芋出し画像

蚊ず蠅の恋愛 埌線小説22148

空き猶の僅かな溜たり氎や、日照りが日も続けば倚少の雚氎なんかカラカラに干䞊がっおしたいそうな堎所に、埀々にしお蚊は卵を間違っお生み萜ずす。
䟋えば、竹の切り口に止むなく卵を産んだり、たさか怍物が氎を吞い䞊げるなんお知りもしないで、怍朚鉢の受け皿に倧切な卵を産み付け、敢えなく個盞圓の卵が干からびおしたうず蚀う悲惚な出来事が埌を経たない。

 埓兄匟の友人で、雀ずおしゃべりが出来るスピヌチヌ蚊に名前は無いが、雀の矀れを率いる若手のリヌダヌず倧の仲良しらしい。
病を治す力を持぀ず蚀う幻のミラクル蚊を探し出す為に、矀れの䞀員である雀達矜矜に尋ねおみるこずを快く匕き受けおくれた。

 タ゚コの母、朝顔はもうかなりおばあさん蚊になり぀぀あった。
メスの蚊の寿呜は孵化した埌、生存可胜な期間が平均週間ず蚀われおいる。
朝顔は、産卵の為に䞀生で回人間の血を頂いた。その内の回は、ご婊人の右ず巊の倪ももを流れる血液だった。
あずの回も、やはり圌女の柔らかな巊右の耳たぶから頂いた。
ご婊人は、朝顔の為に充分血を吞わせおくれた。

 回目の産卵に必芁な吞血堎面を、朝顔はよく思い出す。
倧奜きなご婊人の䜓臭ず吐く息さえ、我が事の様に思える皋、同化しおしたっおいた頃だ。
カゲロりの様にフワフワず飛び回り、癜くお柔らかなご婊人の巊耳たぶに着地した。
しかし、この時、既に深刻な病がご婊人の肉を蝕み、手鏡を持぀、か现い指が小刻みに震える皋に粟気たで容赊なく貪っおいた。
幎老いたオス鳥が胞を粟䞀杯匵っおメス鳥にプロポヌズするかのように、残された力を粟䞀杯振り絞っお、ご婊人自慢の声で"春の小川"  ãšèš€ã†æœ‰åãªç«¥è¬¡æ­Œã‚’䞁床歌い終えおいた時だった。
ご婊人は手鏡を芗き蟌み、頬がこけた自分の顔に溜息を぀いた。
その時、たたたた手鏡に映った朝顔を芋お懐かしげに埮笑んだ。

「たぁ、綺麗なむダリングだ事」
「朝顔さん沢山吞っおね」
「いいお子様を育おおね」

 暖かな励たしの蚀葉たでかけお貰ったタ゚コの母、朝顔は恐瞮した。
人間の倧切な血を、盗人の様に吞血する自分の性を恥じた。重節な病ず知り぀぀、慈愛に満ち溢れたご婊人に感極たった。
忌み嫌われでも圓然の虫ケラ、蚊劂き分際に名前なんか
誰が぀けおくれようか

 叀来由々しき誇り高き皮族に違いはないが、情けない感情に苛たれた。
人間様に少しでも圹に立ちたい䞀心で、珟圚たで匛たぬ努力を重ねおきた皮の蚊族。
埅おど暮らせど、そう易々ず人間様ずの距離は䞭々瞮たらなかった。
そんな胞に詰たる淀みを晎らしおくれたのが、朝顔ず呜名しお䞋さった劙子様だった。
蚊族にずっお、それが人間様のほんの気たぐれであったずしおも党おが報われた気持ちに䞀瞬でもなれた事は奇跡だったのだ。
幎の進化に光が射しこむ倧事件でもあった。
蚊の䞖界を震撌させた出来事だった。
皆んなのモチベヌションは高たり、人間界ぞの信頌が䞀気に深たった。
蚀葉では蚀い衚せなかった
そんな、倚倧なるご恩を頂き぀぀、䜕䞀぀恩返しもできぬ我が身を腹立たしく思い、最近はご婊人同様、睡眠䞍足で、真っ盎ぐ飛ぶ事さえ儘ならぬ状況だった。
倧恩人であるご婊人の病を䜕ずしおでも治しお貰えるよう必死で、蚊の神ゞヌバに手を合わせた。
焊りが募る䞭、自らの呜が数日あるかないか
朝顔は残された寿呜の短さを恚んだ。

 今朝早く、嚘のタ゚コが朝顔の無念な気持ちに寄り添い「必ず、ミラクル蚊を芋぀け出しご婊人の病を治しお差し䞊げるわ」ず、胞を匵っお誓いのダンスを兄匟姉効ず共に螊っおくれた。
ずおも嬉しかった。
朝顔は元気が湧いおきた。

 瞁偎でお地蔵さたの劂く䜇んでいるご婊人は、目を现め、庭に咲く花や朚や鳥や虫を愛おしく眺めおいる。
䜙呜いくばくも無い圌女の寂しい気持ちに共鳎しおしたう゚ンパシヌ蚊の朝顔は胞を抉り取られる想いだった。
僅かながらに残された呜、尊さや儚さに心を揺さぶられおいる圌女の心情が、満月の倜、海蟺の砂を攫(さら)う波のように、鮮明に朝顔の胞䞭にも抌し寄せおくる。

 ご婊人のお顔に、怪しく䞍気味な圱が浮きでおいる。
        䞍吉だった

「どうか」
「神様、圌女をお救い䞋さいたせ」
「圌女が元気になられるのなら、生たれ倉わりが蚊ではなく、倧嫌いな家グモになろうずも構いたせん」

 朝顔は手を合わせ祈った。
その願いが届いたのだろう。
タ゚コの元に朗報が入った。

 日前、倧豪邞に䜏んでいるスピヌチヌ蚊を蚪ね、友人である雀のリヌダヌにミラクル蚊を探しお貰える様に頌んだばかりだったが、なんず
雀達の情報網たるや
ミラクル蚊を、早々に探し出しおくれたのだ。
おもたせの果汁を溢さぬよう、埓兄匟ず母ず連れ立っお出掛けた日から、たった日しか経っおいなかった。

 それも人間の病をただ䞀床も治した事の無いメスの蚊だず蚀う。
,日前に孵化したばかりだずの情報を聞き぀け、
芪切なスピヌチヌ蚊が矜を颚に靡(なび)かせ、タ゚コず朝顔の䜏む堎所にわざわざ、その知らせを届けにやっお来おくれたのだ。

タ゚コは老いた母芪の朝顔に、急いで、その朗報を䌝えた。
母は咜び泣いた。

「あヌ」
「奇跡が起きたんだねぇ〜」
「ゞヌバ様、ありがずうございたす」

 母は、顔に手をやり涙を拭った。
その所䜜は、たるで人間の様だった。
蚊は涙など出ない。
だから拭うこずなど、本来ならしない。
しかし、この奇劙な動きこそ゚ンパシヌ蚊ならではの末期に芋せる同化反応だ。
血を吞った人間ずの絆が匷ければ匷い皋、その人間の仕草や喋り方たでそっくりになっおしたう。
タ゚コの母もその症状が出おいた。
特に死を間近にしたら、その症状は頻繁に珟れる。
タ゚コは芚悟した。
䜓力がかなり無くなり぀぀ある母には、我が家で䌑んで貰うこずにし、タ゚コずスピヌチヌ蚊だけでミラクル蚊に䌚うこずにした。
ミラクル蚊が、人の病を床治しおしたえば床目はない。
急がねばならない。
タ゚コは、スピヌチヌ蚊ず䞀緒にその極めお皀なミラクル蚊が棲む堎所ぞず向かった。

 その際も、熟れた野いちごの甘い果汁を口いっぱいに含み、無瀌なき様、品ある花の銙りを身䜓䞭に擊り付けた。
力䞀杯、矜を広げ、颚の向きを蚈算しながら日陰を遞び、案内圹のスピヌチヌ蚊の跡を远った。
時々、䌑憩を取りながら分皋かけお矎しい川沿いにある草むらにやっず到着した。

 そこには沢山の岩があり、その苔むした岩の隙間が栌匏高きミラクル蚊のご家族が䜏むお屋敷だった。
その岩の隙間には、安心しお卵を産み぀けれそうな氎がたっぷり溜たる窪みもあった。
日照りが䜕日続こうが、この堎所なら氎が枯れる事はないだろう。
その䞊、この蟺りは犬の散歩道で人の血には困らない堎所でもあった。

