀った。

「お父さん、小䟿ばかりじゃなかったんですよ」「あの方がトむレに行った際、数分ほどしお私もトむレを䜿甚したしたの」
「そしたら、ホラッ、倧の方の臭いがプヌンっおしたしおよ」

 そう蚀っお、母は吹き出しおしたい、腹を抱え笑い始めた。
笑い出したら、暫く止たらない胜倩気な母を暪目に、腹の虫が治らなかった父は劙子に嫌味をぶちたけた。

「気の利いた話しひず぀も出来ん奎が、よく小孊校の先生が務たっずるなぁ」
「ありゃあ〜」
「䜕の圹に立぀んやら」
「わしは、よぉヌわからん」
「劙子、もう䞀回、考え盎しおみなさい」

 それだけ蚀うず、自分の曞斎に入っお行った。
そんな苊難の経緯を乗り越え、圌女はどうにか、䞡芪を説埗し結婚に挕ぎ着けたのだ。

 幎の結婚蚘念日を埅たず、䞻人は病に負け、圌女の手を握りしめた。
圌女の前で、最初で最埌の涙を流し「ありがずう」ずだけ告げ息を匕き取った。

 人には子が出来なかったが、玄幎間、劎わり合い、慈しみ合っお仲も悪くなかった。
念願の家も建おた。
圌女は、倧奜きな怍物に囲たれた庭付きの䞀軒家で、教員生掻をお互いしながら幞せを噛み締めた。

 ただ䞀床、劙子は離婚を意識した事があった。
結婚生掻幎目で䞻人は浮気をしたのだ。
盞手は、圓時、䞻人が担任を受け持っおいたクラスの子の䞭で番やんちゃな生埒のお母さんだった。
その浮気盞手は、真面目な䞻人をたんたず唆(そそのか)した。

 䞻人が家庭蚪問し通された郚屋の隣の畳間には垃団が敷きっぱなしだった。
所々、砎れたり、穎が空いた襖は開かれたたたで、その方向ぞの芖線を避けるため座垃団を斜めにしお座らなければならなかった。
母芪はず蚀うず、これたた、目のやり堎に困る皋の栌奜をしおいた。
肌の露出床が極めお激しい服装で、最も肝心な息子の指導方針に぀いお話す事を぀い忘れおしたった。

「子䟛は、䞡芪の家に遊びに行っお居ないから暫く倕ご飯たでは垰らないの」
甘ったるい声で、その女が蚀うず、黙っお䞻人を熱く芋぀めた。

「先生、倧奜きよ」
「私を抱いお」

 その女は声を䞊げ倧胆な行動に出たず蚀う。
本圓か嘘か、抱き぀くなり、䞻人の唇を吞いに来たず蚀う。
䞻人は驚きの䜙り、身䜓が硬盎し抵抗も出来ず、その女のなすがたただった。
ア゜コを觊られチャックを降ろされ、舐めお来た。
真面目な䞻人だったが、ただただ男ずしおは珟圹だ。
心ずは裏腹にいきり立぀䞋半身をコントロヌル出来る蚳などなかった。
今迄に経隓した事が無いくらい、ア゜コは硬くそそり立ち勃起しおしたっおいたのだ。
堪らなくなり県鏡を倖した。
女が着おいた前開きの薄手のブラりスを䞀気にはだけさせ、ボタン぀を飛ばした。
もう、理性は無くなり、貧乳に舌を這わせた。
少女のような華奢な裞に背筋が震えた。
ア゜コの毛は無く割れ目がクッキリ芋えた。
初めおのパむパンに興奮し、無我倢䞭でその女を抱いた。

 それ以来、女は父芪ほど違う歳䞊の䞻人にゟッコンになった。
圌が家に尋ねおくる床、幞せそうに䞖話を焌いた。
行為埌には、ワむシャツにアむロンを圓おおくれたりした。
こうしお、肉欲を貪るだけの関係が䞀幎も続いたらしい。
その歳の女は離婚したばかりで、堎末のスナックでホステスをしおいた。
貧盞な身䜓぀きで、䜕凊か具合でも悪いのか
異様に青癜い肌をしおいた。
少女のようなあどけなさずは裏腹に唇に塗られた赀い玅が劙に男心を唆(そそ)った。

䞻人の浮気珟堎を芋た圓日、劙子は着だけ仕事甚の服を持っお実家に垰った。

 䞻人は、劻、劙子ずは違う小孊校に幎前から転勀になっおいた。
幎皋前蟺りから毎月回決たった曜日に普段より時間遅れお垰宅する様になった。
同じ教垫仲間ずの食事䌚だず嘘を付いおいたのだ。
ある日、䞻人の着おいたスヌツから劙子が倧奜きな花、倜になるず銙るチュヌべロヌズの癜い花の様に甘く官胜的な匂いが挂っおきたのだ。
劙子は䞻人の浮気を勘ぐった。

「誰ず䌚っおいるのか」
「どんな女なのか」

 突き止めなくおは気が収たらなかった。
勀務先の小孊校には、急甚が出来たのでず嘘を぀き早退をさせお貰った。
䞻人が通う小孊校の䞋校時間に間に合うように、矎容院を経営しおいる銎染みの先生にカツラを借り、マスクをしお埅ち䌏せをした。
そしお䞻人の埌を぀けた。

 分皋、経った頃、軜四の自動車も通れない狭い路地に突き圓たった。
その道に䞻人はなんの躊躇いも無く入った。
そしお、右手に広がる坪ほどの空き地を抜け、その敷地の隣に建぀芋窄らしい平家の䞭にノックもせずに入っおいったのだ。
時間半皋したら、その家から子䟛ず芋間違うような小さな女ず䞻人が出おきた。

 蚊の様に腕や脚が痩せ现ったその背の䜎い女が䞻人の腕の血管から吞血でもする勢いでぞばり぀いおいた。
今からおんぶでも匷請るかの様に背の高い䞻人を芋䞊げ、歯を出しお笑っおいた。
その顔の衚情は少女では無く、たさしくサカリの぀いた牝猫の顔をしおいた。
台颚が来たら盎ぐにでも壊れそうな家の玄関の匕き戞を閉めるなり、二人は鍵もせず出お行ったのだ。

 その荒屋には坪皋の庭があった。
そこには1メヌトルを超える芋事な鉢怍えのアロ゚が、子䟛甚の自転車ず埌ろにも前にもカゎがある錆び぀いた自転車の真ん䞭に堂々ず聳え立っおいた。

 劙子の目には、そのアロ゚が卑猥に芋えお仕方なかった。
その庭らしき堎所には、花が咲きそうな怍物は䞀切なかった。
よく目を凝らしお芋るず、発育䞍党のネギずニラが、申し蚳なさそうに庭の隅っこに怍えられおいるだけだった。

 劙子は勘ぐった。
皮肉めいた蚀葉を蚀いたくなった。
その女の欠点を嘲笑いたくなった。

「自分の色艶が未熟なもんだから、矎しく成熟した花を芋るのが蟛いんだわ」
「発育䞍党の自分の身䜓にコンプレックスを抱いおいるのね」
「アンタなんか、若いだけが取り柄」
「盎ぐに捚おられるわよ」
「今のうちに、せいぜい笑っずくがいいわ」

 薬味になっお重宝する筈のニラやネギが、この芋窄らしい庭で芋るず益々貧しさを象城し、食欲を枛退させおいる気がした。
劙子は腹立たしさを抌さえきれず、泣きながら家に垰った。
悔しくお情けなくおどうしようもなかった。
今から远いかけお行っお、道に転がっおいる尖った石を拟い、浮気盞手の女の顔を滅茶苊茶にしおやりたかった。
甘えお笑う顔に反吐を撒き散らかしおやりたかった。
しかし、劙子は我慢した。
あんな女に負けたくなかった。
空気を䜕床か吞い、倩を仰ぎ涙を拭いた。

「あんな子䟛みたいな女」
「あんなロリコンの亭䞻」
「こっちが願い䞋げだわ」

 䞻人ずその未熟な女が、聳え立぀卑猥なアロ゚ず貧匱なネギずニラの様に思えお仕方なかった。
家に垰り、䞻人の郚屋の机に座った。
浮気珟堎を目撃した事実を、譊察官の取り調べに応えるかの様に事现かに䟿箋に綎った。

「劂䜕にショックだったか」
「䜕故に、倫婊間を壊す行為をしたのか」
「自分は、劻ずしおこれからどうしたらいいのか」

 抑えきれない自分の感情を玠盎に、䞻人に宛おた手玙にぶ぀けた。
残り枚しか無かったその季節倖れの暡様が入った䟿箋に、隙間なく苊悩や葛藀、憎しみ、䞍安が綎られた。
眮き手玙を寝宀に残し、家を出た。
か月間は我が家に戻らなかった。

 その間、回、䞻人は実家にやっおきた。
反省した様子でや぀れ果お、髭も剃らず実家を蚪れた。
母が蚀うには実家に来るたび、圌の着おいるしな垂れたゞャケットのシミが圌方歀方に増えおいたらしい。
回ずもよれよれの同じスヌツ姿だったそうだ。

 唯䞀笑顔で出迎えおくれる矩理の母に「我が家ぞ垰っお来お欲しい」ずだけ告げお、玄関先で深く䞀瀌をし、肩を萜ずしおペロペロず垰っお行った。
階にある自分の郚屋の窓の隙間から䞻人のや぀れた情けない埌ろ姿を芋おは溜息を深く぀いた。
気の利いた反省の気持ちを衚す品物さえ、䞀床も持たず、手ぶらで実家に蚪れる䞍噚甚で鈍感な䞻人の背䞭を思いっきり䞡手で叩きたかった。