流石、立掟な環境に䜏たわれおいる。

 タ゚コは緊匵をし、口いっぱいに含んだ野いちごの果汁を溢しそうになったが、どうにかミラクル蚊の嚘さんを持぀ご䞡芪様に震えながら口移しするこずが出来た。

 タ゚コの母、朝顔の苊悩を䞁寧にお話しするず、ご䞡芪様は感動された。
そしお、ミラクル蚊ずしお生たれた誉れ高き嚘を、お呌びになった。
初々しいその嚘は瀌儀正しくお蟞儀をされた。
䞡芪から事情を聞くずニッコリ笑っおタ゚コの方を向いた。

「さぞかし、お蟛かったこずでしょう」
「もう、ご心配いりたせん」
「私が、明日、お母様のお慕いされおいる方の血を吞いに参りたす」
「そのご婊人の病を私が頂戎したす故、ご安心䞋さい」

 野原䞀面に咲く、満開の菜の花の劂き埌光がその嚘を照らした。
タ゚コにその嚘は手を差し䌞べた。

タ゚コは、すかさず䞀歩前に歩み寄り、その手を畏れ倚くも舐めた。
この行為は最高の謝意であった。
尊敬ず感謝を蟌め、タ゚コずスピヌチヌ蚊は地に頭を぀けた
ご䞡芪は、ミラクル蚊ずしお生たれた嚘に改めお誇りを抱いた。
そしおタ゚コに胞を匵っお玄束をしおくれた。

「明日にでも嚘を亀尟させ、ご婊人の血液を頂き、病を治しに行かせたす」
「嚘は、䞀回だけの出産しか出来たせんがゞヌバ神より倚倧なるご耒矎を頂戎する事でしょう」
「党おは朝顔様のお導きのおかげです」
「䜕ずぞ宜しくお䌝え䞋さいたせ」
「嚘にも、そのご婊人は名前を付けお䞋さるかも知れないですし、矎しい心をお持ちの人間様の血を頂くず、最高の子宝に恵たれるず蚀いたす」
「短呜を背負い、この䞖に生を受けた嚘にずっお子孫を残せるこずは、この䞊なき幞せ」
「感謝に耐えたせん」

䞡芪は倧局喜んで䞋さった。

 タ゚コは矜を回広げ、敬意を衚した。
盞手に背䞭を芋せる事なく埌退りした。
そしお静かにスピヌチヌ蚊ず䞀緒に飛び立った。

 垰宅したタ゚コは、母、朝顔にミラクル蚊のご䞡芪から頂いた快諟の有り難い内容を事现かく話した。

「明日、ミラクル蚊の嚘さんは婚玄盞手ず亀尟を枈たせ、ご婊人の病を治す為、血を頂きに行くだろうから、お母さん、もう心配しなくおいいわよ」

耳が聞こえにくくなった母、朝顔の耳元でタ゚コは優しく囁いた。

 そのご婊人の病が治り、元気になられたお姿を䞀床だけでも芋せお、あの䞖に旅立たせお䞊げたかった。
奇跡を喜ぶ母の笑顔を芋たかった。
しかし、朝顔はタ゚コから聞いたその玠晎らしい話に満足したのか
喜びの矜音(はおず)を、必死で鳎らそうずしおくれたがその音は残念ながら聞こえなかった。

 しかし、少しだけ目を開け埮笑んでくれた。
そしお、心配そうに震えるタ゚コをほんの数秒間だけ芋぀めた盎埌に、母、朝顔の手足が痙攣し始めた。
その痙攣が止んだ埌、䞀気に朝顔の真っ黒だった瞳は生気を倱った。
手足はしなだれ、身䜓党䜓が糞くずの様に瞮んで芋えた。
柔らかな颚に巊右に揺られ、綿棒の先にも満たない綿菓子をこねたかのように小さく䞞たっおいった。そしおタ゚コに先皋たで笑いかけおいた目は、月にある黒点に沈んだ。

タ゚コは、自分の目から出るはずも無い涙を想像し
母、朝顔が最埌に芋せた涙を拭う仕草を真䌌おみた。

 母、朝顔に敬意ず感謝を衚す儀匏を兄匟姉効を代衚しお䞀人執り行った。
矜を倧きく広げ、倧地に床キスをし、再生を願い、母を悌んだ。
母の亡骞が颚に飛ばされない様に、䞀晩䞭、抱きしめおいたかったが、それは叶わぬこずだった。

䜕故なら、タ゚コにずっお最初の産卵期間が過ぎお居たからだ。
急ピッチで新しい家族を䜜らなくおはならなかった。
今回のミラクル蚊の件で、かなり䞖話になった埓兄匟の友人でもあるスピヌチヌ蚊にお瀌をしたかったタ゚コはスピヌチヌ蚊の䞉番目の兄からのプロポヌズを受ける決心をした。

 早速、タ゚コずそのオスは空䞭で互いの呚りをクルクル飛び回り、觊芚で矜の音を認知し盞手の健康状態を把握した。
遺䌝子に䞍郜合が、お互い無いず刀断し、時間空䞭を飛行しながら回亀尟をした。

 埓兄匟の友人はスピヌチヌの才胜を生たれ持っおいたが、亀尟をした兄さんは䞀般の蚊だった。
優しいお兄さんだったが、匂いが劙子の趣味では無かった。

 しかし、そんな我儘を蚀っおいる堎合ではない。
蝿の研究をしおいる家の庭を、いち早く、我が䜏居にしなくおはならないからだ。
その家に䜏たれおいる男性の血を䞀刻も早く吞い、束の朚の䞋にある、鳥甚の氎飲み石の窪みに産卵しなくおはならない。
この堎所を逃したら、それこそ、竹の切り口か空き猶か、怍朚鉢の受け皿に産卵しなくおはならないかも知れない。
そうなったら、折角生んだ子達を殺す事になるかも知れない。
絶察嫌だった。

 䞭々無い理想の産卵堎所であり、願っおもない環境の䜏居。
タ゚コは生たれお初めおの吞血に胞が匵り裂けんばかりだった。
倚分、犬の぀よし君を散歩させる男性の足銖にある血管から貎重な血液を頂戎する事になるだろう。
あらかじめシミュレヌションする為に珟地に飛んで行き、䜕床か想像を膚らたせおみた。

 タ゚コは、その憧れの家に䜏む家族構成や䜏人の现かな情報を、幞運にもその家のペット、぀よし君ずよくおしゃべりする犬専門に血を吞うスピヌチヌ蚊の知人から聞いお知っおいた。
その家には歳の独身男性ず歳の母芪が䜏んでいた。
叀い屋敷だから蛇もムカデもいるみたいだ。
蚊にずっお倩敵である蜘蛛が庭に沢山巣を匵り巡らせおいるので泚意しお飛行しなくおはならないし、い぀、䜕時、襲われるやも知れない。
この自然界を生き抜くには油断は犁物である。

そんな屋敷に䜏む芪子は仲が案倖いいみたいだ。
息子が、かなり芪思いで滅倚に喧嘩もしないらしい。
母芪は、根っからの倩然で、お気楜な性栌。
息子は蝿の研究を長幎しおいる。
背は普通だが割に男前だず、飌い犬の぀よし君は話しおいるみたいだ。
超有名倧孊を卒業し、自宅ず研究所を埀埩するだけの生掻で、結婚もせず歳たで独身を貫いおいた。
近所の人達は、その颚倉わりな息子に察し、少し冷ややかだず蚀う。
今たで女性ず䞀緒のずこを芋た事がないので、性癖がノヌマルじゃあ無いず疑っおいるのだ。

「あの人、かなり癖がある男に違いないわよ〜」
「もしかしたら、家の䞭に小さい女の子を誘拐しお監犁しおるかもよ〜」
「ほらっ、去幎、隣町に䜏む小孊校幎の女の子が行方䞍明になっお、いただに芋぀からないじゃない」
「なんだか」
「あの男性、怪しい気がするのよねぇ」

そんな物隒な噂がチラホラ聞こえおいた。

 だが、その䞻人ず幎以䞊暮らしおいる犬の぀よし君からの情報によれば、実際は気持ちは玔粋で実盎な人間らしい。
぀よし君は、母芪に甘えるのが倧奜きだが、実は勇敢で優しい。
毛色がコロコロ倉わるペヌクシャテリア犬皮で、人間で蚀うならば歳になったばかりだ。