父は、噛み付くように吠えた。

「ほらっ芋ろ」
「アむツは柳みたいな男だ。」
「颚に逆らう気合いちゅうもんが欠けおおる」
「女に迫られ、断る勇気もない奎は、又、同じ過ちを繰り返すのがオチじゃ」
「子皮が無い男で良かったじゃないか」
「あんな奎ず暮らしたら、お前は䞀生、䞖話を焌くだけの人生をおくる事になるぞ」
「別れお垰っおきたらええからな」
「お前は料理が䞊手いし、お母さんもワシも助かるよ」

離婚を匷く促しお、蚀うだけ蚀うず自分の曞斎ぞず逃げ蟌んた。

劙子は、毎日涙で枕を濡らした。

 あの発育䞍党のニラやネギみたいな痩せ现った身䜓を壊れるほど抱きしめ、子䟛じみた乳に喰らい付き、身䜓に䌌合わぬ色っぜい唇や唟液に濡れた舌を舐め回す䞻人の顔を想像しただけで気が狂いそうになった。
猫の額にも満たない庭で、むキむキず聳え立぀アロ゚を包䞁で切り刻みに行きたかった。
性行為䞭の、あの女から溢れる喘ぎ声が寝る前になるず郚屋の四隅から、こだたの様に聞こえおきた。
その声は耳にこびり付き、垃団を被ろうずも、流行り歌を聎こうずも頭から離れなかった。

ある日、ずんでもない事が起きた。

 䞻人が䜕の連絡も無く孊校を䌑んだらしく「自宅に䜕回、電話しおも誰も出ない」ず蚀う内容の電話が実家にかかっおきたのだ。

「どうやっお、実家の電話番号を調べたのか」

 動転しお分からなかったが、䞻人の勀めおいる小孊校の校長からひっ迫した声で知らせが入った。
劙子は取るものも取らず、慌おお我が家に垰った。
䞻人は睡眠薬を飲んだらしく、いびきを掻きぐっすり寝入っお居た。
枕元には、誰もがよく知っおいる睡眠導入剀の薬品名が印刷されたブリスタヌパックず、氎が半分残ったコップあった。
錠、無くなっおいた。

 寝おいる䞻人に倧声で名前を回、呌び掛けたら目を芚たした。
ひずたず、氎をたっぷり飲たせ、圌の様子を䌺った。
呜には別状は無かったが、かなり粟神的に匱りきっおいた。
䞻人のあたりの憔悎ぶりに劙子は反省をした。
この人は、䞍噚甚なだけだ。
根はいい人
倚分、これからは浮気はしないだろう。
劙子にはなんず無く分かった。
これ以䞊、我を匵っおも仕方ない。
今床、同じ事が有ればキッパリ別れたらいい。
劙子は割り切った。
そうでも思わない事には、劙子自䜓、身が持ちそうに無かったからだ。

その晩、2人は話し合った。

 浮気の䞀郚始終を正盎に話す事を条件に、もう䞀床やり盎す぀もりだず䌝えた。
䞻人は淡々ず話をしおくれた。
深々ず頭を䞋げ、劙子に謝った。
䞻人は涙だけは芋せなかった。
同情を買う男の泣き顔だけは、倧嫌いだった劙子はホッずし、ペレペレになっおシミだらけのゞャケットやえりや脇の黄ばみが著しいワむシャツ枚をクリヌニング袋に入れた。
それ以来、元の暮らしに戻った。
劙子は賢明だった。
その忌々しい蚘憶を封じる為に、芪鞞聖人のありがたいお蚀葉、"念仏者は、無碍(むげ)の䞀道なり"
を信じ般若心経を、カ月、毎晩唱えた。
䜕ものにも劚げられるこずの無い、自分の進むべき道を歩むず蚀う教えである。

浮気に぀いお口に出すこずは床ずなかった。

それから幎しお、䞻人は膵臓癌で呆気なく逝っおしたった。

 幎間は蝉の抜け殻みたいになった。
しかし、匷颚に煜られようが、雚にずぶ濡れになろうずも朚に瞋り付いお必死で生きた。
ある日、䜕気なくテレビを芳おいた時、韓流の若くお可愛い男性に目が釘付けになった。
それからは、憑き物が萜ちた様に元気になった。
その売れっ子俳優の写真を定期入れに忍ばせ、い぀も持ち歩いた。
食卓にも寝宀にも、その若い男優の等身倧のポスタヌを貌った。

 その俳優が劙子をい぀も優しく芋぀めおくれた。
生きる意欲がなくなっおしたった劙子を蘇らせおくれたのだ。
暗闇からの脱出を手䌝っおくれた。
い぀しか、亡くなった䞻人を思い出す日が枛っおいった。

 倧奜きな歎史小説を読んでは、その本に曞かれおいた堎所を蚪ねたり、䞻人や䞡芪の䟛逊を兌ね、囜内にある寺巡りの旅を人でゆったりずした。
数少ない倧孊時代からの友人人ず、月に、,回お昌を共にしたりしお、じっくり友情を育くんだ。

䜙生を、それなりに楜しんでいた。

 そうしお、時は流れ、もうすぐで7歳を迎える今日この頃、韓流の可愛い俳優も悲しいかな、歳を取り、随分前から興味が無くなっおしたった。
家に貌っおいたポスタヌも知らぬ間に無くなっおいた。

 今の楜しみは、もっぱら亡くなった䞻人や䞡芪ずの䌚話だ。
ありし日を偲んだ。
座怅子に座り老県鏡をかけ新聞を熱心に読んだり、前屈みになっお足の爪を摘んでいる䞻人や、曞斎で奜きな曞物を読んでいる父にお茶や和菓子を運び、窓から芋える庭の暹々や花の話をしたり、最近行った旅先で埗た情報を聞いお貰ったりしおいる。
亡き母ずは掗濯物を䞀緒にたたんだりしお、近頃の芞胜ニュヌスや事件に぀いお䞍満や悪口、むラむラする話しを聞いおもらっおいる。

人笑ったり、泣いたり、愚痎を蚀ったり、怒ったりしながら幻圱ず䌚話をするのが日課になっおいた。

 時には沢山ある写真アルバムの䞭の䞀冊を拡げお、無䜜為に䞀枚を取り出し「この写真を撮圱した日に、䜕をしたか」
思い出したりしおいる。
これが結構楜しいもんで、たった䞀枚の写真から様々な出来事を思い出し、知らぬ間に時間くらい
䞀人で想い出に浞っお、泣いたり笑ったりしおしたう。

「写真の背景から予想しお、誰ず䜕凊に行ったか」
「着おいる服は䜕凊で買ったか」
「䜕歳頃か」
「䜕を食べたか」

 老県鏡をかけお、懐かしい写真を眺める。

 日課ずしお欠かせないのは、倧奜きな庭に咲く花や朚の手入れをする事だった。
朝日に手を合わせ、倕日に銖を垂れ、䜕も倉わったこずが無い事に感謝しお深い眠りに぀いた。

 そんな穏やかな生掻を送っおいたが、たたたた、䜕かにあたっお食䞭毒を起こしおしたった。
倜䞭にトむレで吐いたら血が混じっおいたので、翌日、近くの病院でバリりムを飲んだ。
その埌、胃カメラや生怜をした。
担圓医が神劙な顔をしお私に告げた。
胃にかなり倧きな腫瘍が芋぀かった。
胃がんでもタチが悪いタむプだった。
既に手遅れで「持っお半幎だ」ず宣告されおしたったのだ。

動揺は少しあったが、䜕故か泣けなかった。

「そうなんだ」
「私、癌になっちゃったんだ」

 倧切な友人の人も、幎前に癌で亡くなっおいたからだろうか
冷静だった。
病院での埅合宀で肩を萜ずし生気を無くしおいる方々を芋お「この人達も、私ず䞀緒なのね」ず䜕故か諊めが぀き、我が家に垰ったの蚘憶しおいる。

 宣告された日の倜、ある嬉しい偶然に気づいた。
歳で䞡芪人が亡くなった事ず、偶然にも私が逝く事になるだろう幎霢が、歳で死んだ䞻人ず䞀緒である事実に気づいたのだ。
瞁深き組の倫婊の䞍思議な共通点に気づき、胞が熱くなり嬉し涙が溢れ出た。

 自分が死ぬ宣告をされおも涙は出なかったが、こんな事で嬉し涙を流す自分に呆れ、笑っおしたった。
やっず倧奜きな皆んなにもうすぐ逢えるず思ったら、ホットしお眠気が襲っおきた。
劙子は䞍思議に死を怖いものずは捉えなかった。

「矎味しそうずは思えない食べ物だけど、誰もが、䞀生に䞀床は食べなくおはならない、お忙しい神様が䞹粟蟌めおお䜜りになった料理」
「その䞀品が皿に盛り付けられ私の目の前に眮かれたんだわ」
「神様に倱瀌なき様、残さず頂戎しなくおは」

厳粛に受けずめた。

 元々、劙子は若い頃から生きる事にそれほど執着は持たない方だった。
告知埌の生掻は党く倉わらず、庭の怍物や暹朚の手入れを盞倉わらず楜しみ、朝早く起きお、近くの川沿いを分ほど錻歌を口ずさみながら散歩した。
早かれ遅かれ入院するだろうから、その準備はしおいた。
遺蚀曞も知り合いの匁護士に預けおおいた。

 ただ、割合元気で動けお、朝昌晩の食事も割方は食べれたので圌女は掃陀掗濯、食事の支床を普段通りテキパキずこなした。
神様や仏壇に毎日手を合わせ、今たでの幞せに感謝し「もう少ししたら、そちらに行きたすのでどうぞよろしくお願いしたす」ず呟いた。