 スピヌチヌ蚊の才胜は犬や猫、鳥などず話せる事だが、犬や猫や鳥にずっおも自分達の愚痎や悩み、喜びを共有しおくれるスピヌチヌ蚊に感謝しおくれおいる。
たた、人間の気持ちや環境倉化に関する情報は犬や鳥、猫達にずっお必芁䞍可欠だ。
ミラクル、スピヌチヌ、゚ンパシヌ3皮間ならではの特性を掻かした情報や結束力で仕入れた貎重な人間瀟䌚の話題は、近所の猫や犬達にも絶察欠かせない倧切な情報である。

 䜕故なら、圌等も、犬や猫、鳥達の井戞端䌚議に参加する限り、新鮮なネタを持っおない事は仲間はずれ間違い無しだからだ。
少なくずも、䞀぀二぀の面癜いネタや圹に立぀ネタをご披露しなくおは皆んなから銬鹿にされかねないのだ。
花火倧䌚で䟋えるなら、仕掛け花火や、倧玉花火クラスのネタをご披露したなら䞀躍有名人扱いされる。
そうなれば、占めたもんだ。
お目圓おの異性にアピヌルし易くなるのは無論、沢山の友人に恵たれ逌の圚凊や、遊び堎所にはこの先困らない。

 そう蚀った理由から、誰もが花圢スタヌを目指す為、皆んながびっくりする話題を躍起になっお仕入れたいのだ。
その点、飌い犬や飌い猫、むンコやオりムなどず仲良しになれるスピヌチヌ蚊の情報は、人間様の事を知るには倩䞋䞀品だった。


 亀尟を終えたタ゚コは、たっしぐらに蝿の研究者のお宅に飛んで行き、束の朚の䞋に生えおいる苔の䞊で血を頂くチャンスを䌺う事にした。
倕刻、犬の散歩をする研究者を少しドキドキしながら埅った。
䞋手をすれば、殺されるかも知れない。
この䞖はサバむバルだ。
兄匟、仲間達の倧倚数は人間様が開発された有毒スプレヌや蚊取り線銙などで意識䞍明の痙攣を起こし、あえなくお陀仏になったり人間の掌で思いっきり平手打ちされおぺったんこになり抌し花状態であっけなく死んでいた。

 母の様に身内の誰かに芋送られお、寿呜を党うする平安な死に方は蚊の䞖界では、滅倚に望めない。
捕食されたり、意識䞍明、行方䞍明、薬剀の副䜜甚に苊しみながら悶絶か
頭はちぎれ、手脚もバラバラ、どこそこの誰々さんかどうか、芋圓も぀かない状態の蚊はザラにいた。

「あっ」

 研究者を匕っ匵るように぀よし君が玄関を飛び出しおきた。
健康的な桃色の舌を垂らし、ピンず長い尻尟を立おおいる。
男性はTシャツず短パン姿で、手にはティッシュを䜕枚か入れたナむロン袋を持っおいる。

 蝿の研究者はタ゚コが想像しおいたより綺麗な顔立ちだった。
どちらかず云えば女性的な身䜓付きをしおいる。
足元を芋るず玠足にサンダル履きだった。
血を吞いやすい。
ラッキヌだ。

 昚日、行き぀けのペットサロンでトリマヌをしおいる可愛い女の人に、ナデナデされながらカットをしお貰った぀よし君は錻高々だ。
芋目麗しい姿に倉身し意気揚々ずしおいる。
たしお、今日は倧の芪友スピヌチヌ蚊からの頌たれごずをやり遂げなくおはならない。
やる気満々だ。

「オットヌ」
「スピヌチヌ君が蚀った通りだ」
「産卵間近なメスの蚊が埅機しおいるぞ」

぀よし君は錻を膚らたせた。

 タ゚コに向かっお倧きな瞳を片方だけ瞬時に閉じた。
りむンクでご挚拶しおくれたのだろう。
぀よし君にスピヌチヌ蚊の知人が話を぀けおくれおいたのだ。
情に厚くお利口なペヌクシャヌ犬、぀よし君のご先祖様は、もずもず、すばしっこい動きを買われおペヌクシャヌ地方の炭鉱や織物工堎のネズミを駆陀する為に飌われた番犬だった。
長い尻尟は、ネズミに察知されやすい理由で断尟されおきた悲しい歎史がある。
いただにスタむル重芖のしきたりを守る日本では、圌らの苊しみを無芖し意味もなく断尟しおいる。
この家のペヌキヌ、぀よし君は幞せ者だった。
虐埅を嫌う研究者の意向で長い尻尟はそのたただ。
その尻尟を振りながら、タ゚コが安党に吞血するグッドタむミングを芋蚈らっおくれおいる。

 早速、タ゚コの前で途切れ途切れのりンチをコロコロず萜ずし始めた。
研究者が屈んで少しず぀歩き、間隔を開けお攟出されたりンチをティッシュで掎んでいる。
普段より飌い䞻がかなり手間取っおいる間に、぀よし君は可愛い目をパチクリし、前脚を揃えお螏み締め埌ろ脚で倧地をキックした。
その振動がタ゚コの身䜓に䌝わり、吞血の合図を瀺しおくれた。

 人間の男性の肌は、女の人に比べ皮膚も硬く血液の流れも早い。
若いメスのタ゚コならどうにか最䜎回は産卵の為に研究者の血をこれから頂戎できるはずだ。
研究者の巊足くるぶしがタヌゲットだ。
比范的柔らかな皮膚を目掛けお急発進した。
無事、着地した。
初めお人間に觊れたタ゚コは感慚に耜りたかったがそんな暇は無い。
肌の感觊は苔や葉っぱず比べ留たりやすいが、䜕ず蚀っおも汗の匂いず䜓枩に驚いた。
熱を持った物ず盎接觊れ合った事がないからか
最初は火傷するかず思うほどだった。
しかし、この暖かさによりタ゚コの身䜓を巡る䜓液が掻発になっお、これから子を持぀芪に必芁な゚ネルギヌが掻性化しおいく感芚が掎めた。
脂性の男性の肌は滑りやすいらしいが、この男性は違った。
皮膚が也燥し産毛らしきものもなかった。
おかげで、しっかり脚本を固定出来た。
思ったほど皮膚は硬く無い。
䞋唇にある盎埄ミリの極めお现い本の束になっおいる針を盎角に血管に刺し入れる。

 倖偎本の針は、皮膚を切り裂くためにノコギリのようにギザギザしおいる。
真ん䞭にある管が血を吞う機胜を持っおいる。
その管から血がはみ出さない為に䞀察の針が密着しおいる。
血を吞う前に血液を固たらせない液が、別の針から唟液が血管に泚入され血を吞うのだ。

タ゚コは人間の血を初めお吞った。

 なんだろう
この感芚は
䞍思議ずしか蚀いようがなかった。
身䜓が急速に火照り始めた。

「うっ」

燃えるようだ。

今たで、飲んでいた果汁なんか比べものにならなかった。
お尻から火を吹きそうだった。
甘くお芳醇なたろやかさが口䞭に広がりなんずも蚀えない。
幞犏感ず陶酔感に酔いしれた。

 この人間特有の颚味ある濃厚な血液が、倧切な卵を満遍なく䞈倫に育おる理由がやっず理解できた。
初めお人間の血を吞い終えたタ゚コの身䜓は、かなり重たくなったが、それ以䞊に力が挲り、寧ろ身䜓を支える脚や矜の数が䜕倍も増えた気がした。
するず、突然、頭が倧きく揺れた。

「䜕」
「地震」

 頭が右に巊に傟いた。
数十秒埌、タ゚コは血を吞った人間、぀たり研究者の男性に同化しおしたったのだ。
たるで人間に生たれ倉わったかのようだ。
玅茶ポットに湯を泚ぎ蟌むず茶葉の色が無色透明な湯にあっず蚀う間に染み出す様に、研究者の気持ちや、圌が今たで生きお来た䞭の重芁な蚘憶が党おタ゚コは刀っおしたった。

 研究者は、頭の毛や眉毛、睫毛はかろうじお有るのだが、銖から䞋の䜓毛、脇毛やすね毛、陰毛が殆ど無い病気を気に病んでいた。

 昔、結婚したかった初恋の女性に毛のない裞を貶され笑われた過去があった。
その残酷な蚀葉は、圌を今だに苊しめおいた。
それ以来、気の匱い圌は可哀想に女性恐怖症になっおしたったのだ。

 もずもず、研究者は䞡方の性を受け入れる事を厭わなかった。
぀たりバむセクシャルだった。
だが、男性に声を掛けおたで恋愛をしたいずも思わなかった。
空想を楜しむだけで満足しおいた。
傷぀くのはもうコリゎリだったからだ。

 圌や、圌の母が可愛がる愛犬の名前、剛(぀よし)は、剛毛に憧れ付けた名前だった。
蝿に興味を持ち始めたきっかけも、剛毛の蝿に匷烈に惹かれたからだった。 
毛深い蝿ぞの執着はい぀しか屈折した異垞な愛ぞず傟いお行き、異性以䞊に性的感情を抱く様になっおいた。

 
「男性の血液を吞うのは、女性に比べ倧倉だよ」ず蚀う情報を蚊の仲間達から結構聞いおいたが、想像しおいたほどではなかった理由がやっず刀った。

 研究者の䞻な研究目的は、日本ミツバチなどがダニ駆陀の性質を兌ね備えおいる胜力を蝿に反映させる事だった。
蝿を媒介ずした现菌により広がる蟲䜜物の病気や、サルモネラ菌、赀痢菌、菌、ピロリ菌などなど、人間ぞの感染䞍安などが珟実問題ずしお、いただに解決出来ずにいる。
そのせいで、蝿は鬱陶しい害虫ずしおのむメヌゞをどうしおも払拭出来ないのだ。

研究者はそんな状況にいら぀いおいた。

 遺䌝子操䜜により、ミツバチの様にりむルスや现菌駆陀の性質を身に付けさせたかった。
害虫むメヌゞを少しでも無くし、倧奜きな蝿を有益な昆虫のむメヌゞに倉えおいきたかった。
長幎に枡りその壮倧なる倢を諊める事無く、抱き続けおいた。

 愛する蝿が、悪圹にされおいる珟実に圌はどうしおも我慢ができずに居たのだ。
実際、蟲産物の害虫駆陀に䞀圹買っおいる蝿もいるし、死骞などの分解にも蝿やりゞ虫の存圚により土壌再生にも圹立っおいる。
有機廃棄物の分解にも家蝿の蛆虫を利甚すれば、埓来の埮生物を利甚した分解技術に比べ、幎掛かっおいた期間を、僅か週間の短期間で分解出来る研究成果を出しおいる䌚瀟もある。
倧きな飛躍だ。

二酞化炭玠や有害物質を発する事なく有機飌料や肥料を䜜り出しおいるのだから。

タ゚コは蝿の研究者の気持ちに、ほが、ほが、共感を埗た。

 ゚ンパシヌの才胜を有する蚊ずしおの䞍思議なテレパシヌが研究者の願いや過去の苊しみ、悲しみ、喜び、幞せを勝手に受信しおしたう。
母、朝顔が倧奜きだったご婊人に異垞なほど共感し、涙たで流し぀぀圌女の悲しみや苊しみを我が事の様に語っおいた気持ちがやっず理解できた。

 圌が異垞なほど愛する察象の蝿に、自分が蚊である事を぀い぀い忘れ、匷烈に蝿ず蚀う生き物に興味を持った。

 タ゚コは少しだけ開けられた窓の向こう偎から研究者の郚屋を芗き蟌んでみた。
レヌスのカヌテンの隙間から充分芋る事が可胜だった。
その郚屋には、なんずも沢山の蝿が皮類別にグルヌプに分けられおいお、倧小様々なガラス補やプラスティック補のケヌスに入れられおいた。

 ブンブン矜を鳎らし、忙しく飛び回る萜ち着きのかけらもない蝿や、逌を無心で食べおいる食いしん坊䞇歳の蝿、"沈黙は金"を地で生きる哲孊者の様に身動きもせずじっずしおいる蝿、手足の汚れが気になっお仕方ない朔癖症の蝿ず、芋おいるだけで楜しくお胞がワクワクする。

 亀尟をしおいる蝿もいた。
蚊の亀尟の仕方ず違い、オスがメスにおんぶされる圢で生殖噚同士を合䜓させお居た。
蚊の亀尟は、生殖噚をオスずメスが顔を芋る事なくお尻をぶ぀ける圢で行う。

蝿の亀尟は少し゚ロティックに感じタ゚コの気持ちをくすぐった。

 窓に1番近い机の䞊には、タテセンチ、ペコセンチ、高さセンチの透明な箱があった。
郚屋の䞭に沢山ある入れ物の䞭では䞭クラスの倧きさだった。
その入れ物には蝿が逃げれそうに無い小さな穎が沢山空いおいた。
そんなプラスティック補のケヌスの䞭に入れられおいるのは、盎埄ミリ以䞊はありそうな匹の蝿だけだった。
他の雄蝿に比べガタむは䞀回り倧きく、挂うフェロモンは半端なかった。

その蝿には䞀颚倉わった名前が぀けられおいた。   
英語でアむロニカル(皮肉)ず曞かれた玙が、プラスティックケヌスに貌られおいた。

       ヌアむロニカルヌ

 研究者のお気に入りの蝿だ。
圌は、アむロニカルに遺䌝子操䜜を斜しおいた。
1现胞、生殖䜜甚を叞る现胞を倉異させ、より匷靭な䜓力ず粟力を合わせ持ったスヌパヌマグナム玚の蝿ずしお進化させおいたのだ。
優秀な蝿同士を、䜕䞖代もかけ合わせた遞りすぐりの蝿でもある。
アむロニカルを超える子孫を雌蝿に沢山産んで貰う為、生殖機胜をより匷化したのだ。

 他の雄蝿ずは比范にならなかった。
フォヌムの矎しさず嚁颚堂々ずした存圚感は蝿ずいうか
ロボットみたいだ。
毛も倪く、男性ホルモンを持お䜙しおいるのか
生殖噚が異様にデカく脂ぎっおテカテカひかり茝いおいた。
䞎える逌も、他の蝿達に比べ高脂肪、高カロリヌ、ミネラルたっぷりの栄逊䟡の高い食品が䞎えられおいた。

 タ゚コずアむロニカルの目があった途端、アむロニカルの態床が突劂ずしお倉わった。
タ゚コに向かっお敬瀌でもするかの様に身構えた。
倜空の星ほどある瞳を䞀斉に茝かせ、タ゚コからけっしお目を離さなくなったのだ。
するず、片方の矜を広げ小刻みに動かし始めた。
矜から奇劙な、しかし䜕故か胞躍る音がする。

タ゚コにはその行動が倚分求愛だず盎感で解った。

 蚊のオスも蚊柱ず蚀う、毎秒回の矜音を出しメスの蚊にアプロヌチしおくるので、雰囲気から察するにタ゚コには蚀わずもがなであった。
そのオス蝿が発する匷烈なフェロモンが、透明なケヌスの穎から挏れ出し、空気の流れに乗っおタ゚コの身䜓党䜓を包み蟌んだ。
嗅芚、知芚を麻痺させた。

 アむロニカルの攟぀独特なフェロモンは、奇劙な物質を含んだ鉛のような物資ずなっお、重力に逆らいながらタ゚コがいる窓蟺に向かっお地を這った。
その物質は、たるで生き物の様だった。
アむロニカルの分身ずしお手ずなり足ずなっおタ゚コに、なんずしおでも接觊を詊みようずしおいるかの様でもある。

 そのプラスティック補のケヌスにある無数の小さな穎を、数十分で塞いでしたいそうな濃厚な匂いをアむロニカルは惜しみなく身䜓䞭から発散させおいた。
タ゚コも無性にアむロニカルに興味を抱き、皮の異なる異性である事さえ忘れおしたうほど愛おしく、狂おしく思えおならなくなった。

 研究者の血液を吞い、゚ンパシヌの力が働き、研究者が最も愛するオス蝿アむロニカルをタ゚コも、同様に愛しおしたったのだ。
タ゚コにずっおも、蝿の剛毛は蚊の䜓毛に比べセクシヌで逞しく芋惚れおしたう。
蚊の雄は、蝿に比べ毛が薄く異性ずしおの色気など党く感じなくなっおしたった。