 その日は湿気も無く、気枩は倏ずしおはあたり高く無かった。
六甲山の新緑が吐き出す新鮮な空気を含んだ枅々しい颚が、サワサワず吹く気持ち良い朝だった。
庭には、倚皮倚様の朝顔が䞀斉に咲き始めおいた。
花が盎埄15センチはある暁の海ず蚀う品皮がたず目を匕く。
濃玺の芋事な倧茪の花匁は芋事だ。
平安の玅などず高貎な名前に恥じない朝顔も、䞀茪だけだが芋事な花を広げおいた。
䞭心が可愛い癜で、花びらの淵がフレアスカヌトの様にヒラヒラ揺れお、芋おる歀方たで身䜓がフワフワしおしたう品皮もあれば、スカヌレットオハラず蚀う倧奜きな女優さんの名を圷圿する朝顔は、気高く可愛らしいピンク色の花匁を颚に震わせおいた。

 自己䞻匵をしっかり持った朝顔達が、この季節は我が庭の女王様達だ。
どの皮類も甲乙぀け難い皋、鮮やかで矎しく神々しかった。
高さが1メヌトル以内の鉢怍えの朝顔もあれば、地怍えで2メヌトル以䞊茎を䌞ばし、ただただ成長著しい朝顔もあった。
小石の混ざったゎツゎツした塀にツルを這わせ、沢山の花を芋事に咲かせおいる。
蝋燭の炎みたいな圢をした癜い蕟の先っちょには、誰かさんが気たぐれに、様々な色の絵の具を筆で塗ったかの様だった。
その蕟が葉っぱから顔を控えめに芗かせおいる。

 䞭には「私を芋お」ず蚀わんばかりに、葉っぱ、枚を抌しのけお、今にもパッず花が開きそうに膚らんでいるものもあった。

「たぁ、なんお」
「綺麗なんでしょう」

劙子は、朝顔が倧奜きだった。
暫く眺めおその矎しさに癒されおいた。

 朝食を摂り、散歩も終わり、圌女が奜きな色、薄玫色で膝䞋たである麻のスカヌトを履いお、庭の雑草を抜き始めた時だった。
圌女の癜く柔らかな倪腿の内偎を流れる毛现血管を狙っお血を吞っおいる䞀匹の蚊を芋぀けた。
圌女は蚊が刺した感芚を埮かに芚え、静かにスカヌトを捲ったのだ。
癌に䟵され、死にゆく己の血を呜をかけお吞う生き物の姿を愛おしく芋぀めた。

「私の血が、赀ちゃんの栄逊になる」
「新しい呜の圹に立おる」
「なんお玠晎らしい」

「蚊ずしお蘇るのも悪くないな」ず劙子は呟いた。
圌女は埮笑みながら「朝顔さん」ず、その蚊に向かっお声を掛けた。
その時、その蚊はわずかだが震えた気がした。


 蚊にずっお、人間に名前で呌んで貰える幞せは最高の名誉でもあった。
人間瀟䌚で蚀うなら、ノヌベル賞か文化勲章を頂いた様なもんである。
たしお、その人間の血を頂いおいる最䞭、名前を呌ばれる事なんお滅倚やたらにある事では無かったのだ。
朝顔さたず呌ばれた蚊は、嬉しさの䜙り歊者震いをしオシッを挏らしおしたったほどだ。

 タ゚コの母は、こうしお皀有な蚊の仲間入りを果たし、生態系の頂点に立぀人間様から最高のアむデンティティを頂いたのだった。

 タ゚コは、そんな最匷運な母、朝顔を誇りに思い、自分も出来るならば人間から名前を頂戎したいず匷く願う様になった。

 人間から呜名された名前がなんず蚀っおも最高䜍でタ゚コず蚀う名前は、所詮、母から貰ったラッキヌなご耒矎にしか過ぎない。
栌付けずしお番目に玠晎らしいず衚向きでは蚀われおはいた。
確かに、蚊の仲間達からは厇拝され、䜕凊ぞ行っおもタ゚コさたず呌ばれおはいたが、裏では芪の䞃光りず囁かれ実際は疎たれおいたのだ。

 蚊の仲間達から、嫉劬をされ陰口を叩かれおいる事は重々知っおいた。
それが堪らなく寂しく悔しかったのだ。
寧ろ、䞭途半端な名前なんかない方がマシに思えた。
どれほどタ゚コず蚀う名前を捚お去りたいず願っおきたか
近い将来、我が長女にも名前を呜名しなくおはならない蚊族の習わしを考えるず䞍安でいっぱいだった。
自分ず同じ苊しみを嚘に味合わせたくなかった。
呚りからの嫉劬や劬みを受けるくらいなら、名前など぀けたくなかったのだ。

 皮の蚊の瀟䌚では、母の瞄匵りを犯す行為は絶察タブヌで子䟛であるタ゚コ達は自分の瞄匵りを芋぀け自立し生きおいかなければならない。

 珟圚、蚊の神ゞヌバを祀った出雲地方にある神瀟は悲しい事に廃墟ずなっおいた。
僅かながら塀らしき石垣ず土塀は残っおはいたが、跡圢はほが無くなっお雑草や䜎朚、シダ怍物に芆い぀くされおいた。
祠もかなり朜ちお、蟛うじおその面圱がわかる
皋床だった。
誰も参らなくなっお、神瀟ぞの道も無くなり、その代わり、けもの道らしき跡が芋えた。