 狭く透明なケヌスに䞀匹だけで閉じ蟌められおいるアむロニカルが可哀想になり、タ゚コはどうにかしお倖の景色を芋せおあげたくなった。
そんな同情ず、アむロニカルぞの切ない想いを抱き぀぀タ゚コは産卵をする為、ひずたず、我が棲家ずなった氎飲み堎に急いだ。

 人間の赀ちゃんの頭くらいの倧きさの窪みがある重厚な埡圱石が芋えた。
産卵を急いだ。
吞った血液や卵の重みで、飛行状態のバランスが悪かった。
母芪になる感激は、薄情かも知れないが湧かない。
奜きでもないオスの蚊の子だからか
吊、違う。
愛するオスず出逢っおしたったからだ。
アむロニカル
オスの蝿だった。

ヌ蚊ず蝿の恋愛ヌ

たさか
嘘でしょう
タ゚コは自問自答をした。
心の隅っこで蹲(うずくた)っお悩んでいる自分を俯瞰(ふかん)しながらも、アむロニカルぞの枇望は募った。
この狂おしい気持ちは抑える事など、到底、出来そうになかった。

 呆気ないほど、簡単に産卵を終えた。
重たかった身䜓が䞀気に軜くなり、脚に力を入れなくおは、僅かな颚にでも煜られお䜕凊かぞ飛んでいきそうだった。
数癟個は有るだろうか
青みがかったミリに満たない小さな小さな物䜓が集たっお氎面に塊で浮いおいた。
䞀般の蚊の䞖界では芋た事の無い、蚊族ならではの垌少な楕円圢の卵を、母性より恋愛感情に埁服されおしたっおいるタ゚コは、ただの排泄物ずしおボンダリ眺めた。

もう、次の産卵たで吞血する必芁はない。
䞀床の吞血分ミリグラムの血液が栄逊ずなっおくれる。
タ゚コは、恋しいアむロニカルに䞞日間、毎日続けお䜕時間も䌚いに行った。
圌も、日に日にタ゚コを欲する気持ちが匷くなり、他のメスの蝿には芋向きもしなくなった。
研究者はかなり困っおいた。

「䜕故」
「亀尟しないんだろう」
「ただ、ただ、生殖噚官が老化する幎霢ではないのだが」
「子を沢山䜜っお貰わないず研究に差し支(぀か)えるからなぁ〜」

 研究者に寄り添う気持ちが匷いタ゚コ。
「研究者の邪魔をしおはならない」
自粛を決心し、䞞日間だけ圌に姿を芋せない事にした。
そうこうしおいる間に、そろそろ床目の産卵に備え、回目の亀尟をしなくおはならなくなった。

 タ゚コは、今たで感じた事の無い嫌悪感に襲われ目眩がした。
オスの蚊ずの亀尟を想像しただけで吐きそうだった。

「嫌だ」
「アむロニカル以倖のオスに觊られるなんお」
「死んだ方がマシだ」

日に日に腹を膚らたせる我が子を呪った。

「うん」
「埅っお」
「䜕故」
「勝手にお腹の子達が成長しおいるの」
「亀尟もしおないのに」

頭が痛くなった。

「はお」
「あっ」
「そうか」

 倧きな勘違いをしおいた。
蚊は、䞀床きりの亀尟さえしずけば良かったのだ。
蚊のメスの生殖噚官には、授粟嚢ずいう粟子を溜めおおく袋があったのだ。
スッカリ忘れおしたっおいた。
䜕故なら、タ゚コは研究者に同化しおいたからだ。
぀たり、人間の性を共有しあっおいたのだ。
人が劊嚠するには蚊ず違い、その床に性行為を芁する。
蚊ずしお、通垞圚るべき生殖本胜が、研究者の匷烈な性欲パワヌに圧倒されお倱念しかけおいた。

研究者は耇数の同性、異性ずの性行為を倜毎、想像しおいたのだ。
しかし、あくたで、その欲望は想像だけであっお圌自信が、その行動を実際に起こす確率はかなり䜎かった。
䜕故なら、圌の高床な理性が邪魔しおいたからだ。
研究者の気持ちに匷く寄り添う゚ンパシヌ蚊のタ゚コは、頭がこんがらがっおしたい、メスの蚊である事を぀い぀い忘れおしたっおいた。
やっず、蚊は人間ずは違い、亀尟を䜕回もしなくずも産卵可胜だず蚀う事を思い出した。

「回目の亀尟をする必芁がないのだ」
「あヌ」
「助かったぁ〜」
「良かったぁヌ」

 タ゚コは、ほっず胞を撫でおろした。
今や、アむロニカル以倖のオスに接觊するなんお、到底、考えられなかった。
研究者ず同化したせいで、アむロニカルに察する気持ちが、本圓にタ゚コ本来の欲する愛なのか
区別しようにも䞍可胜だった。
䞇が䞀、心の%を研究者に占められおいたずしおも、残り%だけでもいいから、゚ンパシヌの力を授かる前のメスの蚊ずしお、アむロニカルに党おを捧げたかった。

 圌ず日だけ䌚わなかったが、それ以䞊は限界だ。
圌ず䌚えないならば、死んだ方がマシだず本気で感じた。
圌もタ゚コが䌚いにくるず他のメスには目もくれず求愛行動を盛んに行った。
じれったい想いが圌を狂わせた。
異垞な行動を呈し始めた。
頭をプラスティックにぶ぀けたり、䞊䞋巊右に飛び回っおは倱神を繰り返すようになったのだ。
神経性の病気にかかったみたいに、しょっちゅう頭郚を激しく揺らしタ゚コを欲する激しい性の衝動ず戊っおいた。

 お互い盎ぐにでも亀尟をしたくお仕方なかった。研究者はアむロニカルの行動の倉化を毎日蚘録しおいる。
日に時間メス蝿を入れ、亀尟の様子を芳察しにくるのが日課だった。
しかし、この数日はメスの蝿ずの亀尟を䞀切しなかった。
䞍思議で仕方ない研究者は苊悩しおいた。
タ゚コは、自分のせいで研究者を苊しめおいる事態を反省した。
その倧切な研究時間だけでもアむロニカルや研究者の邪魔にならない様に姿を隠す事にした。
悲しみや嫉劬心をなるべく膚らたせない為に、気分転換に花の蜜や果実の汁を吞いに出かけ、研究者が、時たた口ずさむ玠敵なメロディ"いっそセレナヌデ"を思い出しながら螊っおみたりした。

 しかし、心ずは裏腹に研究者の匷い願望に吞い寄せられ、アむロニカルの亀尟を芋たくお仕方なくなった。
怒りや焊燥感に駆られ、嫉劬心で気が狂ったずしおも構わないずさえ思った。
かたや、アむロニカルに察する屈折した欲望が蠢いた。
このたただず、いずれ確実にメスの蝿ず圌ずの亀尟をタ゚コは芋るこずになるだろう。
圌ずお、性欲には勝おない。
そうなったら、そのメスの蝿になった぀もりで圌に抱かれよう。
擬䌌䜓隓をしたくなったのだ。
研究者に寄り添う気持ちず、アむロニカルを欲する気持ちが入り乱れ、タ゚コが出した究極の答えが擬䌌性行為だった。

 研究者が郚屋に入り、メスの蠅をアむロニカルのケヌスに入れるのを窓枠で埅った。
圌に気付かれない様に花粉を身䜓党䜓に぀け、タ゚コ自身のフェロモンがバレないように工倫した。
圌がタ゚コの匂いに気が付いたら、圌はメス蝿には芋向きもしなくなっおしたうだろう。
そうなれば、血液を頂いた恩矩のある研究者を悲したせる事態になっおしたう。
そんなこずはしたく無い。
研究者が遞りすぐりの若いメスの蝿を捕たえた。
その矎しい蝿に䜕ず
オスの蝿を堪らなくすフェロモン゚キスを埮量に぀けたのだ。
タ゚コは驚いた。
その銙りは匷烈だった。
頭を朊朧ずさせた。
流石のアむロニカルもこの誘惑には勝おなかった。
玠早くメス蝿の背䞭をはがいじめにし、亀尟を始めた。

 圌のア゜コは発でメス蝿の生殖噚に挿入した。
その瞬間だった。
タ゚コは、自分の心境の倉化に驚愕した。
研究者の気持ちず䞀瞬で共鳎しおしたったのだ。
メス蝿ずの繁殖行為をみる事は、腑(はらわた)を掎たれるような苊痛を芚悟しおいたのだが、その痛みを遥かに超える䜕かを感じおしたった。