 しかし、どんなに朜ち果おようが、その瀟に祀られおいる蚊の神ゞヌバの存圚は、皮の蚊族達皆んなにずっおは、今なお、絶察的存圚であった。
掟砎りは倧倉なお叱りを受ける事になるし皮の蚊の䞖界から远攟間違いない行為であった。
蚊の生たれ倉わりは今埌のぞめないだろうし、兄匟党おが村八分は間違いない。
喉から手が出るほど人間様から盎接名前を授けお貰いたかったタ゚コは、瞄匵り砎りを犯しおでも、母に "朝顔"    ãšåä»˜ã‘おく䞋さったご婊人の元に、今すぐにでも飛んで行っお、自分にもちゃんずした名前を぀けお貰いたかった。
しかし、そんな浅はかな願いを恥じた。
匷欲にも皋があるず、出雲の神に詫びた。


「ダメよ」
「䜕考えおるの」
「母の瞄匵りを犯すなんお、ゞヌバ神を裏切る行為じゃないの」

 名前などない蚊が圓たり前。
欲どしい自分を恥じた。
普通に子を宿し、母ずなっお゚ンパシヌの力で人間様の気持ちや生きお来た歎史を共有し、名誉ある"タ゚コ" ず蚀う名前で生きお行こう。
それだけでも充分すぎるほどの幞犏なのだから。
母、朝顔の匷運を目の圓たりにしお育っおきたからか
぀い぀い、同様の奇跡を倢芋おしたう。
タ゚コは改心した。
倜空の星やお月様に手を合わせ謝った。

 出産の適霢期を迎えたタ゚コは友人から産卵するにはもっおこいの堎所を聞く事が出来た。
その友人の蚊は、鳥や猫、犬などず話せるスピヌチヌの皮で、その堎所を所有する䜏人に飌われおいる犬の血を回吞っお友達になり、仕入れた貎重な情報だった。

 蝿を研究しおいるず蚀う、少し倉わった男が䜏む家だった。
そこのお屋敷には小ぢんたりした庭があり鳥甚の氎飲み石には窪みが掘られおあった。
その穎には苔が生え、雚氎や鳥の糞が垞時溜たっおいるらしい。
庭にある倧きな束の朚の圱にその氎飲み石はある為、朚挏れ日皋床しか陜射しがあたらない。
その鳥甚の氎飲み堎は、蚊の赀ちゃん達が生育する為に必芁な湿床ず気枩が理想的に保たれた堎所だったのだ。

 必ず、雚以倖の倕方にはその男性が犬の散歩に出かけるらしいずのありがたい情報も聞けた。
男性はどこでも舐め回る可愛い愛犬や、我が家で繁殖させおいる研究察象の蝿達の為に蚊取り線銙や虫陀けスプレヌは絶察䜿甚しないらしい。
タ゚コはその情報に飛び぀いた。
タ゚コにずっお倢のような話しだった。
子を育おおいく䞊で、これ以䞊望めない最適の環境だった。

 犬の散歩に出かける人間は、泚意が犬に向かい油断しおいるし、片手には犬のリヌド、もう䞀方にはうんち入れのナむロン袋やティッシュを持っおいるので蚊に刺されやすい。
蚊にずっおは平手打ちされる心配も少なく、かなり安心しお血を吞える察象であった。

 犬や猫に比べ断然、人間の血は栄逊豊富である。
人間の男性の血液であれば、なおさら䞈倫な子に恵たれるだろう。
タ゚コは、出来るだけ早く、母、朝顔に孫を芋せおあげたかった。
それず、人間様の血を吞うこずで埗る゚ンパシヌ同士ならではの䌚話を母ずするのが倢でもあった。

 しかし、タ゚コの母、朝顔がこの頃めっきり沈んでいる。
䜕故なら、眩いほど銀色に光茝く長い髪を䞉぀線みにし、頭の埌ろで、その束を䞊手に䞀぀にたずめ䞊げ、鳥達にも負けない皋、矎しい声で歌う事が倧奜きなご婊人の病状が急速に悪化しおいたからだ。

 庭先で、数十分だけの日向がっこが、やっず出来るくらいの䜓力しか、今は無く、あれ皋倧切にしお来た怍物の䞖話も残念ながらできない状態らしい。
倚皮倚様の芋事な朝顔さえ、氎䞍足のせいで葉っぱはハラハラず地に萜ち、茎は茶色に倉色し、ずころどころが括れおしたっおいた。
やっず蕟が付いたず蚀うのに、花芜は䞞々萎んでミむラ化状態だ。
゚ンパシヌの蚊、朝顔は、血を頂いた人間の生きおきた思い出を党お共有出来る。
そしお、知らず知らずのうちにその人に寄り添い、他人事では無くなっおしたうのだ。
そのご婊人は、定幎迄小孊校の教垫をしお居た。
ご䞻人ず共皌ぎだった為、亡くなった䞻人の䞖話や料理を充分に出来なかった事を悔んでいらした。

 ご䞻人が、随分昔、浮気をした際に実家にか月垰り、䞻人が蚱しを乞うおも蚱すこずがなかなか出来なかった事を、苊々しく思い出しおいた。
毎晩、実家で忍び泣き、枕を濡らした。
誰も居ない山道を散歩しお、悔しさをぶ぀ける為、叫んだ事も若き日のほろ苊い思い出ずしお懐かしんでいらした。

 今なら笑える話を聞いお貰える人も亡くなっおいた。
寂しさが、圌女の胞を締め付ける。
死を宣告されおヶ月、初めお、埌悔や懺悔の気持ちがふ぀ふ぀ず湧き出おきたのだ。
瞁偎で、浮雲の様に坐る圌女の目から溢れる涙を芋お、朝顔は圌女の気持ちが痛いほど刀る分、自分が話し盞手になっおあげれたら、どんなに圌女を幞せにできるだろうかず悔しく思っおいた。
朝顔は、滅倚やたらに姿を芋せないミラクル皮の蚊を、䜕が䜕でも探しだす決心をした。

 誇り高き名前を圌女からもらった朝顔は、圌女を是が非でも救いたかった。
充分な血液を安心しお頂き、子䟛達を立掟に育おる事が出来た恩返しをしなくおは死んでも死にきれないのだ。
鳥の血を床吞っお、鳥ず話ができるスピヌチヌの蚊を探せば、もしかしたらミラクル蚊の居堎所が分かるやも知れない。
鳥は行動範囲が広く芖野が広いし、おしゃべりが倧奜きだ。
鳥同士のコミュニティ情報は宝の山だ。

 ミラクル蚊の存圚は貎重だから、鳥同士の間ではかなり噂になっおおも䞍思議じゃあない。
病を治す力を持぀ミラクル蚊の䜏凊を知っおいる確率はかなり高いはずだ。
゚ンパシヌ、ミラクル、スピヌチヌの蚊は䞀般の蚊ずは違う。
誇り高き䞀族なのだ。
団結力も絆もかなり匷い。

 幎前に創建された、歎史ある蚊の神ゞヌバを厇める祠に、心枅らかな村人達の倧切な血が奉玍され、由緒正しき血液を頂いお育っおきた蚊の子孫達。

 神ゞヌバ様の恩恵に預かるに盞応しい、特別に優秀な蚊の末裔である。
この子孫は、特異な才胜を持っおいるだけではない。
この皮類だけにしかわかり合えない匂い、飛ぶ時に出る矜の音の波長で互いに䌚話が出来、皮類間のコミュニティが脈々ず積み重なっお、よく䌌た文化や慣習の䞭、芪戚以䞊の関係を保ち幎以䞊を生きおきおいる。

 珟圚においおも、この蚊族達は,,月の満月には、厳粛に各自が月を厇める。
矜を広げ、蚊の神ゞヌバを讃え、感謝の意を衚すのだ。
寿呜が満月に間に合わない堎合は、どんなお月様にでも手を合わし感謝の意を衚す蚊は、幞せに死を迎える事が出来るず蚀う蚀い䌝えもある。
こんな叀き習わしが息ずく䞭、時代に即応した新しい垞識が蚊族の䞭で生たれおいた。
幎皋前から、タブヌずされお来た皮間での恋愛が蚱されるようになったのだ。
䜕故なら、少子化が倧きな原因だった。
蚊に察する予防薬品が急速に進化しおいる事も然(さ)るこずながら、最悪にも、近幎、蚊の遺䌝子を操䜜し、蚊の生殖胜力を撲滅する方法が成功し぀぀ある。

 䞊氎蚭備の普及や䞋氎凊理が進み、各家には圓たり前だった井戞も次から次ぞず無くなっおしたい、過疎化した田舎ぞず蚊族の䜏凊は远いやられおいる。
この珟象は深刻な問題だった。
人間ずの距離がどんどん離れおしたう事は、蚊族にずっおある面、絶滅を意味した。

 スピヌド重芖ずする人間瀟䌚の倉化を、いち早く知らなくおはずんでもない事態に遭遇するだろう。
厇拝する人間様の玠晎らしい頭脳、知恵、取り巻く環境の倉化、発展を糧ずする思考を随時孊んでいかなくおは蚊族だけに限らず、人間ず共生しお生きる者にずっお臎呜的である事は蚀うたでもない。
子孫繁栄祈願の為に、満月に矜を広げお蚊の神ゞヌバ様だけに委ねる時代では、既になくなっおきおいるのだ。

子が出来なくなる様に遺䌝子操䜜されたオスの蚊の情報にしおもそうだ。
この話を、我々蚊族の䌚合でスピヌチヌ蚊から聞いた時には、腰が抜ける皋、驚愕した。
手も足も出ない我々蚊族は、肩を萜ずし溜息ばかり萜ずすしか術はなかった。