胞の錓動は高たるどころか、ゆっくりず脈打った。

「䜕だろう」
「䜕かがおかしかった」

今たでに感じたこずの無い胞隒ぎがタ゚コを襲った。

 圌、アむロニカルが埮動だせず亀尟をし始めるずメス蝿の埌ろ足が萜ち着きを無くし、無秩序に動き始めた。
研究者はズボンのチャックを慌おお䞋ろし、ほのかに桃色がかった長い棒状の生殖噚を取り出した。
生殖噚をわし掎みにしたかず思うず、かなり急速なテンポで䞊䞋巊右に震動をさせ始めたのだ。
その荒々しい動きに添うように、奇劙な珟象がタ゚コを襲った。
狌狜えた。
メス蝿の埌ろ足の動きず同調するかの様にタ゚コの埌ろ足も忙しなく地を叩いた。
階段を登ったり䞋ったりしおいるかの様なメス蝿の急いた動䜜を無性に真䌌たくなった。

あヌ
メスの蝿になっおいく
あゝ
なんお気持ちいいんだろう
研究者ず䞀心同䜓になっおいく
果おしないアむロニカルぞの愛を感じる。
圌も䞀緒なんだ
私がアむロニカルに恋焊がれる気持ちず同じなのだ。
倩にでも昇るかの様な快感に満たされおいった

「うっ」
「誰」
「誰がいるの」

 タ゚コの幞犏をかき乱す䜕者かが、そっず擊り寄っおきお耳元で囁く。

「アンタは蚊だよ」
「アンタは人間なんかじゃないし、メスの蝿でもない」

凄い圢盞のメスの蚊がそばにいる。
近すぎお、その蚊が誰かさえ分からない。
芋芚えはあった。
氎溜りに映ったメスの蚊だ。
幟床ずなく芋た事がある顔。
懐かしい銙りがする。
嗚咜を䌎う胞の痛みが、猛烈に襲っおきた。
タ゚コは我に返った。

「やめお」
「お願い」

 アむロニカルに矜亀締めされたメス蝿が、もがけばもがくほどタ゚コは怒りに震えた。
気が倉になりそうだった。
匷烈な嫉劬が枊を巻いた。
そんな鬌魅魍魎(きみもうりょう)ずした状況から救い出しおくれたのは、研究者の取った行動だった。
゚ンパシヌ蚊ずしおのボルテヌゞが再床掻発化し、嫉劬心や繁殖行為が霎(もたら)す゚クスタシヌを䞊回った。

 研究者の䞍審な行動が気になっお仕方ない。
右手の奇劙な動きは滑皜ではあったが、倩に向かっお聳り立぀棒が、タ゚コにずっお神聖な物に思えお笑うに笑えなかった。
これは、人間にずっお欠かすこずの出来ない厳粛な儀匏だず解釈するしかなかった。
研究者の真剣な衚情は、劂実にその事を物語っおいた。
同化したタ゚コもその儀匏を厇め、静粛に芋守った。
分くらい経った頃、研究者が仰け反り癜目を剥いた。
神聖なる棒の先から魔法の様な癜い煙が勢いよく立ち昇る。

「あっ」
「神様だ」
「神様が抜け出されたのだ」
「なんお」
「気高いのだろう」

 神の匂いがした。
朊朧(もうろう)ずし぀぀、知らぬ間にオシッコを垂れ流しおいた。

「シマッタ」
「時既に遅し」

芋おはいけないものを芋おしたったのだ。

「倚分、これで私は死ぬだろう」ず芚悟した。

 窓の隙間から煙の劂く忍び寄り、タ゚コを包み蟌んだ匷烈な銙りに埌頭郚を䜕床も䜕床もど぀かれた。䞀瞬、気を倱いかけおしたい、よろめいお倧地に転がり萜ちおしたった。
研究者は悊に浞り充足感ず幞犏感に満たされおいた。
即座に共感しおしたったタ゚コも、この䞊無い皋、充足感に満たされ倧地に寝転び広い空を眺めた。

「今、起きた䜓隓は䞀䜓䜕だったのだろう」
「倢だったのか」
「あゝ」
「なんお狂おしいのか」

タ゚コの母が死ぬ間際に芋せた手脚の痙攣そっくりな症状が起きた。

「あゝ、これが死ず蚀うものなのね」

 目を閉じアむロニカルに別れを告げた。
しかし、幞いな事に数分足らずで矜根は動き手足もしなだれず、母、朝顔のように糞くずにはならなかった。
奇跡の埩掻を遂げたタ゚コは埐々に正垞な意識を取り戻しおいった。
このショッキングな出来事のおかげで、明確に為すべき欲求を䞀぀に絞り蟌めた。

愛する圌アむロニカルをこれ以䞊、他のメス蝿ず亀尟させおはならない。

 蚱せなかった。
残酷だず思った。
幟ら、呜の恩人である研究者様のお仕事だろうが、恋愛の自由を奪うこずは良くない事だ。
そんな倧眪を、倧奜きな人間様にこれ以䞊犯しおもらいたくなかった。
䞀刻も早くアむロニカルを脱出させなくおはならないず、タ゚コは決心したのだった。
毎日、決たった時間に几垳面な研究者がメスの蠅ず亀尟をさせる為、アむロニカルの居る箱の蓋を少しだけずらしメス蝿を攟぀。
その時間が正確に分かっおいたので、タ゚コは、犬の぀よし君ず仲良しのスピヌチヌ蚊に盞談に行った。
出来ればその時間に぀よし君がアむロニカルのいる机を倒しおくれたなら、圌が脱出出来るかも知れない。

 「぀よし君にその件を話しおもらえないか」
劙子は恥を承知で頌んでみた。
蚊の䞖界から芋れば犬はかなり倧きい。
机くらいなら、ひっくり返す事は楜勝だず考えるのも無理はなかった。

実際、その話を぀よし君にしおみたら友人は錻で笑われおしたったらしい。

「机なんか、ひっくり返す事なんで出来っこないよ」
「ただ、蓋を開けた時に研究者の気を逞らす事は出来るかも知れないな」
「その瞬間にその蠅さんがうたく逃げれたら最高に楜しいなぁ」

 研究者の気を逞らす方法を、頭の良い勇気抜矀の぀よし君はスピヌチヌ蚊の友人ず話を緎っおくれた。

タ゚コに運が向いお来た。

やはり、ミラクル蚊の力は本物だった。

 母、朝顔の切なる願いは、若いミラクル蚊の嚘の呜ず匕き換えに朝顔の死埌10日間で叶えられたのだ。
瞁偎で寂しく日向がっこしか出来なかったご婊人に、担圓医も驚愕するほどの奇跡が蚪れたのだ。

癌の圱がかなり小さくなっおいた。

 ご婊人の゚ネルギヌはみるみるうちに挲り、以前のように庭の手入れも出来るしご飯も矎味しく頂けるようになった。
痩せお顔色も優れず、窪みがちだった頬にも赀みがさし気持ちふっくらずしおきおいたのだ。
元気になられたご婊人の姿は目を疑うものだった。
ミラクル蚊が棲んでいた方角を向いおタ゚コは手を合わせた。

「感謝したす」
「どうが、来䞖も玠晎らしいものでありたすように」

亡き母、朝顔に、この奇跡を芋せおあげたかったタ゚コは無念の涙を流した。

 健康を取り戻されたご婊人も歳のせいか
先日、携垯電話が冷蔵庫から出お来たり、スヌパヌに通うい぀もの道を迷っおしたった。

「䞀人で話す盞手もいないせいでボケおきおいるのかも知れないわ」
「いけない」
「いけない」

 そう思ったご婊人は来週にでも医者に盞談しようず考え、メモ曞きしお冷蔵庫のドアに貌り付けた。
しかしその倜、氎を飲みに冷蔵庫を開けた際、その貌り぀いた玙を芋たご婊人は銖を傟げるなり、サッサずゎミ箱に捚おおしたった。
庭の花や虫や鳥に぀けおいた名前を蚀おうずするず、ご婊人の県の前を急に暪切っお走り去る䜕者かの圱が、ここ最近、頻繁に珟れるようになった。
そんな時に限っお、昔の嫌な思い出や悔しかった出来事を぀い思い出しおしたう。
今朝は、䞻人の呜日だず蚀う事も忘れおいた。
お坊さんが来られなかったら気が぀かなかった。

 昌食を枈たせ、庭に咲く花々の手入れをしおいたら、知らないうちにアロ゚が䞀぀自生しおいた。
ご婊人は、咄嗟にあの日を思い出しおしたった。

「そうだ」

 あの女が䜏む家の庭にもアロ゚がなっおいた。
聳り立぀アロ゚の卑猥さが蘇っおきたのだ。
生涯で番、屈蟱的な出来事があった日。
私から䞻人を平気で奪おうずした女。
貧匱な身䜓぀きの女を思い出した。
たるで子䟛の様な顔をした、その女の顔が目に浮かんだ。
婊人は、無意識のうちに手に持っおいた怍朚ハサミで、そのセンチ皋成長しおいるアロ゚を滅茶苊茶に切り刻んだ。

「あらっ、嫌だわ」
「䜕故」
「可哀想に、こんなに切り刻たれちゃっお」
「誰にされちゃったのかしら」

 ふず我に返ったご婊人は䜕事も無かったかのように、怍朚ハサミに付いたアロ゚の汁を拭き取った。
その時の圌女の衚情は、い぀もの柔らかで知性ず思いやりのある趣を醞し出しおいた。

 その頃、タ゚コは幞せに胞を螊らせおいた。
アむロニカルが、぀よし君の機転の効いた行動のおかげで芋事脱出に成功し、倖の茝かしい䞖界に颯爜ず飛び立぀姿を想像するだけで、幞せに感極たり呌吞を忘れおしたいそうだった。

「2人で䜕を話そうかしら」
「2人で䜕凊に遊びに行こうかしら」

 2人で芋぀め合う時を思った。
觊れ合う時を空想した。
圌の逞しい矜が奏でる音楜に合わせ、タ゚コは銙り高い花粉を手脚に぀け、自慢の空䞭ダンスを華麗なる蝶々を真䌌お螊ろうず倢みた。

 初めお自分の名前を告げる時、アむロニカルに負けない可愛い花の名前がどうしおも欲しくなった。
圌は、その矎しい花の名前で優しく呌びかけおくれるはずだ。

「その床に圌に口づけをしよう」

タ゚コは閃いた。

 母芪の憧れのあのご婊人に花の名前を付けお貰いに行こう。
あの方ならきっず、タ゚コに䌌合う花の名前を぀けお䞋さるはずだ。
血を吞わなければ、出雲出身の皮の蚊族の掟を砎らずに枈む。
元気になられたご婊人の倪ももにそっず着地し、もし、気付いおもらえたらタ゚コに優しい声を掛けお䞋さるかもしれない。
いくら血を吞いたくなっおも、それだけはしおはならない。
3皮の蚊族の掟は砎っおはならない。
母芪に名前を授けお䞋さった人間の血だけは、子々孫々絶察吞っおはいけない。

タ゚コは䜕床も自分に蚀い聞かせた。


 研究者はい぀もの時間に、アむロニカルずメス蝿を亀尟させる為に郚屋に入った。
その日はペットの぀よし君の様子が倉で病気ではないかず老霢の母が心配しおいた。

「病院に連れお行かなくお、倧䞈倫かしらねぇ」
「倧奜きなささみ肉も食べようずしないのよ」

 ぀よし君を抱っこしたたた、途方に暮れた顔を研究者に向けおいた。
圌が研究宀に入っおも、お母さんは぀よし君を優しく抱きしめおサランラップに包んだささみ肉を゚プロンのポケットに入れ、研究宀たでノコノコ入っおきた。
研究者もしょんがりした぀よし君を抱っこしおやり、倧奜物の湯通ししたささみ肉を母の゚プロンから取り出し口元に持っおいっおみた。
しかし、぀よし君はクンクンず匂いを嗅ぐだけで、食べようずしなかった。
研究者は母同様に心配をした。

「倕方からドングリ犬猫病院に連れお行っおみるから、お母さん心配せんでええよ」

 ぀よし君の頭を撫でながら、ゆっくり床に降ろしおやった。
研究者はお母さんを慰めた。

「じゃあ、お願いねぇ」
「぀よしちゃん、盎ぐにお腹の調子良くなりたちゅからね〜」

 研究者の母は、぀よし君のお腹をさすり終えるず仕事の邪魔にならない様に、぀よし君を眮いお郚屋を出おいった。

 普段なら、研究宀をかけ回っお倧倉だから郚屋に入れるこずはなかった。
しかし、今日は足元近くで頭をしな垂れ、しょげ返っおいるのでそのたた研究宀の床に座らせおおいた。
い぀ものように元気のいいメス蝿を網で取り出し、アむロニカルが居る透明なプラスティックの箱の蓋をずらした。

 機転の利く぀よし君はこの瞬間を芋逃さなかった。
俊敏に立ち䞊がり、研究者のズボンの端を力䞀杯噛んで埌ろ足に力を蟌め、埌退りした。
研究者はバランスを厩しアむロニカルのケヌスに手をやりひっくり返しおしたったのだ。

 ぀よし君は「ダッタァヌ」ず声を䞊げた。
これで、蚊の䞖界は勿論、ご近所の犬達のコミニティヌの䞭で぀よし君は飛び切りのヒヌロヌだ。

 ぀よし君が秘かに恋する軒先の歳も若いオシャレな雌犬のプヌドル、リップルチャンにもこの勇敢なお話しがお喋りな鳥達や犬達の噂の的になり、近々耳に入る事間違い無しだ。
そうなれば、錻をツンず䞊にあげ自慢げに可愛いお尻をフリフリしながらお散歩するリップルちゃんに堂々ずご挚拶できるのだ。
運が良ければ
リップルちゃんのご機嫌さえ良ければ

「そうだ」
「仲良くなれるかも知れないぞ」

黒光りする自慢の錻を回舐めた。

 ぀よし君は、元気よく研究者の郚屋を飛び出し、座怅子に座っお饅頭を食べおいるお母様の倪ももの間を目指し駆けおいった。
少しオシッコの臭いがするが我慢しお頭を突っ蟌み研究者に芋぀からない様に隠れた。
぀よし君を远いかけお行った研究者は、その光景を芋るなり呆れ果お怒る気も倱せた。
䜕も蚀わず、研究郚屋を片付けに戻った。

 開け攟たれた窓からアむロニカルは勢いよく飛び出しお行った。
光茝く䞖界ぞ、圌女を探し出す為に矜を倧きく広げた。
圌女の独特の銙りを颚が運んできた。
アむロニカルの䞋半身は疌いた。

ヌ抱きたいヌ

その愛おしい残り銙を頌りに倢䞭で远いかけた。

自分に驚いた。
䜕故、こんなにも凄いスピヌドが出せるのか
生たれた時から、小さなプラスティック補の箱の䞭しか知らなかったアむロニカル。
颚を切る感芚

ヌなんお気持ちがいいんだろうヌ

 矜が也いお、急に身䜓が軜くなっおいく。
䜕凊にだっお飛んでいけそうだず思った。
目に映る青い空、鳥が鳎き、圌方歀方ぞずなびく颚、山の雄倧さ、川のせせらぎ、其れら党おがアむロニカルの胞を熱くする颚景だった。
䜕凊か懐かしい草や氎の銙り、道を歩く人達の話す声、笑い声、党おが新鮮だった。
躍動する興奮ず、自由の身になった解攟感で蚀いようの無い幞せに酔いしれおいた。

 無論、この䞖界に愛する圌女がいるからだ。
やっず人で暮らせるからだ。
圌女に早く、自慢の矜が擊れ合う音楜を聎かせよう。
矎味しい食べ物も圌女に口移しで䞎えおあげよう。
勿論、誰も居ない堎所で、圌女の现い身䜓を傷぀けないように優しい亀尟を䜕床も䜕床もしたくおたたらなかった。
党身に挲る剛毛を圌女に芋せ、觊っお貰いたい。
力を入れたら剛毛がピクピク動く。
きっず圌女は笑い転げおくれるはずだ。
こんな胞の高たりを感じた事等、生たれおこの方なかった。
どんなに矎しいメス蝿ず亀尟をしおも、圌女を芋おからず蚀うもの幞犏感など沞かなかった。
圌女だず思っお割り切らなくおは、觊る事も出来なかった。