 人間様からの情報が劂䜕に倧切かを、ほんの䞀䟋だけ挙げるなら、先日皮間同士の通䟋䌚があった際、゚ンパシヌの蚊から蚊族長に重倧な報告があった。
幎間、人間の郜合で荒れ地にされゎミ捚お堎になっおいた土地が週間埌に曎地になるずいう情報が舞い蟌んできたのだ。
そこは、䜕千、䜕䞇もの蚊の䞖垯にずっお思い出深い故郷であり、愛着ある䜏み慣れた堎所だった。
それなのに、䞀倜にしお、巚倧なブルドヌザヌが曎地にしお新築マンションを創るず蚀う。

 そんな悲惚極たる情報の䞀䟋をずっおも、劂䜕に人間の行動をいち早く察知しなくおはならないか
その重芁性に身が瞮む思いである。
廃屋の解䜓情報などにしおも、いち早く入手し䞀般の蚊にも出来るだけ早く䌝えおあげなくおは、瞄匵りや䜏凊、懐かしい故郷を䞋手すれば、䞀瞬で倱くしおしたう。
吊、それどころか
せっかく苊劎しお、沢山の卵を生み萜ずした氎溜りを壊されたりしたら、益々少子化に拍車がかかり、蚊族継承自䜓が危ぶたれる事になり兌ねない。

 幎前に出雲地方で突然、誕生した皮の魂を持぀奇異な蚊族。
゚ンパシヌ、ミラクル、スピヌチヌの皮族にずっお人間様は偉倧なる神であり、かけがえのない家族である。
高らかなる声を䞊げお、共生を叫びたかったが、それは叶わぬ倢。

 本来なら掟砎りではあったが、皮類間の恋愛を蚱さなかったら我々は滅亡の䞀途を蟿っおいたかもしれない。

「それはどうしおか」

  ヌ信じられない奇跡が起きたからだヌ

 皮間同士の亀配から生たれた蚊の子䟛の䞭には、新しい薬品にめっぜう匷い耐性を持った子や、遺䌝子操䜜されたオスのフェロモンさえも、瞬時に芋極める力を備えた雌の蚊も、次々ず生たれおきおいるのだ。

信じられない珟象に歓喜した。

「やはり、出雲の蚊の神ゞヌバ様はいらっしゃる」
「私達をお守り䞋さっおいるんだ」

 倜に光り茝くたん䞞のお月様に向かい、矜を䜕床も広げ感謝した。
私達出雲の蚊族は、誇らしげに矜音を響かせ、手を合わせた。
我々蚊族に垌望の灯りが芋えた時、䌚合で集たっおいた皆んなは飛び䞊がっお喜んだ。
肩を寄せ合い咜(むせ)び泣いた。

 皮党おの才胜に恵たれる子䟛も、驚くなかれいるず聞く。
皮類の才胜を持぀子もチラホラ増えお来おいる。
自然の摂理は、我が蚊族にもその恩恵を恵んでくださり救いの道を照らしお䞋さったのだ。

 新しい時代に適応した蚊族達が、将来、人間を苊しめる病気の媒介圹にならない為に、りむルスや现菌を自己免疫力によっお撲滅し䌝染源ずならない進化をしおくれる事を、曎に祈るしかない。

 人間様の貎重な血液を頂くのだから、むしろ、我々に刺されたら病気になりにくい成分が䜓内で生成され、血を頂戎する代わりにその魔法の゚キスを人間様に差し䞊げる事が出来たなら、どんなに玠晎らしいこずか

 ミラクル蚊の病を治す力を受け継ぐ蚊の遺䌝子が進化を遂げ、その魔法の゚キスを䜜り出す日もそう遠い倢の話ではないかも知れない。
3皮の蚊族達の䌚合では、そんな前向きな話し合いが垞に行われおいた。


 タ゚コは、母、朝顔の切なる願いを叶えんが為、病を治すミラクル蚊を必死で探した。
埓兄匟に圓たる蚊に雀の血を吞うスピヌチヌ蚊の友人が居た。
早速、埓兄匟に頌んでその友人に䌚いに行った。

 おもたせずしお野いちごの汁を口に溜め、雀ずおしゃべりが出来るスピヌチヌ蚊がいる堎所に朝顔ずタ゚コは埓兄匟に連れられ飛んで行った。
かなり叀い䞀軒家に到着した。
そこには10坪ほどの庭があった。
珟圚では珍しい井戞も残っおいお、幞いにも䜿われおいなかった。
その皀有な井戞に、そのスピヌチヌ蚊の家族は䜏んでいらした。
タ゚コず朝顔は、こんな立掟な城壁に囲たれた倧豪邞に足を螏み入れたこずなどなかった。


 有難い事に、そのスピヌチヌ蚊には、芪友ず呌びあう雀がいた。
気軜にい぀でも、おしゃべりが出来る雀だず蚀う。

いいなず思ったら応揎しよう