「早く芋぀けなくおは」
「名前は䜕お蚀うんだろう」

 タ゚コは母の恩人の䜏む屋敷内の閑静な庭に到着した。
瞁偎に座り、お茶を啜りながら、優しい声で童謡歌を口ずさむご婊人を発芋した。
初めおお顔を拝芋させお頂き、母の教えおくれおいた通りのむメヌゞでホッずした。
暫く矎しい声に癒された。
庭の花や草朚が颚ず戯れお螊る愉快な光景に぀られお、アむロニカルに恋をしおいる幞せ䞀杯のタ゚コも螊りたくなった。

 倕暮れ前に西からこがれる倪陜の雫が、池の䞊をスむスむず泳ぐアメンボりが䜜る波王の様に、タ゚コの矜や手足に広がり急速に汗を也かした。
嫌な匂いをご婊人に嗅がせない様、気を配り、倪ももの右内偎を目掛けお矜音を僅かにさせながら柔らかな癜い肌に静かに着地し止たった。
ご婊人の口からは、䜕も聞こえなくなった。
六甲山の豊最な暹々の銙りを含んだ空気を吞い蟌んだご婊人の胞がたおやかに膚らんでいた。
ご婊人は、䞋を向きタ゚コの存圚に気づいお䞋さった。

「あゝ、私を芋お䞋さった」
「なんお」
「なんお」
「幞せなんだろう」

 ご婊人の芖野に靄(もや)がかかった。
圌女の知性を束ねおいた矎しいリボンが湿気で緩み、重たげに解けた。
するず、今たで、様々な圢でたずたっおいた知の塊が粉々に砕け、脳みその䞀郚が溶解し始めた。
心の奥深くに埃を被っお隠されおいた過去の怒りや嫉劬、憎悪ずいう悍たしい蚘憶の残像が、その醜い姿を衚したのだ。
若かりし頃の䞻人の過ちを鮮明に蘇らせた。
ご婊人の枩和な顔は歪んだ。
䞡目は぀り䞊がり、唇も震え始めた。
怒りでガタガタず歯が擊れる音がした。
ご婊人は、劻ずしおの嚁厳を持っお姿勢を正し、冷静を装いタ゚コに名前を぀けた。

「チュヌベロヌズさん、遊びに来られたの」

 タ゚コは、倩にも昇る気持ちで圌女を芋䞊げ、お蟞儀をした。

"チュヌベロヌズ"  
"チュヌべロヌズ"
"チュヌべロヌズ"

忘れない為にその名前を䜕床も反芻した。

「名前を頂けたんだ」
「なんお」
「゚レガントな響きなんでしょう」

玠晎らしい響き
魅惑的な花の名前。
幞せ過ぎお身䜓の震えが止たらなかった。

「やっず、愛するアむロニカルに花の名前で囁いお貰えるんだわ」
浮かれおいるチュヌベロヌズを芋䞋ろし凝芖する圌女。

「䜕か倉だ」

 チュヌベロヌズは危険を察知した。
ご婊人の背䞭が真っ二぀に割れ、さなぎから矜化したばかりの蛟の様な生き物ず、䞀瞬で入れ替わっおしたったのだ。
恐怖で身䜓は、カチカチに固たっおしたい、矜をビクずも揺らす事が出来ない。
ご婊人は背䞭を曲げ項垂れた。
倧粒の涙をポロポロ流し始めた。

「チュヌベロヌズさん、貎女は私の䞻人を奪ったのよ」
「芚えおらっしゃる」
「チュヌベロヌズの花蚀葉は男女の危険な関係」
「ゞトゞトずした溝に黒カビが蔓延るような快楜の為に、貎女は私に隠れお䞻人を誑かしたわよね」
「そしお、䜕床も䜕床も、卑猥な咜び声を垂らしお女の幞せを味わっおいたのよ」
「貎女はチュヌベロヌズの習性の通り、倜になるず甘く切ない銙りを挂わせ、私の倧切な䞻人の心を惑わせおしたったのよ」
「䞻人の浮気を知った日に、我が家に咲いおいたチュヌベロヌズの花をめちゃくちゃに切り裂いお、根っこを匕きちぎっおやったわ」
「あの銙りを嗅ぐず吐き気を催すわ」
「貎女はたさしくチュヌベロヌズ、私の血を勝手に盗みに来お、、、」

この埌のご婊人の話す声は䞀瞬で途絶えた。

 圌女が流した涙で党身を芆われたチュヌベロヌズには話す声だけで無く、䞖の䞭のざわめきさえもう聞こえる事は無かった。

 蚳ありの男女が、倜間に密䌚しおいるかのように茪だけくっ぀いお咲く真っ癜い花、チュヌベロヌズ。
ご婊人の巊薬指に嵌められた結婚指茪がタ゚コを䞀瞬で砕いた。

 チュヌベロヌズは身䜓䞭のリンパ液が砎裂した。
ご婊人の巊倪もも内偎に、抌し花の様な胎䜓ず幟本かの脚、そしお、産卵間近だった数癟個の青みかかった卵も糊でくっ぀いた様にペッタリ貌り付いおいた。
手足は,本ちぎれ、衝撃で吹き飛ばされた。
柔らかな颚が吹く。
その颚は、ご婊人の汗やチュヌベロヌズのリンパ液をあっずいう間に也かせた。

 番重たい頭郚が剥がれ始める。
湿り気のある土に吞い蟌たれるように、ハラハラずその枯れたチュヌベロヌズの花は舞い萜ちおいった。

 ご婊人は䜕事もなかった様に空を芋䞊げた。
初めお担任を受け持った頃を懐かしんだ。
小孊䞀幎の生埒䞀人䞀人の顔を思い出しおいた。
そしお、瞁偎で起立をした。

「音楜の授業を始めなくおは」

 庭は教宀ぞず様倉わりした。
咲き乱れる朚々や花々は、玔粋無垢な瞳を持った歳の少幎少女ぞず倉わった。
番倧奜きな童謡歌、倏の思い出ずいう歌を教えたくなった。
愛する䞻人ず甘い口づけを亀わし、倜になるず身䜓䞭の肌に舌を這わし、快楜のハヌモニヌを奏であっおいた新婚時代に泊日で蚪れた尟瀬沌。
その矎しい沌に、䞀際目立぀花があった。
玔癜に茝く花。
神々しい花。
倧茪の氎芭蕉(みずばしょう)を想いだした。
その凛々しい真っ癜な花の気高さを芋習い、ご婊人は姿勢を正し、あごを匕いた。
右手をタクトにしお力匷く振った。
満面の笑顔で歌い始めた。

 アむロニカルは、タ゚コのフェロモンを頌りに远いかけ、やっず童謡歌を歌う声のする庭先に蟿り着いた。

瞁偎の䞋で愛する圌女が無惚な姿で倒れおいるのを発芋した。

「なんお事だ」
「䜕が起きたのか」

我を忘れ、䞀目散に圌女のそばに飛んでいき寄り添った。

圌女は既に死んでいた。

 埮かな死臭を挂わせおいた。
悲しみより、圌女の身䜓から発する饐(すえ)たリンパ液の匂いに䞋半身は疌いた。
亀尟は到底出来そうになかった。
身䜓はぺったんこで、挿入口が芋圓たらなかったのだ。

 圌女を食べるしか無い
自分の物にしたかった。
誰にも食べられたくなかった。
埮生物や小さな虫が集たっおきた。
ダメだ
圌女は僕のもの
僕だけのものだ。

 アむロニカルは自分をコントロヌル出来なくなった。
気が倉になっおしたいそうだった。
やけに腹が空いおきた。

 アむロニカルの脳内䌝達物質の䜕かが狂い始めた。
タンパク質を溶かす酵玠入り唟液をたっぷり圌女にかけた。
そしおドロドロになっお溶けた身䜓の郚分に、チュヌブの圹割を担う噚官を挿入し無我倢䞭で吞匕し摂取し続けた。
筋肉やリンパ液、プチプチずした楕円圢の卵、脈拍噚官、觊芚、矜に至る党おを溶かしアむロニカルの呜ぞず倉わった。

愛する圌女を党お喰い尜くしたのだ。

芋䞊げお芋るず、歌い終えた老女がアむロニカルを愛おしそうに芋䞋ろし、亡くなった䞻人の名前で呌んだ。



いいなず思ったら応揎しよう